行き先は阿蘇
スーツで旅をして絶景を楽しむ企画である。
絶景は熊本の阿蘇にした。
デイリーポータルZにもたまに投稿してくれる阿蘇カラクリ研究所(通称アソカラ)の福山さんから飲み会に誘われたのだ。東京のメイカーフェアのときに今度飲みましょうと話したら地元の飲み会に誘ってくれた。そういうのは必ず行く。
ただ、飲み会の場所が「板東さんち」と書いてあったのはやや不安があった。
南阿蘇村の板東さんち前に特設の屋台が出ていた
熊本地震の後、湧き水が出て家が水没しかけたが水路を作って水を逃して事なきを得たそうだ。
その水路では淡麗がみっちり冷やされていたり
ゴムボートが浮かべられて活用されていた。
熊本市内から南阿蘇村に向かう途中でも仮設住宅を見かけたのだが、「おんなじ形だから酔っぱらって帰ってくるとどれがうちかわからない」と地元の人が言っていた。
ニュースではあまり登場しないエピソードを聞いて嬉しくなった。
飲み会のメインディッシュであるスッポンをさばく板東さん
穏やかそうな表情だが、スッポンの生き血を飲んだ後なので口から血がたれている。
僕も飲んだ
東京から来てこういうの飲まないとなめられると思って飲んだのだが、口にしたのは板東さんと僕、あとは数人だけであった。そういうことある。
このときはまだスーツではない。
台風が近づいていたので普段着である。スーツで生き血を飲み干したらかっこよかったと思うのだが、血を垂らしたら一大事である。
ビシっと決めてカルデラを満喫する
翌日、アソカラ福山さんにカルデラを案内してもらった。僕は白いスーツ、福山さんはタキシードである。
カルデラと言えばカルストと並ぶ地理界の大スターだ。失礼のないようにしておきたい。
が、ものすごい曇天である
福山さんはこの企画の趣旨について「ようわからんのですが」と言っていたが、この曇天だと僕も一体何をしているのか不安になる。山で囲まれた田んぼの脇にスーツを着て立っている。
夢判断なら性への不安と診断されそうな状況である。
でも大丈夫、阿蘇の景色のいいところを事前にネットで調べておいたのだ。そこを福山さんに伝えるとすべて崩落したり通行止めで行けなかった。
なので阿蘇のもうひとつの絶景、アソカラに行くことにした。
阿蘇のもうひとつの絶景、アソカラ
福山さんの工場、阿蘇カラクリ研究所である。地元ではカラクリさんと呼ばれている。キテレツ斎みたいである。
ポーズをとるが前の日に飲みすぎて黒目がちになっている。
アソカラには福山さんが自作した音楽を聴く専用の小屋(通称
あの頃ボックス)があるのだ。曲にあわせてミラーボールが回って電飾が点滅する。
そこで撮った写真がこれである。
朝9時の写真とは思えない
帰りの飛行機の都合で朝8時から撮影していたのだ。
阿蘇の自然をまったく活かしてない写真だが、この写真が撮れるのはここしかないのでこれもまた阿蘇の絶景ということになる。
この部屋については北村ヂンさんも書いているので
そちらもお読みいただきたい。
壁のコントロールパネルで曲目を変えることができる
この部屋の電飾は機械式にこだわっている。固定したLEDを点滅させるのではなく、光をモーターで動かしたりしている。昭和のしかけである。
「むかしのレッツゴーヤングを見ていると、照明を回転させるモーターの音が入っているんですよ『カチ、ウイーン』という。それがたまらんですね」
とのこと。
その趣味はわからないけどそういうこだわりを持っている人は信頼できる。信頼できるのだがいったいどういう写真を撮ればいいのだろう。
どういう表情をしていいかわからない二人
照明を変えると壁に赤色巨星が出現
福山さんとべつやくさん
メロディにあわせてLEDが点滅してミラーボールがまわる。いちいち「ウイーン」というモーター音がするのがかっこいい。
言ったもの勝ちなのでメディアアートと言ったほうがいいと思う。
白いスーツで草刈機の上に乗る
アソカラには改造草刈り機もある。草刈り機の上にやぐらがついていて、電飾とスピーカーがついている。スピーカーからはメロディが流れる。
これだ
ふだんは近所の子どもを数人載せて走っているそうだ。
バブルが終わったことを信じないカルト集団が作った乗り物。
そんな比喩しか思いつかない。
作業場も見学させてもらった。きれいに整理されているが地震の影響でフライスが壊れてしまったそうだ。
どうするのかと思ったらフライスを自作していた。
数人しかこなかった飲み会の告知(ボードを載せている台がマネキンの足)
いい景色に白スーツだと合成っぽい
天気が回復して日もさしてきたので外輪山に向かった。
外輪山からカルデラを一望できる展望台があるのだ。展望台の名前は大観峰(だいかんぼう)。昭和の観光地を思わせる優雅な名前である。こここそ正装にふさわしい。
が、行ってみたら、曇り&強風。コンタクトレンズが飛びそう
曇っているだけではなく大粒の雨まで降ってきた。みやげもの屋で雨宿りをして、雨が止んだ一瞬に外に出て写真を撮った。
雲の切れ間から日が挿した瞬間に撮った
いまだ!いま撮っちゃおう!と慌ててポーズをきめて撮ったのだが、合成っぽさは否めない。
プリクラ阿蘇バージョンのようである。
座ることで合成っぽさを消した
阿蘇の絶景でスーツだなんておかしいと思っていたのだが、そんなに悪くない気がする。こういう旅行もありだと思えるようになってきた。実際、周囲の人もそんなに気にしてないようすだった。
たまに「ヒロシ?」という声が聞こえただけである。
ちなみに天気が良いときの大観峰の景色はこれである。
By mahlervv, CC BY 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=47840420
雨が降らないうちにいろんなポーズを撮っておこうとして、なんだかわからないポーズをとってしまった
わからないポーズ2 謎のコンビ感が出てきた
カルデラに広がるパッチワーク状の水田、夏の樹々はこんもりと茂って山が膨らんでいる。すべて緑色だがひとつひとつ違う緑色である。
白いスーツにまったく汗を吸わない赤いシャツで景色を堪能した。
おまけ・スーツで力持ち
東京に帰ってきてからアソカラから荷物が届いた。
曲げた鉄パイプである
飲み会で僕が話したジャストアイデアを作って送ってくれたのだ。
「もともと曲がっている鉄パイプを持って写真を撮れば、鉄パイプを曲げる力持ちに見えるのではないか。」
というアイデアである。再びスーツを着て持ってみた。
せっかくなのでアニメGIFにした
白いスーツで鉄パイプを曲げていると格闘ゲームみたいになってしまったが(ザコキャラ感あるー)、満足だ。
ありがとうアソカラ!
正装で旅行が一層特別なものに
景色の写真を撮ることはあってもあまり自分を入れることはしない。今回はスーツで行くという企画だったとはいえ、自分を入れた写真を何枚も撮った。
後から見返してもおもしろいし、阿蘇の景色を特別なものに感じる。それは観光地で気取ったポーズで記念写真を撮っていた昭和の気分である。
スーツを着るだけで、旅行や写真が特別だった時代の高揚感を感じられるのだ。こんなおもしろいことはない。