とくべつ企画「スーツで行く絶景」 2016年9月21日

スーツで工場・普通になるかアー写になるか

スーツで工場夜景
スーツで工場夜景
以前知り合った鉄道趣味の方に、変わった人がいた。彼は強風などから駅なや線路を守る「鉄道林」の愛好者だった。

全国の鉄道林を巡って写真を撮っているのだが、その際には必ずスーツを着用するというのだ。「鉄道林と鉄道施設に対するリスペクトです」と言っていた。

一緒に北海道の鉄道林に行ったことがあるが、現地に着き撮影の段になったら、やおらスーツに着替えだした。びしっとスーツで鉄道林をシューティング。かっこいいんだか笑うところなんだかよく分からなかった。

「工場萌え」なんつって全国の工場を巡って写真を撮ってきたぼく。そろそろスーツで行ってみてもいいかもしれない。

※この記事はとくべつ企画「スーツで行く絶景」の1本です。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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「スーツで工場」企画への懸念

スーツで工場かー。

どこの工場に趣くべきか迷った末、よりスーツが映える絶景工場として奥多摩の石灰工場を選んだ。工場好きには言わずと知れた東京の至宝である。

創業1937年の老舗企業だ。スーツで訪問にふさわしい。訪問つっても中の方々にご挨拶するわけではなくただ近くまで行ってうっとり眺めるだけですが。
こういうちょうすてきな工場です
こういうちょうすてきな工場です
山肌にはりついたその繊細かつ大胆な姿には何度みてもうっとりする
山肌にはりついたその繊細かつ大胆な姿には何度みてもうっとりする
ただひとつ懸念していることがある。今回のこの「スーツで絶景」の企画は意外性を狙っているのだと思うが、工場にスーツって普通なのだ。

工場企業の広報の方などに案内していただいて工場の取材をさせていただくことがときどきあるが、その時の広報の方のいでたちはスーツだ。また、関係者向け工場視察などでもスーツ姿が多い。工場にスーツ、べつに意外じゃない。

おそらく本シリーズ企画で萩原さんはダムに行かれると予想するが、彼も同じような懸念をしているのではないかと思う。

しかし心配していてもしょうがない。とりあえず行ってみよう。スーツで。

せっかくなのでみんなで行こう

思えば奥多摩の工場を見に行くのは久しぶり。うきうきしちゃう。

そうだ、せっかくなので同好の士を誘おう。ぼくのスーツ姿の写真をだれかに撮っていただかなくてはならないのだし。
衝動的に同行者を募集した
衝動的に同行者を募集した
何人ぐらいの方々が来てくれるだろうか、とちょっと心配していたところ、20名ほどの参加者が名乗りを上げてくれた。遠く愛知からやってきた人も。さすが奥多摩の工場。人気だ。

で、これまた思いつきで「できればスーツで来てください」とお願いしたところ、なんとうち10名の方が趣旨に賛同してくださった。うれしい。ありがとうございます。
こうして奥多摩駅に降り立った「ザ・スーツ」のみなさん。
こうして奥多摩駅に降り立った「ザ・スーツ」のみなさん。
思わずポーズをつけたくなる
思わずポーズをつけたくなる
みなさんに来て頂いてよかった。この時点で早くもスーツの力に気がついたのだ。それは「スーツ姿の人が何人かいるとビシッと並ばせたくなる」ということだ。

組織の中での統制を目的とする「制服」としての存在意義を感じた。あるいは単に WORLD ORDER の影響かもしれんが。

組織で云々、といま言ったが、現在のぼくはフリーランス。会社を辞めて9年、以来スーツを着ていない。法事の時ぐらいだ。実はそれ以前のサラリーマン時代もスーツを着なかった。先輩や上司の方々によくお叱りを受けたものだ。

苦手なんだよね、スーツ。特にネクタイ。

スーツ苦手。

「スーツが苦手」って、尾崎豊的な苦い若さを感じる発言だが、単にぼくの貧弱なボディに似合わないということと、なにより昔から首まわりをすこしでも圧迫すると激しい頭痛に見舞われるという持病があるせいだ。

なので、ネクタイだけでなく斜めがけのバッグもダメ。いつもリュックサックだ。
そろそろネクタイと上着を、と準備をはじめたものの、ネクタイが結べないというおきまりのパターンが。あれ? 結べたはずなんだけどなー。
そろそろネクタイと上着を、と準備をはじめたものの、ネクタイが結べないというおきまりのパターンが。あれ? 結べたはずなんだけどなー。
おぼつかない手つきに見かねた参加者のお一人が結んでくれた。新婚夫婦か。
おぼつかない手つきに見かねた参加者のお一人が結んでくれた。新婚夫婦か。
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なんとかそれらしくなった。しかし靴がてきとうだ。しかるべき革靴を持っていなかったのです。
なんとかそれらしくなった。しかし靴がてきとうだ。しかるべき革靴を持っていなかったのです。
はやくも頭が痛くなってきたぞ。工場はまだか。
はやくも頭が痛くなってきたぞ。工場はまだか。
ようやく奥多摩駅到着。ホームの端っこからこのようにすでに工場が。
ようやく奥多摩駅到着。ホームの端っこからこのようにすでに工場が。
工場を目にして頭痛もやわらぎ、かつみなさんが撮ってくれるので、思わずポーズをとる。
工場を目にして頭痛もやわらぎ、かつみなさんが撮ってくれるので、思わずポーズをとる。

視察っぽい

そして駅前でさきほどの「ザ・スーツ」を、非スーツの撮影班の参加者に撮っていただき、
そして駅前でさきほどの「ザ・スーツ」を、非スーツの撮影班の参加者に撮っていただき、
工場に向かって歩きます
工場に向かって歩きます
以前は「工場ツアー」と銘打って、こうして参加者を募って工場を見に行っていた(もちろんスーツは着ていないが)。最近ご無沙汰だった。ひさしぶりにこうやってみんなで行くと、やっぱり楽しいなあ、と思う。

で、最初の鑑賞ポイント。橋の上からだ。ここから工場の全体像がよく見える。
秋の始まりと石灰工場。すてき。
秋の始まりと石灰工場。すてき。
今回はじめてこの工場を見たみんなが熱心に見始めた。スーツだとその姿がなんか視察っぽい。
視察か、あるいは修学旅行か。
視察か、あるいは修学旅行か。
これは完全になにかの取材仕事だ。なんだろう。自治体の広報職員とかかな。
これは完全になにかの取材仕事だ。なんだろう。自治体の広報職員とかかな。
スーツでの工場鑑賞、思ったよりおもしろい。スーツの力をあなどっていた。いいぞいいぞ。

この調子で工場に近寄ってみよう。
工場へ向かう道の途中に「立体Y字路」があった。そうか、ここにあったか。全然気がついてなかった。
工場へ向かう道の途中に「立体Y字路」があった。そうか、ここにあったか。全然気がついてなかった。
いよいよ工場の足もとへ! いつ見てもかっこいいなー!
いよいよ工場の足もとへ! いつ見てもかっこいいなー!
しばしみんなで観賞の時間
しばしみんなで観賞の時間

石灰工場の魅力は「斜め」

ぼくがいちばんかっこいいと思う工場は、セメント・石灰工場だ。1位タイは製鉄所の溶鉱炉。実は工場夜景の主役である製油所はそれほどぐっとこない。申し訳ない。誰に謝っているんだかよく分かりませんが。
すてき。ここは東京都。まさにコンクリートジャングル東京。
すてき。ここは東京都。まさにコンクリートジャングル東京。
セメント・石灰工場の最大の魅力は、造形が直感的である点だ。工場の写真を撮って発表するようになって以来、事業所やプラント設計などさまざまなプロの方々に構造物の説明をしていただいている。

しかし正直、製油所のあの複雑きわまりないパイプ群の機能については何度聞いても理解が追いつかない。ほんとうに申し訳ない。その点、セメント・石灰工場は「なるほど!」と納得することが多い。
行ったことない方は今週末にでも、ぜひ。
行ったことない方は今週末にでも、ぜひ。
これは、扱っているものがカタマリだったり粉状であるせいだ。
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つまり重力や摩擦などといった、日頃の日常生活でも実感することができる物理的な力の影響を受けるものを相手にしているということだ。

製油所が扱うものはオイルやガスなので、温度が変わると状態が変わって振るまいが変わる。密閉して圧力をかければ高さ数メートルぐらいはすぐにあがっていく。

しかし石灰だとそうはいかない。高いところに持ち上げるにはコンベアで運ばなければならない。見た目と機能の関係が直感的なのだ。

まるでエスカレーターのようで「ああ、なるほど上にがんばって運んでいるんだな」と理解できる。

ぼくがセメント工場の方のお話でもっとも印象に残っているのは「水平に移動させる際も、パイプは山なりに斜めになっている。そうしないと摩擦のせいでパイプ内に溜まってしまうから」というもの。なるほど!
この「斜め」にぐっとくるのだ。
この「斜め」にぐっとくるのだ。
結果として、製油所の見た目は「水平・垂直」が際だつが、セメント・石灰工場は「斜め」な印象だ。その「斜め」っぷりにぼくは惹かれる。

アー写だ!

おっと、いかん。スーツだ、スーツ。ついかっこよさに一同うっとりしてしまった。
どういう感じで「ザ・スーツ」を配置しましょうか、と会議がはじまる。
どういう感じで「ザ・スーツ」を配置しましょうか、と会議がはじまる。
まずはさっきと同じ、ずらっと並ぶ。真顔で。
まずはさっきと同じ、ずらっと並ぶ。真顔で。

スーツでもうひとつ気がついたのは、なぜか真顔になる、ということ。ふつうこうやって写真撮ると笑顔をつくるものだが、なんか真剣な面持ちになってしまう。

よく見たらぼくだけにやついてるけど。



それにしても、予想以上に「工場+スーツ」は良い感じだ。たぶんぼくひとりだけだったらこんなに良い感じにならなかっただろう。みなさんありがとう。

びしっと並ぶのもいいけど、あえてばらばらにしてみよう。
植田正治的な感じでお互い間隔をあけてばらばらに立ってみた。なんかいいぞ!
植田正治的な感じでお互い間隔をあけてばらばらに立ってみた。なんかいいぞ!
いいじゃないか! 工場とスーツがなせる技。面白くなってきた。

「なんかこういうアー写ありそうですよね」

という参加者の方の一言に対し

「そういえば俺、ギター持ってきてます」

という人が。

集合したときから「なんでこの人ギター持ってるんだろう」と疑問だった。きけば小道具としてわざわざ担いできてくれたとのこと。すばらしい!



よし、こうなったらアー写、撮ろう。
ギターの彼と、背が高くてかっこいいなあ、とさっきから気になっていた彼と(たぶんベーシスト)、ボーカルとして女性をひとり、せっかくなのでぼく(おそらくキーボード担当)も加入してポーズを探る。
ギターの彼と、背が高くてかっこいいなあ、とさっきから気になっていた彼と(たぶんベーシスト)、ボーカルとして女性をひとり、せっかくなのでぼく(おそらくキーボード担当)も加入してポーズを探る。
こうして撮れたのが下の写真だ。
うわー! それっぽい!
うわー! それっぽい!

「アー写だ!」「アー写ですね!」と盛りあがる一同。

思いのほかそれっぽく撮れてびっくりだ。

さらに

「『SWITCH』って入れたらいいんじゃないですか」

「バンド名は石灰石に因んで Limestones ですかね」

「『密着ライブレポ&インタビュー2万文字』とかも入れればいいんじゃない」

などと悪のりがはじまり、それらを盛り込んだ結果、次のようになった。
すごい既視感。
すごい既視感。
あまりのはまりっぷりにバンドを結成したくなった。「ギター持ってきてよかったっす!」とギターの彼も満足そうだった。
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やっぱり工場には「普通」が似合う

さて、現地に行く前懸念していた「工場でスーツって普通じゃないか?」はこうして集団化とアー写方面へ舵を切ることで回避されたわけだが、当初ぼくは「どうせ普通になっちゃうのならもっと普通にしてやろう」と思っていた。
ここでやおらヘルメットを装着
ここでやおらヘルメットを装着
今回参加してくれた友人に、マイ ヘルメットを持ってきてもらったのだ。現場によくいる「スーツ+ヘルメット」で完全に「普通」に見えるだろう、と。
ほら、普通! 「地図にのこる仕事」とかコピーが入りそう。
ほら、普通! 「地図にのこる仕事」とかコピーが入りそう。
より「普通」にするためのアイディアが議論された。
より「普通」にするためのアイディアが議論された。
「ひとりは上着を脱いで肩にかけて」「視線は上のほうね」など熱心に指導が入る。
「ひとりは上着を脱いで肩にかけて」「視線は上のほうね」など熱心に指導が入る。
ゼネコンの社内報にありそう。
ゼネコンの社内報にありそう。
「握手もいいんじゃないか」との演出も。
「握手もいいんじゃないか」との演出も。
アー写も良いが、やはりこういう堅実な感じが工場にはよく似合う。

上の写真など「開発共同事業に向けた相互協力で合意」とかキャプションがはいりそうだ。
夜景の時間を待って、最後の「ザ・スーツ」写真を一枚。
夜景の時間を待って、最後の「ザ・スーツ」写真を一枚。

久しぶりの工場ツアー楽しかった

思ったよりずっと面白かった。これも参加してくれた皆さんのおかげ。ありがとうございました。
案の定、帰りの電車では頭痛がひどく、打ち上げの開催もままならず、解散とあいなった。やっぱりスーツ苦手。
案の定、帰りの電車では頭痛がひどく、打ち上げの開催もままならず、解散とあいなった。やっぱりスーツ苦手。

またいっしょに工場行きましょう。こんどはラフな恰好で、打ち上げもやりましょう。

(写真と参加協力をいただいたみなさん: @masa_kun_1 @piro0827 @press_ysr @takahashrine @JUNICHIWATANABE @mitchell_ms3 @hato310000 @7716km @yokokoriko @t_abe_ @cooptanici @masayuki5070 @kirnura @tsuuu33 @t_takao380 @4sai5 ありがとうございました!)

【告知】山形で写真展開催中!

ヨーダの祝福のもと、山形で写真展をやってます。2016年9月2日(金)~2016年10月23日(日)
場所は「山形県白鷹町文化交流センターあゆーむ」。内容はもちろんあいかわらずの工場、ジャンクション、団地など。

2012年に行った写真展と同じくやたらでかいプリントです。展示予定作品は前回のこれらとだいたい同じ→工場ジャンクション団地

10月22日(土)には会場でトークイベントもやる予定。みなさん、ぜひ。

かなり本格的なギャラリースペースなので、大量の迫力ある写真展になっております。
見応えありますよー!
見応えありますよー!
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