特集 2016年7月23日

沖縄に日本有数のすっぽん養殖場があった

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沖縄ハム総合食品株式会社(通称:オキハム)の敷地内に、いつの間にか「すっぽん館」というレストランができていた。ハムの会社ですっぽんとはどういうことなのか。気になったので話を聞いてきた。
新潟出身。沖縄に来てそろそろ15年くらい経つのに泳げないため全然沖縄を満喫できていない気がする。最近の悩みは高血圧。

前の記事:コンビーフハッシュからマックのハッシュポテトをつくりたい


「すっぽん館」が気になる

沖縄本島を縦断する国道58号線を北上していくと、読谷村(よみたんそん)から恩納村(おんなそん)に向かう山道の途中あたりで見えてくる巨大な豚のオブジェ。
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観光客の方にはちょっとした記念撮影スポットにもなっていますが、ここはハムやソーセージ、タコライスの素やコンビーフハッシュ、琉球料理のレトルト食品など、さまざまな製品を製造している沖縄ハム総合食品株式会社、通称「オキハム」さんの会社と工場です。

そんなオキハムさんなのですが、少し前から気になっていることがあるのです。
すっぽん館
すっぽん館
レストランすっぽん館
レストランすっぽん館
……ハムの会社なのにすっぽん?

いったいどういうことなんでしょうか。というわけで、本日は読谷村のオキハムよりすっぽん館の謎に迫りたいと思います。

会長の思いつきで始まったすっぽん養殖

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こちらが取材に対応して頂いたオキハム水産部の野原さん。早速すっぽんについて話を聞いていきましょう。

――本日は宜しくお願いします。
早速なのですがオキハムさんってハムとかソーセージとかの印象が強いのですが、なぜすっぽんなんですか?


はい。弊社では2011年10月からすっぽんの養殖を手がけているんですよ。「すっぽん館」は、こちらで養殖したすっぽんを食べる事ができるレストランとなっています。

――すっぽんの養殖?また全然畑が違う気がするんですが、きっかけは何なんですか?

弊社の会長の思いつきですね(笑)。沖縄の河川には野生化したすっぽんが結構いますよね。あれを見てすっぽんもいけるんじゃないかと。
そいうえば以前のオオウナギを捕まえる記事でもうっかりすっぽんが釣れていました。
そいうえば以前のオオウナギを捕まえる記事でもうっかりすっぽんが釣れていました。
――あの川にいるすっぽんを捕まえて養殖しているってことですか?

いえ、すっぽんは世界中に数十種類いるとされているのですが、弊社で養殖しているのはニホンスッポンという種類ですね。料亭なんかで出てくる高級食材のあのすっぽんです。

戦後、日本本土のすっぽん養殖場が台湾・中国から稚ガメを輸入して沖縄で育てようとしたことがあったらしいんですが、台風で養殖場からすっぽんが逃げてしまったらしく、沖縄の河川に住み着いてるのはそれの末裔らしいのです。養殖場自体も外国産のすっぽんの品質があまり良くなかったらしく、閉鎖されたと聞いています。

――もともと野原さんはすっぽんの養殖の経験があったんですか?

僕はバイオ系の大学を出て、オキハムでは豚の発酵飼料などを開発する仕事をしていたんです。それがある日、会長が「バイオ系の大学を出たならすっぽんもいけるだろう」って言い出しまして(笑)。すっぽんの養殖なんてやったことないので、まずは全国のすっぽん養殖場を見学して回りましたね。でもだいたいは企業秘密なんでなかなか教えてくれないんです。見学自体を断られることもありました。1箇所だけ色々と教えてくれた養殖場があって、それをベースに養殖を始めたんですよ。

最初は1,000匹のニホンスッポンを手に入れて、そこから増やしていって今に至るという感じです。全滅も覚悟してたんですが、思いのほかうまくいきましたね。

工場の裏には養殖場が広がっていた

せっかくなので特別にすっぽんの養殖場を見せていただく事に。
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工場の裏手に行くと養殖の池が見えてきました。ここでざっくりとすっぽんの養殖の流れをご説明しましょう。
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この池は親ガメの池。池に近づく前は沢山のすっぽんが甲羅を干していたのですが、近づくに従ってみんな水中に。すっぽんはかなり警戒心が強い生きものなのだそうです。
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各池にあるこの小屋みたいなものが産卵小屋。5月から9月が産卵期だそうで、今がまさに産卵期。
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すっぽんは夜のうちにこの小屋で卵を産むので、産卵期の仕事は朝卵を掘り返すことなのだそうです。親ガメは多いときには一日に1,500個も卵を産むのだとか!
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こちらがすっぽんの孵化場。今は卵を数える作業をしている最中。
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このように産卵小屋で産みつけられた卵はひとつひとつ手作業で並べて、数をカウントするのだそうです。卵は一晩おくと有精卵か無精卵か分かるのだそうで、上の写真で白い丸が出ている卵が有精卵。卵には上下があってこの白い丸が上。卵を上下逆にしただけで卵は死んでしまって、すっぽんは孵化しないのだそうです。
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卵は海砂に埋めて、温水に浮かべておきます。卵の孵化までは約45日かかるのだそう。
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ここは孵化間近の卵たちのエリア。下には水が張られていて、
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生まれたての稚ガメたちが泳いでいます。
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生まれた稚ガメは暖かいハウスで冬を越して、
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出荷まで育てる池に放たれます。年に1度池の水を抜いて、出荷できるものは加工、成長の早いものは親ガメの池に。出荷に満たないものは再び池に戻されるのだそう。

では再び野原さんにすっぽんの養殖についてお話を伺いましょう。
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――現在すっぽんはどれくらいいるんですか?

このオキハムの敷地内に25,000匹、実は本部町(もとぶちょう)にも養殖場がありましてそちらに15,000匹ですね。これだけの数を養殖しているのは全国で見てもあまりなくて、全国有数の規模だと思います。

――確かすっぽんの養殖が始まったのが5年前ですよね?それで全国有数の規模になるってすごいですね!

そうですね。すっぽんは寒さに弱い生きものですぐ冬眠しちゃうんです。日本本土だと1年のうち水温の高い4ヶ月しか餌を食べずに6ヶ月くらいは冬眠してるので出荷可能なサイズになるのに3年はかかるんですよ。沖縄は温暖で年間通して気温の変化が少なく日照時間も長いので、すっぽんにとっては最も快適な環境といえると思います。ここで育てているすっぽんは約1年半で出荷できるサイズになるんですよ。
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――すっぽんの養殖でオキハムなりのこだわりはあるんでしょうか?

ひとつは池の砂ですね。すっぽんは自然下では砂泥に隠れてるので、一般的なすっぽん養殖場では池の中に川砂や泥を敷くのですが、それがすっぽんの泥臭さの原因になったりするんですよ。弊社の養殖場では沖縄という地理的な特性を活かして海にあるサンゴ砂を使っています。サンゴ砂は弱アルカリ姓の炭酸カルシウムなので餌の食べ残しや糞なんかで水が酸性になるのを防いでいます。

また、サンゴ砂にはカルシウムなどのミネラルが豊富なのですっぽんが健康に育つというメリットもありますね。餌にカルシウムを混ぜたりする養殖場もあるらしいですけど、うちはカルシウムを混ぜたりしなくてもカルシウム不足による病気になったりしたことがないですね。

あとは水ですね。川から水を引いたりすると寄生虫だったり病原菌が入ってしまうのですが、ここでは酸素を含まない地中深くの地下水を使用しています。この地下水はほぼ無菌の状態なので病気のリスクが低いんです。

――ほとんど情報がなかったんですが、実際聞いたら色々すごいですね…!こうやって養殖されたすっぽんですが、どのような製品になるんですか?
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ホテルや料亭に卸したり自社商品としてはソーキとすっぽんを煮込んだ「すっぽん汁」や「すっぽん鶏上湯スープ」などが販売されています。
すっぽん粉
すっぽん粉
解体済みすっぽん
解体済みすっぽん
他にもすっぽん粉を開発したり、気軽に調理してもらえるように解体済みのすっぽんを販売したりしているのですが、販路の開拓はこれからの課題ですね。

――なるほど。本日はありがとうございました!

すっぽん館に入ってみる

インタビューを終えて再びレストランすっぽん館の前に戻ってきました。
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せっかくなので最後はすっぽんを食べて締めたいと思います。
店内の様子
店内の様子
今はキャンペーン中らしい
今はキャンペーン中らしい
すっぽん鍋は値段的にさすがに手が出ないので、すっぽん汁を頼んでみました。
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やってきたのが上の写真です。
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汁の中身は大根や人参などの野菜とすっぽん肉、そして豚の軟骨ソーキ。トロトロに煮込まれたソーキとプルプルなスッポン肉。野菜にもよく出汁が染みこんでいてこれはうまい。ものすごくご飯が進みます。
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こちらはすっぽんの粉を使ったメンチカツの「すっぽんメンチカツ定食」。すっぽんの味はしませんでしたが、普通にうまかったです。他にもレストランにはすっぽんを使った「すっぽんそば」、すっぽんを使っていないメニューの「タコライス」や「スペシャルランチ」などもあります。

かなり本格的なすっぽん養殖事業だった

というわけで本日はオキハムさんより、すっぽん館とすっぽん養殖についてご紹介いたしました。取材に伺う前はわりとB級なニオイがしていたのですが、ふたを開けてみたらかなり本格的な事業だったのでちょっとびっくりしました。
ちなみにすっぽんに噛まれた時は速やかにすっぽんを水につけるといいらしいです。
ちなみにすっぽんに噛まれた時は速やかにすっぽんを水につけるといいらしいです。

会長の思いつきから始まったという話もすごいですが、たった5年で全国有数の規模になっちゃう話もすごいな、と思いました。そんなオキハムのすっぽんは県内では先ほど紹介したとおりオキハム敷地内にあるレストラン「すっぽん館」で食べることができますし、県外のかたはオキハムさんのネットショップでも商品が販売されているので気になる方は是非食べてみてください。

取材協力:オキハム: 沖縄ハム総合食品株式会社
沖縄県中頭郡読谷村座喜味2822-3
すっぽん館:年中無休 11:00~17:30
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