沖ノ鳥島の概要
北緯20度25分、東経136度04分、東京から直線距離にして約1700キロの海上にある島が、日本最南端の島「沖ノ鳥島」である。
南西側から撮った「沖ノ鳥島」 (画像提供:国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所)
この北緯20度線はおおむね、中国とベトナムの国境近くにあるハノイ、インドのほぼ中央、サウジアラビアのメッカ、メキシコシティ、ハワイ諸島の南部、そして「沖ノ鳥島」を結ぶ位置となる。
こうしてみると、かなり南に位置していることが分かる
そんな同島を、横浜市鶴見区にある京浜河川事務所が管理しているという。なぜ「河川」事務所の管轄なのだろう。具体的にはどのような業務をしているのか。そして「沖ノ鳥島」とはどんな島なのか。
早速、同事務所を訪ねることにした。
河川事務所なのに「沖ノ鳥島」の管理?
お話を伺ったのは、国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所海岸課の、伊藤さんと荒金さん。荒金さんは、実際に「沖ノ鳥島」へ行ったことがあるそうだ。
鶴見区にある京浜河川事務所外観
海岸課の伊藤さん(左)、荒金さん(右)
同課によれば、「沖ノ鳥島とは、冒頭の写真にあるようなテーブル状の岩礁全体を含めた島を指します。このうち、満潮時でも水没しない所が2カ所あり、それぞれ『北小島』『東小島』と呼ばれています」とのこと。
ちょうど、ニンジンを横向きに置いたような形をしているが、その広さは、東西に約4.5キロ、南北に約1.7キロ、周囲約11キロに及ぶ。
消波ブロックなどで囲まれた「東小島」の様子 (画像提供:国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所)
知らない方も多いと思うが、これらの島の周辺は消波ブロックや護岸により保護されており、中心にある小島本体を波の侵食などから守るために、こうした構造物が設けられている。
護岸の補修作業の様子 (画像提供:国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所)
それにしても、なぜ、このような大がかりな設備が必要なのだろうか。
この点について伊藤さんは、「これらの重要な小島が波などの侵食により、水没する恐れがあったため、昭和62年度から平成5年度にかけて、コンクリート護岸等の設置工事を実施し、小島がこれ以上侵食しないような対策を行いました。
その後も、護岸補修などの維持管理を継続して、島の保全を行っています。この小島を含んだ沖ノ鳥島を保全しないと、我が国の国土面積(約38万km2)を上回る約40万km2の排他的経済水域が失われてしまいます。」という。
さらに詳しいお話を伺ってみることにしよう。
その前に、排他的経済水域とは何なのか?
最初に、EEZとも略される排他的経済水域について、簡単におさらいしてみよう。これは、国連海洋法条約に基づいて設定されている、一種の水域のこと。他国であっても、船や飛行機などの通行、パイプラインの敷設などは可能であり、沿岸国のもつ排他的な権利が、漁業権や地下資源などの主に経済的な権益に限定されているところが、領海とは異なるポイントである。
日本と沖ノ鳥島の排他的経済水域を示す図 (画像提供:国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所)
この図を見ても分かるとおり、わずか周囲11キロ程度の「沖ノ鳥島」があることによって、約40万平方キロメートルもの排他的経済水域が確保されていることになる。
ちなみに、現在日本の排他的経済水域の広さは、世界で第6位となっている。このことからも、「沖ノ鳥島」の国土保全上の重要性が、お分かりいただけるだろう。
領海や排他的経済水域についての概念図 (画像提供:国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所)
こうした領海や排他的経済水域は、低潮線(干満により海面がもっとも低くなった時の陸地と水面との境界)により定められており、原則として、「低潮線」から12海里(約22キロ)内が領海となり、同200海里(約370キロ)内で、領海を除いた区域が排他的経済水域となっている。
熱帯気候ならではの調査も実施!
伊藤さんによると、「夏には台風の通り道となる沖ノ鳥島、実は、国内で唯一の熱帯気候に属する地域なんです。そこで、この立地を生かした各種調査や実験なども行っており、その1つが、さまざまな素材に対する耐久性試験となります。
この他にも、気象・海象の観測やサンゴ礁などの生物調査、灯台設置などの各種行為による許認可など、さまざまな業務を同課の4名で行っています」と話す。
厳しい自然環境下で金属、塗装、コンクリートなどの耐久性を確認 (画像提供:国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所)
また、荒金さんによれば、「各種素材がすぐにボロボロになるという訳ではありませんが、過去の経緯を見ると明らかに内地とは違ったサビの進行や劣化の状態などが確認できます」とのこと。
沖ノ鳥島周辺のサンゴ礁の様子 (画像提供:国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所)
「沖ノ鳥島での作業は、台風シーズンや強風期を避けた、毎年6月と2月に実施し、九州の門司港から約2000トンの母船で出発し、片道3日をかけて沖ノ鳥島へ行き、母船をベースに小型船を利用して、同島に関する維持補修や低潮線の巡視など行っています。
作業スタッフは、船員も含めて総勢約60名程度で、現地の滞在期間は10日間ほどですが、その間に全ての作業を完了させる必要があります。しかし、台風や熱帯低気圧が接近してくると、作業を中断して一時海域を離れることもあるため、作業が可能な日に、いかに効率よく作業を進めるかが、重要になってきます。
また、6月から2月の間は、維持工事や各種調査結果のまとめや各種検討を行うと共に、来年度工事に向けての準備や関係機関との調整等を行っています。」と、荒金さんは続ける。
こうした各種データを、同島に行く手段を持たない国民を代表して集めてくるのも、同課の重要な役割なのだろう。
ところで、どうして横浜市にあるんでしたっけ?
海岸課が所属する京浜河川事務所は、多摩川・鶴見川・相模川の管理などを行っている。それぞれ神奈川県内を流れる河川であるため、特に不自然感はない。
では、なぜ「沖ノ鳥島」の管理を、同事務所の海岸課が行うようになったのだろうか。
河川に対する取り組みを説明する、同事務所内の看板
この点について同課に聞いたところ、こんな背景があるようだ。
「国土保全上又は国民経済上特に重要な河川や海岸は、都県の県境を跨いで、国の事務所が管理や事業を実施しています。実際にどの地域の部署が担当するかは、地理的条件及び社会的状況によって決められます。例えば多摩川は東京都と神奈川県に跨がっていますが、この京浜河川事務所が管理などを行っています」。
「沖ノ鳥島の場合、排他的経済水域の基礎となる重要な島で、小島が侵食により水没する恐れがあったため、昭和62年より護岸などの保全工事を国で行いました。平成11年に海岸法が改正され、その中で国土保全上の重要性から、沖ノ鳥島は日常管理も含めて国に移管され、この時、多摩川などと同様に、同島の管理は京浜河川事務所が行う事になりました」とのことだ。
ちなみに「沖ノ鳥島」は東京都に属しているので、以前は、都の管轄であったそうだ。
最後になるが、「沖ノ鳥島」について同課は、
・日本最南端の国土保全上重要な島
・日本の排他的経済水域の要
・国内で唯一熱帯気候における各種観測ができるポイント
という3点で、「非常に大切な場所」だと話す。
そのような重要な場所を、横浜市内にある官公庁が担当していると聞くと、何か「沖ノ鳥島」に親近感のようなものが湧くのではないだろうか。もし、ニュースなどで島の名前が出る時があれば、同課の活躍を、ぜひ思い起こしてほしい。
―終わり―
◆国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所
http://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/