大雨でも安全な場所でキノコ狩り
キノコを求めて向かった先は、ブナやマツの生い茂る山ではなく、どこにでもあるスーパーマーケット。
この日は台風の影響で大雨が降っていたが、屋内型施設ならキノコ狩りも安全かつ確実に楽しめる。
イオン、ヤオコー、ベルクと3軒をハシゴしてキノコを集めました。
天然のキノコには虫が混入するのは当たり前だし、素人の鑑定では毒キノコが混ざる危険もあるが、栽培されたキノコならその心配は無用。みんな大好き栽培キノコ。
これらのいつも食べている安全なキノコを観察し、その素性を調べて、より深く知ろうというのが今回の主題である。
知っているようで知らない栽培キノコの世界へようこそ。
以下の掲載順は、林野庁の森林・林業白書に掲載されていた「
きのこ類生産量の推移」の多い順をベースとした。
レア度とは生で食べられるかどうかではなく、3軒まわったうちで、全店にあれば★、2軒なら★★、1軒だけなら★★★。埼玉県東部での調査結果である。値段は税込。
エノキタケ
日本におけるキノコの生産量ナンバーワンはエノキタケ。菌床栽培法の原理を発明した森本彦三郎によって1928年に栽培が成功し、平成24年の生産量は13万トン以上。国民一人当たりが年間1キロ以上食べている計算だ。
畑で育った大豆の芽とモヤシの姿が違うように、光を当てずに栽培されたエノキタケと天然のものと全く違う姿をしている。我々が食べているのは、いわばエノキのモヤシなのだ。
サラダでもうまそうなヴィジュアルだが、生で食べると中毒をおこす場合があるので、必ず加熱して食べる必要がある。
菌床との接点(石突き)がついたまま販売されており、どこから切るかいつも迷う。
石突きを切り取った状態で計量しました。
■商品名:えのき茸
■本名:エノキタケ
■生産地:長野県
■購入金額:105円
■可食部分:155グラム
■100グラム当たりの金額:67.7円
■生食:不可
■レア度:★
エノキタケ(茶色)
エノキタケといえば白さの象徴ともいえるキノコだが、茶色いタイプも販売されていた。この商品は種菌が野生のエノキタケに近いため、色が茶色く、傘にはヌメリがあるのだとか。
美白が自慢だったエノキさんが、夏休み明けにすっかり日焼けしてイメージが変わっていた、みたいな話である。彼氏でもできたのだろうか。
見るからに味が濃そうだ。
味しめじならぬ、味えのき。
■商品名:味えのき
■本名:エノキタケ
■生産地:長野県
■購入金額:106円
■可食部分:109グラム
■100グラム当たりの金額:97.2円
■生食:不可
■レア度:★★★
ブナシメジ
シロタモギタケ属のブナシメジは、死んだ木に生える木材腐朽菌。以前はシメジと呼ばれていたが、「香りマツタケ味シメジ」でおなじみのシメジはシメジ属のシメジを指し、こちらは生きた木の根に宿る根生菌で栽培が難しい高級品であり、別の種類。
林野庁からの指導があり、現在は本名のブナシメジで呼ばれることがほとんどとなったが、今でもシメジといえばブナシメジが一般的。魚の世界ではタイの仲間でなくても〇〇タイと呼ばれる種が多々あるのに似ている。
根元部分のミニチュアみたいなキノコがかわいい。
ホンシメジとは別種のキノコです。
■商品名:ぶなしめじ
■本名:ブナジメジ
■生産地:長野県
■購入金額:84円
■可食部分:141グラム
■100グラム当たりの金額:59.6円
■生食:不可
■レア度:★
ブナシメジ(白)
このブナピーは、ブナシメジを品種改良した白いブナシメジであり、開発したホクトのオリジナル商品。キノコ業界にはキノコを白くしたがる傾向があるようだ。
黄色いスイカや緑のリンゴといった品種があるように、キノコの世界にも登録されたオリジナルの品種がたくさんあるようだ。詳しくは
農林水産省のきのこ類登録品種一覧をみよう。
ブナシメジと比べて色は真っ白だが、その形はほぼ同じようだ。
ブナピーのピーはプルンプルンのPだとか。
■商品名:ブナピー
■本名:ブナシメジ
■生産地:長野県
■購入金額:84円
■可食部分:135グラム
■100グラム当たりの金額:62.2円
■生食:不可
■レア度:★★
シイタケ
江戸時代のシイタケ栽培は胞子が原木に付着するかどうかは運任せだったが、1943年に森喜作の「くさび型木片にシイタケ菌を純粋培養した種駒による栽培」で人工栽培技術が確立された。生産量ではエノキタケに劣るが、生産額では今でも一位である。
同じキノコ売り場でも大きさや産地の違うものがいくつか売られていることが多く、買う時に悩んでしまうキノコである。今回はヴィジュアル重視でちょっといいものを購入。
生焼けで食べると全身に湿疹が出るシイタケ皮膚炎という病気になる場合があるそうだ。
よく見ればモサモサしてかわいい。傘の裏の密なヒダが特徴。
原木栽培と菌床栽培があり、表示の義務がある。
■商品名:生しいたけ(菌床)
■和名:シイタケ
■生産地:千葉県
■購入金額:170円
■可食部分:60グラム(軸を含む)
■100グラム当たりの金額:283.3円
■生食:不可
■レア度:★
マイタケ
いわゆるキノコらしくない形をした食用キノコ。スーパーなどではカットして売られているが、こういう形で生えている訳ではない。
1990年代に菌床栽培が普及し、どこでも買える安価なキノコとなったが、天然物は今でも高級キノコの代名詞的存在で、素人が探しに行くと迷子になる。
原木栽培されたものは天然物に近い味とされて、道の駅などで株のまま売られていると、ついつい買ってしまう。
脳の断面図みたいですね。
天麩羅で食べるのが一番好きです。
■商品名:雪国まいたけ 極
■本名:マイタケ
■生産地:新潟県
■購入金額:95円
■可食部分:114グラム
■100グラム当たりの金額:83.3円
■生食:不可
■レア度:★
シロマイタケ
なんとなく高級な感じのするキノコだが、値段の差は通常版とごくわずか。シロマイタケはマイタケと同属の菌で、天然物の採取は困難だが、栽培物ならスーパーを数件回れば買える可能性が高い。
普通のマイタケと栄養価はほとんど変わらないらしいが、煮汁が黒ずむことがないため、様々な用途で利用できる。ただしマイタケよりも少しもろい感じがある。
玄関先や床の間に飾りたい造形美。
色はきれいだが、少し崩れやすいかも。
■商品名:白まいたけ 雅
■本名:シロマイタケ
■生産地:新潟県
■購入金額:105円
■可食部分:105グラム
■100グラム当たりの金額:100.0円
■生食:不可
■レア度:★★★
エリンギ
エリンギはヒラタケの仲間で、イタリアやフランスを原産とする外国産キノコ。エリンギウム・パンペストレというセリ科の植物に生えるため、エリンギと命名された。
日本では1993年に人工栽培が始まり、軸が太く傘の小さなスタイルは日本で開発されたものであり、イタリアなどでは傘の開いたものが好まれているとか。
生で食べられるという情報もあるが、マイタケやエリンギは青酸化合物を含んでいるため、加熱した方が無難らしい。
味や香りにクセがないため、キノコ嫌いの子供でもこれだけは食べられるという場合もある。
いつのまにか日本の食卓に定着した外国産キノコ。
■商品名:エリンギ
■本名:エリンギ
■生産地:長野県
■購入金額:88円
■可食部分:112グラム
■100グラム当たりの金額:78.6円
■生食:不可
■レア度:★
ナメコ
バラでパック詰めにされたナメコ(足きりナメコ)も多いが、これは菌床栽培されたものをそのまま株とりしたもの。このタイプは菌床から外す手間はあるが、長い柄の歯ごたえが楽しめる。
旅行先でナメコそばやナメコおろしを頼んだとき、明らかにパック詰めや缶詰のナメコだとわかるものがでるとガッカリするので、せめてこのタイプを使ってほしい。
キノコ全般にいえることですが、特にナメコは洗うべきか迷いますよね。
ナメコも火を通して食べましょう。
■商品名:株とりなめこ
■本名:ナメコ
■生産地:新潟県
■購入金額:105円
■可食部分:181グラム
■100グラム当たりの金額:58.0円
■生食:不可
■レア度:★
ナメコ(大)
天然物に近い大型のナメコが売られていたので、喜んで買ってきた。個人的にはナメコは大きいほど嬉しく、道の駅などでさらに大きなタイプが売られていると小躍りしてしまう。
これで作ったナメコ汁を、山小屋で髭の生えたオヤジに出されたら、天然物だと信じてありがたがって食べること間違いなし。
菌床から外した状態で袋詰めされていた。存在感の割に値段は普通。
山形県の鳥海山麓で作られているそうです。もう少し高くてもよいような。
■商品名:鳥海なめこ
■本名:ナメコ
■生産地:山形県
■購入金額:213円
■可食部分:278グラム
■100グラム当たりの金額:76.6円
■生食:不可
■レア度:★★★
マッシュルーム(白)
マッシュルームはヨーロッパから導入されたハラタケ科のキノコで、和名はツクリタケ。英語でキノコ全般の事をマッシュルームと呼ぶこともある。ホワイト種、オフホワイト種、クリーム種、ブラウン種の4つに大別され、最近は大きく育ったものも見かけるようになった。
日本には明治の中頃に導入され、森本彦三郎が1922年に栽培を成功させて軌道に乗せた。このキノコだけは生でも食べられるとされており、そのままスライスしてサラダなどに利用される。
昔はナポリタンソースの缶詰などにスライスしたものが入っているくらいだったが、今では生のものが当たり前に流通している。
他のキノコに比べると、ちょっとだけ高級品。
■商品名:ホワイトマッシュルーム
■本名:マッシュルーム
■生産地:千葉県
■購入金額:213円
■可食部分:109グラム
■100グラム当たりの金額:195.4円
■生食:可
■レア度:★
マッシュルーム(茶)
こちらはブラウン種のマッシュルーム。ある生産者のサイトには、ホワイト種はまろやかで上品な柔らかい味、ブラウン種は香りがあって風味の濃い味と書かれていた。
傘の裏が黒くなっている場合があるが、これはマッシュルームが収穫後も成長するため、だんだんと傘が開いてヒダが黒くなっていくそうだ。
収穫してすぐのものは、このように傘が閉じている。
生で食べるならホワイト種のほうがいいかもしれない。どちらにせよ加熱した方が好きですが。
■商品名:ブラウンマッシュルーム
■本名:マッシュルーム
■生産地:千葉県
■購入金額:213円
■可食部分:104グラム
■100グラム当たりの金額:204.8円
■生食:可
■レア度:★★
ヒラタケ
ヒラタケ科ヒラタケ属であり、キシメジ科シメジ属とは遠い存在なのだが、かつてはシメジを名乗らされていたキノコであり、ブナシメジの台頭で勢力を弱めたという黒歴史がある。
この商品は日本産のヒラタケと西洋のヒラタケ属のキノコを交配したもの。天然物は毒キノコのツキヨタケと間違えてしまう場合があるので注意が必要。
ブナシメジよりは軸も傘も大きい。
傘に霜降り状のもようがあるため、霜降りひらたけとネーミングされた。
■商品名:霜降りひらたけ
■本名:ヒラタケ
■生産地:長野県
■購入金額:149円
■可食部分:123グラム
■100グラム当たりの金額:121.1円
■生食:不可
■レア度:★★
ホンシメジ
人工栽培が難しいとされていたホンシメジだが、数年前から店頭で見かけるようになった。生産しているのは焼酎メーカーのタカラの子会社であるタカラバイオ(株)。
栽培されたものとはいえ、シメジらしいでっぷりとした体型が素晴らしい。大黒様のお腹に見立てて大黒しめじとネーミングされたそうだ。ホンシメジまでも栽培が可能となり、キノコ狩りマニアは若干寂しい気持ちかもしれない。
スーパーで買える栽培キノコの中では、一番高級感のあるキノコかもしれない。
安いキノコに比べれば値段は3倍だが、なんたってホンシメジなのである。
■商品名:京丹波大黒本しめじ
■本名:ホンシメジ
■生産地:京都府
■購入金額:321円
■可食部分:105グラム
■100グラム当たりの金額:305.7円
■生食:不可
■レア度:★★
わかったこと
・栽培されたキノコは、だいたい100グラムで100円前後のものが多い。
・まだマツタケは出回っていなかった。
・ほとんどのキノコは生で食べられない。
・キノコ栽培の歴史には森本彦三郎さん、森喜作さんと、森の付く名の方々が深く関わっている。
・キノコの名前は「〇〇ダケ」ではなく、「〇〇タケ」が正解。
・どこの店もだいたい同じものが売られているが、たまにレアなキノコが混ざっている。
・同じ種類のキノコでも、品種の違いや栽培方法で、様々な色や大きさのものが売られている。
・野生種からクセのない栽培品種へと品種改良されたキノコ達だが、一部のエノキやナメコなどは野生種に近づける逆の動きが感じられた。
価格と珍度のグラフ
購入したキノコのグラム当たりの単価を横軸に、販売されている珍しさ(3軒での販売実績と研究者の経験から算出)を縦軸に並べたのが以下のグラフである。
グラムあたりの値段と販売レア度のサンプル図。
買ってきたキノコでも、たくさん集めるとキノコ狩りにいった気分にちょっとだけなるかも。
味や食感についての調査も大切なのだが、それは来年度の課題としたい。
キノコだらけのキノコ鍋が超うまかった。これは最高に贅沢した気分になれますよ。
今回購入した以外にも、ヤマブシタケ、タモギタケ、キクラゲなどのレアなキノコも以前見かけたこともあるので、販売されているキノコの種類はもっと多いのだろう。
また秋になったら道の駅などを回って、天然キノコを買い集めるというのも楽しそうだ。いやでもやっぱりキノコ狩りにいきたい。