特集 2016年8月4日

ロッキード事件のピーナッツみこし

40年前ロッキード事件の際に作られたピーナッツみこし。そのリメイクである。
40年前ロッキード事件の際に作られたピーナッツみこし。そのリメイクである。
先日ロッキード事件をテーマにしたドラマがやっていた。手元にあったDVDでそのときのニュース映像を確認すると、怒った市民が抗議のためにピーナッツのおみこしをかついでいた。

人は怒るとみこしを作ってしまうのか。怒りを暴力ではなくピーナッツみこしにしてしまうとはやけに平和的である。

実際にピーナッツみこしを作って、当時の人の怒りを追体験してみたい。
1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。(動画インタビュー)

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事件に対する市民の怒りがピーナッツに

ロッキード事件とは、全日空の航空機選定に際し政府関係者に多額の賄賂が使われたということが明らかになった汚職事件である。1976年、ということは今からちょうど40年前の事件だ。

数十億円規模の賄賂だったというから、市民の怒りもすごいだろう。

そんなロッキード事件が先日ドラマで取り上げられていた。それで事件のニュース映像が収録されたDVD(『NHK映像歌年鑑 そういえばあの時このうた 1976-1977』)を持っていたことを思い出して見返してみた。
かなり大きそうなピーナッツだな。(上記DVDより)
かなり大きそうなピーナッツだな。(上記DVDより)
みこしの足元には「ロッキード」「糾弾」「団結」と書かれている。(上記DVDより)
みこしの足元には「ロッキード」「糾弾」「団結」と書かれている。(上記DVDより)
この政治と関係する事件に怒った市民がデモをした際に、ピーナッツの形をしたおみこしをかついでいたのである。

ピーナッツは事件の際、領収書に書かれていた隠語で、100万円を「1ピーナッツ」と数えていた。

そういった理由はあるのでふざけているわけではないにしろ、怒りと楽しさが交錯している装いだ。

一体どんな気持ちでかついでいたんだろう。もしや彼らはデモと祭りの区別がついていないのか。いや、でも怒っていたんだろうな。

映像を見るだけでは感じられない激しい怒りとは一体どんなものか、実際に作ってみた。

40年ぶりのピーナッツみこしはできあがった

そして40年の時を超えて出来上がったのがこちらである。
つくった。じゃっかんの草間彌生感がある。
つくった。じゃっかんの草間彌生感がある。
DVDには事件に関連したみこしが3タイプ出ていたのだが、今回は上に掲載したシンプルピーナッツタイプを製作した。

他には「国会みこし」と、「割れて中から人形が出てくるピーナッツみこし」があった。当時オリジナルみこしを作ってデモに参加する人はけっこういたと思われる。
人間を足して3mはあろうか。そそり立つ姿はピーナッツにしては雄々しすぎる。
人間を足して3mはあろうか。そそり立つ姿はピーナッツにしては雄々しすぎる。
ただ作っただけではない。作るにあたって、発泡スチロールなど別の素材を使うことも検討したが、当時の人の怒りを当時のまま感じたいと思い、映像と同じように紙製の張り子にした。いったいなんの義務感であろうか。

結果、見た感じはかなりそっくりにできた。かつげは当時の人と同じ気持ちが湧き上がってくることだろう。
かついだまま進んでも大丈夫。
かついだまま進んでも大丈夫。
では、そのかついだ気持ちがどうだったか。その怒りは燃え上がるような熱を持っているのか。ただふざけてるだけじゃないか。

その話の前に、当時の人はどういう気持ちで作ったのかを振り返りたい。

ピーナッツみこしの作り方

ピーナッツみこしは一体どうやって作るのか。

事件が発覚し、さあデモに参加しようと思った市民も考えたことだろう。ぼくはピーナッツみこし作りを頼まれた一人の気持ちになってそれを再現する。

まず張り子のピーナッツを作るため、店で何時間も検討を重ねて材料を買ってきた。
これでみこしが作れるのか。
これでみこしが作れるのか。

材料はそろった。しかし張り子のピーナッツ
なんてそんなに簡単にできるのか。

できなかったら、すでに怒っているデモの参加者に「おまえ、できてないじゃないかよ!」と怒られそうだ。

「記憶にございません」ではすまないだろう。さっそく作業にとりかかる。
針金でフレームを作っていく。これが本当に立つのか。
針金でフレームを作っていく。これが本当に立つのか。

針金をだるま型に曲げて、立体的に配置する。作り方が悪いのか、そのままだとへにゃっと倒れてしまう。

まだ開始30分。こりゃ前途多難だな、ということが明らかになった。はじめにあった怒りは一気に不安へと変わる。
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その怒りを忘れるな

針金を曲げ、ガムテープで止めなんとか構造をつくることまでは成功した。

歴史とは違ってくるが、もうこれで完成にしたい気持ちでいっぱいである。(この先の作業のほうがもっと大変そうだから。)
リングのようなフレームを入れたら一応できた。
リングのようなフレームを入れたら一応できた。
この時点で満足度は高い。「消えたピーナッツ」というモチーフでデモに参加できないか。
この時点で満足度は高い。「消えたピーナッツ」というモチーフでデモに参加できないか。
だがここで終わらせることはできない。相手は巨額の不正を働いた政治家である。

日本の未来を正すために、このピーナッツみこしの完成は不可欠なのである!

……と思って作ってたんだろう、たぶん。
紙を張るのに接地面が増えるようガムテープでぐるぐる巻きにした。
紙を張るのに接地面が増えるようガムテープでぐるぐる巻きにした。

ここまでの作業で3時間以上かかっている。地味で語るべきこともない作業だ。作業に集中しているうちに、怒りもおさまってきている気がする。ピーナッツセラピーだ。

怒りがなくなればこれ以上作る必要はない。記録が残ってないだけで、途中で作るのを諦めたピーナッツみこしも山程あるのではないか。

とりあえず完成させるために、自分を「怒りでピーナッツみこしを作り始めた人」から「怒ってる人からピーナッツみこし作りを頼まれたまあまあ怒ってる人」という設定に変えることにした。

続いて濡れた和紙を貼るというこれまた地味な作業にうつる。
溶かしたノリを含ませた和紙を貼っていく
溶かしたノリを含ませた和紙を貼っていく
横では遅い時間まで会議している。お互いがんばろう。
横では遅い時間まで会議している。お互いがんばろう。

濡れた和紙は破れやすい。一枚一枚ゆっくりと貼っていくのだが、ゆっくりとやれば当然時間がかかる。そして立ったり座ったりで脚も痛くなってくる。地味でつらい。

そうした作業をしながら考えるのは、当時ピーナッツみこしを作っていた人にもふだんの生活があっただろうことだ。きっと仕事の後にでかいピーナッツを作るわけである。

よほど怒っていないと(もしくはよほど怒ってる人に頼まれないと)無理な行為だ。
乾くまで時間がかかるので、「捨てないでください」という内容の張り紙をしておく。展示っぽくなった。
乾くまで時間がかかるので、「捨てないでください」という内容の張り紙をしておく。展示っぽくなった。
がんばって作ったが、終電の時間までに完成することはなかった。明日終えられるかもわからない。それまで怒っていられるのか。

どんどん怒りを忘れていく

翌日も全ての仕事を横にやって、ピーナッツ作りの作業。

前日の作業の中で足りない材料がいくつもあると悟り、買い物をしていく。きっと40年前も、いきなり材料を全部そろえられたりはしなかっただろう。
歩きスマホが危ないと言われる昨今、2mの棒を持って歩くのも危険だと思った
歩きスマホが危ないと言われる昨今、2mの棒を持って歩くのも危険だと思った
次々と材料を買い足していくと費用も増していく。でもピーナッツみこしの完成には代えられない。

このときばかりは費用がどんどん増していくオリンピック計画に共感を覚えた。
一晩たってもまだ乾いてない。時間がないのでドライヤーを使う。
一晩たってもまだ乾いてない。時間がないのでドライヤーを使う。
これはテープを貼ったみこしのかつぎ棒。怒りを忘れるな、おれよ。
これはテープを貼ったみこしのかつぎ棒。怒りを忘れるな、おれよ。
ピーナッツみこしづくりは苦労の連続だ。材料は足りないし、工作もうまくいかない。

あまりの大変さについ怒りを忘れそうになるが、こんなことをやってるのもロッキード事件のせいだということで、むりやり怒っていきたい。角栄、コラ!
ノリが乾いたらいよいよ色を塗っていく
ノリが乾いたらいよいよ色を塗っていく
かなりピーナッツっぽくなった
かなりピーナッツっぽくなった

色を塗ったらだいぶ完成に近づいた。

ふつうの張り子であれば表面はなめらかにしないと失敗なところ、モチーフがピーナッツだったらこのように凸凹でもそれらしさが出る。

思えば構造を支える針金がかなりゆがんでいるが、それがかえってピーナッツの植物っぽさにつながっている。

40年前の製作者もきっとそう思っていたはず。「張り子のピーナッツあるある」である。
映像と同じように線をひいたら
映像と同じように線をひいたら
ピーナッツみこしの完成!
ピーナッツみこしの完成!
残すところかつぎ棒を取り付けるのみで、だいたいできた。

途中までリアル路線だったのに線を書いたらポップになってしまったのが悔しい。せめて1週間かけて作れたらクオリティは上がっただろうなあ。

などと出来上がりの満足感が勝って怒りはすっかりと消えてしまっている。もう「この調子だと明日はかつげそうだなあ」という期待感しかない。さっきはキツいこと言ってごめん、角栄。
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いよいよみこしをかつげる日

完成まで丸2日+αの時間が経っていた。怒りは瞬間的に爆発するものだと思っていたが、気長な怒りもあったものである。

いよいよみこしをかつぐ。
棒は取り外し可能な結束バンドで取り付ける
棒は取り外し可能な結束バンドで取り付ける
立った!
立った!
ついにピーナッツみこしが立ち上がった! そのとき製作者であるぼくが抱いた感情は「ロッキード事件に対する怒り」だったか?

いや、ちがう。「みこしを出来る限りていねいに扱って欲しい!」というみこしに対する親心だ。
わっしょい、わっしょい
わっしょい、わっしょい
心棒は入れたが大きく傾けると「ぐら~みしみし~」という不安な音がかすかにする(かすかなのがかえって不安なのだ)。

せっかく長い時間をかけたみこしを簡単に壊したくない。そして壊す前にしっかりとかついだ記憶を残したい。
進め! ピーナッツみこし!
進め! ピーナッツみこし!

ピーナッツみこしを担ぐと脚が勝手に進む。

政治家の賄賂は悪いことだと頭ではわかっていても、感情面では賄賂はもういいから練り歩こう!という気しか起きない。

この達成感にあらがうことはできないのだ。もはや祭りと政(まつりごと)の境目は見えない。
ロッキード糾弾せよ!
ロッキード糾弾せよ!
ロッキードがなんのその…
ロッキードがなんのその…
あっちがう! ピーナッツみこしだ!
あっちがう! ピーナッツみこしだ!
あなたはロッキード?
あなたはロッキード?
それともピーナッツ?
それともピーナッツ?
ピーナッツだよね
ピーナッツだよね
お地蔵様があったよ
お地蔵様があったよ
みんなが仲良く暮らせますように
みんなが仲良く暮らせますように
~ おしまい ~

怒りのバロメーターとしてのみこし

最近世の中に対して怒ってないなと思う。なにか事件があっても「事情が分かりきるまで感情的になるべきではないよ」と、ネットで情報を探ってるうちに怒りを忘れてしまうのだ。そしてまた日常に戻っていく。

果たしてそれでいいのだろうか。40年前の人は3、4日かけてみこしを作り、それでも怒っていたのである。いい面と悪い面があるだろうが、そうせねばならぬという情熱には見習うところがある。

怒るべきときは怒り、そしてみこしを作っていきたい。
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