「うなカマ」お取り寄せ
わたしの知るかぎり、売っているところを目にしたことはない「うなカマ」。丑の日に間に合うように、ネットで注文してみることにした。
「うな蒲ちゃん」シャレも効いている。が、一人前だと思っていたら、こんなに届いてしまった。さすがカマボコである。
食べきれない。ぜったいムリ。しかもわたしは何を隠そううなぎがあまり好きではないのだ。
いまさら何言ってんだという声も聞こえてきそうだが、いや、だからこそのカマボコなのである。
途方に暮れたあとに妙案浮かぶ
大量の「うなカマ」を前に一瞬途方に暮れたものの、妙案が浮かんだ。
そうだ、これを「うなぎ」として、みんなに振るまえばいいんじゃなかろうか。1人くらいは騙される人もいるというものだろう。
……とはいえ、期待に胸膨らました皆に袋だたきにあっても困るので、一応ホンモノのうなぎも少し用意することにしよう。ほかに便乗商品もあるのではないかと土用の丑の日、デパ地下に向かった。
さすがにうなぎだらけ。人気店は長蛇の列。しかし便乗商品は「うなカマ」も含め見当たらなかった
『本品は、うなぎの蒲焼ではありません』の文字。……ということは騙される人もいるということか。これは期待大。
名称:そうざい。やはり魚肉がメインになっているようだ。気になるのはイカ墨、こんにゃく粉。
急ではあったが友人らを招集してみた。
「うなぎを大量に仕入れたので振るまいたいと思います。よろしければお越しください」
これがまずかった。
「アソビがそんな大盤振る舞いをするはずがない」
と、皆が疑心暗鬼だったようだ。そうとは知らないわたしは、(カマボコだと)察しがついた人を黙らせるために、1人ずつ個別に食べてもらう計画を練っていた。
なんなんだこの面接式試食は。今にして思えば、皆が疑うのもムリはない。
なんとかホンモノを装うため、庭(実家)で採れた山椒の葉をアクセントに。
お箸で切るとすぐにバレそうなので、あらかじめ切り目をいれておく周到さ。こちら、一人前を個別に食してもらう。タレと山椒が決め手である。
ホンモノの静岡産うなぎを使ったちらし寿司。うなぎの他にはきゅうり、みょうが、しそを酢飯に混ぜる。「うなカマ」を皆が試食したあと怒りを治めるために食べてもらうつもり。
「はーい次、○○さんどうぞ~」完全に個人面接である
ほかメンバーは別室で待機していただき、1人ずつ呼び出す形式。思えばこれも怪しさ満載。つかもう怪しい以外の何ものでもない。
はなっから猜疑心を持った人々をどう丸め込めばいいのだ! もう誰もホンモノだとは思ってねえ! ぜんぶわたしのせいだが!
本当に面接のようになってしまい、席に着くときにやや緊張感がみえた。なんだろうと長考する人、四方八方観察する人、笑いが止まらない人、面接官であるわたしを凝視する人など千差万別だ。
なんだかんだ言いつつ、皆の口からでた「カマボコ」
・練り物っぽさがある
・うなぎっぽいけど……んー。
・昨日すき家で買って食べたうなぎとはちがうなあ…
・おいしいおいしい(すでにうなぎではないときづいたようだ)
・うなぎの……カマボコ?
結局、全員の口から1度は「カマボコ」という言葉がでた。
種明かしのあと、いろんな意見が出た
・これはこれでおいしい
・酒のつまみにいい
・タレがきいている
・食感も近いものがある
・がんばってるって感じ
そう、ヒトコトで言うなら、がんばっているのである。ものすごく。
わたしはタレも山椒も好きなので、充分味わえる。感嘆したのは刺さるほどではないけども、うっすら口に残る骨のような食感だ。
メーカーに問い合わせてみた
冒頭で書いたように、うなぎ絶滅が危惧される話題が目立つ昨今。いったいいつぐらいに発売されたものなのだろうか?
――発売日はいつですか?「2016年4月6日です」(今年だった!)
――原材料、魚肉とありますが具体的には?
「タラとアジになります」(ほぼカマボコと同じ!)
――舌に残る骨のようなものが気になったのですがアレの原材料はなんでしょうか?
「競合他社様も販売しておりますので、製法は社外秘になっております。申し訳ありません」
(こちらこそ申し訳ありません、当然でしたね……)
――ウナギ味のナマズの発売などがありますが、売り上げはいかがですか?
「今年発売ですので同月比較は出来ませんが、発売当初から比較しますと、若干ですが売上げは伸びております」
ウラにはきとんとウナギの皮まで類似してあり、はがして食することもできる。ホンモノと違わず、若干コラーゲン風の食感もあり。
ちらし寿司に「うなカマ」を混ぜればぜったい美味しいし本物と思われるはずだ、と必殺料理人の友人がいきなりはりきり出す。
タレも効いてるせいか、ホンモノのうなぎの時よりおいしいと評判だった。まったく違和感ない。うなぎだこれ! 最初からこうして振るまえば、皆をまんまと騙せていたのにー。グヌヌー。
形状はもちろん、味、食感、小骨、皮に至るまで、研究のあとがうかがえる。限りなくうなぎに近づけるその探究心があらゆる面で垣間みれて感動的でさえあった。
うなぎは好きだけど予算的にきびしい方や、匂いが苦手な方、また小さなお子さんのいるお宅では小骨がないという意味でもピッタリではないだろうか。
巻き寿司や和え物など、調理すればほぼうなぎと遜色ない。わたしは調理をせずにお出ししたことを過剰に大後悔しながら本日はこれにて終了させていただきます。ぐあーーーーーー。