特集 2017年4月14日

昔の時刻表で上野発の夜行列車を見送る

上野発の夜行列車、いまひとつもないって知ってた?
上野発の夜行列車、いまひとつもないって知ってた?
前回の記事でも書いたけど(→こちら)、夜行列車が好きだ。

もうほとんど見かけなくなってしまったけれど、昔は夜になるとターミナル駅から各地に向けて次々と出発していたという。そんな賑やかだった時代の雰囲気をもういちど味わってみたい。そこで、昔の時刻表を見て、夜行列車が発車していた時間にホームに行ってみることにした。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:赤いオープンカーでダムのトンネル見学会へ

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夜行列車の黄金時代

先日、国鉄時代から走っていた古い電車が引退する、というニュースを見た。夜行列車にも使われていて、僕も乗ったことがあるので少し寂しい。

飛行機が特別な乗り物ではなくなり、新幹線や高速道路が全国に張りめぐらされた結果、夜行列車はほとんど絶滅の危機に瀕している。

では最盛期はどうだったんだろう、と思って、1980年の時刻表を知り合いから借りた。新幹線がまだ東海道・山陽新幹線しかなかった時代だ。
一部の人にとって宝の地図である
一部の人にとって宝の地図である
巻頭の日本中の路線図も、中のダイヤも、今はもうない路線や列車が満載で、これだけで一晩語り明かせるほどの内容。特に長距離を走る特急や急行、そして夜行列車の数が目立つ。昔の時刻表、今回は借りたけど自分でも買うと誓った。
いま北海道の路線はこの3分の1くらいしかないんじゃないか
いま北海道の路線はこの3分の1くらいしかないんじゃないか
深夜の東北を走る上野発の夜行列車群
深夜の東北を走る上野発の夜行列車群
特に上野駅では、東北方面(青森・秋田など)、上越方面(新潟など)、信越方面(長野、金沢など)に向かうさまざまな列車が昼も夜も出発していて、たいへんな過密ダイヤだ。その中から、夜行列車だけを抜き出すと次の表のようになった。
上野発の夜行列車いちらん(臨時列車を除く)
上野発の夜行列車いちらん(臨時列車を除く)
19時過ぎから日付が変わる直前まで、26本もの夜行列車が存在していた。臨時列車を入れるとこの1.5倍くらい。2つの列車が同時に出発しているタイミングもあって、その密度に驚いた。

当時の撮り鉄たちは、きっと数分おきに出発していく夜行列車を見送るため、構内をあちこち駆け回っていたことだろう。そして、各ホームは大きな荷物を抱えた乗客であふれていたのではないだろうか。当時のそんな雰囲気を味わってみたかった。そして現在はどんな雰囲気なのか知りたい。というわけで夜の上野駅に行ってみた。
東日本の玄関口にやってきました
東日本の玄関口にやってきました
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夜行列車の時間が始まる

時刻は19時少し前。ちょうど帰宅のラッシュ時でもあって、広い構内は大勢の人が行き交っていた。
高い天井は巨大ターミナル駅らしい
高い天井は巨大ターミナル駅らしい
通勤列車が次々と発車していく
通勤列車が次々と発車していく
取手や宇都宮、高崎などに向かう通勤列車が次々に出発していくなか、この日最初の夜行列車にも出発の時刻が迫っている。青森に向かう急行八甲田である。出発するのは下のホームの14番線。

ちなみに上野駅のホームは2階建てが横にズレたような構造をしていて、1番線から12番線までが2階、13番線から17番線までが1階にある。
長旅に備える急行八甲田(の姿を想像しよう)
長旅に備える急行八甲田(の姿を想像しよう)
14番線に向かうと、そこには急行八甲田を待つ人々の姿…はもちろんなく、宇都宮に帰る人の群れが無口で並んでいた。

発車時刻の19時8分になった。いま、ホームに列車はいないけれど、37年前はきっと長い発車ベルが響き渡り、多くの人を乗せた列車がゆっくり走り去って行ったのだろうと思う。青森到着は明日の朝6時17分、およそ11時間の長旅だ。

次に出発する夜行列車は、少し時間が空いて19時31分、八甲田と同じく青森に向かう急行津軽1号である。いまの山形新幹線と同じルートを通って山形や秋田を経由するため、八甲田より時間がかかって青森到着は9時10分。およそ13時間40分という道のりだ。

発車時間が近づいてきたので乗り場の18番線に向かおう。…18番線?
18番線はなくなっていた
18番線はなくなっていた
白い電車が停まっているのは17番線。ということはきっと、そのすぐ右隣に18番線があったと思うのだけど、いつの間にかなくなっていた。山形や秋田方面に向かう人が集まっていただろうホームは通路になり、閑散としている。

もはや線路すら見えないので脳内補完が難しいけれど、急行津軽1号は定刻で発車していった。長旅だけど気をつけて!

続いては19時50分発の寝台特急ゆうづる1号、青森行きである。途中で急行八甲田を追い抜き、青森到着は最速の5時3分、そこから青函連絡船に接続して9時15分に函館、さらに北海道内の特急に乗り換えると13時53分に札幌にたどり着くダイヤが組まれていた。

ちなみに路線検索したところ、函館まで新幹線が開通した現在でも、飛行機以外で13時53分に札幌に着くには上野を前夜に出なければならない(そして仙台か新青森で夜を明かさなければならない)。それなら横になって移動できる寝台特急の方が快適ではないだろうか。まあ飛行機に乗れば当日9時半出発で間に合うのだけど。
乗り場は19番線となっていたけど当然跡形もない
乗り場は19番線となっていたけど当然跡形もない
ゆうづる1号が停まっていた19番線があったと思われる場所には、コインロッカーが並んでいた。やがて時間になり、脳内でゆうづる1号の出発を見守ったのだけど、おそらく、後ろから見ると微動だにせずコインロッカーを凝視する怪しい姿だったろうなと思う。
時間だ
時間だ
ゆうづる1号、発車!
ゆうづる1号、発車!
僕が何をしたかったか、このあたりでだいたい分かってもらえただろうか。
しかし夜行列車の出発はこれからがピーク。まだ戦いは始まったばかりなのである。
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青森へ、福井へ、秋田へ、金沢へ

ゆうづる1号の出発から次の夜行列車まで、およそ1時間空くため少し休憩した。当時の撮り鉄たちも、きっとこのタイミングで駅そばなどで腹を満たしたのではないだろうか。
正直、寒くてすごく辛かった
正直、寒くてすごく辛かった
さて、次に出発するのは先ほどのゆうづる1号と同じ19番線から20時50分発、青森行きの急行十和田3号である。青森行きの急行に八甲田、津軽、十和田とあるけれど、八甲田が福島や仙台を通る東北線経由、津軽が福島から奥羽線に入って山形や秋田を経由するルート、そして十和田は水戸や相馬を通る常磐線経由という違いがあるようだ。

あと十和田はいきなり3号だけど、1号は臨時列車だった。1号が臨時とかあるんだねぇ。
というわけでふたたびコインロッカーの19番線跡へ
というわけでふたたびコインロッカーの19番線跡へ
ここから列車の出発の間隔が短くなり忙しくなってくる。20時50分発の急行十和田3号を見送ったら、3分後の20時53分に14番線から福井行きの急行越前、21時13分に13番線から秋田行きの急行鳥海、21時17分に8番線から金沢行きの寝台特急北陸と、たて続けに発車する。時刻、番線などのミスは許されない緊迫した時間が続く。
ちなみに現在も上野20時50分発の列車はある。新幹線だけど
ちなみに現在も上野20時50分発の列車はある。新幹線だけど
というわけでこのへんから十和田3号、発車~(投げやり)
というわけでこのへんから十和田3号、発車~(投げやり)
14番線に急ぐと、そこにはふつうの宇都宮線が停まっていた
14番線に急ぐと、そこにはふつうの宇都宮線が停まっていた
時間になり、急行越前発車ー!
時間になり、急行越前発車ー!
13番線からは秋田行きの急行鳥海が出発
13番線からは秋田行きの急行鳥海が出発
急行鳥海を見送ったあと、階段を登って8番線に急ぐ
急行鳥海を見送ったあと、階段を登って8番線に急ぐ
ここから金沢行き寝台特急北陸が出ていた
ここから金沢行き寝台特急北陸が出ていた
ちなみに北陸新幹線が開通した現在、金沢行きの最終は21時10分発で23時35分には金沢に着いてしまう。かつて寝台特急が結んでいた道のりが2時間25分である。便利になったねえ(言っちゃった)。
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東北の星、寝台特急が続々登場(ただし写真なし)

夜も更けてきて、いよいよ夜行列車の華、寝台特急が続々出発する時間帯である。21時40分に青森に向けて出発する寝台特急ゆうづる5号は例のコインロッカー19番線から。ちなみにその13分後に後を追うゆうづる7号も隣の18番線に停まっている。これぞ夜行列車の出発駅、という光景で俄然、気分も高まってくる。
この(元)ホーム両側にゆうづるが停まっているのが見えるだろうか、僕には見える!
この(元)ホーム両側にゆうづるが停まっているのが見えるだろうか、僕には見える!
また、13番線には寝台特急北陸の後を追う、金沢行き21時49分発の急行能登が出発の刻を待っているはずだ。
現在は誰もいないホームに回送が静かに停まっていた
現在は誰もいないホームに回送が静かに停まっていた
ゆうづると能登を見送ったあとは、急行津軽と同じく奥羽線経由で青森に向かう、寝台特急あけぼの1号が14番線から22時ちょうどに発車する。ということで14番線に向かうと、なんと22時ちょうど発の特急が停まっていた!
前橋までだけどな!
前橋までだけどな!
関係ないけれど、スワローあかぎは通勤用の特急という位置付けらしく、全席指定席でスワローには「座ろう」という意味もあると知ってちょっと衝撃だった。

時間になり、スワローあかぎの発車ベルが鳴り響く。しかし傍で見ている僕にはあけぼの1号の発車ベルに聞こえた。ベルが鳴り止み、ゆっくりと出発していくスワロー…寝台特急あけぼの1号。
青森まで12時間の旅である(実際は前橋まで1時間半)
青森まで12時間の旅である(実際は前橋まで1時間半)
続いては上のホーム、9番線に向かう。ここに停まっているのは、なんと各駅停車の夜行、長岡行きである。22時11分に出発して4時45分に終点に着く。お金を節約して新潟方面に行きたい人の御用達だったのだろうか。
現在は逆向きの列車が来る
現在は逆向きの列車が来る
学生グループなどが大勢乗っていたのではないか(想像)
学生グループなどが大勢乗っていたのではないか(想像)
その頃、下の15番線では22時21分発、青森行きの寝台特急はくつるが、17番線では22時24分発、秋田行きの寝台特急あけぼの3号が乗客を乗せて出発を待っている。
はくつる、発車!
はくつる、発車!
その3分後にあけぼの3号、発車!!
その3分後にあけぼの3号、発車!!
その次はまたまた上のホームへ。22時34分に7番線から盛岡行きの寝台特急北星が、22時38分に9番線から秋田行きの寝台急行天の川が出発するのだ。盛岡行きの寝台特急があったなんて知らなかった。
北星のホーム、現在は同じ時間に普通国府津行きが出発
北星のホーム、現在は同じ時間に普通国府津行きが出発
天の川は跡形もなかった
天の川は跡形もなかった
天の川を見送ったら、急いで階段を降りて下のホームへ。3分後の22時41分に14番線から青森行きの急行津軽3号が出発するのだ。
14番線に急げ!
14番線に急げ!
間に合った!青森まで長旅気をつけてー!
間に合った!青森まで長旅気をつけてー!
時刻は23時近くなり、構内はだいぶ人通りも減ってきた。夜行列車の出発もピークを過ぎ、終盤に向かう。
在来線も残りが少なくなってきた
在来線も残りが少なくなってきた
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フィナーレ!そして伝説へ…

23時台最初の夜行列車は23時ちょうど発、青森行きのゆうづる11号である。乗り場は何度目かの19番線。そして隣の18番線には23時4分発、酒田行きの急行出羽も停まっているはずだ。さらにその1分後、23時5分発のゆうづる13号が上の9番線から出発する。
夜行列車の見送りもラスト1時間
夜行列車の見送りもラスト1時間
またこの場所へ。右にゆうづる11号、左に出羽が停まっているはずだ
またこの場所へ。右にゆうづる11号、左に出羽が停まっているはずだ
ゆうづる11号と出羽を見送ったら、ダッシュで9番線へ
ゆうづる11号と出羽を見送ったら、ダッシュで9番線へ
1晩に5本も出るゆうづるの最終列車がここから出発していた
1晩に5本も出るゆうづるの最終列車がここから出発していた
5分前に出発した11号を終点まで同じペースで追いかけるゆうづる13号が出発
5分前に出発した11号を終点まで同じペースで追いかけるゆうづる13号が出発
ゆうづる13号の出発で寝台特急は終了。この後は比較的距離の短い急行が最後を締める。23時20分には上の7番線から新潟行きの急行佐渡7号、下の13番線から青森行きの急行十和田5号が同時に出発。

どちらを見送ろうか迷って、急行十和田の13番線に行ったところ、ホームが閉鎖されて入れなかった。
新幹線は終わっていた
新幹線は終わっていた
あれ、13番線に入れない…十和田に乗れない!
あれ、13番線に入れない…十和田に乗れない!
37年前はあったんだよ…!
37年前はあったんだよ…!
というわけで急いで7番線へ
というわけで急いで7番線へ
急行佐渡、発車ー!
急行佐渡、発車ー!
その後は下のホームに戻って、15番線から23時32分に盛岡行きの急行いわて3号が出発する。こうして見ると、それぞれの寝台特急をサポートするように、同じルートを走る急行が設定されているのが面白いと思った。料金が安く、停車駅も多いのだろう。
急行いわて3号、発車~
急行いわて3号、発車~
しかし現在は乗ることができない
しかし現在は乗ることができない
1日も終わりに近づき、23時42分になると13番線から寝台急行新星、仙台行きが出発。仙台行きの夜行寝台列車があったのも知らなかった。仙台に着くのは5時57分。完全にビジネスホテル代わりといった存在ではないだろうか。
しかし13番線には入れない
しかし13番線には入れない
その後、23時55分に急行あづま3号・ばんだい11号が16番線から出発。行き先は仙台と会津若松だ。途中で分割するのだろうか。
さすがに構内も閑散としてきた
さすがに構内も閑散としてきた
本日16番線最後の列車
本日16番線最後の列車
日付が変わる直前、23時58分に上野発夜行列車の最後を飾る、急行妙高9号が5番線から出発。直江津に7時15分に到着する列車だ。この列車の発車を見届けて、上野発の夜行列車の見送りも終わりだ。
5時間におよぶ夜行列車の見送りもようやく終了!
5時間におよぶ夜行列車の見送りもようやく終了!
最後の夜行列車を見届けるのとほぼ同時に日付が変わった
最後の夜行列車を見届けるのとほぼ同時に日付が変わった
残りの列車ももう少し
残りの列車ももう少し
各地からの夜行列車が到着するまでの数時間は駅もひと休み
各地からの夜行列車が到着するまでの数時間は駅もひと休み
いや、もう上野発の夜行列車はないんだった。

兵どもが夢の跡

昔の時刻表を見ると、全国各地に特急や急行、夜行列車が走り回っていた。飛行機や新幹線によって移動時間は何分の1にも短縮して便利になったのは間違いないけれど、なんだか少し寂しい状況でもあると思う。これまで通り飛行機や新幹線を使いつつ、みんなが在来線もたくさん使ったら、消えていった列車も復活しないかな、と思う。
いちどだけ上野発の夜行列車に乗った記憶があって、実家を探したら写真が出てきた。並んだゆうづるのどちらかに乗ったらしい
いちどだけ上野発の夜行列車に乗った記憶があって、実家を探したら写真が出てきた。並んだゆうづるのどちらかに乗ったらしい
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