特集 2017年10月1日

農業用モノレールに乗りたい(デジタルリマスター版)

こういうの、たまんねえ
こういうの、たまんねえ
お茶畑やみかん畑などでよく見かける、農業用のモノレールがたまらなく好きです。
道端にさりげなく出発点があったり、山の斜面をうねうねと走る細いレールを見つけると、何だかもうドキドキしてきます。

いつか乗ってみたいと思っても、恐らくそれぞれが個人の所有なので逆に敷居が高そう。
収穫のお手伝いでもしますから、どなたか乗せてくれませんかねえ。

※2007年8月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載したものです。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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未来ぽくないモノレール

普通のモノレールなら家の近所に多摩都市モノレールというのが走っているし、羽田空港に行く東京モノレールも有名です。上空を滑るように颯爽と走るモノレール。いまだに未来の乗り物というイメージがあります。

でも、あれじゃダメなんです!
道端にぽつんと始発駅が!
道端にぽつんと始発駅が!
登っていきたい
登っていきたい
こーいうの、こーいうのがぐっとくる!

子供のころハイキングで山に登ったときも、修学旅行のバスに乗っていたときも、ダムに向かってドライブしているときでも、山の中をうねうね走るレールを見つけると目は釘づけ。自分でも何でこんなに惹かれるのか分かりませんが、昔からこの貧弱なモノレールが好きでした。

もし僕が自分の山を持っていたら、たとえみかん農家じゃなくても私財を投げうってこのモノレールを山の中に引きまくります。
いわゆる機関車部分
いわゆる機関車部分
トレーラー部分の車輪
トレーラー部分の車輪
何より動力源がエンジン、というのが大きな魅力です。つまり先頭がディーゼル機関車で、後ろに貨車や客車が連結してあって、しかもモノレールなのです!こんな組み合わせ、ほかにないでしょう!?
さらにレールの裏にはラックが刻まれ、機関車のピニオンがそれにガッチリ噛み合っています。これで急傾斜でも力強く登って行くことができるのでしょう。

ぜんぜん関係ありませんが、むかし友達と「ラック&ピニオン」というユニットを作ろうとしたことを思い出しました。僕はピニオンでした。
頼りなさそうなレールだが
頼りなさそうなレールだが
この3次元の引きまわし
この3次元の引きまわし
もうひとつ、この頼りなさそうさと、それに相反するレール引きまわしの立体感も魅力のひとつと言えるでしょう。
ものすごい急勾配や急カーブをトコトコ進んでいくモノレールの姿なんて、実はまだ動いてるところを見たことがないのですが、想像するだけで頬が緩んでしまいます。

ところで、実はこのモノレールに乗れるところがあるんです。
さっき「自分の山を持っていたら私財を投げうってモノレールを引きまくる」などと書きましたが、それを本当に実行した人がいるのです。いや、正確には「人」ではなく「自治体」なのですが。
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四国の奥地へ

というわけでやってきたのは、四国の中央よりやや東に位置する徳島県三好市。その中でも平家の落人が住み着いたと言われるほど山深い場所で、市町村合併が行なわれた2006年3月までは東祖谷山村だったところです。
モノレールは、狭くて曲がりくねった3桁国道から少し入ったところにある「いやしの温泉郷」という温泉宿泊施設の敷地内で営業されていました。
いやしの温泉郷入口
いやしの温泉郷入口
何と70分も乗れるらしい
何と70分も乗れるらしい
「乗る前にトイレに行け」という看板はほかにもあちこちにありました。実はこのモノレール、三好市が観光のためだけに設置したもので、全長4,600m、高低差590m、最大傾斜40°、最頂標高1,380mという数字はどれも世界一。「観光用モノレール界」が世界にどのくらい広がっているのかは分かりませんが、かなり半端ない施設であることは間違いなさそうです。
ちょうどモノレール乗り場の前にトイレがあったので、催してはいませんでしたが僕もいちおう入っておきました。
紛れもなくあのモノレールだ!
紛れもなくあのモノレールだ!
駅名はなく、単に「駅舎」
駅名はなく、単に「駅舎」
山道を長時間運転してきて疲れていましたが、このレールを見た瞬間に吹っ飛びました。駅名も、こういう施設だと「きぼう駅」とか「ほほえみステーション」などと名付けてしまいがちですが、特に名前はなく単に「駅舎」。この潔さはかなり好感が持てます。さっそく中に突入、切符を買って乗り口へ向かいます。どんなんだ。早く乗ろう。

平日だったせいか、僕の前に乗客はなく、すんなりと切符を買って乗り場までやってきました。いよいよあのモノレールに乗れるのです!

ばーん!

・・・
・・・
あのー、何だかイメージしてたのとだいぶ違うんですけど…。屋根はいいとして、先頭から角が生えてるし、顔が書いてあるし。
これに一人で70分乗るのは辛いなぁ、と思ったのですが、ほかにお客さんもいないし、せっかく来たので乗り込みました。

席に座ると、係の人がシートベルトを締めてくれます。また壁には無線機が。途中で何かあった場合の連絡手段とのことで、これがタダの遊戯施設でない証拠です。

発車準備完了、いよいよ出発します。
スタート地点の標高は790m、これ覚えといてね
スタート地点の標高は790m、これ覚えといてね
下り坂で加速したらどうしようかと思った
下り坂で加速したらどうしようかと思った
ガクンという軽い衝撃のあと、モノレールはのろのろと出発しました。
出てすぐ下り坂でジェットコースターみたいに加速したらどうしよう、と一瞬びびったものの、ラックとピニオンのお陰で速度は一定。
ちょっと残念なのは動力がエンジンではなくモーターであること。もっとも、途中でガス欠になっても困るし70分間排気ガスを出すのもどうかと思うのでこれでいいのかも。電気はレール左側の架線から集電しているそうです。

スタート地点からUターンし、いよいよ590m上を目指して登りはじめます。
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ひたすら登る

コースはスタートしてしばらくは下り線と並走、ものすごい角度でどんどん登っていきます。
モノレールの椅子が車体の傾斜に対して水平になるように動くので、急角度でも楽に座っていられます。無骨な農家のモノレールを想像していたので初めはガッカリでしたが、乗車時間を考えるとこれは非常に助かります。ただ、傾斜が緩くなっても椅子が戻らないことがちょくちょくあったのはご愛嬌でしょうか。
スタートしてすぐ森に突入
スタートしてすぐ森に突入
しばらくは複線
しばらくは複線
木々の間を縫いながら登る
木々の間を縫いながら登る
ほとんど空に向かっている感じ
ほとんど空に向かっている感じ
携帯はほとんど圏外なので非常の際は無線機で
携帯はほとんど圏外なので非常の際は無線機で
後ろを振り返っても誰もいない
後ろを振り返っても誰もいない
しばらく走りましたが、モノレールは歩くよりちょっと速いくらいのスピードで、まだひたすらに斜面を上へ上へと登って行きます。この角度をこのスピードで登るにはこの乗り物しかあり得ないわけで、距離と標高が同じくらいの速さで増えるという、初めて体験するエクストリームなのんびり感。不思議なことにこれが何だか楽しいのです。

また、周囲は見渡す限りの森林で、よく観察すると小さな沢が流れていたり、岩の隙間から水がにじみ出ているという、大河川の最初の一滴、みたいな光景も見られます。

やがて下り線が大きくカーブして森の中へ消えてゆきます。このまま登り続けて頂上をぐるっとまわって、あとで向こうから戻ってくるという仕組みです。
とうとう標高は1000mを超えた
とうとう標高は1000mを超えた
すごいところに生えている木
すごいところに生えている木
源流だ!
源流だ!
そうそう気軽に来れない深い森の中
そうそう気軽に来れない深い森の中
あとで向こうから帰ってきます
あとで向こうから帰ってきます
なんだか楽しい
なんだか楽しい
この日はうだるような暑さでしたが、標高が上がるにつれ確実に気温も下がってきました。何より木陰が太陽光をちょうどよく和らげてくれ、森を抜けてくる風と相まって何とも言えない気持ちよさ。まさに「森に包まれている」感覚を味わうことができます。この乗り物に乗るなら季節は断然真夏がお勧め。

ところで、こんないい景色の中でお弁当が食べられたらさぞかし旨いことでしょう。こんなこともあろうかと、ここに来る前におにぎりを購入済み。森の中で味わうシーチキンマヨネーズはワンランク上のおいしさです。
ここまで登るとだいぶ涼しい
ここまで登るとだいぶ涼しい
もうひとつの主役、おにぎり登場
もうひとつの主役、おにぎり登場
おいしい、マジで
おいしい、マジで
ところどころに監視カメラがあるので安心
ところどころに監視カメラがあるので安心
最頂標高まであと少し
最頂標高まであと少し
あそこの角が頂上か!
あそこの角が頂上か!
いよいよ最頂標高、1,380mに到達です。果たしてどんな素晴らしい景色が待っているのかと、わざわざおにぎりを少し残して迎えたのですが、周りの木々が伐採されておらず眺望はほとんどなし。いっくら森に優しいモノレールだからつったって頂上は景色良くなきゃ意味ねえっぺよー。
かなり残念な頂上からの景色
かなり残念な頂上からの景色
頂上を過ぎるとすぐ下りはじめる
頂上を過ぎるとすぐ下りはじめる
頂上を過ぎるとすぐ下り。さっきとは逆の勾配で下っていくわけですが、体重を背もたれに任せてしまえばいい登りに対して、下りは足で踏ん張らなければ前にのめってしまうほど。実はこちらがハイライトなのだということにようやく気づきました。相変わらず歩くような速度ですが、目の前にものすごい下り坂が出現するのはかなりのスリルです。

登りでも下りでもまったく飽きることがありません。やべえ、これ超楽しい。
一直線の下りはかなり怖い
一直線の下りはかなり怖い
さっき通った登り線と合流
さっき通った登り線と合流
ジェットコースターかよ、という光景
ジェットコースターかよ、という光景
椅子は常に水平になるように動く仕組みなのだが
椅子は常に水平になるように動く仕組みなのだが
ダメと分かっていてもこうしないと支えられない
ダメと分かっていてもこうしないと支えられない
こっちは一人なのですれ違いは照れる
こっちは一人なのですれ違いは照れる
登り線との合流後は、一度通った道なのでどんどん下ってあっという間にふもとの駅舎へ。
正直言って、いくらモノレール好きとはいえ70分はさすがに飽きるんじゃないかと思っていました。時計を見ると確かにスタートから70分でしたが、そんな時間の経過はまったく感じません。自分の足では絶対に進めそうもない急傾斜の森を登り下りしながら進むのはホント楽しいですよ。
え、もうおしまい?と本気で思った
え、もうおしまい?と本気で思った
またいつか乗りに来たい、が、遠い…
またいつか乗りに来たい、が、遠い…
ちなみに料金は1500円。はじめちょっと高いかなと思いましたが、降りてみればそんなことはすっかり忘れて大満足。
僕が行ったのは平日だったので乗客もまばらでしたが、地元でもかなり評判らしく、休日ともなると2時間待ちはザラだとか。

モノレールは楽しい。やっぱり僕が思っていた通りでした。

モノレール敷設したい

正直、あれだけの規模のモノレール、「よく造った」と思いました。そして僕も自分のモノレール敷設したい欲が出てきました。
これからは、老後の趣味で世界一周をしたりログハウスを建てたりする人がいる一方、モノレールを敷設する人も増えてくるに違いありません。
カーナビも迷うほどの山奥でした
カーナビも迷うほどの山奥でした

奥祖谷観光周遊モノレール

徳島県三好市東祖谷菅生28番地
TEL 090-7781-5828
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