とくべつ企画:「上京して驚いたこと」を確かめる 2016年7月22日

広島のもやしはガス喰わしてないから細いのだ

細もやしの謎を解き明かしてきました。
細もやしの謎を解き明かしてきました。
広島のもやしは細い。あと、食感がなんかショリショリしてて優しい。
それ以外の地域のもやしは太くてポリッとしてる。
これはちゃんと地域性のある話で、広島・山口辺りと全国のそれ以外の地域ではっきりもやしの直径が違うらしい。

あと、それとは別ルートで「なんか変なパッケージのもやしがある」という話も入ってきた。
なんか要素多くなってきたぞ。これは実際に広島に確かめに行かないと。

※この記事はとくべつ企画、「『上京して驚いたこと』を確かめる」のなかの1本です。

読者の方からいただいた、上京して驚いたことの投稿をライターが現地へ行ってたしかめます。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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東京のもやしはでかい

広島から東京に引っ越された方の気付きが、こちらである。
もやしが太いこと。

引っ越してしばらくは、近所のスーパーで「なんでこんな高級げなもやししか売ってないんだろう?」と思っていました。

東京に住んで9年ですが、今のほうがもやし好きです。
太いほうが高級っぽいので。

みやも(広島→東京)さん
実は僕の父親が広島出身なので、言われてみれば幼少の里帰りの記憶になんとなく「細くてショリショリしたもやし」の記憶がある。
いつも食べてるもやしとはちょっと違う、歯に挟まりやすいもやしだ。

あともうひとつ、こちらは読者投稿ではなくて、当サイトWEBマスター林さんが去年の9月に取材先の広島からツイートしていたもの。
確かにツイートせずにはおれないオーラのあるもやし。
確かにツイートせずにはおれないオーラのあるもやし。
『広島ブラックマッペくん』と言うもやし。なるほど、もやしが細くて、かつ、パッケージがおかしい。
広島のもやし事情がなにか他地域と違うということは理解できた。

広島のもやし、確かに細い

ということで、広島に来てみた。
本来ならこういう記事っぽく、広島らしく路面電車の走ってる風景写真の一つでも挟みたいところだが、そんなものは撮影していない。
広島に着くなり、即座にもやしの市場調査である。
このもやしはどうだ?
このもやしはどうだ?
細い!
細い!
もやし売り場で一番大きく場所をとっていたもやし、確かに細い。
このスーパーでは3種類のもやしが売られていたが、細もやし2に対して太もやしが1。太もやしが売ってないわけではないが、あきらかに劣勢を強いられている。
あのパッケージは…!
あのパッケージは…!
さらに数軒のスーパーを回って、ついにあのパッケージの怪もやしも発見した。
密集してると、とにかく圧力がすごい。
いま、この棚から溢れ出したブラックマッペくんが「うまみOK」「うまみOK」「うまみOK…」と呟きながら人類への侵攻を始めたとしたら、おそらく僕にそれを止める力はない。
ホラー映画とかでまず最初にひどいやられ方で死ぬ人だ、僕。
こわいので、とにかく一袋だけ買ってホテルに帰った。
こわいので、とにかく一袋だけ買ってホテルに帰った。
ブラックマッペくんのおもしろ要素に押されてしまったが、今回はまず「広島のもやしは細いのか」という取材である。
とりあえず細いもやしがメインで売られているのは分かったが、では実際、どのぐらい他地域のもやしと違うのか。そこは確認する必要がある。
左が広島の細もやし、右が東京で普通に買ったもやし。違う。
左が広島の細もやし、右が東京で普通に買ったもやし。違う。
並べてみると、誰が見たってはっきり違う。
投稿者のみやもさんは、東京のもやしを「高級っぽい」と表現しておられたが、うん、そうかも。太い方が見た目、高級っぽい感じはする。
「ひ弱なもやしっ子」という表現が細もやしには似合うが、太い方はたぶんブルワーカーで鍛えた後の、モテモテになってる方だ。
細もやし、平均で直径3㎜ぐらい。
細もやし、平均で直径3㎜ぐらい。
東京のもやし、約4㎜といったところ。
東京のもやし、約4㎜といったところ。
太さを10本ずつぐらい測ってみたが、細もやし3㎜に対して太もやしが4㎜。直径差1㎜もあれば、そりゃ見てもはっきり分かるだろう。
広島のもやしは、他地域より1㎜細い。みんなも憶えておこう。

細もやし、どうやって作ってるのか

では、なんで広島のもやしは細いのか?そもそも細いもやしって普通と育て方が違うのか?あと、結局ブラックマッペくんってなんだ?

その辺の疑問を解決するべく、ブラックマッペくんを生産している広島県廿日市市の、広印農産加工株式会社にお邪魔してきた。
広島市内から車で1時間ほどにある、広印農産さんの佐伯工場。周囲は基本的にゴルフ場しかない山の中。
広島市内から車で1時間ほどにある、広印農産さんの佐伯工場。周囲は基本的にゴルフ場しかない山の中。
出迎えてくださったのは、広印農産加工の白石取締役部長と、広印農産の販売会社であるトレイド広協の川端専務だ。
左が白石さんで、右が川端さん。もやしを強く愛するお二人だ。
左が白石さんで、右が川端さん。もやしを強く愛するお二人だ。
ここからもやしの工場を見せていただくのだが、ごめん、まずその前に、川端さんの白衣の胸元に注目していただきたい。
社内にも数着しかないという、もやし白衣。
社内にも数着しかないという、もやし白衣。
もやし刺繍の入った白衣。これ、すごいかわいくないか。
というか、なんか細いもやしを調べるだけのつもりだったこの取材、いちいち違う要素が入ってくるので大変だ。
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潜入、もやし工場

先ほど「もやし工場」と書いたが、間違いではない。
もやしは農場ではなく工場で作られているのだ。
こんな感じ。どう見ても工場だ。
こんな感じ。どう見ても工場だ。
クリーンキャップをかぶり、エアシャワーで衣服に付いた埃を払って…と徹底したクリーンアップの後に入れてもらったのは、機械がガウンガウンとすごい音を立てて動いている工場だった。

あと、工場内に入った瞬間から「もやしの袋を開けた瞬間の、あのもやしの匂い」がすごい。
ここがもやし原料庫。
ここがもやし原料庫。
で、まずはいったん工場を通り過ぎて、もやしの種を保管しているところへ。
もやしには基本的に3種類の種…というか豆があって、それがここに揃えられている。
これがもやしの原料豆。左から緑豆・大豆・黒豆(ブラックマッペ)。
これがもやしの原料豆。左から緑豆・大豆・黒豆(ブラックマッペ)。
そういえば、スーパーなどで細もやしとして売られていたのは黒豆、ブラックマッペばかりだった。
つまり、ブラックマッペもやし=細もやしということなのか。

白石「いや、そうじゃないです。ブラックマッペでも太いもやしは作れます」

太もやしはガス喰わせて作る

あれ、どういうことなんだ。

白石「育て方が違うだけで、豆の段階では太い細いは関係ないんです。何もせずにそのまま育てたら、ぜんぶ細もやしになるんですよ」
もやしの作り方。まずはバスタブみたいなコンテナに豆をザラーッ!
もやしの作り方。まずはバスタブみたいなコンテナに豆をザラーッ!
マジかー!
最初から「細もやしになる豆があるんだ」と思い込んで取材に臨んでいたので、完全に足元が揺らいでしまった。
じゃあ、逆に太もやしはどうやって作っているのか。
そのままコンテナごと、もやしを育てる栽培室へ。
そのままコンテナごと、もやしを育てる栽培室へ。
白石「もやしは豆の段階から出荷するまでにだいたい7日間育成するんですが、太いもやしを作る時は、その途中で部屋の中にエチレンガスを充満させるんです」

ガス!

白石「エチレンガスというのは、植物の成長を阻害して成熟を促すんですね。なので、もやしにガスを喰わせると縦に成長しなくなって、その分横に太るです」

まさか、太もやしが、わざわざそんな方法で作られていたとは。
そしてなにより「ガスを喰わせる」という表現がかっこよくてシビれた。
そうか、東京のもやしはガス喰わせてたのかー!
栽培室の中は、ゲリラ豪雨みたいな勢いで水をザバザバとまく。ここはエチレンガス無し。
栽培室の中は、ゲリラ豪雨みたいな勢いで水をザバザバとまく。ここはエチレンガス無し。
1960年ごろのもやし屋さんは、冬場にもやし栽培場を温めるため、おが屑を燃やすストーブを使っていた。
で、そのストーブが不完全燃焼をして栽培場に煙(エチレンが含まれてる)が漏れた時のもやしが妙に太い、ということに誰かが気がついたのだ。
この話が全国的に広がって、太もやし作りが始まったということらしい。へー。
さて、豆から7日目の栽培室。なんかとんでもないことになってないか。
さて、豆から7日目の栽培室。なんかとんでもないことになってないか。
ガス喰わすという表現にビリビリきてる間に、もやし栽培室がとんでもないことになっていた。

白石「これは細もやしですが、7日でコンテナいっぱい…だいたい1tのもやしが育ちます」

なんというか、もやしみたいなチマチマしたものがtという単位で表現されているのがピンとこない。
現物、コンテナ山盛りになっているのを見てもあまり現実感がないのだ。もやし1tて、あんた。

もやし工場かっこいい

で、栽培室から再び工場に戻って来た。
7日間育てたもやしを、ここから一気に出荷していくのだという。
さっきのコンテナが工場の上に運ばれている。
さっきのコンテナが工場の上に運ばれている。
怒濤のもやしビッグウェーブ。なるほど1tあるわ、これ。
怒濤のもやしビッグウェーブ。なるほど1tあるわ、これ。
まず、コンテナを開けると中からもやしがドバアッと溢れてくる。もやしの爆発だ。
まさかこんな感じになっていたとは。ちょっと想定以上の迫力だ。
もやし波、ラインで流されていく図。
もやし波、ラインで流されていく図。
あとは、ベルトコンベアで運ばれながら、洗浄・根切りと進んでいく。
そら、これだけの量のもやしが溢れていたら、工場中がもやしの袋の中みたいな匂いもするだろう。
シュパッ、シュパッとラインから淀みなく出荷されていくもやし。
シュパッ、シュパッとラインから淀みなく出荷されていくもやし。
根切りまで終わったもやしは、そのままの流れで機械で袋詰めにされて、あとは出荷されていくというのが、一連の流れである。

もやしコンテナから袋詰めにされるまでが非常にシステマチックかつスムーズで、かっこいい。これだけでずっと見ていられる系のやつだ。
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なんで広島は細もやしなのか

そういえば、全国的に太もやしが広まったにもかかわらず、なぜ広島のもやしだけ細いままだったんだろう。
袋詰め後、広島市内に出荷されていく細もやしたち。
袋詰め後、広島市内に出荷されていく細もやしたち。
川端「うーん…広島のお好み焼きはもやしが欠かせないんですが、それは細もやしがいいんです。太もやしは水分が多いせいで、お好み焼きがべしょっとするし。それで、広島では細もやしが好まれているんだと思います」

白石「あと、エチレンガスを喰わせたもやしはちょっと風味が落ちるんです。細もやしはもやし本来の味が強いから、広島お好みに合うんです」

おお、まさかの広島お好み焼きが理由だったとは。
白石さんは学生時代は東京におられたそうだが、やはり「細もやしが無い!」と驚かれたそうだ。
広島もやしの上京あるある、やはり正しかった。

白石「細もやしは味が濃いので、茹でてシンプルに塩こしょう、あとごま油ちょっとたらして食べるのが美味いですよ。というか僕はそれが好きです」

それ知ってる。もやしいくらでも食べられるやつだ。
出荷用コンテナの中にあいつが!
出荷用コンテナの中にあいつが!
…と、もやし美味い食べ方トークをしていた時に、目の端に例のあれを見つけてしまった。
ヤツだ。ブラックマッペくんだ。

「太もやしはガス喰わす」とか「広島お好みのために細もやし」といった新情報の興奮で忘れていたが、ついでにこれの秘密も解き明かさねば。

解明!ブラックマッペくん

とにかくインパクトが強いこのパッケージ。謎のキャラクター、ブラックマッペくん。
なんでこんなパッケージにしてしまったのか?

川端「いやー、もやしのキャラクターを作ろうと色んなデザイナーさんに頼んだんですが、どれもしっくりこなくて」

ほうほう。

川端「で、うちの奥さんにちょっと描いてもらったら、なんかすごい良かったんですよ」
意外なところにデザイナーいたぞ。
意外なところにデザイナーいたぞ。
えっ、これ、川端さんの奥さん作だったのか!?
確かにプロっぽくは無いなーと思っていたが、そういう話だったのか。
つい「パッケージに闇を感じますよね」とか「正直、怖いです」とか言いそうになってたが、言わなくて良かった。危なかった。
さらにシリーズ後継作も続々。
さらにシリーズ後継作も続々。
白石「このシリーズ、他にもありますよ」

そう言って白石さんが次々と持ってきてくださったのは、確かに同じデザイナーの手によるシリーズだろうなぁ、とわかるもやしキャラのパッケージ。
野菜炒めに最適の『ミックス博士』。もうちょっと博士らしいこと言え。
野菜炒めに最適の『ミックス博士』。もうちょっと博士らしいこと言え。
大豆もやしの『大豆さん』。そろそろイラストに手慣れを感じる。
大豆もやしの『大豆さん』。そろそろイラストに手慣れを感じる。
緑豆の『さわやか緑豆ちゃん』。「シャキッとしてね」ともやしに説教される。
緑豆の『さわやか緑豆ちゃん』。「シャキッとしてね」ともやしに説教される。
川端さんの奥様シリーズ。やはり、なんらかの闇は感じる。
川端さんの奥様シリーズ。やはり、なんらかの闇は感じる。
イラスト、おそらく後から発売されたであろう『大豆さん』『緑豆ちゃん』あたりから、輪郭や口・目の描き方がこなれて来ているように見受けられる。
川端さんの奥様、イラストレーターとして成長しているのがちょっとすごい。

もちろん広島お好み焼きは食べる

さて、おおよその謎は取材で解き明かされたと思うのだが、最後に一つだけ、大きな謎が残っている。
「細もやしは広島お好み焼きに本当に合うのか」という話だ。
(ここからは基本、僕が満足するためだけのパート)
あー、はいはい、食べた瞬間にたまらず「うめー」って言っちゃうタイプのお好み焼きだよね。
あー、はいはい、食べた瞬間にたまらず「うめー」って言っちゃうタイプのお好み焼きだよね。
そこを確かめるため、広島市内に戻ってお好み焼き屋に飛び込んだ。
店内に入ってまず「ここのって、細もやし入ってますか?」と店員さんに確認したので、超もやし好きの人みたいに思われたことだろう。
細もやし、ちゃんと入ってるぞ。
細もやし、ちゃんと入ってるぞ。
うめー。
うめー。
ふわふわの皮とカリップリッとした焼きそばの食感が最高なのに、そこにショリショリとしたキャベツと細もやしの優しい食感がプラスされると、超最高としか言いようがないよね。

あと、かなり甘めのソースで味が濃いのに、細もやしの味ははっきり分かる。これはさすが、細もやしならでは、ということだろう。ガス喰わしてないからな。

細もやしと太もやしの違い。なぜ広島だけ細もやしか。ブラックマッペくんとは何か。
最初は「要素多すぎだろ」と思っていたが、なんとか全部解き明かすことはできた。スッキリした後のお好み焼きは、超美味かったです。

あと、とりあえず今後は細もやしを見るたびに「ガス喰わしてないから細いんだ」と思うことになるだろう。みんなも積極的に「ガス喰わす」というかっこいい言葉を使っていくべきだ。
もやし工場内の出荷待ちもやし。1日に12tぐらい出荷するそうだ。もやし12tて。
もやし工場内の出荷待ちもやし。1日に12tぐらい出荷するそうだ。もやし12tて。
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