特集 2016年11月21日

突撃!春雨入り茶碗蒸しの町の人々

色んなタイプの茶碗蒸し関係者に話を聞いてきた
色んなタイプの茶碗蒸し関係者に話を聞いてきた
今年の7月に鳥取県米子市とその周辺地域の、「春雨入り茶碗蒸し」文化についての記事を書いたのだが、その記事に触発された米子の人たちが、ある催しを企画しているらしい。

行ってみたら「先輩が春雨茶碗蒸しの歌をYouTubeにアップした」という若者に遭遇!

そして春雨入り茶碗蒸しを作ってる業者さんの調理場を見に行けることに!

立て続けに、茶碗蒸しに対して熱心(?)な人達に出会ったので、話を聞いてみた。
島根県生まれ。毛糸を自在に操れる人になりたい。地元に戻ったり上京したりを繰り返してるため、一体どこにいるのか分からないと言われることが多い。プログラマーっぽい仕事が本業。(動画インタビュー

前の記事:電子工作で動く心臓を作って浅漬けを揉む

> 個人サイト それにつけてもおやつはきのこ

業者に頼んで好みの茶碗蒸しを!

前回の茶碗蒸し取材から3か月が経ったころ、ある企画が決まったという連絡をもらった。

取材させてもらった米子ガイナックス界隈の方々の好みの茶碗蒸しを、業者に頼んで作ってもらってイベントで売ることになったそうだ。
好みの茶碗蒸しを業者に作ってもらって、売るらしい
好みの茶碗蒸しを業者に作ってもらって、売るらしい
記事でも触れてたのだが、地元の人に特殊なものだという認識はあまりなく、「ご当地グルメ」というところにまでも行ってない。

あくまで食卓に並ぶ普通のもの、として認識されている。
どうやら半数ぐらいには認識されてない
どうやら半数ぐらいには認識されてない
なので、「地元の人にこの文化は独特だということを認識させたい」 「ほかの地域にも広めたい」という目的でこの企画がされた。

販売が行われるイベントというのは、今年で6回目となる「米子映画事変」。メイン会場に設置された屋台に茶碗蒸しが並ぶ。
商店街の一角にメインステージがあり
商店街の一角にメインステージがあり
記事のパネルを出してもらってた
記事のパネルを出してもらってた
一緒に並べられてた「いただき」というのは、かなり狭い範囲の郷土料理らしく、私も初めて知った。とりあえず今回はこれは置いておこう。これも美味しかった!
一緒に並べられてた「いただき」というのは、かなり狭い範囲の郷土料理らしく、私も初めて知った。とりあえず今回はこれは置いておこう。これも美味しかった!
最近、東京から米子に移住された漫画家・ひぐちきみこさんのイラスト入りメッセージがぶら下がってた
最近、東京から米子に移住された漫画家・ひぐちきみこさんのイラスト入りメッセージがぶら下がってた
ところで「好みの茶碗蒸しを、業者に頼んで作ってもらう企画」って、いったいどういう風に注文するんだろう。

この辺りの人達は、茶碗蒸しの中の春雨の太さや長さについて、人それぞれこだわりがあるようだけど……。
!
今回の関係者の方々はそろって、春雨「太め」「多め」「長め」が好み。お陰で注文は円滑に進んだようだ。
その「太めで長めの春雨がたっぷり入った茶碗蒸し」がこちら
その「太めで長めの春雨がたっぷり入った茶碗蒸し」がこちら

突然現れた「はるさめいりちゃわんむしのうた」

イベント中、屋台でボランティアをしてた地元の高専の学生さんたちと話していたところ、突然思い出したかのように

「先輩が2年前に春雨入り茶碗蒸しの歌を自作して、YouTubeにアップしてたんですよ」とか言い出した。なにそれ!
突然気になる情報をくれた放送部の学生さん(動画の作者の後輩)たち
突然気になる情報をくれた放送部の学生さん(動画の作者の後輩)たち
歌を作ってネットにアップするなんて、そんなに手軽にできることでもない。そもそも何きっかけで? と聞くと、

「たぶん冬休みにヒマだったんだと思う」って、いやいや、いくらヒマだからって!

この話だけだとよく分からないので、ひとまず動画を見てみよう。
メトロノームのカチカチ音に合わせて、

ウィーラブはるさめちゃわんむし!
ユーラブはるさめちゃわんむし!
よなごのよなごの ちゃわんむしには春雨入り! (耳に残る)
よなごのよなごの ちゃわんむしには春雨入り! (耳に残る)
現場で周りの人たちに聞いてもらったら、覚えやすいからか結構好評だ。屋台で流せばいいのに。

けど、後輩の子たちによると「多分誰も見てないですよ」「地味に年1ぐらいでツイートしてるんですけど、誰も見ないです」って、もったいないな!
箸でー たべるー チョップスティックス♪
箸でー たべるー チョップスティックス♪
この後、作者である「岩ちゃん」さん(現在は建設業の22歳)に連絡を取ってもらえることになったので、簡単にインタビューさせてもらった。
どういうきっかけで作ったんですか? 暇だったからと聞きましたが……
暇だったからというのも間違いないんですが、平成25年度に「鳥取CMコンテスト」という鳥取県をPRするCMのコンテストがありまして、それに応募するために作った作品でした。
おお、ちゃんとしたきっかけが……!

なんで他の食べ物じゃなく春雨入り茶碗蒸しをえらんだんですか?
過去に高専の放送部が春雨入り茶碗蒸しを取り上げた作品を1つ作ってて、手に取りやすかったからです。

あと知名度が低いからこそ他のコンテスト作品とテーマが被らないだろうというのもあります。
確かにかぶらないですよね。

なんでラップにしたんですか?
楽器は何ひとつ演奏できないので、隣の吹奏楽部からメトロノームを借りてきてリズムにのって歌詞を歌うしかできなかったので。
そんな消去法みたいな方法でラップになったのか。ところで歌詞の中に気になるフレーズがある。
名刺2枚分の「1ハルサメーター」という単位
名刺2枚分の「1ハルサメーター」という単位
どうやらこれ、前回取材した「春雨茶碗蒸し愛好会」さんが、美味しく食べるために推奨している長さらしい。

お、おお……そんなものが! (聞いてない!)

推奨単位、というか愛好会さんの好みの単位がこれってことだろうか。それぞれみんなこだわりあるなー。
そして最後にヅラ取ったぞ
そして最後にヅラ取ったぞ

個人で調べるほどの熱意

さて、ここで今回の企画の発起人を紹介しよう。米子市の古書店「ギャラリー」の店主・縄さんだ。

記事に触発されて販売イベントを企画したほかには、あちこちの春雨入り茶碗蒸しを食べ歩いて、スーパーマーケットごとの傾向や地域ごとの価格差についての詳細レポートをまとめてプレゼンしたりもしたそうだ。

(プレゼンをしたのは9月に開催された「よなごどん」というポップカルチャーイベントで。小規模とのことだが、たまに開催されている。)
山陰で珍しい古書や漫画を探したいならここ「ギャラリー」さんへ!
山陰で珍しい古書や漫画を探したいならここ「ギャラリー」さんへ!
今後の展望や思いについて聞いてみると、

「全国に広めたい、知らしめたいという気分でやっております。」

「春雨原理主義者ですからね!」

「春雨が入ってない茶碗蒸しは不完全!」

「あれは春雨が一番おいしくなる食べ方です。」

と熱量があふれるあふれる!
これは汁気が多いとか
これは汁気が多いとか
これは栄養価が高いとか、そんな情報まで教えてもらう
これは栄養価が高いとか、そんな情報まで教えてもらう
そんな縄さんが「茶碗蒸しのパッケージに書いてあった住所が近かったから訪ねてみた」という方がこちら。

茶碗蒸しの出汁や具に対して凝り過ぎて「元が取れるかギリギリ……」という業者「米原製菓」の代表・米原さん。この方のお話も聞いてみよう。
お子さんとペアルック。今回の茶碗蒸しを作った米原製菓さんは名刺にもち屋とも書いてあった。一体なに屋なんだ
お子さんとペアルック。今回の茶碗蒸しを作った米原製菓さんは名刺にもち屋とも書いてあった。一体なに屋なんだ
スーパーに置いてある茶碗蒸しを作られてるってことでいいんですよね?
自分で茶碗蒸しを作ることができないスーパーに頼まれてます。米子の半分ぐらいのスーパー、あと境港にも卸してます。
なにかこだわりとかありますか?
うちほど手間暇かけて作ってるところはないんじゃないか……と思ってます。本当の鶏のガラから出汁を取って、あとはカツオ、昆布、にぼしからもうまみ成分を出すようにしてます。

鶏ガラも、市販のスープで作ってる業者がほとんどなんですよ。

コストも相当かけてるので、他のところにはマネできない。調べた訳ではないので自分で思ってるだけかもしれないですけど。食べて比較してみると深みが違うとは思ってます。
そんなにも……! 茶碗蒸しを作り始めてもう長いんですか?
15年ぐらいですかね。前に茶碗蒸しをやっておられた業者がやめられて、それで引き継いで欲しいという要望があって、うちの母親がやり始めました。そしたら凝り始めて。

その前まではおこわ関係を主流でやってました。
春雨入りが当たり前な地域だが、こういう全国的によく出回っているタイプの春雨ナシ茶碗蒸しも、もちろん普通に流通している。

しかもこういうタイプの方が安い。
こういうのはもちろんどこにでもある。けど、置いてあるコーナーは違う。このタイプのは豆腐コーナー。米原さんが作られてるようなものは、惣菜コーナーに置かれる。
こういうのはもちろんどこにでもある。けど、置いてあるコーナーは違う。このタイプのは豆腐コーナー。米原さんが作られてるようなものは、惣菜コーナーに置かれる。
米原さんが作っておられるような茶碗蒸しの方がどうしても少し高くなってしまうのは仕方ない。

にしても、こういう安いものが一緒に売られていると、売れ行きのほうはどうなんだろう?
安いのが一緒に売られていても、春雨が入ってるちょっと高めなほうが早くはけるみたいですね。午前中に行かないとなくなってることがある。
えー! 価格は関係なく、好かれてるんですね。

あとなんか、離乳食としてよく食べられてるというのも聞いたんですけど……(事前に小耳に挟んだ)
赤ちゃんにとって、やわらかい卵や出汁が入っているのが身体にもいいということで、具を抜いて食べさせるそうです。お母さん方が買われるのをよく見ます。
どうやら一般的には市販の茶碗蒸しを離乳食として食べさせるのはNGらしいが、これならOK。

あと気になることと言えば……
毎日どんなに大量の春雨を戻されてるのか気になります。一気に戻すんですよね?
1キロ袋の乾燥春雨を熱湯で戻して……、1キロで200個ぐらい茶碗蒸しができます。
あんまりイメージできない……。図々しいお願いなんですが、作ってるところを見に行ったりすることは……
いいですけど、朝早いですよ。朝の3時とか……
3時……!!? (それだと他に支障が……) せめて6時……とか……
そんな流れで米原さんの自宅の一角にある調理場へ行かせてもらえることになった。

調理場見学へ!

薄暗い中、「米原製菓」さんへ到着。気分的には、ちょっと工場見学っぽくて楽しみ。
!
しばらく米原さん自身は配達に出られたので、ひとまず従業員の方たちに

「3時から作業されてるんですねー」などと話しかけてたら

「いくらなんでもそれはない。せいぜい4時だ。」

と返される。も、盛ったのか、さては。
茶碗蒸しもおこわも出来立てで良い匂い
茶碗蒸しもおこわも出来立てで良い匂い
餅つき機も気になるが、動いてない
餅つき機も気になるが、動いてない
気になる機械はいっぱいあるが、それより今日は茶碗蒸しだ。蒸し器を見たい。

この調理場にあるのは、完全に茶碗蒸し専用のものらしい。

こういう専用蒸し器のほかに、茶碗蒸しだけでなく煮物や焼き物も出来るようなタイプの蒸し器もあるようだが、茶碗蒸しだけを作ってる業者はこのタイプを使う。
茶碗蒸し専用蒸し器なんてあったのか
茶碗蒸し専用蒸し器なんてあったのか
これ以外に、よく流通してるタイプの茶碗蒸し(上にも写真を載せた蓋がペリッとはがれる密封タイプの)を作るための専用せいろも存在するらしい。話を聞いてるうちに、そっちも気になってくる。

そして、見てみたかった大量の春雨! と思ったら、この日はいつもより少なめらしい。とは言え、このぐらいたっぷりあると、長さの調整もなんとなく難しそうに感じる。
ざくざくざく……
ざくざくざく……
最後に、出来立てのホカホカ茶碗蒸しをご馳走になった。

もうほんとなんというか、この出来立てのおいしさときたら……!!
出来立て! ホカホカ! 漂う出汁のにおいもたまらない!
出来立て! ホカホカ! 漂う出汁のにおいもたまらない!
お土産にも貰い、一時間かけて実家に持って帰る。母に渡し、「出来立てじゃなくなってしまう……!!」という思いから、「早く食べて!」とせかしたけども、出来立ての美味しさはどれほど伝わったんだろうか。

あーー、また出来立ての茶碗蒸しを食べたい。

イベントでの販売は、来年もやりたいらしい。今年ほんとは「愛好会」の方たちにも参加してもらって、種類を増やすということも考えてたが、都合によりかなわなかったようだ。確かに種類を選んでみたい。

あと、出来立てホヤホヤがイベントでも食べられれば……と思うが、それは贅沢な望みすぎるか。
空腹の状態で茶碗蒸し画像眺めてると、ちょっとキツイ
空腹の状態で茶碗蒸し画像眺めてると、ちょっとキツイ
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