斎藤「言わせてもらいます。なんで手品師って変な服を着てるんですか?」
トーマ「いい質問だと思いました。これが、一般のお客さんのイメージを集約してるのかな」
斎藤「これから手品始めますよ! ていう雰囲気があるじゃないですか。あの服で出てくることによって」
戸崎「その服はどこで見たんですか?」
斎藤「笑点」
野島「質問を聞いて、『おれ変な服着てねえよ!』って思ったんだけど」
植田「ダサい服は着てるかもしれへんけど、変な服は着てないはず!」
トーマ「そういう固定イメージってあると思うんですよ。古臭いイメージを払拭するためにも、僕は手品以上に、手品以外のところにもお金かけています」
これはトーマさんのステージの服。「いかにも手品師の衣装」という感じではない
斎藤「じゃあ『実際には変な服着てない』っていうのが、論破ですかね。今、みなさん変な服着てないし」
植田「あ。でも、着てる人もいますね。正直」
斎藤「どっちなんだ」
戸崎「昔は変な服だったんですよ。手品師って魔術師だったので。1850代年ぐらいに、ロベール・ウーダンっていう人が、近代奇術の父って呼ばれてる人なんですけど。この人はそういうあやしい服とかあやしい道具とか捨てて、当時の社交界のトレンドである、正装タキシードを着たんですよね。それ以降、普通の服になったはずなんですけど」
みんなを傷つけてしまう結果に……
斎藤「普通の服ですかね? たとえばこれを見てみてほしいんですが」
ここでスマートフォンで「手品師」で画像検索した結果をみんなに見てもらう。
戸崎「ああ、こう見ると変な服多いな」
植田「変な髪型も多いな!」
戸崎「もうごめんなさいだな!」
斎藤「あっ。また僕が論破してしまった!」
植田「でも漫才師っだって、そろいの変な服着ている人いるじゃないですか。衣装で」
野島「でもなあ。たまにトランプ柄のネクタイしてる人いますからね。あれは……無自覚な気がする。お客さんから言われたほうがいいかも。ダサいって」
戸崎「そんなこと言われたら、『タネわかった』って言われるよりキツい」
植田「立ち直らへんよね、ちょっと」
戸崎「言われたら人間不信になる!」
また僕が論破してしまった。服装に合理的な理由があって、それを聞き出せるかもしれない、と思ったんだけど……。みんなを傷つけることになってしまった。本当にすいません! そんなつもりじゃなかったんだ!
斎藤「次は犯罪への関与です。ばれないように万引したり、お釣りをごまかしたりすることは技術的には可能ですか?」
トーマ「全然できるでしょう。ただやらないだけで」
斎藤「できちゃうんだ」
トーマ「お釣りをごまかすに近い物は、手品としてありますね。お札を数えながら、相手に渡した時に、好きな枚数だけこっちに残るっていう。スリの技術です」
実はこれは今回一番聞きたかった質問である。しらばっくれても、深く追求しようと思っていたのだが、全員一致で「技術的には当然可能」とあっさり認められてしまった。
しかしよく考えてみると、犯罪が技術的には可能というのは、一般人にも当てはまる話である。
イカサマも可能!
斎藤「トランプで勝つと怪しまれますか? 麻雀のメンツに入れてもらえないんじゃないでしょうか」
野島「『イカサマじゃないの』って冗談で言われますけれどね。どのくらいみんな本気で言っているんだろう?」
トーマ「友達と遊びでやるときに『イカサマするなよ』っていじりは絶対にあるわけです。『やるわけないだろ』とか言って、でもたまにやりますけど」
植田「実際にやってんのかっ」
トーマ「いやいや、ちょっと自分にいい札が来るように……ですよ? バカ勝ちすると怪しまれるから……」
戸崎「それガチじゃん!」
斎藤「まあまあ。身内の遊びの話ですもんね!」
って、なんで僕がフォローしているんだ。
それにしても、僕はイカサマするのは手品以上にカッコいいと思ってしまう。福本伸行のマンガの読み過ぎだろうか。
斎藤「テレビで手品のネタばらしをやっていますが『ばらすな』って思いますか?」
ここからはもう論破関係なく、単に聞きたい話である。
戸崎「バラしてほしくないとは、毎回思いますね」
斎藤「あ、やっぱり、やめてほしいんですね?」
トーマ「いいじゃんっていう意見もあると思うんですよね。でも僕はもう絶対ダメ派です。1ミリもダメ」
斎藤「なるほど。手品師によって、温度差があるんですね?」
戸崎「多分、実害はほとんどないんですよ。何にも困らないんですけど、でも嫌なんですよ」
植田「自分の大事なものを汚されてる感じがあるね」
野島「すみません……。僕はテレビで一回タネ明かししてますね……。ただ、一線引いていて。僕はバラすのは自分が考えたマジックだけにしています」
トーマ「人が考えたネタをバラす人もいますからね。それは本当に悪」
戸崎「これはマナーの世界の話なので。タネは法的に守られてはいません。本気でタネ明かしを無くすのであればそこをクリアしなければいけないですよね」
斎藤「テレビで普通にやってることだから、みんななんとも思ってないのかなって思っていました」
植田「気持ちはよくないよね」
野島「テレビで××(具体的な手品の基本トリック)明かした××(個人名)絶対に許せない」
植田「そういう基本的技術を明かされるのは、嫌かも。それこそ私はアマチュアだから被害は無いけど、それでも気持ち悪い」
斎藤「××(具体的な手品の基本トリック)って、トランプを××するやつのことですよね?」
ここで手品師一同から「なんでそれ知ってるんですか」と声が上がる。
斎藤「中学生の頃、手品のタネ本読んでて……。ちなみにトランプマンが書いた本です。ところで、『テレビのタネ明かし番組』はNGですよね……? それでは『タネ本を出版すること』は大丈夫?」
これにはみなが「それは大丈夫」とのこと。
斎藤「なんだろう。難しいですね」
戸崎「『タネを知りたい人が、自発的に情報を取りに行くのはいい。しかし知りたくない人にまで届いちゃうのがまずいのではないか』っていう論があったんです。
でも『手品の種明かし番組』を見る人は、全員タネを知りたいから見てもいいんじゃないのっていう話になっちゃうんですけど……」
つまりはロジックではなくて、どうしても感情論になってしまうということだ。この問題はかなり根が深いらしく、手品師達の勢いが高まる一方である。一旦ここでペンディングさせてもらうことにした。
斎藤「手品はどこからが手品なんでしょうか? アキラ100%は広義の手品なのではないでしょうか」
戸崎「質問の意味がわからないですね……」
植田「アキラ100%のどこに手品要素があるのか?」
斎藤「手品の範囲って気になっていて。違う例を出すと、那須どうぶつ王国に行って、そこで猫が玉乗りしているのを見たんです。これはなにかタネあるんだろうって思ってみていたんですけど、タネは無いんですよね。これは手品かどうか」
トーマ「それは手品と言うよりは曲芸ですかね。裏と表で別れている、というのが手品の性質のひとつかと。表で必死に乗ってる様を演出しながら、実は裏で安全に支えてました、とかだったらそれはタネになりますよね。」
野島「一番わかりやすいのは、“あらため”と“おまじない”が入ると手品になる」
斎藤「それはなんですか?」
野島「あらためっていうのは、ここはなにも普通は起こらないですよねって確認する。これは現象が起こる前、不可能性を高める行為なんですよね。そして、魔法をかける仕草とか指を鳴らすとか、その作業によって不思議なことが起こりますよって、するのがおまじない。これで、マジックになるんですよね。だから、アキラ100%は多分違う」
斎藤「違うのか……」
野島「違うというか、困ります。どこをどうマジックだと思っているのか。見えそうで見えないっていうこと?」
戸崎「本当は見えるはずだっていう……。ただ、そこに何かトリックがあったとしても手品じゃなくて『工夫』なんじゃないのかな」
これは本気の疑問というより、思考実験の例のつもりだったのだが、アキラ100%に対する抵抗感が強すぎた。100%は手品ではない。念のために注意喚起をしたいところである。
斎藤「次の質問です。あなたは幕末にタイムスリップ。手品を通じてどう歴史と関わっていきますか?」
手品師一同「意味が分からない」「何が聞きたいの?」「どういうこと?」
なんか雰囲気が悪くなってしまった。ちなみにこの質問はデイリーポータルZ編集部の藤原君から預かっていたものである。おれ悪くないからな。
斎藤「えーと。ちなみに江戸時代ってどんな手品があるんでしょうか?」
戸崎「天狗を出すとかあります」
斎藤「天狗!」
野島「こないだね、マジックの歴史の本を読んだら、額を伸ばす術っていうのが紹介されていて。人の額が二倍か三倍に伸びるっていう」
額が伸びる手品。放下荃3巻(国立国会図書館デジタルコレクション)より
斎藤「見たい……!」
戸崎「居間に津波を起こすとかも」
斎藤「意味がわからない」
野島「あと呑馬術。馬を細くして飲む」
斎藤「あれ? 呑馬術って聞いたことありますね。なんでだろう?」
植田「京極夏彦の小説にその描写がありましたね。それを読んだのかな」
戸崎「現代のマジシャンの方が、呑馬術を再現されてましたね」
斎藤「ちなみに、タイムスリップしたのが平安時代だったら、陰陽師として活躍できるんでしょうか?」
戸崎「紙のヒトガタを動かせばいいのかな」
植田「それだったらできそう」
幕末だとそれほど活躍はできそうにないらしい。タイムスリップはできるだけ昔にしておいた方が、技術的なインパクトは生まれそうである。
斎藤「『バキ』ってマンガに、見えないくらい細いピアノ線を武器にする敵が出てくるんです。そのマンガには、そういうピアノ線は科学者の手によって開発されて、一流の手品師に販売されているって書いてあったんですが、本当ですか?」
野島「我々は知らないし、マンガの中の話だと思います。ただ、デビットカッパーフィールドとか、何億って稼いでいるマジシャンだけにシェアされている情報はあるらしいです」
戸崎「カッパーフィールドさんがやっている手品、わかんないよね」
野島「あのレベルのマジシャンだと、やってるマジック全部わからんですね。強力なブレインが何人もついてるので。並大抵のマジシャンでは太刀打ちできない」
やっぱりあれはマンガかー。でも完全にフィクションと否定できるわけではなく、ちょっとロマンが残った感じ。余談だが戸崎さんがカッパーフィールドに「さん」づけをしたのが、業界の人という感じでかなり興奮した。
斎藤「合コンで手品つかいますか?」
戸崎「使うこともありますね」
植田「あるんや……」
戸崎「うん。いきなりくす玉を出すとかね」
植田「『気まぐれコンセプト』の有名なネタで『手品で人を好きになった女はいない』ていうのがあるけどな……」
戸崎「その話をしだすと、『モテとは何か』っていうのに入らないと」
植田「でもさ、モテへんやつが手品したって、モテへんのよ」
斎藤「ただしイケメンに限る、みたいなことですかね」
戸崎「ちょっとは確率あがらないの?」
植田「『手品できるんだ。すごーい、今度一緒にご飯食べにいこう!』とはならないでしょう」
戸崎「『手品すごかったからFacebookの申請はオッケーしとこうかな』ぐらいはあるかもしれないじゃないですか!」
植田「なんでそう必死なん?」
戸崎「手品はモテるってことにしといた方が、我々もいいじゃない!」
植田「利益の問題か?!」
質問として生々しすぎたかもしれない。しかし、いきなりくす玉を出してくれる人がいたら絶対に盛り上がる。盛り上げる準備をしてくれる部分に、優しさも感じられると思うのだが、どうだろう。
斎藤「タネがどうにでもなるとしたら、どういう不思議現象をやってみたいですか?」
戸崎「不老不死とかでもいいんですかね」
植田「それ手品か?」
トーマ「僕はテレポーテーションですね。時間と空間の超越っていうのが一番の夢です。この場でひょいっと家に帰っちゃうことができたら、すごい」
野島「他のマジックショップで働いている方から聞いた話ですが、マジックショップにお客さんが来て、『宙に浮くマジックないですか?』って。宙に浮くマジックって色々あって、ちょっとだけ浮くものもあれば、大掛かりなやつもあって。どういった感じで使うんですか? って聞いたら『いや、通勤用……』って」
植田「わたしなら、読心術ですね。考えていることをあらかじめ書いてもらって、それを何の手がかりもなく書き当てたい」
戸崎「それだったら、不老不死のほうがいいな」
野島「いやいや。買った宝くじが一等になるっていう手品がいい」
戸崎「不老不死の方がよくない?」
植田「不老不死って、マジックとしてどういう現象になるんですか? 見せ方が分からない」
トーマ「不死なら、刃物を本当に体に刺しても、死なない。痛くて悶てるけど、死なない! 死ねない! そういう見せ方になるのでは?」
ロマンあふれる質問をしたつもりなんだけど、悲しいSFになってしまった。人は思い通りの欲望を実現させても、ろくな事にはならないのかもしれない……手塚治虫のマンガにありそうな展開だ。
手品の実演が始まる
ここで最後に手品を実演してもらった。
僕がトランプを1枚選び、チェックをつける。それを山に入れ、トーマさんが混ぜると……
そのトランプが、いつの間にかそばに置いてあったトランプの箱の上に出現する。同じ事をすると、今度は箱の下にある。もう一度やると、今度は箱の中から出てくる。
なにこれすげえええな!
続いて野島さん。ふつうのサイコロを左右に指に3つ重ねてクロスする。これが
はああああ。すごい!どうなっているんだ。ここで最後の論破である。
実はこれ、今回結局言い出せなかった失礼な質問である。しかし、この質問には今この瞬間に僕自身が論破しよう。一度目の前で見てみると、すごいぞ!
思えば僕の手品を見た記憶は、テレビか、サラリーマン時代の取引先のおじさんくらいしかないのだ。プロが目の前でやると、鳥肌がゾッと立ってくる。メチャクチャおもしろい。手品最高である。そして、この質問はやっぱり口にしなくて本当に良かった!
手品って面白い
今回話していて分かったことがある。世の中のほとんどの人が手品の「タネ」の部分にしか着目していない。しかし、本当にすごいのは、演者のお客とのコミュニケーションだ。……でも手品師自身は、きっとそんな部分には注目して欲しくはないと思う。このアンビバレンツな状況があるから、生の手品には緊張感が出てくるんじゃないだろうか。
ともかく生の手品、一度見てみると良いですよ!
トーマ
2016年、IT企業のWeb技術者の職を辞しプロマジシャンとして独立。現在ではMagic Tokyo Oのエースパフォーマーとして日々ショーを行いながら、企業とのタイアップやパーティ、結婚式でも活動。またテレビや雑誌、CMにも出演中。
MAGIC TOKYO O