特集 2017年9月3日

書き出し小説大賞第129回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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妻のママ友によれば我が家のマンションの真ん前がポケモンジムらしい。ポケモンスポットでもうらやましいのにジムだなんて超ラッキーだと言う。ポケモンGOをやらない私にはよく分からないが自慢しておく。

それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しょう。

書き出し自由部門

秋は議決された。
terayo
ヒロインはあとがきでようやく幸せをつかんだ。
Mch
猫に連れられた空き地で三日月を見上げる。
七世
喪服の人に道を聞かれたら全力で答えるだろう?そういうことだ。
井沢
滑り止めの着いた軍手が最強だと思ってた。
ヘリコプター
うろこ雲に挨拶して、スカートがめくれる。
あや幹部
結局僕たち、全員揃ってもミックスベジタブルほどの個性しかない。
ポン酢助兵衛
今日は三年に一度、父の位牌を載せた人工衛星が地球に近づく日だ。
ポン酢助兵衛
音域の広い読経で部屋干しのブラウスが揺れている。
ボーフラ
詩人のセーターは、言葉で編まれていた。
八重樫
魔法があったらどうする?私は君を殺すよ。
ひよな
殿だけ10連ガチャの当たりが引けず、藩全体が気まずい。
prefab
バカがフローチャートで迷子になっている。
terayo
耳掻きを探すが見つからず、それが出来ない快感をしばらく味わうことにした。
夢雀
さんざん褒められたのち、野沢直子と例えられた。
ocamo
寸評

●terayo氏「秋は議決された」昨日の東京がまさに!前日までとはまるで違う議決されたような秋の空気だった。
●Mch氏「ヒロインは~」本編で救ってあげたかった。
●ポン酢助兵衛氏「結局僕たちは」個性のない集団をミックスベジタブルに例える妙。冷凍の方ね。
●ボーフラ氏「音域の広い読経~」ボーフラ氏久々の投稿作。変わらぬ作風でなにより。
●ひよな氏「魔法があったらどうする?」たとえばヤクザの脅し文句より、こんな衒いない言葉の方が怖かったりする。
●prefab氏「殿だけ~」藩全体にヤラれました。
●ocamo氏「さんざん褒められたのち~」価値観はひとそれぞれ。

つづいては規定部門。今回のモチーフは『唐揚げ』であった。美味しい胸やけを
どうぞ!

規定部門・モチーフ『唐揚げ』

なぜいつも若鶏ばかりが犠牲になるのだろう。
シモカワ
兄弟げんかは収まらず、母は夕食をから揚げに変更した。
あひる
空っぽの胃袋が揚げたてに侵されていくのが分かる。生きている。
けー
別れ話の真ん中でから揚げは冷めていく。
ぐるりん
好きって何だろう?愛って何だろう?私は唐揚げが好き。
ぐるりん
部下をキツく叱るべきか、唐揚げに聞いてみた。
g-udon
唐揚げの断面の太モモ感を見て、陸上部の先輩を思い出した。
もんぜん
あの日はねた油をまだ拭けないでいる。
そうだ、いこう
やっと合点がいった、あの娘の言う『彼』は唐揚げなのだ。
いがそ君
勇者だと名乗るその男は、からあげの衣を身にまとっていた。
君と僕と雨
「衣が湿って力がでないよ~」
タクタクさん
一人一人にレモンを絞らせる事で、探偵は容疑者を絞っていった。
ポン酢助兵衛
舞台に上がる直前、彼女は幾つかのルーティーンをこなす。から揚げにレモンを絞るのもその一つだ。
前田まさのぶ
ポケットから直に唐揚げを取り出した事が、破局の決定打となった。
エリンギ
最後のマトリョーシカを開くと、小さな唐揚げが宝物のように入っていた。
エリンギ
から揚げが気管に入った。
はぎっち
唐揚げがこちらにむかっていると言う事実だけ伝え無線は途絶えた。
ぐるりん
新雪の中から唐揚げが顔をのぞかせた。
タニッチ
最後の晩餐は、なんの唐揚げが食べたい?
ジェングウ
から揚げかと思ったら、ティッシュを丸めて茶色く塗ったものだった。
あひる
土手を転がるおむすびと鶏の唐揚げが、どんどん離れていく。
紀野珍
タイトなレザーに唐揚げのシルエットが浮かび上がる。
マークパン助
『これはカラアゲではない』写実的なカラアゲにはそう書かれている。
ヨーヨー大会
攻撃用と護身用の二種類のカラアゲを詰める。
xissa
もはや唐揚げの唐揚げを食べたいのだ。
うぃけっと
背後に写る、あるはずのない唐揚げ。
大伴
皿に一個だけ残った唐揚げは、養鶏場時代の思い出を振り返っていた。
くのゐち
最後の一つはトリックアートだった。
住民パワー
寸評
●シモカワ ヨウヘイ氏「なぜいつも若鶏ばかりが~」反戦文学と言っていい。
●けー氏「空っぽの胃袋が~」共感&実感!●g-udon氏「部下をキツく叱るべきか~」孤独のグルメ!
●君と僕と雨氏「勇者だと名乗る~」わしの盲いた目のかわりによく見ておくれ。
●タクタクさん「衣が湿って~」カラアゲマーン、二度揚げよ!
●エリンギ氏「ポケットから直に~」せめてラップに包んで。
●ぐるりん氏「唐揚げがこちらに~」Xファイル的なカラアゲ。ぐるりん氏は採用以外の作品もレベルが高かった。唐揚げマスターの称号を。
●タニッチ氏「新雪の中から~」誰もが笑顔になれる作品。
●ジェングウ氏「最後の晩餐は~」唐揚げ前提で。
●紀野珍「土手を転がる~」アルキメデスが永遠に唐揚げに追いつけない。
●マークパン助「タイトなレザーに~」出せよ!タイトなレザーから!
●ヨーヨー大会氏『これはカラアゲではない』マグリットの唐揚げ
●うぃけっと氏「もはや唐揚げの唐揚げを」見て......ぼくの中のカラアゲがこんなに大きくなったよ......
(サイコ)
●住民パワー氏「最後のひとつ~」囲む家族はマネキンだった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
「童話」
次回のテーマは『書き出し童話』です。童話と言ってもさまざまなタイプがあると思いますが、とりあえず語り口は子供向けを意識してください。内容は大人向けでもオッケーです。パロディもアリですがオリジナルを優先します。子供も大人も続きをせがむような、ファンタジーな世界をよろしくお願いします。

締め切りは9月15日。発表は17日を予定しています。下の投稿フォームから部門を選んで応募ください。力作待ってます!
最終選考通過者
モリダイ/ミミズグチュグチュ/もろみじょうゆ/ハシちゃん。/ライカス/茂具田/いずいず/にら将軍ハルナ/GOD-M/きつね/しっぽな/哲ロマ/はぎっち/りずむ原きざむ/もずく酢/
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