まずは場所を探そう
借りられる銭湯の宴会場というのは東京大田区にある蒲田温泉。黒湯で有名な銭湯でここの大広間が1日借りて54000円だ。
借りるのに何が必要というわけでもない。一般の人でも貸し切れるのでサークルの新年会も会社の会議もここでできる。一揆の企ても自由民権運動の集会もやり放題だ。
まず下見に来た。これぞ宴会場である
場所探しのコツは前例を検索
銭湯にふつう宴会場なんてないが、調べるとここ蒲田周辺にいくつかある。地域性なんだろうか。他にもスーパー銭湯などがある。
場所探しの方法は「銭湯 公演」や「宴会場 LIVE」などで検索してすでに前例があるところを探すのが早い。
ここ蒲田温泉は毎年王様がLIVEをすることで有名だそうだ。
ここで一つ若い世代にお知らせがある。王様といっても君たちが期待してるようなどこかの国王ではない。そうだ。ディープパープルを日本語で歌うおじさんである。
蒲田温泉宴会場には食堂が併設されている。ここのすごいのは
Tポイントが貯まるのだ。そこまで貯めさせたいか、Tよ
なぜ蒲田に宴会場があるのか
下見に行って蒲田温泉のママさんになぜこんなに立派な宴会場があるのか話を聞いた。
戦後ここで銭湯をはじめてまず休憩場を作ったそうだ。そしてリクエストにこたえて食べるものを出したりお酒を出したりついにカラオケを置いたときに人気が爆発した。
ここ蒲田は労働者が多く、羽田空港で働く作業員からも近い。「1曲100円でしょ。1000円持ってくればビールも飲めてね、お風呂に入れて一曲歌えるっていうんで」と当時から破格の安さで100人近く入る宴会場は連日満員となったそうだ。
現在人気なのは釜飯。お米を知り合いから取り寄せてるそうだ。定食で出てくるのでこれでお腹いっぱいになる
「その当時はね、すごい人気でね、来てくれたお客さんが『ああ今日は一曲歌えたわ、よかったわね』って帰る方がいらっしゃったりね」というレベルである。
そんなわけで蒲田温泉宴会場の人気は付近の銭湯にまで波及し、ほかもマネして宴会場を作るようになってこの付近の銭湯には宴会場があるらしい。
今では常連が集う宴会場。ボトルキープの他にボックスティッシュキープもある。もはや娯楽でなく生活をここにキープしている
開催が決まったらまず出演者探し
会場を下見して開催が決まったら出演者とスタッフと機材を探しはじめる。
130人くらいは入りそうだが100人だとして、一日宴会場にいるのも濃すぎるなという気はするので2部に分けた。そうするとのべ200人入る。
この人数で予算を組んだのだが、実際は100席もスペースがなくて満員でようやくトントンという恐ろしいイベントとなった。席数の確定は下見した時に図面書くくらいの勢いで調べまくったほうがいい。
日曜のお昼にもう一度下見に行ったら地元の人たちでにぎわっていた。カラオケがはじまりおじいさんが日舞のような動きで踊りだした
増えた。なんの踊りなんだ、なんの
ブッキングが大変
場所が決まったら出演者を決めよう。
知り合いをたよると話が早いが、呼びたいアーティストのHPにいくと連絡先が書いてあるのでメールを出せばいい。
面識がなくても銭湯の宴会場だというとおもしろがってくれたりもする。出演料の想定金額お伝えするか、いくら用意すればいいか聞いてしまってもいい。
ある程度公演を重ねて思うのが、ちゃんとしたお金を払えばみんなちゃんとしてくれるな~ということ。(しかしちゃんとしたお金だとむっちゃ高いよとアーティスト側から聞いたりもしたので、知り合いやその友人を頼るのが早いのかも)
という手順をふまえてさあ決めるぞと思っても、これがなかなか決まらない。信頼がないので連絡も後回しになったり、どんどん時間が過ぎていく。
目玉となる出演者が決まらないとイベント開催が決まらないのでここで停滞する。
チラシを作ってくれたのはデザイナーの大町駿介さん。長崎のスナックの看板から採取したという字体など雰囲気ありすぎるものを作ってくれた
宣伝は人間の尊厳との戦い!
出演者がようやく決まると、チラシを作って配布したりメディアに案内を流して人を呼ぶ。ここをちゃんとするとちゃんと人が来る(そうだ)。
どのメディアに流すかは出演者にどこがいいですかと聞くと早いだろうし、検索するとメディアのHPにはリリースの送り先が書いてある。案内は「こういうニュースありそう…」と思うことを書く。正解がわからないが送らないよりましだ。
と思ってもこの作業が苦痛なのだ。
就活のエントリーシートと同じだ。我々の文化に埋め込まれた「手前味噌」というトリガーが反応して脳は苦痛を感じるようになっている。
「あの明日のアー(※筆者の団体)がついに!?」とか自分で書く。ここは人間の尊厳との戦いだ。いったん自分をアメリカ人だと思う。他人がなんだ、人生とは神との対話だ!と、メディアに案内を送る時点で一回宗教に目覚めたりもする。
ただの宴会場だと雰囲気が出ないと思い舞台美術の佐々木文美さん(快快)に飾り付けをお願いしたら、よしわかった送風機を置く、という。なんだそれは…
スタッフをそろえる
チケットはネット上で決済できるシステムを使うと当日の混乱がなくて済む。
出演者と案内ができて人を呼んでチケットを買うところまできたら今度は中身を作らないといけない。
音響と照明と美術と当日運営のスタッフをお願いする。なくてもなんとかなる。PAセットをレンタルしてきて自分でやってもいい。
だがすべてこの「あればいいが、なくてもなんとかなる」で成り立っている世界である。最低、ダンボールの上におさるがシンバル打つおもちゃを置いてみんなでそれを見ながら酒を飲んでもいいのだ。
だんだんいいかげんになってきて会場にあったLEDミラーボールとか家のクリップライトとかがどんどん追加される。こうして手作り感あふれたカオスになってしまうのである。
そして当日、風も送れるア~の字ができてた。「ア~の湯」というイベント名でした
宴会場なのでPAと照明のオペレーターも呼ぶ。知り合いを頼って泣きつく
この辺りで我に返る、フェスだぞこれ
出演者とも内容の調整をする。出演にあたって必要なものや当日のスケジュールを調整したりする。出演時間は3時間ずつ合計6時間。出演者は10組を超える。
このあたりで本業に支障をきたしはじめる。やっとここで「もしかしてこれはフェスというやつだな」と気づく。
これで飯を食ってる人がいる仕事だ。趣味でやるにはむりな領域に突入し、仲間に泣きついて調整をお願いした。
そして私は出し物の一つであるいなり寿司のストリップの練習に専念した。
ということで開演です。異常にふくらみすぎて3時間ずつ休憩入れて合計7時間となりました
当日は運営側は何も楽しめない
こうしてようやく幕が開く。開くが出し物を用意しすぎて何も記憶がないくらいにやることがあった。
当日はお風呂に入ったり、歌をきいたりコントを見たりさまざまな出し物を見るイベントである。釜飯も食べられるしビールも飲める。最後は盆踊りだ。最高だ。
だが、やってる方は一切飲めない。そして風呂にも入らず家に帰ってからシャワーを浴びて寝た。何がたのしいのだろう? それは未だにわからないが無事に終わってよかった。
司会に仕込みiPhoneの森翔太。ようやく開場した
「宴会芸のフェスだ」と書いてる人がいた。余興感を高めるためにわれわれは漫才をした
なんでもレンジでチンする会による出し物「レンジの実演」
前半戦の目玉は浪曲の玉川太福さん。これがもう爆笑のうずでござんした
出せるものはぜんぶ出す。銭湯のママさんによるトークである
家族経営の食堂が忙しさで修羅場と化して息子や孫が祖母に切れ我々が心を痛めるという事態に…
木を切ったりして演奏するHeavyWoodBand
弾き語りはカネコアヤノさん。音楽ではもう一組、伴瀬朝彦さんも。二人とも湯上がりにはしびれるほどいい歌でした(入ってないけど)。カネコアヤノさんについては後日音楽メディアのOTOTOYからライブレポートも上がった。照明を宴会場そのままでいかなくてよかった… ※参照(
【ガチ検証】カネコアヤノのライヴを18歳の女子に見せてみた
)
いなり寿司のストリップから(内容はいなり寿司がおあげさんを脱ぐものです)
AC部による高速紙芝居、この流れが異様な盛り上がりを見せた
今まで紹介してきたものはごく一部でここから先は本当に小さくきらめくエンターテインメントがたくさんある。これは「どうでもいい絵描き歌」でマティーニの絵描き歌
最後は全員で盆踊りをしてア~の字から紙吹雪が飛んだ。恐ろしく長いイベントだったので最後はわけがわからないほどの盛り上がりを見せた。
こりゃしんどい
54000円を集めれば宴会場を貸し切れる。貸しきれなくても大勢で宴会場に押しかけて「もう貸し切りと言っていいんじゃないか」という状態を作ってもいいだろう。
しかし一体どうしてこういうことになってしまったのだろう。
冗談を書くためにコントという形にしてたが、気づけば銭湯の宴会場で盆踊りに向かってアの字から紙吹雪を吹かせていた。人生はなかなか思い通りにいかないものだ。
こういう何もない場所で公演をやってみるとライブハウスや劇場で何かやるのは楽だという結論になる。しかしライブハウスでいなり寿司のストリップをやっていいのだろうか。
いなり寿司でストリップするためには銭湯の大広間を借りるしかない。そのための方法をここに書いた。さああとはあなたがおいなりさんのおあげさんを脱がすのか、脱がさないのか。それだけだ。