特集 2017年5月8日

日陰の草花を愛でる

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ここ数年、遊園地よりも庭園、ステーキよりも煮魚に心惹かれるようになった。きっと、そういう年齢になったのだと思う。

そして、いま気になっているのが「日陰の草花」である。日陰で静かに生きるいじらしい姿を見るにつけ、愛しさや切なさや心強さなど、様々な種類の感情が沸き起こってくるのだ。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

隙間に生きる日陰の草花

それは、たとえば建物と建物の隙間に根を下ろす、こんな草木である。
ビルの間窮屈そうに
ビルの間窮屈そうに
そんな隙間に生えんでも
そんな隙間に生えんでも
路傍の花という言葉があるが、それどころではない。路傍ですらない日の当たらない隙間に生きる植物たちが、このところ妙に気になってしまう。
そこは暗く、狭い
そこは暗く、狭い
花壇の植栽のように、人が意図的に植えたものではない。その多くは雑草だ。ゆえに、常に伐採の危機を抱えている。人間の気まぐれに命を握られ、明日をも知れぬ毎日。そんなあやうさにも惹かれてしまう。
コンクリートだろうがお構いなしに
コンクリートだろうがお構いなしに
隙あらば生えるその強さ、憧れる
隙あらば生えるその強さ、憧れる
一方、都市の街路樹や植え込みは日当たりが良く、成育に適した場所に整備される。
たっぷりの日光と恵まれた養分
たっぷりの日光と恵まれた養分
加えて、手厚いメンテナンスで美しく剪定された彼らは、いわば生まれながらのエリートだ。恵まれた環境を当然のごとく受け止め、疑問を抱くことなく「生」を謳歌している。

しかしたまには、その花壇と地面の隙間にも目を向けてほしい。そこに、日陰でこぢんまりと群生する花々を見つけられるかもしれない。
花壇の下にご注目
花壇の下にご注目
そう、咲いているのだ
そう、咲いているのだ
お前たちだって、もっと存分に光合成したいだろう。なんでそんなところに根を張ってしまったのか。人は生まれてくる家を選べないが、植物も同じのようだ。いや、我々なら努力次第で日陰から這い出すこともできよう。自分の意思で動くこともできず、日陰で生涯を過ごす植物の哀しさ、わびしさを思うといたたまれない。
こんなわずかな隙間にも
こんなわずかな隙間にも
ひっそりと生きている
ひっそりと生きている
しかし、もの言わぬ植物は、その運命を潔く受け入れているようにも見える。その覚悟がまた、切なくもかっこいい。そう思うと、日陰の花びらのくすんだ色合いも、なんだか美しいものに見えてくる。厳しい環境下でも、精いっぱい鮮やかに咲き誇ろうとした意地みたいなものが感じられるのだ。
エアコン室外機の陰で
エアコン室外機の陰で
排水溝で
排水溝で
念のため言っておくが、僕はべつに疲れていない。
ただ、日陰の植物がたまらなく愛おしいのだ。年齢を重ね、そういうステージに入っただけのことである。



話は変わるが、僕は常日頃「他人を羨まない」ように心掛けている。羨みは妬みに変化しやすく、心に毒が溜まる。周囲の同業者がどんなに脚光を浴びていても、自分は自分の環境、才能の及ぶ限りで、手に届く範囲内の活躍ができればいいと考えるようにしている。

しかし、そう思い込むのは簡単ではない。誰かの記事がウケていれば、やはり気にはなる。
スラム街のストリートチルドレンのような、たくましさも感じられる
スラム街のストリートチルドレンのような、たくましさも感じられる
その奥には立派な植え込みが。植物の社会にも格差は忍び寄っている
その奥には立派な植え込みが。植物の社会にも格差は忍び寄っている
そんな時は、今日出合った日陰の植物たちを思い出すことにしよう。多くの光を望まなければ心も揺れず、穏やかに暮らしていける。より多くの賞賛を欲し高みを求め続けるより、そこそこの光で光合成できる日陰の草になったほうが幸せなのかもしれない。

承認欲求という呪いに縛られた現代人こそ、その佇まいから学ぶことがあるはずだ。

日陰でいいじゃないか

その存在を誇るでもなく、人の目にふれぬ場所で「ただ生きて」いる日陰の草花。そんなふうに達観できたら、僕らも随分と肩の荷が降りるのではないだろうか。

連休明け初日からじめっとした記事で申し訳ない。しかし5月病は気負いすぎが原因ともいわれるので、日陰の草花のように肩の力を抜いていきたいもんである。
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