みかんの白いすじのうんちく
冬にこたつでぬくぬくとしながら食べるみかんはおいしい。小さい頃は15個ぐらい余裕で食べて、次の日にお腹が痛くなったものである。余裕は全然なかったようだ。
食べ過ぎて手が黄色くなりがちでおなじみのみかん。
むいた。すじが気になるな。
皮をむいて食べようとすると白いすじがある。これは「アルベド」というらしい。そこには食物繊維やビタミン、特にビタミンPが多く入っており、毛細血管の強化をされるので、しわやシミなどに効果があるという。そんな理屈は置いておいてみかんはおいしいから食べたほうがいい。
食べようと白いすじが気になって取ろうとすると、「白いすじに栄養あるのに取るの?」と言ってくる人がいるだろう。親戚に多い。そういうことを言われて、さも初めて聞きましたみたいな顔して「へーそうなんですか!」と言う人生はもう嫌だ。自由になりたい。全部、取ってしまいたい。そんな気持ちになったので身の回りにある道具を使い、取ってみることにした。
ガムテープで一気に取ろう
最初にガムテープを使ってみた。カーペットを掃除するときにガムテープを貼ってゴミを取ることがあるだろう。思いのほか取れてびっくりする。あの感覚で取れたらかなり気持ちいい。
ガムテープのある上にあるみかん(アルミ缶の上にあるみかんのダジャレオマージュ)
とりあえず巻いてみる。これで取れたらとてもいい気持ちで帰れる。
だいたいこれくらいだろうと思って巻いてみたら4分の1ほど足りないけど、四捨五入すると1周になるのでこれでよい。
ガムテープをはがしてみると少し取れたようだ。
みかん本体にはそんなに変化がない。
全然取ることができなかった。意外にすじがしっかりと張り付いているので、ガムテープの粘着力では取れない。この後、ボンドで固めてみようかなと思ったが、臭くて食べられないことが容易に想像できるのでやめた。
残ったみかんは「この木、まっすぐだな。」と思いながら食べました。
家にあった意味がわからない道具
次に試してみたのが、家にあった小さい熊手っぽい道具だ。
なんだか取れそうな気がするが、本当の使い方が全然わからない道具。
考えても全然わからなかった。台所で見つけたのだが料理でこんなの使うのを見たことがない。聞いたら「すり鉢のみぞとかに入ったものを取る道具」と言われた。なんだその限定的な使い方。
最初の状態。これからどれくらい取れるのか。
この作業は料理している気がしない。図工だ。
取れているかどうか、確認しながらすじに引っかかるように動かしていく。はけでニスを塗るのに近い。
傷つけないようにしながらも時に大胆にすじを取る。みかんを愛する気持ちで。
10分ぐらいだろうか。やって気づいたことがある。この道具、全然取れないなと。逆立ちするだけなのだ。
すじの力が思いのほか強くて全然取れず、大きなすじが逆立つだけである。
たまに取れるのだが、全部取ることができなかった。こんなに取れないものなのか。1週間前に地方のホテルを予約しようとしたときぐらい取れない。野宿だ。
見つけたときには「うってつけの道具を見つけた!」と思ったのも昔のことである。素直にすり鉢の溝に入ったゴマを取っていこう。
みかんはおいしく頂きました。
逆に手でやるのはどうだろう
原始的ではあるが、1番機能的かもしれない。色々な道具を使うよりも取れる可能性がある。みかんと人間の素手での戦いである。喧嘩だ!
おりゃ!取ったったぞ!
手でやると、すじを取りやすい。今までよりも器用に取れるのでとても良い。「取れる、取れるぞ!」と思いながら地元の公園で興奮していた。
そんな気持ちとは裏腹に地味にすじを取る。にやにやしながら。
手が1番取れるのではないかなと思いながら、地道にすじを取っていた。ただ、荷物を置いている場所では事件が起ころうとしていた。
目を放しているうちに犬がみかんを取ろうしていた。犬!
大きな声で「あっ!」と言ってしまった。そこでおじさんと目が合い、「すみませんね」と言いながら、犬を引っ張っていた。未遂だったが、今年も食べ物を取られる年になりそうだなと感じた。
犬に注意をしながら、なんとかきれいに取れた。ただ、完全には取れない。
手でやっても爪が引っかからないと取れないすじがある。完全に取ることは手でも難しいのか。
かなり取れるぞ!台所用スポンジ
しっかりとしたデコボコがあるスポンジ。
売れているので買った。ミーハーだから。
そんなに期待はしていなかったが、これが思いのほか取れた。
すじがとにかく落ちる!
今まで1番すじをきれいにできた。今まで取れなかった細かいすじも取ることができたのは、さすが売れすじ商品。白いすじが取れるのと売れすじの2冠。
強くこすり過ぎると薄皮も破れてしまう。
取れるのが面白いからと皿を洗うように強くこすると薄皮まで破れてしまう。薄皮があった状態ですじを取りたいので力加減を調整する必要があるのが難しいかもしれない。
もっと取ろうとして作業をしていたら、
みかんを食べたそうに犬がこちらを見ていた。
今度は違う犬がみかんを食べにやってきた。この公園の犬たちがみかんを狙っている。ちょっと値段が高めのみかんを買ったのだ。あげるわけにはいかないので、強い気持ちで帰ってもらった。
時間をかけてみたがこれが限界のようだ。
犬が去ってからもこすってみたが限界である。取れそうにない。細かい部分が届きにくいため、全てのすじを取ることができなかった。それでも今までよりは取れている。
取れた記念に撮った写真がとても良かった。
うまいな、何個食べてもみかんはうまい。冷えすぎて歯に染みるけど。
意外と取れたことに満足しながら、みかんを堪能していた。気持ちでここまでおいしくなるのかと思いつつ、口に入れたみかんは冬の風に吹かれて冷えており、歯に染みる。でも、おいしい。そんな気持ちで油断しきっていると、リベンジに燃えるあいつがやってきた。
ものすごい勢いで遠くから走ってきたみかんを欲しがる犬。
みかんが欲しいと言う強い意志を感じる。
私の膝に前足を乗せてみかんを奪おうとする犬。「だめだって!」と言っても離れてくれない。遠くにいる飼い主に「みかんってあげても大丈夫ですか!?」と聞くと、「すみませんね!大丈夫ですよー」と言ってくれたのであげた。満足したのか、膝から降りてくれた。かわいい犬の怖さを感じた。
そして、あまりにも寒すぎるので1度帰った。みかんを食べてビタミンを取っても予防できないほどの寒さだったから。
重曹の力を信じてみる
帰るときに「そういえば、重曹でみかんがきれいになるって聞いたことあるな」と思い、薬局で買った。果たして、すじを取ることができるのか。
生活感のある台所から失礼します。
水に重曹を6グラム入れて、沸騰するまで待つ。これで準備完了だ。
取り出せなくなると困るので網に入れてみる。
2分ほどでお湯に変化があった。透明だったお湯に色がついた。
お湯がオレンジ色になっている。
期待ができる変化だ。水で軽く洗ってみると、とてもすごい変化が起きた。
すじどころか、薄皮までなくなった。
全部なくなった。みかんの皮には水溶性食物繊維のペクチンが含まれており、このペクチンはアルカリ性のものに溶けるらしい。重曹がアルカリ性なのでこんな結果になった。
みかんを鍋からあげる時間を早くしても、全て溶けてしまいすじだけを除くことが難しいようである。それならば、細かく取ってみよう。
最終兵器、つまようじ
最後に使ってみたのがつまようじだ。実はこの前にピンセットを使ってみたのだが取りにくさがあった。そこでつまよじを使ってみたところ、細かいところまで取れる。しかし、時間がかかりそうだ。ここからは根気との勝負である。地道にやっていこう。
一気に取れることはできないが細かく取れる。
しかし、時間がかかりすぎる。明日、早く起きてやろう。
すじ取り職人の匠の技
いかんせん時間がかかってしまう。明日早く起きてやろう。この時23時である。5時くらいに起きよう。そう思い寝て、起きたのが翌朝の11時だったときには笑った。すじ取り職人の朝は遅い。
寝たこともあってか効率的な方法を思いついた。最初にスポンジである程度、すじを取り除いてからつまようじで細かく取るのだ。これなら早くできそう。
寝起きということが十分に伝わってくる。the寝起き。
まずは取りやすいすじをスポンジで取り除いていく。薄皮がやぶれないようにしながらも力強くなぞるようにするのがコツ。
黙々と作業をする。
お、だいぶ取れたな。
40分も経っていた。
こういう地味な作業はたまにやると楽しい。目の前にあるすじだけを見つめ、取り除いていく。そして、ある程度取れたら、つまようじで細かいすじを取っていく。集中しながら少しずつ気を張りつめながら少しずつ取っていくこの感覚、まるで写経をしているようだ。これも1時間近くやっていた。悟るかもしれない。
老けた。
1時間後、写真を取っていたら老けていた。若手すじ取り職人の江ノ島さんはこう言う。「すじ取りはとても集中力がいる作業なので、顔を見られると恥かしいくらい老けていることがあります。まぁ、これも修行のうちですから(笑)」笑いながら話すその顔は寝起きだし、老けていた。
「コツは破れることを恐れない強い心を持つことですかね。」
取れないすじはつまようじを回転させながらすじの下に入れると取れる。職人の技である。
ただ目の前のすじを取り続けて2時間。終わりがようやく見えてきた。
ついに完成すじ取りみかん
すじを取り除いた状態。干し柿と同じ色。
むく前のみかんと比べるとその違いがわかるだろう。
できた瞬間、「赤ちゃん、生まれましたよ」と言われたときの気持ちがわかった気がする。うれしいという言葉では表現できない。ぎゅっと抱きしめてあげたい。
光に当てるとその違いがわかる。左の方がとてもかわいい。
「おいしそう」よりも「かわいい」という感情が先に出てくる。あっ、かわいいじゃなかった。とてもかわいい。
こう見るとかぼちゃにも見える。角度によって違った表情を見せるところもかわいい。
味はみかんの薄皮が乾燥して新食感でした。ちょっとびっくりした。
2時間かかったすじ取りみかん。食べてみると、2時間、空気に触れ続けて乾燥をして、少しパリパリしていた。これはこれでおいしい。
あると邪魔だが、無いと寂しい
すじを取るとみかんらしさが失われる。あんなに邪魔だと思っていたのに。無いと寂しい気がする。いるとうるさいがいないと寂しい。親と子の関係に似ている。(なんだかいい感じのしめになって気分がいいので赤いコーラを飲みます。)
みかんを奪いに来た犬がお詫びに長い木の棒を持ってきてくれた。