特集 2016年5月24日

「ミナミコメツキガニ」を食べたら謎のケミカルな甘さが舌を襲った

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沖縄の干潟に「ミナミコメツキガニ」というとてもかわいいカニがいる。大量にいる。大群でいる。
とても小さく、普通は食用にするようなカニではない。だが、これがいざ食べてみると「すごく予想外で、とても面白い味がする」のだと沖縄在住の知人から聞いた。
一体どんな味なのか。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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いつでも会いに行ける干潟のアイドル

2016年1月、僕は仕事で沖縄を訪れていた。
僕は生き物が好きなので、沖縄へ来たら空き時間に山か海へ足を運び、虫や魚を探すようにしている。
だが、この冬は沖縄を未曾有の大寒波が襲っていたのだ。どこへ出向いても生命の息吹が薄い。
寒すぎて波打ち際で魚が気絶し、打ち上がっている。でも、この珍しい光景を見られたのはちょっと嬉しかった。
寒すぎて波打ち際で魚が気絶し、打ち上がっている。でも、この珍しい光景を見られたのはちょっと嬉しかった。
沖縄まで来ているのに生物に会えないのは辛い…。悲しい…。心が乾いてあかぎれを起こしそうだ…。
だが、ここで知人のあの言葉を思い出した。
そうだ。ミナミコメツキガニなら寒くても見つかるはず。僕はそのカニを見るのが、弄るのが大好きなのだ。会いに行こう。弄って癒されよう。そして今回は食べてみよう。
やってきたのは沖縄本島のとある干潟。一面に泥混じりの砂地が広がる。
やってきたのは沖縄本島のとある干潟。一面に泥混じりの砂地が広がる。
タイドグラフを見て、潮汐のタイミングを計る。
ミナミコメツキガニは水中ではなく、干潟に広がる砂地の上で見つかる。ならば潮が引ききった最干潮時に行けばいいのだろうと思いがちだが、それが意外とそうでもない。
このカニは泥を食んで、その中に含まれる有機物を摂取しているのだが、砂が乾きすぎると上手く食事ができないらしい。そのため、まだ干潟をヒタヒタに水が覆っている時合が観察のベストタイムとなる。
この日は満潮から数えて下げ始め3時間後に行きつけの干潟を訪れた。
砂の上には小さな砂団子のようなものが大量に落ちている。実はこれがミナミコメツキガニが食事をした跡。いわば食べカス。
砂の上には小さな砂団子のようなものが大量に落ちている。実はこれがミナミコメツキガニが食事をした跡。いわば食べカス。
砂の上にはミナミコメツキガニやその他のカニ類が砂を食んだ跡の砂団子が無数に落ちている。この砂団子は潮が満ちれば溶けて消え、また潮が引けば生み出され、また人知れず波に洗われ、沈んで消える。今日も明日も10年後も。きっと100年どころではない大昔から、この干潟では毎日それが繰り返されてきたのだ。その淡々とした、けれど偉大なルーチンワークに想いを馳せると、気が遠くなってしまいそうだ。
…危ない危ない。大自然の営みに心をとらわれそうになったが、今日の目的はあくまで拾い食いである。僕はあくまで意地汚い捕食者なのだ。ゲヘヘー、待ってろカニどもめー!食っちゃうぞー!
水際だけ、砂の色が違う。
水際だけ、砂の色が違う。
砂団子を踏みながら、水の残っている場所を目指す。
近づいてみると水際だけ、なにやら砂の色が違う。
実は、この色が違う部分が全てミナミコメツキガニの大群なのだ。
近づいてみると、確かにカニ。タシカニカニ!
近づいてみると、確かにカニ。タシカニカニ!

秘策で一網打尽!否、一笊打尽!

すごい数だ!採り放題だ!
すごい数だ!採り放題だ!
たしかに、眼を凝らすと1センチほどの青い粒々がゾロゾロと蠢いている。とんでもない数のミナミコメツキガニだ。
彼らはこの食事タイム以外はずっと砂に潜って身を隠しているらしい。
さっそく捕まえてみよう。
だが近づくとこちらの気配を感じ取り…
だが近づくとこちらの気配を感じ取り…
体をネジのように回しながら砂に潜り始め…
体をネジのように回しながら砂に潜り始め…
あっという間に見えなくなってしまうのだ。
あっという間に見えなくなってしまうのだ。
…意外と視力が良いらしい。近づくと体を横に向け、ドリルかネジのように回転しながら砂中に潜ってしまう。その消え失せ方があまりに静かで滑らかなので、潜っているというより「沈んでいく」ような印象を受ける。

これでは捕まえられない!…わけでもない。ミナミコメツキガニ採りの秘策を紹介しよう。用意するのはザルだけだ。
手で砂ごと掘り返してザルにぶち込む!そして水ですすいで砂を洗い流すと…
手で砂ごと掘り返してザルにぶち込む!そして水ですすいで砂を洗い流すと…
大量のミナミコメツキガニだけが残るのだ!
大量のミナミコメツキガニだけが残るのだ!
潜っていった場所の砂をたっぷりザルに掬い取り、その辺の海水ですすいでやればOK。ザルにはカニだけが大量に残るはずだ。
楽しくなって、ついつい採りすぎてしまう。試食に必要な分だけ残して、あとは逃がしてあげよう。
楽しくなって、ついつい採りすぎてしまう。試食に必要な分だけ残して、あとは逃がしてあげよう。

食べるのがかわいそうなほどかわいい

採れたミナミコメツキガニを手に取り、よく見てみよう。大群で蠢いていると異様に見えるかもしれないが、実はとてもとても可愛らしい生物であることがわかる。
丸っこくてかわいい!サイズは指先ほど。
丸っこくてかわいい!サイズは指先ほど。
背中は青い。大きさや形も相まって、まるでブルーベリーのようだ。
背中は青い。大きさや形も相まって、まるでブルーベリーのようだ。
足を縮めてボールのようになる。こういう仕草もかわいい。
足を縮めてボールのようになる。こういう仕草もかわいい。
マスコットじみた容姿も、ちょこちょこした動きも、バツグンにかわいい!
顔に似合わず意外とスネ毛が濃いけど、そんなギャップもかわいい!
食べるのがかわいそうなくらい可愛らしい!いや、こういう時はこう言うのだ。食べちゃいたいくらいかわいい!と。

しっかり泥抜きして、いざ調理!

さて、いよいよ調理に移るのだが、その前に忘れてはならないとても重要な工程がある。
「砂抜き」である。
ミナミコメツキガニは砂を食んでいる。となると、わずかながらも体内やエラに微小な砂粒が残る。海水中でしばらく生かしておくことで、これを排出させるのだ。
これは同じような食生活を送っているアサリやハマグリの場合と同じ理屈だ。こうした砂や泥から食べ物を濾し摂るタイプの生物を調理する際にはこのひと手間が必須となるのだ。
ちなみに、砂抜きをせずに生で食べてみたところ、やはりジャリジャリした食感と泥臭さが気になってしまい、実際の味よりも不味く感じてしまった。
しっかり砂抜きしたら、素揚げに。
しっかり砂抜きしたら、素揚げに。
砂抜きを終えたら、キッチンペーパーの上を転がしてよく水気を切り、素揚げにしてやる。
なお、揚げという調理法を選択したのは、殻をクリスピーに仕上げ、小さなボディーを丸ごと余さず食べるためである。
ミナミコメツキガニの素揚げ。そもそも美味しいかどうかもわからないのだから、数人で試食するにはこれぐらいがちょうど良い量だろう。
ミナミコメツキガニの素揚げ。そもそも美味しいかどうかもわからないのだから、数人で試食するにはこれぐらいがちょうど良い量だろう。

ケミカルな甘さが時間差で!

カラッと揚がったミナミコメツキガニを数匹つまみ上げ、口に放り込む。噛みしめると、カリッ、ジャクッ、と音を立てて殻が割れ、揚がった甲殻類特有の香ばしさが口腔から鼻腔に抜ける。
いただきます!
いただきます!
…が、それ以降は特に変わった味はしない。
感じるのはエビやカニの殻の風味だけ。旨味は非常に薄い。
うーん?普通の小エビや稚ガニと大差無い味だけど…
うーん?普通の小エビや稚ガニと大差無い味だけど…
正直に言ってさほど美味しくはないが、特別に不味いわけでもない。小型のカニ類としては、特徴の無い平々凡々でありがちな味である。

…あれ。話が違わないか。
別に面白い味なんて……んっ?ああっ⁉︎なんだこれ‼︎
ん‼︎あれっ⁉︎なんか時間差で…!なんかケミカルな甘さが…!
ん‼︎あれっ⁉︎なんか時間差で…!なんかケミカルな甘さが…!
よく咀嚼して、完全に飲みくだした後のことである。
口内が空になってから数拍の間をおいて、舌の付け根から喉奥にかけてを、まとわりつくような「甘み」が唐突に襲った。
しかも普通の甘みではなく、アスパルテームなどの人工甘味料のような、ひどく「ケミカルな」甘さである。
まるで喉から甘味料が分泌されているようだ!
なんだこれは!わけがわからない!
ブラックコーヒーを飲んでも、その奥に薬っぽい妙な甘さを感じる。甘くなったからといって、決して飲みやすくなっているわけではない。
ブラックコーヒーを飲んでも、その奥に薬っぽい妙な甘さを感じる。甘くなったからといって、決して飲みやすくなっているわけではない。
だいたい、舌はまだしも「喉が甘い」ってなんだよ!30年間生きてきて初めての体験だよ!
だが、事実として喉の奥に甘みを感じているのだ。

冷静に分析してみると、どうやら、なんというか、実際に甘いナニかの味を感じているのでは無いように思えてきた。
舌や喉の一部に備わる味覚を感じるプログラムににバグが発生して、「甘い感じがする気が」しているだけらしい。
その証拠に、シーハーと息をすると、吸い込んだ空気を甘く感じ、水を飲んでもその後味がケミカルスイートになるのだ。味の無いモノを甘く感じるのは味覚の錯覚としか考えられない。果てはブラックコーヒーですら、その後味にほんのりと甘みが添加される始末。しかも、それがコーヒーの香りや苦味と全然マッチしていないのだからタチが悪い。
一緒に試食した知人は食後にタバコをふかした際に「タバコの煙まで甘い…。」と顔をしかめていた。…なんだか恐ろしくなってきたぞ。
この甘みを、あるいは甘いような錯覚を感じるメカニズムについてネットで調べてみたが、その真相に関する情報は一切得られなかった。

だが、かなりまとまった量を食べても身体に異常は出なかったので、毒があるということではないらしい。
あまりの面白さから、のちにテレビ番組でこの不思議な現象を紹介することになったりもした。
まさかテレビカメラの前ででミナミコメツキガニを食べることになるとは。奇妙な経験は、また別の奇妙な経験を引き寄せるのだ。
よく似た現象を引き起こす甲殻類にオニヤドカリなどの大型ヤドカリ類がある。食べた後に水を飲むと甘く感じられることから、これらは地域によって「アマガニ」とも呼ばれる。
よく似た現象を引き起こす甲殻類にオニヤドカリなどの大型ヤドカリ類がある。食べた後に水を飲むと甘く感じられることから、これらは地域によって「アマガニ」とも呼ばれる。
この手の「味覚が暴走して甘みを感じる」食材としてはすっぱさを甘さに変える「ミラクルフルーツ」が有名である。これもその類か!と思い食後にレモン汁を啜ってみたが、残念ながら直球の酸味がありのままに舌を刺すだけだった。

むしろ、強烈な酸味であのケミカルスイートネスも消し飛んでしまった。どうもミラクルフルーツのそれとはモノが違う成分らしい。
水を甘く感じられるあたり、同じく甲殻類であるヤドカリの一種、城ヶ島で言うところの「アマガニ」に含まれる成分に近いものなのだろう。

しかし、アマガニのそれは個体差が激しく、けっこう運が良くないとその効果を体験できない。一方、このミナミコメツキガニの場合は採ろうと思えばいくらでも採れる上、数個体をじっくりと咀嚼すれば、ほぼ確実にその甘い後味を感じられる。
まあ、そのもの自体が美味しいアマガニに対して、こちらは食味がたいして良いわけではないのが残念ではあるが。

食べなくてもいいけど、一見の価値はあり!

今回紹介した通り、ミナミコメツキガニはたしかに食べても面白いが、真の魅力はやはりその可愛らしさにある。
わざわざ謎の甘さなんて感じなくてもいいよ!という方も、沖縄へ行く機会があればぜひ、潮が引きかけた干潟に注目してほしい。
とてもキュートな干潟のアイドルたちに目を奪われるはずだ。
さながら干潟のAKB48?48どころか4800匹は軽くいそうだが。
さながら干潟のAKB48?48どころか4800匹は軽くいそうだが。
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