いいですねえ!同じ向きに3つ並んだ土蔵、これは河岸ですね。軒回りに「はちまき」(帯状に盛り上げた部分)が描かれていない点や、腰高な「なまこ壁」(平たい瓦を貼った土壁)に着目すると、これは東京ではなく名古屋近辺のどこか港町の土蔵である可能性があります!
きっかけは五反田で見つけた自動販売機


質屋の横に設置された自動販売機

五反田で土蔵のラッピングが施されている自動販売機を見つけた。
土蔵を見ると友人の大町駿介くんを思い出す。
大町くんは日本中の土蔵を求めて旅をしている若き土蔵研究家なのだ。
土蔵を見ると友人の大町駿介くんを思い出す。
大町くんは日本中の土蔵を求めて旅をしている若き土蔵研究家なのだ。


過去にもDPZの記事に登場しているイラストレーターの大町くん
(スマホを昭和のSF風に描く)
(スマホを昭和のSF風に描く)

土蔵愛ゆえ彼の大学院修了制作は土蔵のイラストレーション集であった。
絵は素晴らしいのだが、そのニッチな嗜好から「売れるまで10年かかる」と講評で言われたらしい。4年前に言われたのであと6年だ。果たしてあと6年で土蔵ブームが来るのだろうか?
絵は素晴らしいのだが、そのニッチな嗜好から「売れるまで10年かかる」と講評で言われたらしい。4年前に言われたのであと6年だ。果たしてあと6年で土蔵ブームが来るのだろうか?


大町くんの修了制作

そんな大町くんの為に私は以前から土蔵を発見すると撮影して報告をする活動をしていた。
「いい土蔵です!典型的な伊豆地方の特徴が出ています!」などと喜んでくれる時も嬉しいのだが、「ああ、それは石蔵ですよ…」と土蔵じゃなかった時にリアクションが悪かったりするのもなんだか面白いのだ。
そんな流れで今回も記事冒頭の「自動販売機の写真」も送ってみたのだが、すぐにこんな返事が来た。
「いい土蔵です!典型的な伊豆地方の特徴が出ています!」などと喜んでくれる時も嬉しいのだが、「ああ、それは石蔵ですよ…」と土蔵じゃなかった時にリアクションが悪かったりするのもなんだか面白いのだ。
そんな流れで今回も記事冒頭の「自動販売機の写真」も送ってみたのだが、すぐにこんな返事が来た。





【参考】名古屋の土蔵


※この記事の参考写真は大町くんの提供です。

ーーなんと!
土蔵は地方によって様々な特徴があるらしいのだが、大町くんは「偽物の土蔵」でもその特徴によって出身地方をプロファイリングする能力を持っていたのだ!
おもしろい!
土蔵は地方によって様々な特徴があるらしいのだが、大町くんは「偽物の土蔵」でもその特徴によって出身地方をプロファイリングする能力を持っていたのだ!
おもしろい!



そういえば先日、こんな物件も採集しました。移動焼き鳥屋ですね。

ーー今度は大町くんがこんな写真を送ってきた。


南大沢の移動焼き鳥屋

ーーこれもすごい!
ちなみにこの物件も大町くんはプロファイリングできるのだろうか?
ちなみにこの物件も大町くんはプロファイリングできるのだろうか?



うーん。前側の妻面に張り出した部分は「きりよけ」(窓カバー)に似ています。北陸や北海道に見られる様式ですね…。屋根にやや立派な鬼瓦が載っているのを考え合わせると、函館の土蔵かと思われます!

【参考】函館の土蔵



ーー溢れ出る大町くんの土蔵愛と知識!
そして土蔵を模した物件!
どちらもすごいしおもしろい!
こんな土蔵を模した物件はまだまだあるのだろうか?
もっと集めて大町くんの解説が聞きたくなったのである!
そして土蔵を模した物件!
どちらもすごいしおもしろい!
こんな土蔵を模した物件はまだまだあるのだろうか?
もっと集めて大町くんの解説が聞きたくなったのである!

採集した物件と怒涛の解説は次のページから!

いったん広告です
命名【模蔵・擬蔵】!
採集に当たってまず土蔵のデザインを取り入れた物件を【模蔵・擬蔵】と呼ぶことにした。
読み方は「もぞう・ぎぞう」である。「モグラ・ギグラ」という読み方も格好良くて捨て難かったのだが。
ちなみに
読み方は「もぞう・ぎぞう」である。「モグラ・ギグラ」という読み方も格好良くて捨て難かったのだが。
ちなみに


模蔵(もぞう)…土蔵のデザインを取り入れた物件。
擬蔵(ぎぞう)…土蔵になりすましている物件。
擬蔵(ぎぞう)…土蔵になりすましている物件。


という分類だ。

001【福岡の居酒屋:家康】


場所:福岡県福岡市 分類:模蔵 採集:クリハラ

ーー博多で発見した物件。なまこ壁が全身を覆っているのが特徴かな?



伊豆下田の土蔵を模しているのではないでしょうか。ポイントは軒の出っ張った部分です。これは土蔵の「はちまき」にあたります。またこのように「四半貼り」(正方形の瓦を菱形に貼る様式)のなまこ壁をはちまき部分にまで設けるのは伊豆下田の土蔵の大きな特色です。

【参考】静岡県下田の土蔵



ーーあ!「家康」という店名だから「静岡」で「伊豆」風なのか!



しかし気になるのは両サイドの「うだつ」(隣家との間に設ける防火壁)のような形状です…。これはまた別の地域の様式を取り入れている可能性があります。例えば長崎県外海辺りの町家には、これとよく似た「袖うだつ」が造られています。

【参考】長崎県外海の袖うだつ



ーー「うだつ」ってエヴァンゲリオンの肩についているアレっぽいね。



アレは形状的に「本うだつ」です。

【参考】本うだつ





…総合的に考えるとこの「家康」という物件は東日本と西日本の様式のハイブリッドになりますね。家康の天下統一を表現しているのかもしれません。

ーーなるほど!


002【くら寿司】


場所:神奈川県川崎市 分類:模蔵 採集:クリハラ

ーー有名な回転寿司のチェーン。創業者が倉敷出身だとか。



これも紛うことなき模蔵ですね!屋号からもその自負が伺えます。ポイントは腰回りにぐるっと施された四半貼りなまこ壁、そして入口脇の窓まわりの造形です。
四半貼りナマコ壁は全国に見られるものなのでこれだけでは場所を特定し難いのですが、なまこ壁の隅の納め方や観音開きの土扉がある窓から、横浜市郊外の土蔵を候補として挙げたいと思います!
四半貼りナマコ壁は全国に見られるものなのでこれだけでは場所を特定し難いのですが、なまこ壁の隅の納め方や観音開きの土扉がある窓から、横浜市郊外の土蔵を候補として挙げたいと思います!

くら寿司の鑑賞ポイント:窓の土扉


観音開きの土扉



実際には開閉しないと思われますが、窓の土扉まで再現しているところはすばらしいですね!土扉の「かけごぬり」(扉の段々の部分)は本来、閉じた時に噛み合うように左右で段の向きが異なるべきなのですがそれはご愛嬌です。

【参考】横浜市郊外の土蔵



ーーちなみにくら寿司は店舗によってなまこ壁のデザインにバリエーションがあるみたいなので更に調査が必要そう。



他のくら寿司も是非見てみたいです!
ちなみに1Fの駐車場部分を吹き抜けとしている姿、これは蔵の歴史をさらに遡り「高床式倉庫」に範をとっている可能性がありますね。
ちなみに1Fの駐車場部分を吹き抜けとしている姿、これは蔵の歴史をさらに遡り「高床式倉庫」に範をとっている可能性がありますね。

ーー正倉院の遺伝子も!


003【新宿の質屋】


場所:東京都新宿区 分類:模蔵 採集:クリハラ

ーー土蔵と言えばやはり質屋だ。



展開図を開いたような形状がおもしろい!まず目に入るのは妻面、「質」と書いた丸い出っ張りです。このような部分を設ける地方はいくつかあるのですが、長野県では「うしばな」と呼ばれています。地棟の端が壁に突き出たのを丸くコーティングするもので、ここに家名や文字を書くのは山梨県甲府あたりから長野県諏訪、松本あたりに限られてくる。また軒まわりの造形を考え合わせると、甲府郊外の土蔵が有力候補だと思います。

【参考】甲府市郊外の土蔵




004【備中高松のプールの入り口】


場所:岡山県岡山市 分類:擬蔵 採集:伊藤健史

ーー伊藤さんからの提供です。



岡山県ということで、倉敷あたりの様式を模しているかと思いきや、これは長野県松本の様式ですね。
腰から下が四半貼りのなまこ壁ですが四隅の一列だけタテに真っすぐ貼ってあるのが特徴です。
はちまきを2段につくる造形や屋根の勾配も松本のものに似ています。中身はプールとのことですが、それを感じさせぬ土蔵らしさを獲得している。模蔵と言うより擬蔵と言っていいレベルです。
腰から下が四半貼りのなまこ壁ですが四隅の一列だけタテに真っすぐ貼ってあるのが特徴です。
はちまきを2段につくる造形や屋根の勾配も松本のものに似ています。中身はプールとのことですが、それを感じさせぬ土蔵らしさを獲得している。模蔵と言うより擬蔵と言っていいレベルです。

【参考】長野県松本の土蔵



ーー初の「擬蔵」判定が出た!



土蔵と見せかけてプール…土蔵のデザインを取り入れているというレベルは超えていると思います。屋根瓦もしっかり葺かれているのが好感が持てます。


005【下田の駅前ビル】


場所:静岡県下田市 分類:? 採集:伊藤健史

ーーこれも伊藤さんからの提供。



これは…土蔵というより「擬洋風建築」をモデルにしているように見受けられます。擬洋風建築というのは石やレンガでできた西洋建築を土蔵造りの技術などで再現しようとした明治初期の建物群のことです。

【参考】旧新潟税関(擬洋風建築)



ーー模蔵では無いということ?



そうですね…ただ、細部を見ると、はちまき部分の四半張りなまこに伊豆の様式もみられます。さらに時計塔は高知県香美市にある「野良時計」を模したものにも見えますし、棟端にはなぜか「鴟尾」(しゃちほこの先祖)が乗っています。
このように色々なところからデザインをピックアップする姿勢が擬洋風建築の良さと言えるかもしれません。
このように色々なところからデザインをピックアップする姿勢が擬洋風建築の良さと言えるかもしれません。

ーーまとめると模蔵ではなく「伊豆の様式を取り込んだ擬洋風建築っぽい看板建築」ということかな?


006【倉敷市玉島の港水門】


場所:岡山県倉敷市 分類:模蔵 採集:橋田玲子

ーー橋田さんからの提供です。水門に土蔵のデザインが施されている珍品。



これは倉敷から塩飽諸島にかけての土蔵の様式ですね!なんと言ってもなまこ壁の貼り方、現地倉敷の土蔵のデザインをよく意識しています。
腰一面の「馬目地」(一段ごとに半分ずらして貼る)、なまこ壁といいつつ目地を盛り上げないこの貼り方。
そして屋切り(妻面の壁、三角の部分)下にも一筋巻いているあたりが実に倉敷的です。
四隅にふちどりが入っていると更に倉敷らしくなったと思うのですが…それは欲の張りすぎでしょうか。
腰一面の「馬目地」(一段ごとに半分ずらして貼る)、なまこ壁といいつつ目地を盛り上げないこの貼り方。
そして屋切り(妻面の壁、三角の部分)下にも一筋巻いているあたりが実に倉敷的です。
四隅にふちどりが入っていると更に倉敷らしくなったと思うのですが…それは欲の張りすぎでしょうか。

【参考】岡山県倉敷の土蔵




007【福岡の魚屋:まるやす】


場所:福岡県福岡市 分類:模蔵 採集:クリハラ

ーーこれも模蔵…かな?



普通のタイル張りかと思いきや確実に模蔵です!
「○安」の家印が証拠です。家印を壁面に描くことは日本中の土蔵に見られるものですが、家運を背負って建つという土蔵の役割をよく表現しています。
福岡県柳川の土蔵ですね。タイル上端の横並びの黒い帯に特徴がよく出ています。
四半貼りの上にこのように横並びの一列を付け加えるのは福岡県柳川の土蔵のなまこ壁の貼り方です。この物件の採集地は福岡市博多、地理的にも近いので間違いないでしょう。
「○安」の家印が証拠です。家印を壁面に描くことは日本中の土蔵に見られるものですが、家運を背負って建つという土蔵の役割をよく表現しています。
福岡県柳川の土蔵ですね。タイル上端の横並びの黒い帯に特徴がよく出ています。
四半貼りの上にこのように横並びの一列を付け加えるのは福岡県柳川の土蔵のなまこ壁の貼り方です。この物件の採集地は福岡市博多、地理的にも近いので間違いないでしょう。

【参考】福岡県柳川の土蔵



ーー市松模様のタイルを全てなまこ壁に認定し始めたら模蔵の可能性も広がりそうだ!



そういえば以前アメリカの日本人街をストリートビューで見ていたらこんな物件がありました。意図していないただのタイル貼りかもしれないけれど模蔵にも見えます。




赤いなまこ壁は島根の方にあるという噂もあるのでそれの模蔵の可能性も0とは言い切れないでしょう。


008【伊豆のブロック】


場所:静岡県下田市 分類:模蔵 採集:大町

ーーこれは大町くんが下田に取材した時に撮ったもの?



そうです。全面になまこ壁を施されたさまは、まぎれもなく伊豆半島の土蔵の姿です!火の見櫓のまわりに配置されている様子は、なまこ壁本来の役割である防火・防水の機能を示しているのではないでしょうか?

ーーブロックになまこ壁の模様をペイントしただけのミニマムな模蔵!



これよりシンプルな模蔵はなかなか無いかもしれません。

ーー土蔵とは何かを考えさせられる逸品!
そもそも人はなぜ土蔵を模すのだろう?
そもそも人はなぜ土蔵を模すのだろう?

【参考】静岡県下田の土蔵



模蔵と大町駿介くんのおもしろさは伝わっただろうか?
以前から土蔵について熱く語っている大町くんを見て「すごいな~おもしろいな~」とは思っていたが、実を言うとその内容はかなり聞き流していた。というか、頭に入ってこなかった。自分は土蔵自体には全く興味がなかったからだ。
しかし、今回の模造品の土蔵(模蔵・擬蔵)の解説はとても面白く聞けた。なぜだろう?
模造品の持つ「隙」に魅力を感じたのかもしれない。
はたまた模造品の存在によって無意識に土蔵の価値を感じてしまったのかもしれない。価値のないものに模造品は無いはずだから。
とにかく今後も【模蔵・擬蔵】に注目して採集していくつもりだ。
しかし、今回の模造品の土蔵(模蔵・擬蔵)の解説はとても面白く聞けた。なぜだろう?
模造品の持つ「隙」に魅力を感じたのかもしれない。
はたまた模造品の存在によって無意識に土蔵の価値を感じてしまったのかもしれない。価値のないものに模造品は無いはずだから。
とにかく今後も【模蔵・擬蔵】に注目して採集していくつもりだ。




【模蔵・擬蔵】の写真を募集します!



模蔵を探しているとこういうのにドキッとする



