とんかつパフェをめざして……
過去記事を検索してみたら、以前、ほそいさんが、とんかつパフェをもとめて散々さまよったあげくに
自家製のとんパフェ作りに挑戦したようだ。
しかし私にそんな力量はない。万が一あっても同じ記事になってしまうではないか!
……ということで、愛媛は松山まで飛んできました。
松山駅。松山といえば「坊ちゃん」ということで、必死に坊ちゃんらしきものを探したものの、あまりめぼしいものはない。
目指す店は徒歩圏内ですが、やはりここはかわいらしい路面電車に乗っていきたい。
……と、そのときです!
なにかにとりつかれたように、坊ちゃん的なにかを探し求めていた私の目に、なんと「坊ちゃん列車」という文字が飛び込んできた。
これはもう乗るしかあるまい。1時間に1本という運行だけれども、そう、とんかつパフェはデザートなのだからここらで腹ごしらえをすればいいわけです。
そしてやってきた「坊ちゃん列車」。
夏目漱石が小説「坊ちゃん」の中で、”マッチ箱のような汽車”と表現したあの列車だ。
車掌さんのような(当時の制服)方が人力で方向転換。
当時の列車をほぼ忠実に復元。
車内も昔のまま! 坊ちゃん欲が満たされて大満足。
当時の列車をほぼ忠実に復元していた坊ちゃん電車。車内の木のイスも長時間だときびしいが、ここは短時間なので問題ナシ。煙突からは水蒸気を利用してダミーのけむりが出るという徹底ぶりだ。
……とはいえ拝啓漱石さま、とてもマッチ箱には見えませんでした。
いよいよ本丸(清まる)へ
目指したお店は『とんかつ 清まる』さん。
坊ちゃん電車、または伊予鉄道で松山駅からふたつめの松山市駅前。
なぜ両腕を広げているのかは不明。ここにあのとんかつパフェがあるのだ。そのヨロコビを全身で表現したかったのか。
カフェのような清潔な店内。
テーブル上のソースや爪楊枝などがなければ、ちょっとしたカフェそのもの。これは女性も入りやすい。
ん? カフェとふつうのお店の差って、割ばしとか醤油とかにあるんじゃないの? と思いついたがあまり深くは考えないようにしよう。とにかくとんかつパフェだ。
注文すると「20分ほどお時間かかりますがよろしいですか?」と店員さん。こういうときは時間がかかればかかるほどおいしさが増すというものです。
松山名物! 20分なんてチョロい。なんせ飛行機できたんだもの。
一足先にやってきた同行者の「ミニヒレカツサンド」。
ミニなのに強烈なボリューム。
ほうほう、これがミニですか……。
とんかつパフェにはお作法があった!
メニューには『正しいとんかつパフェ』の食べ方というお作法ページまである。お作法なんて苦手だけど、こういうのは別だ。さらに期待が高まるじゃないか。
心して予習しなければならない。学生時代もしなかった予習を……。
そしておよそ20分後……
キ、キターーーッ!
フィンガーボウルとともにキターッ!
うほーーー風車みたい。フィンガーボウル付きのパフェ、たぶん日本初では。
それではお作法の手順にしたがいいただきます。
なんだか正座したい気分……。
1:手でとんかつをつかみます
2:ほじほじして抹茶アイスをとりだします
3:とんかつに抹茶アイスと生クリーム乗せ…
4:リンゴに(3)を乗せるのが基本形
とんかつパフェのかげに、物語があった
当日、たまたまオーナーの水野清子さんはお休みだったのだが、電話で『とんかつパフェ』誕生のいきさつを聞くことが出来た。
26年前にお好み焼きやとしてスタートした『清まる』。その後離婚を経て5年後には火事で店も自宅も全焼という不幸につぎつぎと見舞われる。
お子さんもまだ幼かった。「店を畳もう」と決意した翌日、持病を持つ常連さんがやってきて「僕の生きがいだったのに……」と、倒れてしまったという。
「それからです。奮起したのは」と水野さん。
ーーなぜとんかつを?
「地元にはまだとんかつ屋が少なかったんです。そこで、どうせなら松山名物になるようなものを作ろうって半年後には再スタートしました」
ーーそこでいきなりパフェを考案したのですか?
「いろいろと試行錯誤しましたよ。最初はスイーツとんかつで、チョコをはさんだ『チョコとん』とか。とんかつケーキとか……ぜんぜん売れなかったんですけどね(笑)」
試行錯誤のあとがみえる攻めのメニュー。マル秘も気になる……。
――とんかつパフェはたしかにもう名物ですね。
「おかげさまで徐々に人気が出てきまして、わが子のようにかわいいんです」
我が子をいただく……。ん? これは……。
とんかつがスナック菓子のような味わい
す、すごい。アブノーマル感がまったくない。
薄~く、少し固めに揚げてあるせいか、とんかつがスナック菓子のような役目を果たしている。ソースも違和感なし。むしろ隠し味的なアクセントになっているかも?
抹茶アイスとリンゴのシャリシャリ感も、とんかつとの相性バツグンだ。何度も試みた最終形態を感じる。まさに我が子だコレ。
正直、ド級のミスマッチ感に誘われてこの地に来たものの、いくらでもイケますよ、この味!
計算されたとんかつの薄さ。一朝一夕では思いつかない発想でのこの味なのだ
心づかいもうれしいフィンガーボウル
男性2名でいらしていた方が食事のあと『とんかつパフェ』を注文していたので感想を訊いてみました。
――パフェ目当てでいらしたんですか?
「いや、メニュー見てみたらめずらしいものがあるなって思って注文してみました」
――味はどうでした?
「フツーに旨かったっすよ。これ、会話が弾んでいいですね」
おせっかいにも、その苦節10年以上のお話をお聞かせしたかったがそれは野暮なことなんだろう。だって「旨かった」このひと言でいいじゃないか。とんパフェ物語があってこその「旨い」じゃないか! と、そう思ったのです。
懸念していた完食。あっというまだった
長い道のりをかけて『とんかつパフェ』を食べにきたわけだが、オーナー水野さんの、立ちくらみがするほどの長い道にくらべるとわたしなどまるで太刀打ちできない。
お客さんがそれを知らなくったっていい。とにかく美味しかった。それが、水野さんの物語を一発で語っているような気がしました。
とんかつ 清まる
とんかつ 清まる 花園店
愛媛県松山市花園町4-6
アプトンパ-ク21
TEL:089-948-9588
営業時間:11:00~21:00
(ラストオーダー20:30)
とんパフェのあとの道後温泉。ここでもウデを広げている。ちなみにこの周辺は、めまいがするほど「坊ちゃん」だらけだった。