基本的に旅行が下手である
先日台湾に旅行に行った。なにか目的を決めたかったけど、ぼくは調べれば調べるほどとどこに行きたいのか分からなくなってきて頭がパンクしてしまう人間だ。なので基本的にノープランだ。
しかもずっと雨だった
残念なことに行ってるあいだはずっと雨だった。
幼少のころアンパンマンを見すぎたためだろうか、ぼくは雨に弱い。小雨でも外に出るのがおっくうになってしまう。
なので部屋でテレビを見たりスーパーで買ってきたソーセージを焼いてビールを飲んだりした。
「1週間で8キロ痩せた」などというフリースタイルな通販番組に釘付けだった。
スーパーで買ったソーセージ。軽いものを作ってビールを飲むってもしかしたら村上春樹っぽいかもと思ったが、換気扇がなかったので煙がものすごく、それどころではなかった。
もちろんずっと部屋の中にいるのももったいないと思い、外に出ることもあった。
地図を見ると「西本願寺跡」というのがあるらしく、「日本の西本願寺よりめっちゃ西じゃ~ん」と思って行ったが、「跡」なのでお寺の鐘だけがある公園になっていた。
京都の西本願寺の1,300km西にあるすごい西本願寺跡
お茶とかも飲んだけどピンとこない。この展開だと今回の旅行、おもしろいだろうかと不安になってしまう。いや、たしかにちょっとはおもしろい。もっとやりようがあるだろう。
全体的にぼくには旅行の才能がない。
台湾にもサイゼリヤがあった
さらに台湾(台北)の、東京でいう渋谷のような街に行ってみた。若者が集まる街というところだろう。
なんか歌ってる人がいた。池袋のサンシャイン通りのようであった。
行ってみると、渋谷というより池袋のような雰囲気だった。その感覚の違いはうまく説明できないが、池袋はぼくがよく行く街であり、実際心が落ち着いているのが証拠かもしれない。
そしてさらに歩いていると……。
サイゼリヤがあった。ついでにその上は和民だった。ますます池袋のようである。
サイゼリヤを見つけた。台湾ではサイゼリヤを漢字でこう書くのか、と思いながら近寄ってみる。ちょっと入ってみたい。いや、でも台湾まで来てサイゼリヤってどうなのか。
行くべきか、やめるべきか。旅が下手だと自負する自分は選択を躊躇してしまう。
サンプルの料理を見てもほとんど日本と同じようにしか見えない
海外旅行してるのに逆に凡庸にサイゼリヤに行くのは特殊な経験なのか、海外旅行先でサイゼリヤのようなところに行くのが特殊な経験だと思うのが逆に凡庸なのか。どっちが逆なのかわからなくなっていた。
行くのは勝ちなのか負けなのか。
でも最終的に「負けってなんだよ」と思い、行くことにした。
サイゼリヤとは「あの絵」だ
入ったのは16時くらい。わりと混んでいて、3組ほど待っている客がいた。
こちらが台湾のサイゼリヤ
やっぱりこの絵がある
何よりも先に目につくのは「あの絵」である。
照明も椅子も違うのでややもするとサイゼリヤではなくなってしまうところを、この絵が支えている。サイゼリヤのアイデンティティはあの絵なのかもしれない。
そして外国のファミレスに一人で入るのははじめてなのだが、不思議と緊張しない。あの絵があるおかげだ。
パラレルワールド感のあるメニュー
席に通されたのでメニューを開く。見慣れた料理とそうでない料理が並んでいる。一つ一つ見るだけでも楽しい。
端的においしそうだ
全体が根本からちがうということではない。食器は共通しているようなので見慣れない料理も新メニューに見える。
日本にあるメニューとも共通している点もあって間違い探しのようである。(ちなみにサイゼリヤ名物の間違い探しは置いてなかった。)
香味チキンはある
前菜はぜんぜん違うな。エスカルゴのオーブン焼きはあった。
メニューを日本にある/ないと見ていくと、半々くらいだろうか。このくらいだと半分ずれたパラレルな異世界に来てしまった気分になる。
なるほどむこう(日本)のシーフードサラダには小エビが乗っているが、こっち(台湾)のシーフードサラダにはカニが乗っているのか…。
メニューに(なんと!)ハンバーグがない。その分ステーキや魚が本気
料理写真に少々のくどさは感じる
写真のコントラストが高く、構図が寄り気味である。日本のサイゼリヤはもっとふんわりした写真だったはずだ。
というようにずっとメニューを見ていられるが、そろそろ注文しよう。ひとりで来たゆえあまり食べられないので、検討に検討を重ねて注文したのが以下である。
違和感のあるラインナップになった
パイナップルのピザ(小)
ミラノ風ドリア
イカ焼き
(あと赤ワイン)
こうして見るとぜんぜん検討が重なったようには見えない。
パイナップルのピザ
ピザカッターもついてくる
台湾名物だからだろうか、パイナップルのピザがあった。これは食べておかねばなるまい。
食べれ切れなさそうだったのでミニサイズにした。そのせいか、フォッカチオの生地の上に具が乗ったものが出てきたようだ。他の席のピザを覗くと、ふつうのサイズの生地は日本と同じもののように見えた。
うまい
食べてみるとパイナップルのさわやかな甘さとベーコンのしょっぱさが素直にあう。日本にもあったっけ?と思うほどの違和感の無さ。もちろん日本のサイゼリヤにはない。
フォッカチオの生地がもっちりしていて、おやつにいいし酒のツマミにもよさそうだ。
ミラノ風ドリア
ピザとの組み合わせはじゃっかんタフだが、これも食べておかねばなるまい。サイゼリヤの代名詞「ミラノ風ドリア」。
焦げ目が美味しそう
ぱっと見はほとんど同じである。一口食べてみる。熱くて味がしないのも日本と同じだ。
少し冷まして食べると…何かがちがう。なんだろう。
おや……。
ごはんをよく見てみると、本来ターメリックライスの部分がケチャップライスなのだ。
む…、と一瞬考え込みそうになるが、上に乗っているのはミートソースだし、ケチャップライスももちろんあう。これはこれでおいしい。
ただミラノ風ドリアの「ミラノ風」はターメリックライスを意味していると思っていたので、じゃあそこを大胆に切り捨てたこれはなんなんだろうと考えると謎は深まる。記号を消費するにもほどがある。これがグローバリズムか? 事件は迷宮入りだ。
焼きイカ(うまい)
そして最後がこれ。メニューをみて異彩を放っていた「焼きイカ」である。これも食べておかねばいけないだろう。
インパクトがすごい
日本のサイゼリヤにはドレッシング的なものと和えてある「マイカのパプリカソース」というものがある。対してこれは普通にイカを焼いただけ。はたして味はどうか。
ナイフとフォークで切り分けたイカ
この焼きイカ、塩味が絶妙でふつうにうまい。料理のうまさではなく単純にイカがうまいパターンだ。サイゼリヤで?という混乱がある。
さきほどの「なにがミラノ風なのか」問題に引き続いて、「これはイタリア料理なのか」というナゾが立ち上がるが、イカのうまさの前にそれは些細な問題に思えた。この世界にはこの世界の文法があるのだ。
イカから出た汁をポテトにつけると、海鮮居酒屋っぽい味になって美味しかった。いっそうイタリアからは遠ざかる。
ワインは「似てるけどいつものとは違うかも」という感想。とかいいつつ、まったく同じの可能性もある。来世はワインの味を的確に感じられる人間に生まれ変わりたい。
おなかいっぱいである。全部で325元で、日本円だと1200円くらいだ。値段感も日本と変わりないだろうか。
混雑時は2時間ででないといけないらしく「外国にも混雑時は2時間ででないといけないってあるんだな」と思いながら、満足して店を出た。
平熱の感動
知ってるものだと安心する。それは驚きが少ないことにもつながるので、こと旅行においては安心を求めるのは損かもと思ってしまう向きもある。
が、知っていればこそ、今回の食事のようにちょっとした違いを吟味できる。目を見開く体験ではないが、じわじわとした趣があるのはいいことだろう。旅行先で行き先に迷ったら潔くこういう「平熱の感動」を楽しんでおくことも悪くないかもしれない。
行きたかったけどおなかいっぱいで入れなかった、いい名前の店「焼肉教室」。こっちだったかもしれない。