特集 2017年8月3日

電子工作キット50個量産したら新しい世界が見えた

パーツをそろえる

さて、ここからいよいよ量産っぽくなってくる。
まず、電池ボックスは自宅で大量生産。
一気に21個作れるようにした。
一気に21個作れるようにした。
土台からパリパリはがしていく
土台からパリパリはがしていく
そしてねじ、銅線、電子部品なども一気に購入。
こう見ると、電子工作キットといいつつネジの占める割合が大きい
こう見ると、電子工作キットといいつつネジの占める割合が大きい
数が増えると金額が大きくなるので、ホームセンターやら秋葉原やら、少しでも安いところを探す。
電子部品って単価が安いものも多くて(スピーカー2個100円とか)駄菓子屋感覚で買えて好きだったのだが、まとめ買いするとそれなりの金額になって急に我に返る。大人買いも1種類ならいいが、数と種類の二次元で大人買いすると大人ぶりも2乗。ちょっと不安になるのだ。

さらに、基板が届くまでの2週間の間に、こんなものを作った
部品の動作確認をするためのテスター
部品の動作確認をするためのテスター
基板が待ちきれなくて思わず作ってしまったのだが、結果的にこれを作っておいて本当によかった。このあと、量産の難しさを垣間見ることになる。

検品から魔界が見える

今回の回路の心臓部は、タイマーICというIC。以前買ったものがいくつか家にあって、安い値札がついていたので油断していた。いざたくさん買おうとしたら、今は価格が高騰しており、秋葉原では予定の4倍の単価になっているのが判明したのだ。ヒー。

そこで、中国から安いのを輸入した。
届いたICを、1個1個、さっき作ったテスターにつけて検品していく
届いたICを、1個1個、さっき作ったテスターにつけて検品していく
結果的に、ここでしっかり検品しておいて本当によかった。今まで僕は電子部品の不良品に当たったことがなかったのだけど、この中国からきたICは50個中4つが不良品だった。このまま売ったらやばかった!

で、ここからちょっと余談なんだけど、電子部品の流通に詳しい知人にこの話をしたところ、意外なことが明らかになってきた。

この写真を見てほしい。
左から、昔買ったIC、今回買ったIC、今回買ったICの不良品
左から、昔買ったIC、今回買ったIC、今回買ったICの不良品
3つ、それぞれ形が違うのがわかるだろうか。左のICにある上部の切り欠きが、右の2つにはない。さらに左上のほうにある丸いくぼみが、左のは深い、真ん中のは浅い。右のはない。

これをどう解釈すべきだろうか。知人がいうには、これはつまり「右の2つは偽物なのでは?」とのことだ。まず形が違う理由。これは単純に、僕が注文したもの(一番左。Aとしよう)と、届いたもの(右2つ。Bとする)は別のICだから。BはAと同じ機能の互換品だが、安い。それをAと偽って売っているのだ。

ではもうひとつの違い、Bの丸いくぼみが浅い理由は?実は、Bの表面を削って型番の刻印を消して、Aの刻印を入れなおしているのだという。つまりBはもともとAの偽物として作られてるのではない。流通過程でどこかの業者が安いBを仕入れて、名前だけAに書き換えて売っているということ。

すげえ、目から鱗。そしてICを削るっていうその荒業!
よく見ると、削り具合が異なるのか、くぼみの深さにばらつきがある
よく見ると、削り具合が異なるのか、くぼみの深さにばらつきがある
そして不良品のIC(一番左)はくぼみがなかった。勢い余って全部削ってしまったのだろう。そして、もしや、と思って上下逆に刺してみると……動く!!

これは僕の憶測だけど、きっとこういうことだと思う。削りすぎてくぼみがなくなり向きがわからなくなる→刻印する機械に適当にセット→逆向きで刻印される。つまりこの偽物の製造工程に手作業が介入しているということである。削り具合がちがうのももしかしたら手作業のせいかもしれない。電子部品を手作業で偽造。丹精こめてひとつひとつ作られた偽部品なのである…!

ちなみにこの偽物、どうしようか悩んだんだけど、結局そのままキットに使うことにした。必要な機能は満たしているし、なにより1個1個検品して動作確認は取れている。電圧変えたりしてテストしたけど問題なし。「Aブザー回路キット」みたいにAをウリにした製品じゃないから、買った人を騙すことにもならないだろう。

というか、むしろ刻印を変える前のBの型番を教えてほしい。今回の製品にはそっちで十分とわかったので、むしろ最初からそっちを買いたい。

※販売時は購入希望者に上記の内容をご説明したうえ、希望者には本物のICをお渡しする対応をしています。
集まると虫っぽい
集まると虫っぽい

不良品の恐怖

あとさ、偽者の話はおいといて、本物でもきっと低確率で不良品ってあるのだろう。今回は50個くらいだから全部検品できるけど、普通にメーカーが何十万個とか作ろうと思うと、これって深刻なんだろうなと思う。部品点数も多いだろうし1個1個のICまでチェックできるわけがない。部品が多ければ多いほど不良品が混じる率も上がり、部品ごとの不良品が百万個に1個の確率でも、1000個使うと約1/1000の確率で完成品が不良になる。大手メーカーの製品であっても初期不良が出ちゃうというのも、今ならわかる。

でも、電気屋で買った製品は大抵うまく動くのだ。それは普通に暮らしてると当たり前に感じることだけど、実はすごいこと。そういう「実はすごいこと」が世の中にはたくさんあって、我々は何か新しい活動をするたびに、たとえば初めてキットを50個作ってみたりするたびに、そのすごさを目の当たりにすることになるのだ!

すごいビーム

別の部品の話に移ろう。最初のプロトタイプで、カプセルを2つの部屋に分けたのがポイントという話をした。次はその仕切り板だ。
真ん中のカプセルの中に見える、白い部分。カプセルの下半分に入れた針金などが、回路側に入ってきてショートしないようにしている
真ん中のカプセルの中に見える、白い部分。カプセルの下半分に入れた針金などが、回路側に入ってきてショートしないようにしている
ねじ穴のあいた丸い板を大量に作らねばならない。
最初、これも3Dプリンタでやろうと思ってたのだけど、僕の腕が悪くて薄いものを作るとデコボコになってしまう。(知人には「チップスターみたいですね」、との評をいただいた)

というわけでここはまた有識者に頼ることにした。新宿にあるMy Tech Labというものづくりスペースにきた。ヘボコンのイベントをよくやってくれているところだ。
「めちゃくちゃウケてる写真を撮りたいのでポーズとってください」といって撮った写真
「めちゃくちゃウケてる写真を撮りたいのでポーズとってください」といって撮った写真
写真はやらせだが、試作品が本当に好評だったことは付け加えておきたい。
ここでレーザーカッターという機材を借りる。板状のものをレーザーで高速にカットしてくれる機材だ。
データの作り方から教わる
データの作り方から教わる
カット中の写真ですがピントが明らかに手前のガラスに合っておりすみません
カット中の写真ですがピントが明らかに手前のガラスに合っておりすみません
1分くらいで切れる
1分くらいで切れる
すげえ。3Dプリンタで出したときは板1枚で10分かかった。カッターで切っても2分くらいかかりそうだ。それが、36枚一気に作って1分!

50個なのでボール紙2シート分あれば足りるはずだが、楽しくなって10シート作ってしまった。これで360個まで増産できる。というわけで当面の目標50個完売の次は、360個完売に決まった。

プリント基板ができた!

そうこうしているうちに、基板を発注してから2週間。そしてついに!
届きました!
届きました!
カワイイ~。ちょっと星座みたい
カワイイ~。ちょっと星座みたい
わ、今まで見たことないタイプの基板。丸い形の基板がそもそもかわいいし、そしてよしださんが作ってくれたぐにゃぐにゃの配線。これ、やっぱりかわいかったのだ!テクノ手芸部といえばかわいい電子工作の代表格。僕は最初から信じていました!よしださん!!
部品つけてみた
部品つけてみた
組み立ててみた
組み立ててみた
おお、売り物みたい。っていうか売るんだけどさ。

プリント基板を入れると急に、なんていうか「プロダクト」って感じになった。すごいちゃんとしてる。これは売れるわ。(「売れる」はバカ売れするという意味ではなくて、可能の意、つまり「(罪悪感を感じずに)売ることができる」という意味です。)

で、これはとりあえず試作の10枚。組んでみるといくつか問題が見つかったので(穴が小さかったり、はんだ付けした部品がほかの部品と干渉したりとか)それを直して(よしださんが)、こんどは50枚で発注!
そして届きましたバーン!
そして届きましたバーン!
俺の愛着がつみあがった
俺の愛着がつみあがった
ハァー、何なんだこの愛おしさは。

しかも感慨はこれだけではない。ここまでにすでにほかの部品はすべてそろっており、つまり基板が完成したということは、製品が完成したということなのだ!
左が試作品、真ん中が完成品、右は売るときの状態
左が試作品、真ん中が完成品、右は売るときの状態
うおー!人生ではじめて、自分が作った「製品」である。うおー!(再)

梱包という苦行

さて、ここまでで部品はすべてそろった。あとは袋につめてカプセルに入れる作業である。で、何を隠そう、このキット、部品が52点ある。
これ全部つめる×50個
これ全部つめる×50個
山積みのカプセル(実は1個1個、穴あけなきゃいけない)
山積みのカプセル(実は1個1個、穴あけなきゃいけない)
頂点まで上り詰めたテンションが一気に地に落ちる瞬間である。

この現実から目をそらしたくて、梱包作業そっちのけで作ったのが、冒頭のビデオだ。実はこの記事もその一環であり、梱包から目をそらしながら書いている。しかし執筆時点でMaker Faireまであと1週間。そろそろやらないとやばい…。

一応準備まではやったのだ。これを見てほしい
ここにパーツケースとじょうごがあります
ここにパーツケースとじょうごがあります
詰め忘れの部品が出ないようにパーツケースにラベルを貼って詰めていくことにした
詰め忘れの部品が出ないようにパーツケースにラベルを貼って詰めていくことにした
全部詰めたら、じょうごでザラザラっと内袋に流し込む
全部詰めたら、じょうごでザラザラっと内袋に流し込む
天才である。完璧なやりかた。

こういう方法を考えるのは楽しいのだ。ただ、これ1セット詰めるのに8分かかった。このあとこれを49回やるのか…。8×50=400分。大体7時間である。だるい。これを書いてる時点でまだ詰めてない。これは回想ではない、本心からの「だるい」である。

詰めたぞ!!!!

やあ、みんな!前の段落から5日ほどが経った。ここからは全部詰め終わって晴れ晴れした気分の筆者がお送りしよう。
証拠
証拠
50個と書いたけど試作に使った分やら展示用もあって、販売用にパッケージしたのはつごう40個ほど。うち5個は組み立て済み状態での販売とした。
各備品を取り出しやすい容器に小分けし、どんどん効率化されていく机上
各備品を取り出しやすい容器に小分けし、どんどん効率化されていく机上
詰める作業は確かに単調なんだけど、容器を変えたり配置を工夫したりしてすこしづつ効率化するのが楽しくて、結局そんなに苦もなく全部おわってしまった。(とはいえ6時間くらいはかかったけど……。)
効率化の一例。ナットを取り出すために使い捨てのスプーンを導入。先端が平らなので容器のふちにあててすくいやすい…はずだったのだが手でつかんだほうがよくてボツに
効率化の一例。ナットを取り出すために使い捨てのスプーンを導入。先端が平らなので容器のふちにあててすくいやすい…はずだったのだが手でつかんだほうがよくてボツに
終盤には指でナットやワッシャーをざっと掴んだだけで、だいたい8個取れるようになっていた。寿司職人の技としてよく「手のひらの感覚だけで決まった重さのシャリを掴める」と言われるが、一日中握りまくればわりと3日くらいで至れる境地なのではと思う。

というわけで、40個生産完了。あとは今週末、販売を待つのみです。
製品情報ページはこちら!オンライン販売(準備中)の情報もあります。→Capsule Cheeper について

いっぱい作ると世界が変わる

というわけで、これが電子工作キットを(試作品も含め)50組、作った記録である。今まで1個作ってたときとの違いをまとめると、
・プリント基板を作る
・不良品との対峙
・速くできる機材を使う(3Dプリンタやレーザーカッター)
・梱包の大変さ

ざっくりこのあたりだろうか。あとは「売る」ということを考えると、はじめに貼った動画みたいなプロモーション素材を作ったり、あと他人の手に渡るということは説明書をしっかり作らなきゃいけない。そういうのもある。

作っているものは7年前と同じでも、目的が変わり数が増えるだけで、ずいぶん新しい世界が見えた気がする。自分の持ってる視点が増えたというか。この記事を書くにあたり、自分の売りものを記事にするのは宣伝ぽくて悪いなと思ったんだけど、でもライターとしてこの体験は記事として伝えておく価値があるなと思ったのだ。

もしこれが千個、一万個と増えていくと、また違った種類の体験になっていくのだろうと思う。ハードウェアベンチャーや大企業のメーカーが、どんなことを考えて物を作っているのか、僕は知らない。でも大企業でテレビを50万台作ってる人も、キットを自分ひとりで50個作って売ったことはないかもしれない。

「ものづくり」という同じ枠の中でも、それぞれの活動に、それぞれの体験がある。だからたまに違うことに手を出してみると、とても面白いのだ。

告知:Maker Faire Tokyoにお越しください

というわけでこのキットは8/5(土)~6(日)に東京ビッグサイトにて開催されるMaker Faireで販売します!他にもデイリーポータルZブースでは、エア・ヘボコン、プレゼンステージ「ヘボコンを開催しよう」、デカ顔ワークショップ、記事で作った工作展示など盛りすぎの盛りだくさんです!
出展の詳細についてはこちら→ エア・ヘボコン&デカ顔ワークショップ開催!
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