まずは三本、お見せします!
パラパラ漫画は今、You Tubeで見ることができる。全部で7つあるけれど、まずはまとめて3つほどご覧いただきたい。それにしても、言ってみれば中学生の頃の落書きが今や世界に向けて発信できていることに、すごい世の中になったなとつくづく感じる。
見ての通り、内容は国民的アニメのパロディ。が、当時はバイオハザードというサバイバル・ホラーゲームが流行っていた影響もあって、基本的にグロでバイオレンス描写が多い。
とくにドラえもんは1・2・3・4・ファイナルとつづくが、シリーズを通してドラえもんとのび太が命の奪い合いを繰り広げる壮絶な展開になっている。
これだけなら中学生にありがちな落書きかもしれないが、なまじ画力が高かったため、同級生にはオリジナルの作画のように感じられてよりおもしろかった。
今はこうしてネット越しで簡単に見られるが、当時の漫画が描き込まれた教科書をふたたびこの目で拝みたい。「それなら名古屋の実家に置いてある」(※二人とも出身は大阪だけどシラは大学入学時に引っ越した)ということなので、私の帰国中に予定を合わせてともに名古屋へ向かった。
名古屋では、この取材と、味噌カツだけ食べて帰った。
友人の実家に行く、というイベントはかれこれ15年振り
この歳になると、友人の実家へ行くという状況はなかなか起こらない。しかも首から一眼レフカメラをぶら下げて。妙な緊張感を持ちつつ、目的地へ向かう。
この道をふたたび歩くことはもうないだろうなーたぶん。
左がシラです。
ガチャ
シラ 「帰ったで」
おばさん「おかえりー、あら水嶋くん」
私 「どうも、ご無沙汰してます」
おじさん「あ、おー!大きくなったなぁ」
予想外の反応に一瞬戸惑った、なぜならシラのおじさんとは初対面だからだ。しかしすぐに「ご無沙汰です!」と出た言葉は私が良くも悪くも大人になった証拠なのかもしれない。
そのまま二階の部屋に向かう。
シラ「あれ」
シラ「なんか勝手にレイアウトされてる…」
私 「自分でやったんちゃうん?」
シラ「引っ越したばかりやからこの家帰るの二回目でな、前回段ボールまみれやってん」
私 「じゃあ、家族の人らが自由にやった訳か」
段ボール箱を積んだままにされても困るが、「実家に帰ったら家族の手によって自分の部屋が演出されていた」という状況がちょっとおもしろい。
壁に貼られたアメコミなどのフィギュアの上下の位置が微妙に違うところとか、どういう意図があるのか気になってしょうがなかったが、主旨から逸れていくばかりなので聞かなかった。
私 「シラ、別にトイ・ストーリー好きちゃうやろ」
シラ「姉ちゃんの『イケてるやろ?』って気持ちが伝わってくる」
大人になるともてなされるお菓子も豪華になっていた。
日本史の人見先生、見てますか?
と、そうだ、実家訪問を楽しんでいる場合じゃない! 我々は、懐かしのパラパラ漫画を探しに来たのだ。
シラ「どこになにがあるか分からんからなー」
シラ「中学のアルバムでてきた!」私「うおー!」
私 「うはっ…」
私 「俺…腕組みとか、中途半端に意気がってるなぁ」
シラ「高校のノートめちゃ出てきた」
私 「なんで?」
シラ「落書きしとって保管してたわ」
私 「落書きしてたかが基準なの?」
「ヒトミガン」?
「ヒトミー!!」?
「人見ちゃん2002」?
「ヒトミ・メイ・クライ」?
私 「いや誰やねんこの人見って!」
シラ「当時の日本史の先生やな」
私 「まぁ想像ついてたけども」
サトウセンセイなんて一度出てくるだけなのに…。
私 「なんでこんなに人見先生ばっかなん?」
シラ「圧倒的に似顔絵を描きやすかってん。日本史の話もそうやけど、プライベートのこともいろいろと語ってくれたから、インスピレーションをよう受けててな」
私 「描いてるのほとんどパロディやんけ!」
ほんでもって人見先生これめっちゃ見てるし!
私 「いやこれ何か言われたやろ」
シラ「いや何もなかったで」
私 「二人の関係が謎やわ」
シラ「交流なかったしなぁ」
私 「よう描こう思ったな」
と思ったら突然ののび太とジャイアン。
それからシラの落書きは芸術系の大学に入って漫画に進化し、
少女漫画風北斗の拳、
アメコミ風ドラえもん、
再びアメコミ風ドラえもん、などを描いていた。
私 「こういうシラが描いたラフなタッチのやつって、中学のパラパラ漫画しか知らんからすごい新鮮やわ」
シラ「まぁ基本、ずっと絵描いてたからな」
で、寄り道しまくってやっと出てきたパラパラ漫画(という名の教科書)。
当時のパラパラ漫画に変な笑いが込み上げる
パラパラ漫画を描いていた教科書は、国語・社会・日本史の三種類。これらは厚み、サイズ感、紙の薄さ・柔らかさ、三つの要素がパラパラ漫画に最適だったそう。
パラ、パラパラ…
シラ「うへっ」
シラ「うへへっ」
私 「おふっ」
私 「おふふっ」
当時何度もめくっては見漁った内容だけど、懐かしさと良い意味でのくだらなさが入り混じり、変な声が漏れる。
そりゃYou Tubeで何度も見たけれど、やはり自分のペースでめくっていくことによるおもしろさっていうものがある。こればかりはたとえ電子書籍で見たって味わえない感覚だ。
パラパラ漫画を描く一方でちゃんとマーカーとか引いてる。
私 「一応授業は聞いとってんな」
シラ「聞いてたで!最低限ノートは取ってたわ」
全ての過去作品と、20年振りの新作を公開!
さてここで、冒頭で紹介した3作品を除く、過去の4作品すべてをご覧いただきたいと思います。
私 「で、どう?描けそう??新作」
シラ「せやな…まぁ頑張ってみるわ」
それから三ヶ月に渡って漫画家に対する編集者のごとくプッシュを繰り返し、いよいよ完成したものがこちらです。ひと通り、ドラえもんの旧シリーズを見ておいた方が楽しめるかも。
これが20年の空白の後に世に放たれた、新作!「ドラえもん2112」。
なぜかコールドスリープから目覚めるのび太。
謎のロボットに襲われるものの逆襲する。
その正体はなんと…そして第三勢力も現れて…。
大人になってから描いてみてどうだった?
私 「全体的にめっちゃ構図上手なってる!」
シラ「当時と違って多少なり知識は増えてるからな、まずは絵コンテに起こして描いてみてたわ」
こことかスタンリー・キューブリックの映画で見たことあるぞ。
私 「パラパラ漫画のための絵コンテとか意味分からんな…大人になった今描いてみて、感じた変化とかある?」
シラ「記事で顔出しするからには立場もあるので、無意味なバイオレンス描写は極力減らしたな」
私 「めっちゃ大人の事情やんけ」
確かに流血は1シーンのみ、当時からは考えられない。
シラ「それに、人に見せる前提となるとどうしてもハードルが上がるから、今回はすごいプレッシャーがあった。期日までに計画的につくろうとして、当時の勢いからは若干落ちてるかも」
私 「もう大人尽くしやな、本人的には楽しかった?」
シラ「うーん。あの頃はまず自己満足が先にあったから、自分でも次のシーンや最後のオチが予想できずに楽しんでやっていた。とは言え、ひさびさにのび太のあの表情やドラえもんを描いてるときは、自然と笑ってもうたけどな」
授業中はクリエイティブなことに集中しやすい時間
このあとにシラが話していた、「授業中ってクリエイティブなことに集中するには良い時間だと思う」という言葉が印象に残った。大人になった今、仕事を終えてからパラパラ漫画を描こうと思っても、まったく制作意欲が湧かなかったそうだ(それでいて今回のものをつくってくれたのだけど)。
それは中学生の頃でもきっと同じで、帰宅してからだと疲れて真剣にやっていなかっただろうし、授業中だからこそ取り組めていた…とのこと。お陰で学力は下がったが、それと引き換えに画力は上がり、結果として彼は現在、プロのイラストレーターとしてメシを食っている。
私は絵を描かないが、その経験はなんとなく分かる。授業もそうだし、単純作業をしているときに限って、頭はあさっての方向を走っていて、良いアイデアが思いつくことがよくある。目の前から逃避するという行動は、想像力がふくらむ絶好の機会なのかもしれない。教師からすると本当にやめてくれ、って感じだろうけど。
また20年経ったらお願いしようかな。
最後に、藤子プロならびにドラえもんのコンテンツ制作に関わるすべての皆様、ファン・アートということであたたかい目で見てもらえると幸いです。
シラ「5秒でドラえもん描けるで」 私「確かに5秒やけどコメントしづらいぞ」