今日の目玉企画です
いつもは事前に企画を決め、余裕をもって取材をし、前日までに原稿を入稿するという段取りのもと制作されているデイリーポータルZであるが、この日は趣向を変えて「その日に思いついたことをその日にやってその日に書いて載せる」という試みが行われた。
13時に編集部とライター十数名が集まり、まずは各々がやりたいことを話し合う。僕は3本のネタを持参したが、そのうち2本は社会的メッセージが強すぎてサイトのトンマナに合わないとの判断でボツになった。残ったのは「目玉が飛び出るように見えるメガネを作る」という、社会に何の影響も及ぼさない企画である。
つまり、こういうことである
だが弱った。正直いちばん不安なネタが採用されてしまった。僕は工作が苦手なのである。
しかし、今回は「時間がない」という大義名分がある。その中で失敗しても「まあ仕方ないよね」となるし、成功したらしたで「短時間でスゴイ! 天才」となる。どちらにせよ、うまみしかない。と、前向きなのか後ろ向きなのか分からない言い訳をしつつ、東急ハンズに素材を買いに行った。
どんなギミックで目玉を飛び出させようかとアレコレ悩んでいたら、編集部に戻るのがすっかり遅くなってしまった。買い出しを終え17時に帰還すると、僕以外のライター陣はとっくに取材・撮影を完了し、原稿執筆に入っていた。
みんなもう原稿書いてた。優秀!
一方の僕ときたら、これから工作に入る遅れっぷりである
工作、といってもこれといった小難しい仕掛けはない(というか、技量の問題でできない)。
(1)卵型の発泡スチロールに黒目を付けた「眼球」を作る。
(2)レンズを外した眼鏡のフレームにそれをセットする
(3)眼球部分にヒモをくくりつけ、後ろに引っ張るとその勢いで目玉が飛び出す
以上である。ともあれ、完成品をご覧いただこう。
ニョキ
ヒモを引くと眼球が飛び出す
まさに「目玉が飛び出るように見えるメガネ」である。それ以上でも、それ以下でもない。なのだが、ここで問題が発生する。確かに目玉は飛び出る。だがしかし……
「だからなんなんだ」
困ったことに、ここにきて自分のやっていることに疑問を抱いてしまったのだ。
考えてみたら本日お集まりのライターは半分が20代、平成生まれもいる。10近くも歳の離れた後輩たちに、「目玉が飛び出る」という昭和のユーモアを披露していいのだろうか? それは何らかのハラスメントではないのか。女性もいるのでセクハラかもしれない。
できた。できてしまった。できたからには、みんなに披露しなくてはならない
そんな不安を察してか、30代40代のライターたち、いわば“目玉飛び出る世代”が僕の周りに集まってきた。「おう完成したんか、見せてみろや」てなもんである。
OKわかった。そこまで言うならやろうじゃないか。飛び出させようじゃないか、目玉をな。
逃がさんぞ、みたいな圧を感じる。帰ろうとしてたのがバレたのか
爆笑の嵐
結論から言うと、「目玉が飛び出る」という古典的なお笑いはウケた。たいそうウケた。目玉が飛び出たその瞬間、IT企業の会議室はドリフさながらだったし、僕は志村だったし、遠くでそれを見つめる編集長の林さんはいかりやだった。
そして、きだて氏の爆笑を誘い
べつやく氏の腹筋を崩壊させた。前に飛び出つつ左右に離れる、というトリッキーな動きがツボにはまったようだ
いかりや、もとい林氏にも見てもらう。
はい、爆笑。
僕は目玉を飛び出させた。それで大人たちがゲラゲラ笑った。もう十分だ。これにて本稿を閉じよう。そして、しばらく旅に出よう。そう思った。しかし、IT時代のビジネスシーンは(ビジネスシーンなのか?)、そんなに甘っちょろいもんではなかったのだ。
みんなにも見せてみたまえ、と促される。才気あふれる平成ウェブライターの前で、昭和レトロなユーモアを披露するときがきたのだ
あれは小学生の頃、遠足のバスでコントをやりたいと言い出すほどに血気盛んな実行委員だった僕はしかし、当日になって急におじけづいてしまった。そんな僕に先生は言った。「あんなに練習してたじゃないか」
なぜだかそんなことを思い出した35歳の秋。あのときの僕は結局どうしたんだっけ? タイムスリップできるなら少年の僕に言いたい。おまえ、30年後も同じ状況だぞ。
まあそれはいい。くらえ若人たちよ
はい爆笑~
飛び出たのち、左右に離れるのがチャームポイント
恥ずかしい
恥ずかしくて全身が火照り、その後ひどい頭痛が襲ってきた。同業の後輩たちに腹を抱えて笑われているのだ。そら、体調もヘンになるわ。昼の企画会議では「赤いきつねにスライスチーズ入れるなら、揚げの下に隠しとくといいよ」なんて後輩の江ノ島君にアドバイスしていたのだが、それがレバレッジとなって恥を倍加させる。殺してください。
気を遣ってか、きだてさんもやってくれた。やさしい人です
まあ、ともあれウケたのだ。ぐったりと疲れたが、この恥ずかしさも含めて記事にしよう。今度こそ執筆に入ろうと思ったら、「最後にポートレートを撮ろう」と林さんが言い出した。僕は戸惑ったが「せっかくだから」と林さんは譲らない。
何がせっかくなのかはわからないが、この企画はもはや溺れかけている。ここはウェブマスターの船に乗るとしよう。
というわけで、撮影会がはじまりました
背景ぼかしでいい写真風。眼の3D感が際立つ
「いいカメラだなー、これ」
シャッターを押しながら、しきりに林さんは言う。そう、いいカメラなのだ。悪いことに、それが林さんのアーティスト魂に火を点けてしまう。撮影会はなかなか終わらなかった。
ニフティはおれにまかせろ
結果的にはよかったと思っています
思いついたときはイケる!と思っても、いざやってみるとあまりうまくいかなかったり、急に恥ずかしくなったりして我に返り、ボツにする企画というものがある。しかし、今回は「その日に思いついたことをその日にやってその日に書いて載せる」という趣旨ゆえ、後戻りはできない。わけのわからない勢いに任せたネタはしかし、大いにウケた。笑わせたではなく笑われたのかもしれないが、頭でこねくりまわした企画では、これほどの笑顔を咲かせることはできなかったかとも思うのだ。