特集 2016年9月5日

ルールが複雑すぎるラグビーを初見で楽しむ方法

全く知らないスポーツを知らないまま見ても楽しめるのだろうか?
全く知らないスポーツを知らないまま見ても楽しめるのだろうか?
ラグビーのルールが難しいと評判だ。聞くところによると、やってる選手ですらそのルールを完璧には把握していないという。そんなスポーツが他にあるだろうか。

知らなくてもやれるくらいなのだから、知らないで観戦しても楽しめるのではないか?

あえて知識ゼロで観戦し、素人なりの視点でラグビーの魅力を感じてみたいと思う。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

ラグビーのルールは難しい

昨年のワールドカップにおける日本代表チームの活躍で、にわかに注目を集めたラグビー。しかし、そのルールをきちんと理解している人はそれほど多くなかろう。

当時は代表メンバーが頻繁にテレビ出演していたが、とある選手がルールについて「僕もよくわかってないっす」と発言していたのが印象深かった。たぶんそれは冗談だと思うが、代表クラスでもルールを把握しきれないとうそぶくほど、ややこしいものなのだろう。

今回はそんなラグビーを、あえてノー知識で見てみる。折しも先日から「トップリーグ」という日本最高峰の社会人リーグが開幕している。その第2節、「サントリーサンゴリアス」VS「Honda HEAT」の一戦に足を運んだ。
会場の売店にはルールブックが売られていた。ビギナーへの配慮がありがたい
会場の売店にはルールブックが売られていた。ビギナーへの配慮がありがたい
会場の売店にルールブックが売られている競技というのもなかなかないと思う。やはり、それだけ難しいのだろう。ビギナーでも楽しめるようにとの配慮である。

一応購入してみたが、今回はその配慮を無碍にしたい。一切の前知識を入れず、ありのままのラグビーを受け止めてみたい。でも、あとでルールブックでこっそり答え合わせしよう。
せっかくなので一番良いSS指定席を買った。ビギナーなのに申し訳ない
せっかくなので一番良いSS指定席を買った。ビギナーなのに申し訳ない
4500円のVIP席。周囲は関係者っぽい人や、いかにも玄人な感じのラグビーファン、さらにベンチ入りせずスタンドで見守る選手まで近くにいる、スタンドの中でも極めてラグビー濃度が高い空間だった。
スタンドで観戦する選手。背中がこんもりしていてかっこいい
スタンドで観戦する選手。背中がこんもりしていてかっこいい
試合開始前、会場のアナウンスでも簡単なルールの解説が行われていた。うむ、親切! だが、僕にとってはノーサンキューだ。耳をふさいでやり過ごし、キックオフを待つ。
試合開始前のウォーミングアップはけっこうハードで、ウォーミングアップの域を超えている感じがした
試合開始前のウォーミングアップはけっこうハードで、ウォーミングアップの域を超えている感じがした
聞き覚えのある名前の石原慎太郎選手。中学時代のあだ名は「都知事」だったとか
聞き覚えのある名前の石原慎太郎選手。中学時代のあだ名は「都知事」だったとか
ちなみに僕がラグビーについて知っていることといえば、

・相手のゴールラインの向こうにボールをタッチ(トライ)すると得点になる
・ボールを蹴ってゴールバーをいい感じに超えた場合も得点になる
・自分の立ち位置より後方にしかパスできない

くらいである。たぶんこのスタンドにいる誰よりもわかってない。本当に大丈夫なのか? ビギナーのくせに厚かましいが、せっかくなら4500円の元はとりたいぞ。
2本のポールが立っているラインの向こうにトライすると点が入る。それは知ってる
2本のポールが立っているラインの向こうにトライすると点が入る。それは知ってる

素人なりの楽しみ方① 筋肉と筋肉のぶつかり合い

結論から言うと、ルールを知らなくてもラグビーは楽しかった。何と言っても、その激しすぎる肉弾戦。激しいとは聞いていたが、バチンバチンと音を立てて、ゴリゴリに鍛え上げた肉の塊がぶつかり合う迫力は想像以上だ。そんなんしたら怪我する~、と目を覆いたくなるほどの激突シーンが、80分の試合時間中ずーっと続く。

ひとつのボールを全身全霊で奪いに行く。ワンプレーにかける気合たるや他のどんなスポーツよりも上だと思った。
筋肉や骨がぶつかり合う音が観客席まで聞こえてくる
筋肉や骨がぶつかり合う音が観客席まで聞こえてくる
怪我するかも、とか微塵も考えてなさそうなタックルの応酬
怪我するかも、とか微塵も考えてなさそうなタックルの応酬
芝の上でなければ、ただの乱闘シーンにしか見えない
芝の上でなければ、ただの乱闘シーンにしか見えない

素人なりの楽しみ方② 超人的な身体能力

かと思えば、屈強な筋肉の壁をスピードで抜け出しトライに持ち込むシーンがあったり、
虚を突いてスピードで出し抜くシーンはスタンドが一番盛り上がる
虚を突いてスピードで出し抜くシーンはスタンドが一番盛り上がる
ほかにもマッスルミュージカルみたいなアクロバティックなリフトがあったり、超人的な身体能力を駆使したショーとして見てもけっこう楽しい。
筋肉だらけのチアリーディング
筋肉だらけのチアリーディング
なお、50対0でサントリーが勝った。滝沢先生が泣いて激怒しそうな結果だが、トップリーグでもこういうスコアはわりとよくあるらしい
なお、50対0でサントリーが勝った。滝沢先生が泣いて激怒しそうな結果だが、トップリーグでもこういうスコアはわりとよくあるらしい
とはいえ、やはりルールはよくわからないところも多い。
なかでも、大きな疑問が2つある。
電光掲示板に解説が出るが、そもそもの用語を知らないレベルのビギナーなのでよくわからない
電光掲示板に解説が出るが、そもそもの用語を知らないレベルのビギナーなのでよくわからない
最初の疑問はキックオフ直後に訪れた。ボールを持った選手がいきなり相手陣地に大きく蹴り出し、相手ボールにしてしまうのだ。なんで? もったいない。
キックオフと同時にボールをサントリー陣内に向かって蹴り上げるHondaの選手。なんでいきなり相手にボールを渡しちゃうのか。勝つ気がないのか? 無気力相撲か?
キックオフと同時にボールをサントリー陣内に向かって蹴り上げるHondaの選手。なんでいきなり相手にボールを渡しちゃうのか。勝つ気がないのか? 無気力相撲か?
ルールブックを開けば答えは書いてあるだろう。だが、ここはあえて独自に解釈してみたい。これはきっとあれだ、マイボールを相手に献上し攻撃権を差し出すことで「フェアに行こうぜ」みたいな精神を表現しているのだと思う。ラグビー界における暗黙の了解みたいなことだろう。
ラグビーでは試合終了のことを「ノーサイド」というらしい。試合が終われば敵味方なく健闘を讃えあう、紳士のスポーツならではの文化である。
きっと、ルール上の義務ではないが、それを侵すと無視されたりするのだ、きっと。無視とかする時点でノーサイドもくそもないが。
かと思えば、わざとタッチラインの外に蹴り出したりと、わけがわからない
かと思えば、わざとタッチラインの外に蹴り出したりと、わけがわからない
また、個人的に最も謎だったのが反則の基準だ。タックルで相手をなぎ倒してもOKな一方、細かい反則が色々あるようで、わりと頻繁に笛が吹かれる。

素人には何が起こったのかまったくわからないが、周囲のファンの声に耳を傾けると、よくこんな言葉を発していた。これら全て反則らしい。

「ノッコン、ノッコン」(※1)
「ノットストレート」(※2)
「ダブルモーション」(※3)
「オフサイド」(※4)

ちなみに「ノッコン」はこのように使う。「ノッコンだけはやめてくれよ」(ファンの野次より)。どうやら、ノッコンはラガーマンにあるまじき行為らしい。
タックル。これは反則じゃない
タックル。これは反則じゃない
後ろから抱き着いても笛は吹かれない。でもノッコンは反則。どんだけ悪いんだノッコン
後ろから抱き着いても笛は吹かれない。でもノッコンは反則。どんだけ悪いんだノッコン
なお、反則などでプレーが中断したときは、このような押し合いへし合いから競技が再開される。
押し合いへし合いことスクラム
押し合いへし合いことスクラム
これは知ってる。「スクラム」というやつだろう
屈強VS屈強
屈強VS屈強
このスクラムにもなんか色々ルールがあるみたいで、サントリーを応援していた隣のおじさんは相手チームのスクラムの組み方がとにかく気にくわないみたいで、

「向こうが弱いからアングルになっちゃうんだよ。ちゃんと見ろ、平林このやろう」と審判に文句をつけていた。アングルが何なのかまったくもってよくわからないが、おじさん玄人っぽいのでたぶん審判が悪いのだろう。このやろう平林。


ちなみに、反則が起きるとスクラムの他にペナルティキックが与えられることもある。たぶん「ノッコン」どころじゃない悪質な反則、ぶん殴ったり、顔をふんづけたりしたらPKになるんじゃないかな。いや、そんなやつ退場か。
スクラム中に反則があったらしい。たぶんノッコンだろう
スクラム中に反則があったらしい。たぶんノッコンだろう

素人なりの楽しみ方③ 玄人に便乗して通ぶる

あとで調べたらタックルひとつにもルールがあり、たとえば肩より上にぶつかったらダメとか、タックルのときは相手をバインド(腕で抱え込むこと)しなきゃダメとか、危険を伴うからこそ、怪我のリスクを最小限に食い止めるルールが整備されているようだ。ラグビーのルールが細かいのは、選手を守るためのものでもあるのかもしれない。

それを全て覚えるのは大変なので、笛が鳴ったときは「あ、なんか反則なんだな」とざっくり解釈するくらいでいいと思う。もし通ぶりたいなら、どちらかが攻め込んでいるときはとりあえず「ノッコン、ノッコン」、スクラムのときは「モール、モール(※5)」と言っておけばなんとなくそれっぽい。なぜなら、隣のおっさんがそう言ってたから。
「ノッコン!」と「モール!」の併用でだいたいなんとかなる
「ノッコン!」と「モール!」の併用でだいたいなんとかなる

素人なりの楽しみ方④ 異世界の競技として見る

それか、もう無理に理解しようとせず、異世界の競技という設定で見るのもいいかもしれない。自分が生きている時空にはラグビーというスポーツ存在しないが、迷い込んだ不思議の国では超人気スポーツだった、みたいな設定だ。パラレルワールドで行われている、自分だけが知らないスポーツという体で観戦するのである。

自分でも何を言っているのかと思う。だが、まったく予期せぬところで盛り上がったり、ため息ついたりしている観客のリアクションを見ていると、けっこう本気でここはパラレルワールドなんじゃないかという気がしてくる。
身体の厚みが尋常じゃない族が棲む異世界
身体の厚みが尋常じゃない族が棲む異世界
あと、個人的に面白かったのはペナルティキックのとき
あと、個人的に面白かったのはペナルティキックのとき
味方がけっこう無関心なこと。ちゃんと見てあげて
味方がけっこう無関心なこと。ちゃんと見てあげて
ともあれ、ラグビーは楽しい。難しいけど面白い。

自分にはどう鍛えても到達できない超屈強な肉体を誇る超人たちが命がけでぶつかり合うのを見ているだけで痺れるし、色んなスポーツの要素が詰まっていて、見どころも多い。トップリーグのシーズンは始まったばかりなので、(ルールを知らなくても)ぜひ足を運ぶといいと思う。

答え合わせです

さて、素人なのをいいことに適当なことばかり書いてしまったので、一応ルールブックできちんと調べた正解も書いておこう。初心者でもこれだけ知っていれば、かなり楽しめると思います。

(※1)「ノッコン、ノッコン」…「ノックオン」のことで、ボールを前に落としてしまう反則

(※2)「ノットストレート」…スクラムやラインアウトでのボールの投げ入れがまっすぐに行われない反則

(※3)「ダブルモーション」…タッチラインからのスローイングを一連の動作で行わない反則

(※4)「オフサイド」…ボールを持っている選手より前にいる選手が攻撃に参加する反則

(※5)「モール」…ボールを保持した状態で行われる密集戦
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