事の発端は実家から送られてきた歯ブラシにある。瞬足と書いてある
アキレスの津端さん。瞬足の生みの親
靴以外にもあった瞬足
――娘の歯ブラシに「瞬足」と書いてましたがこれはおたくさんのですよね?
津端「あー。ありますね。ありました、になっちゃうんですけども。歯ブラシはもう終わっちゃったんですよ。作ってるのは別のメーカーさんでうちはライセンスビジネスです。瞬足でやってます。他にもいっぱいありましたね。絵の具セットとか」
――瞬足の絵の具セット。
瞬足の過去のHPには絵の具セットも掲載されていた
津端「いろんなことをやりましたねえ。玩具菓子も作りました、カバヤさんと。ラムネでね、上を開けると組み立てモデルで靴になるやつとか」
――靴を組み立てるお菓子…!(※シューズロイド。販売終了だが画像検索した結果は
こちら)
津端「ラジコンは売れましたね。車に瞬足のカラーリングを乗せたような。今売れてるのはメガネですかね」
――足がメガネに…! いったいなんだってこんなことに
「うちはブランドホルダーといって監修だけこちらでやる。毎年2、3社入れ替わるような感じですね。今進めてるのが自転車用のヘルメット」
――瞬足のヘルメットも……
「瞬足と同じようにスポーティーな感じの。自転車本体はもちろんやりました」
――もちろんやったんですね
「そうですね『もちろん』と言うレベルです。自転車は結構やりましたね。」
もちろんやるというレベルの自転車。靴モチーフの自転車だ
取り調べ中。ちなみに靴の展示がされてる商談スペースには「他のお客さんがいなくなったら行きましょう」ということだった
なわとびは断面が九角形で回すといい音がするらしい。コーナー回るのはどうなったのだろう
どうなってるのかこれは
「1番最初は靴下ですよ。2005年ですかね。なかば冗談っぽい軽いノリで靴下を作ったのが最初」
――冗談でやったんですね
「冗談というかその瞬足ブランドがイケイケドンドンの時でブランドビジネスできないかなっていう時があったんですよ。だけどまぁいきなりは難しいし、靴に近いところで靴下いいじゃないですか。
靴下も瞬足と同じように左右非対称のイボイボつけて。滑らないように。結構売れたんですよね」
――靴下はわかりますね
靴以外ではじめてやってずっと売れている靴下。ネックウォーマーなども売れてる
瞬足のメガネ。瞬足とはなんだろうか!
しかしこのサイドのデザインを見るとなるほどたしかに瞬足だ
それは瞬足なのかどうか
――靴下には瞬足としての機能がちゃんとあったんですね。でも歯ブラシには…
津端「『噛む力は走る力なんだ』というコピーを作って順大の先生に聞いたら関連性はあると言われて。それを入れたら男の子には売れましたね。
ライセンス商品はすべて左右非対称に作らなきゃいけないというわけではなくて、子供の学校生活において刺さるようなギミックがあればOKって感じで作っているんです。
縄跳びは音がするようにひもの断面が九角形でね。音でリズムが取りやすくて大人でも飛びやすいです。
メガネはユーザーにニーズがあった。最初はほんとに売れないと思いましたね。メガネはちょっと瞬足じゃなくてもいいんじゃない?なんて思いましたね。
これもメガネとしての瞬足のようなギミックがありますね。軽くてかけててもストレスかからない、ボールがぶつかっても折れないし、カラーリングも靴をモチーフにして」
――なるほど。瞬足っぽい見た目のメガネですね
「そうです靴のデザインですね。やっぱりカラーリングが大事。子供の物は」
消臭剤の瞬足! 逆さにしてそのままかけやすいという広義の瞬足らしさがある
カラーリングの重要性
――瞬足だけでなく子供の靴のデザインって独特じゃないですか。新幹線っぽいというか、流線形だったりシャーッと空気の流れが速そうだったり。たとえばぼくは今一色だけのスニーカー履いているのにぜんぜん違う。
津端「それはカジュアル系ですよね。スポーツシューズだと大人も派手ですね。そして単純にスポーツ系の方が男の子には人気。女の子にはキラキラさせたりとかデニム地やチェック柄を入れたり。女の子と男の子で好みは全然違いますね
我々もその辺を考えてモチーフをいろんなものから取ったり。瞬足では基本乗り物とか動物とかに加えてトレンドネタ。例えばオリンピックとか。女の子だとスイーツ、かき氷とか。色はもう必ずそういうものを引っ張ってきます。
実は私大きな声で言えないんですけどスニーカー大好きで、大人の靴のデザインをどううまく生かすとか。
1番売れた靴がストームって言う靴なんですけど。ヨーロッパでトレンドを調べてきてデザインでトライしたもの。その後売れたのがチーターのやつ。
サンプリングとして運動会見てれば何が支持されるか傾向的にも全部わかっちゃうんで」
瞬足はぜんぶシャーッとしてるよなと思ったら、どうやら瞬足のシャーッとした感じは大人のスポーツシューズから来てるらしい。靴をモチーフに靴を作る、靴の無限増殖ははじまっているし、靴に支配される未来まで今一瞬見えた。
水色、ピンク、紫…女の子のデザインも独特。今や女性デザイナーが手がけるらしいが、昔はおっさんがああだこうだ言って作ってたそうだ。
リサーチのために運動会に毎年行く
――津端さん、運動会見てるんですか?
津端「私、実際運動会17年間ずっと同じ小学校撮影しているんですよ。元会長にはクレイジーと言われていました。続けて見てると変化がわかるし次こうなるかなって予測もできる」
なんと。津端さん靴だけ見に毎年運動会通ってるらしい。そういう名物社員だったのだ。
津端「なのでその傾向とトレンドネタとか合わせて、開発スタッフとやってきたのが瞬足のデザイン。
もちろんハズレもあります。男の子の靴にピンクやってみようっていって。黒ピンクというのをやったんですが全く売れなかった(笑)」
撮りためた写真とレポートを持ってきてくれた
この格好でいったため、完全に児童ポルノの押収物みたいになってしまった
そして名物スニーカーおじさんとなった
――運動会で撮っててもあやしまれないんですか?
津端「12年間はうちの上と下の子が通ってたんで大手振って撮れたんですけど、もうOBですね。もうみなさんスニーカー撮りに来たとわかってるんじゃないかと(笑)
望遠レンズで大人も子供も靴ばっかり撮って。みんな自分の子供しか見てないから全然撮りやすいです。ずっとフィルムで撮ってたんですけど去年デジカメで撮ってみたんです。デジカメってすぐ見られるから楽だなあって。当たり前ですよね。
あ、これが初めて運動会で履いてくれていた瞬足。1人だけです。履いてる子見るのに発売から1年かかったんですよ。でも電車の中でも1人履いてるのを見かけたらそれって売れ筋商品なんですよね。そこからはもう凄かったですよ」
この津端さんの話を聞いてて、あれだけのヒット商品の裏にはこういう危ないおじさんがいるのかと恐れ入った。1人の熱意が世間を動かす話はよくあるが、その熱意を視覚化したものがこの写真の山なのだ。
これは初めて運動会で瞬足を見たときのもの。感動したそうだ
瞬足がブランドになった
――瞬足はブランドと考えていいんですか?
津端「今やブランド化ですよね。今600万足売れてるんですけど、Nikeさんが日本で子供から大人までの靴でほぼ同じ数量です。それを子供靴ブランドでやっている。そこまでになるなんて全く誰も想像つかないですし」
――ナ、ナイキまるごとくらい売れてるんですか……
津端「うちは子供靴が得意で三十何年やってきて通学履きっていうのを刷新しないといけなくなったタイミングでいろいろやれたんですね。ネーミングも漢字にしちゃったりとか。その前は『ランドマスター』でした」
――これは通学履きっていうんですか?
津端「学校に履いていく靴。学校の上履きに対して、外に行く外履きみたいなだから若干校則みたいなものがあったりするんです。白じゃなきゃいけないとか」
真っ白とか真っ黒の瞬足は校則や地域のルールにしたがったもの
瞬足が売れたのは運動会、名前、カラーリングで
――瞬足が売れたのはどういう理由があったんですか?
津端「当時売れてる靴は速く走ることを全面的に押し出してたんですけど子供はピンと来てなかったんですよ。みんな陸上やっているわけではないし。
だからうちは運動会に限定しちゃった。運動会びりっけつの子が瞬足を履いたら転ばずに最短距離を走れて4番になったと。そういうコンセプトでやろうと。
『コーナーで差をつけろ』というキャッチなんですが、それに続くメッセージは靴が走るのではなくて走るのは君なんだよと言う事なんですよ。
でもそれで2年目くらいにファックスが来てね。うちの子がいつもびりっけつなんですけど瞬足っていう靴を履いたら4番になりましたっていうのがきたんですよ、ほんとにきたんですよ!」
――よかった! ほんとうによかった(泣)!
津端「そういうのをお母さんたちがブログとかSNSとかで書いてくれて。漢字の名前もものすごく引っかかったみたいで。それもこっちの思惑通りで。
カラーリングも当時通学履きの規制がらみで白ベースに黒とかあんまりかっこよくもない。
それがちょうど規制緩和になったときに白ベースじゃなくても真っ黒でもいいってなったときに黒に赤入れたりグラデーション入れたりとかっていうのガンガンやっていたんですよ」
今やスニーカーは縫製でなく熱圧着でも作ってることなど、知らないことが色々
世の中が一気にカジュアル化した
――通学履きの規制ってなんですか?
津端「規制はないようであったんですよ。地域によっていろいろあって。中四国は真っ白でなきゃいけないとか。瞬足も真っ白がアホみたいに売れます。
靴売り場ってカバン売り場と近くてね。まずランドセルがいきなりガンと規制緩和になっちゃったんですよ。黒と赤だけだったのがイオンさんがね50何色でやったんですね。
ユニクロさんがフリースのカラーリングっていっぱい出してたじゃないですか。あの時なんです。ぐわーって世の中がカジュアル化というかね、それがね2000年位かな。
私も20年位量販の営業やって売り場を見てきたので。その変化というのは靴よりも激しい。一気に変わりました」
あった、あった。ユニクロのフリースがいっぱい出たときだ。気に入った一色を家に持って帰ったときになんか寂しい気分になるやつだ。
最新V8モデルというソールはV8エンジンがモチーフ。V8エンジンまで知ってる小学生は少なそうだがはたして…
規制とは
――通学履きもきっちり変わったんですか?
「明文化されてるわけではないですけどね。学校販売っていうね、学校の周りの問屋や小売店からなんでこれを買わなきゃなんないのっていうものをみんな買わされていた。それが崩れたし。
私、営業時代タブーをぶちこわそうとして量販に学校販売で扱っているやつを安く出しちゃったんです。発注だし法律上は何も問題はない。
でもね、それで学校販売の組合から呼び出されて、ボコボコにされるのかなと思ったら……飲めや食えやの接待。結局引っ込めましたけど」
――接待成功だ(笑)
津端「それもやっぱり2001年とか。今はそういうのも崩れて学校指定の物もイオンでもどこでも売れますね」
あて字のネーミング
――前モデルを刷新するときに、運動会コンセプト、規制緩和後のデザイン、SNS向けにインパクトある漢字の名前、いろいろ変えて全部当たったんですね
津端「まぁ唯一言われたのがネーミングかな。子供靴メーカーがあて字の名前でいいんかいなって会社で言われて。
むしろ逆に今は『俊足』を『瞬足』と書いた新聞記事があったんですよね、ついこないだ。何か意図があって使ったのかなと思ったら全然そんな話じゃなく。間違えたんでしょうけど」
――今や新聞校閲をくぐりぬけるまでに…!
大人がコーナーに差をつけるようになった大人の瞬足シリーズ
運動会ってヘンだ
――考えてみれば運動会ってへんですよね。ビデオカメラがめちゃくちゃ売れたりとか
津端「運動会って全員が経験するスポーツの原体験なんですよね。みんな大好きだしなくならないし続くし全国でやっているし。右回りでやっているとこ一校もないですし。
でね、東日本大震災の後また運動会が盛り上がりましたね。家族の絆、自治体の絆を確かめあう機会が運動会。
その後に作ったのが『大人の瞬足』。結構売れたんです」
――おっ! 大人がコーナーを曲がることあんまりないですね
津端「そうですそうです運動会しかない。キャッチコピーも『あの時のリベンジを今』とか。大人の瞬足の逆にベビー靴もあります」
ベビー用の瞬足。頭にこびりついた左回りのコンセプトが赤ちゃんのイメージと戦って我々の中に違和感が生まれている
左右非対称はどこにいったのか
――大人はまだしも、赤ちゃんはもうつくづくコーナー曲がらないですよね
津端「いやもう左右非対称っていうのがやはり入りのメインコンセプトだったんですけど(トラックを周らない)サッカーもあるし。あと長距離用なんて言うのは左右対称です。徒競走用とか。だからもういろんな形があるんですね。
そうなると左右非対象も、まぁ確かに最初それで生まれましたけど、もうそれだけじゃなく広がっていってる。ダンスもあります。
――ダンスの瞬足!!
津端「ダンスが必修化したときにタイミングがうっかり合っちゃって日経トレンディの翌年のヒット番付に入ったんです。でも結局授業ってダンスしてないみたいですけどね。長靴もありますね。それも学校生活の一部なので」
――瞬足ってなんだろうってみんな迷わなかったんですか?
「今でこそある程度偉そうに言いますけどちょっと悩みましたよ。長靴出そうとした時に実はストップかけられまして。長靴はないだろうと。長靴で走るんかいなと言われちゃって。
結局その時はまだ3年目4年目なんでやっぱりやめましたね。ブランディングって言うのを冷静に考えたら時期尚早かなって。
2年目3年目の頃は元会長に『一過性なんだから、シューズはよーっ。次考えとけよ』なんて言われたんですが、2009年に600万いった時には『瞬足はブランドなんだから大事に育てなければだめだぞ』って」
――おやおやおや~?ですね
今やコーナーじゃなくて「ジャストフィットで、差をつけろ」も生まれてる
コーナーで差をつけない
――コーナーで差をつけないものが出てきた今、結局何が瞬足ということになってるんですか?
津端「基本的に設計思想はそこに並んでる商品全部一緒なんですよ。
うち、すごいのは子供靴作りをずっとやってきて何を大切にしてるかっていうと子供の足の成長に合わせて靴を作る、それが『サイズ別設計』って言う。それをどんな靴でも愚直にきっちりやる。
運動会で最初は何履いてるのが多いのかなあなんて見てたらちょっと子供の足のことが気になっちゃって。今ね、一番びっくりしたのは運動会で靴がすっぽ抜けちゃうんですよ。何故かと思ったら全然足にフィットしてないんです。
足の細い子が増えているんです。だから瞬足ももう上物の楽しさソールの面白さもそうなんけど、一番根底にあるのはサイズ別設計をずっと続けているところ。
履き口の位置は何パーセント踵からとかそういう資料見つけたときにやっぱりうちは過去の積み重ねの知見があって作ってると。
足の変化に気づいたらこちらも変えていかないといけない。それを今後もやっていかないとストップしちゃうので。それで今そういうことをずっと『足育』というシリーズでもやっているし瞬足でもやっていこうと」
――じゃあもうコーナーで差をつけるのはいいですか?
津端「それをきっかけとして手に取って履いてみたら実は空気のように足に馴染んで履き続けるっていうのが理想ですね」
津端さんが今力を入れてるのが子供の足の健康を考えた足育シリーズらしい。燃えてらっしゃった
600万足売れた残り香が我が家にやってきた
八尾の地場産業である歯ブラシ工場から地蔵盆のおさがりに流れたものが実家から送られてきた。
うちの娘が瞬足の歯ブラシを使っていたのはそれ以上の理由があった。
それは世の中がカジュアル化したタイミングで。SNSが台頭したタイミングで。量販店が力をつけ規制が緩和され運動会に力が集中したときに。
ださい通学履きがかっこいいカラーリングと漢字のネーミングと運動会仕様になり大ヒットした。そしてそのヒットはついに歯ブラシを発売するまでに及んだ。
しかし歯ブラシでも熱狂とまではいかなかった。だがそこまで来たのは間違いなかった。それがちょうど我が家の洗面所まで届いたのだ。
運動会撮りつづけてた名物おじさんの努力が我が家の洗面所にちょうど届いた話だった。
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話題の明日のアーで京都に行きます。原宿公演で評判(感想は
こちら)だったのでおもしろいのはおもしろいんですが、京都までちょこっとがんばってお越しください。
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