テラス席を設ける店が多いのも高円寺の特徴
東京・高円寺。新宿から中央線で約6分のこの街に、僕はかれこれ13年ほど住んでいる。
北口の純情商店街
ここはもともと「高円寺銀座商店街」という名称だったが、1989年に高円寺を舞台にしたねじめ正一の小説『高円寺純情商店街』が直木賞を受賞したのを機に、現在の名前に変更した。
明るいうちからお酒を飲む人々
ビールケースをひっくり返した系のテラス席を設ける店が多いのも高円寺の特徴だ。そのうちの一軒がガード下の「かっぽう着屋こうちゃん」。
高円寺駅から徒歩2分
南口を出て左に進んだところ。心地よい風にあたりながら飲むお酒は、また格別である。
フードメニューのお値段も良心的
しみじみとホッピーをいただく筆者
わざわざ遠方から彼を愛でに来る人もいる
そして、この店にはゴールデン・レトリバーのこうすけという看板犬がいる。
マスターとこうすけ
マスターの飯田浩司さん(53歳)によれば、こうすけは13歳。人間でいえば90歳ぐらいだという。
いつも店先で寝そべっている
近くで飲んでいた犬好きの女性が触りに来た
噂を聞きつけてわざわざ遠方から彼を愛でに来る人もいるという。
通りがかった男性もなでなで
「最初はアイリッシュ・セッターを飼いたかったんだよ。でも、いい血統の子犬がいなくて。そんな時にこいつに出会って」(マスター)
わんわん、わんわん
「ああ、わんわん今日はいたねー」と子供に話しかけるママ。どうやら、ここに立ち寄る常連さんのようだ。
バイトがない日は店で寝るのが仕事
頭のいい子だったそうで、トイレもマスターの家に来て1週間で覚えたという。
生後2カ月の頃
「芸? 何でもやるよ。指を出したらその数だけ吠えたり、あとはバック歩きやウインクもできる」
犬用の誕生日ケーキ
3月3日の誕生日は毎年祝う。写真を持っていくとそれをあしらった犬用のケーキを作ってくれる店があり、こうすけはそれを喜んで食べる。写真のケーキは3000円ぐらい。
名前入りのバンダナ
バンダナは80枚ぐらい所有。毎日違うものを巻く。ちなみに、ふだんはドッグフードを食べているが、ゆでたニンジン、納豆、ヨーグルトなども大好きだそうだ。
結婚パーティーで新婦にブーケを渡すこうすけ
マスターの知り合いに頼まれて、時々こういうバイトもする。
「散歩に行けるようになった生後数ヶ月の頃から店にいるよ。人間が大好きみたいで、子供がしっぽをいじっても全然平気」
バイトがない日は店で寝るのが仕事
「歳も歳だから、若い頃みたいにムダな動きをしなくなったね。でも、散歩には行きたがるんだよ」
杉並警察署の警察官からほめられた
「スキー場でガードマンに許可をもらって、子供を乗せたソリを引っ張ったら『僕も!』『私も!』ってなってえらい長い行列ができたなあ(笑)」
他にも、散歩の途中でマンションのベランダに刃物を持った不審者がいることを吠えて知らせてマスターが通報したこともある。杉並警察署の警察官からほめられたそうだ。
店は日替わりの女性スタッフが切り盛り
「寝てる姿も、食い意地が張ってるところも、怒られた時の反省顔も、もう全部かわいいです」(女性スタッフ)
しかし、誰よりもマスターが彼を溺愛している。「うちは子供がいないからさ。こいつが子供みたいなもんなんだよ」
同じポーズで気を引こうとする
通常、犬は10歳を超えると脚が弱くなり、目の周りにもクマができたりするが、こうすけはまだまだ元気で顔にも張りがある。
自分が行きたいルートをずんずん進む
ここで、マスターが言った。
「いつもは常連さんが散歩に連れてってくれるんだけど、せっかくだからちょっと行ってみる?」
おお、いいんですか!
よし、こうすけ散歩行こう
帰りたがる
まだ完全には心を開いてくれていないようだ。何度かチャレンジして、ようやく歩き出した。
振り返る通行人
自分が行きたいルートをずんずん進むこうすけ。リードを引っ張っても意に沿わぬ道にはかたくなに行こうとしない。店の周りをぐるっと歩いて15分ほどで散歩終了。
散歩後は歯茎に口臭予防剤を塗られる
歳を取るとどうしても口臭が出るので、ペパーミント味の予防剤を塗るのが日課なのだ。人気の看板犬はエチケットにも気を使う。
こうすけが死んだら? 俺も死ぬよ
風に吹かれてお酒に酔い、時々犬を触る。これが、じつに楽しいのだ。「13年も生きてくれたから感謝しないと。でも、あと2年ぐらいは生きるんじゃないかな。こうすけが死んだら? 俺も死ぬよ」と笑うマスター。こうすけ、マスター(とファン)のためにも長生きしてください。
<取材協力>
かっぽう着屋こうちゃん
東京都杉並区高円寺南3-69-1
営業時間17:00~23:00
tel.03-3339-2772