特集 2016年3月28日

手打ちもいいけど!楽しい機械のうどん屋さん

うどんを日々研究しているお店の方から、手打ち作業を助けるガジェット情報をたっぷりと教えてもらいました。
うどんを日々研究しているお店の方から、手打ち作業を助けるガジェット情報をたっぷりと教えてもらいました。
関西に住んでいる友人がうどん屋でバイトをしているのだが、話の中でそこの店主の事を「店長」ではなく、必ず「所長」と呼ぶのが気になった。

なんでもそのうどん屋は、「店」ではなく「研究所」を名乗っているそうだ。ならばとその研究成果を聞きに行ったところ、驚きのうどんガジェットが飛び出しまくった。うどん作りのお助けアイテム、独特の世界です。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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能勢電鉄で「絹延橋うどん研究所」へやってきた

自分のうどん屋を研究所と呼んでいる店は、兵庫県川西市にある「絹延橋うどん研究所」。埼玉の自宅からはなかなかの遠さだったが、本当に行ってよかったと先に断言しておく。

最寄りとなる能勢電鉄の絹延橋駅でスイカ(JR東日本のICカード )が使えなくて、筆談案内機という初めて使う機械で清算をした。ずいぶん遠くまで来たなと思った。
これで清算をするのだが、清算機ではありませんと書かれていて混乱した。
これで清算をするのだが、清算機ではありませんと書かれていて混乱した。
猪名川に掛かる絹延橋のすぐ近く、川を挟んで五月山を見上げる閑静な場所に、目指す研究所はあった。

確かに「絹延橋うどん研究所」と書かれたオシャレな建物。一見さんは入りにくいかもしれないが、たまたま通りがかるような場所でもないので、その味を知る地元客やリピーターの多い店なのだろう。
研究所を名乗っているが、誰でも入れるうどん屋さんです。
研究所を名乗っているが、誰でも入れるうどん屋さんです。
うどん屋さんっぽさがゼロの看板。
うどん屋さんっぽさがゼロの看板。
店内はうどん屋というよりはカフェっぽいかな。壁に貼られた小麦粉の袋がかっこいい。
店内はうどん屋というよりはカフェっぽいかな。壁に貼られた小麦粉の袋がかっこいい。
ここの所長は固い業種の勤め人だったのだが、7年前に今の仕事よりもやりたいこと(うどん屋)が見つかったと52歳で退職し、2年の準備期間を経てこの研究所をオープンさせた遅咲きのうどん職人。いや職人というか研究者。取材日の前日、無事に5周年を迎えたところだとか。

その外見は、まるで脱サラしてうどん屋をはじめそうなタイプに見えるかもしれないが、それはまるっきり正解だ。
絹延橋うどん研究所の所長。あなたに会うためやってきました。
絹延橋うどん研究所の所長。あなたに会うためやってきました。
いきなりうどん屋を始めた経緯などは、うどんを作る機械の説明と一緒に語っていこうと思う。

以下、このレポートではうどん作りに使う機械のことをガジェットと呼ぶが、私がガジェットという言葉を最近になって覚えたから使いたいだけで、特に深い意味はない。

小麦粉と塩水を撹拌する専用ガジェット

うどん作りで最初に登場するガジェットは、粉と水を混ぜるミキサー。練り機やピンニーダーとも呼ばれる製麺業界ではおなじみのガジェットである。誰もガジェットとは呼んでないが。

うどんやそばの職人が、大きな鉢を使って水と粉をかき混ぜているのを見たことがあると思うが、あの大変な作業を代行してくれる便利なツールのこと。
これは手打ち蕎麦職人による撹拌作業。この作業を代行してくれるのがミキサー。モデルは昨年蕎麦作りを習った「つけものと手打ちそばの伊澤」の伊澤さん。
これは手打ち蕎麦職人による撹拌作業。この作業を代行してくれるのがミキサー。モデルは昨年蕎麦作りを習った「つけものと手打ちそばの伊澤」の伊澤さん。
もちろん所長も手作業でやればできるのだが、「機嫌ようやれるのは3キロまで!」ということで、店では一度に9キロ近い粉を混ぜられるミキサーを使用している。

このように所長は自分が機嫌よくうどんを作るために、重労働を代行してくれる便利なガジェットをどんどん導入するタイプの人。楽をして儲けたいのではなく、楽をして楽しいところをやりたいのだ。
小麦粉と塩水をかき混ぜるメーカー不明のミキサー。200ボルトのパワフルなやつ。
小麦粉と塩水をかき混ぜるメーカー不明のミキサー。200ボルトのパワフルなやつ。
「全行程を手作業で行う人を否定する気は一切ないし、それはすごいことだと思いますが、私は50代になってから本格的に始めたうどん打ちを70代になっても楽しく続けたいと思っているからこそ、機械と仲良くするんです」

これが所長の考えである。実際は関西弁なのだが、うまく文字にできなかった。若くしてうどん職人となった人とは、その辺の感覚がちょっと違うのかもしれない。
どんの材料は、小麦粉、塩、水のみだが、シンプルなものほど奥が深い。
どんの材料は、小麦粉、塩、水のみだが、シンプルなものほど奥が深い。

使用する小麦粉は、さぬきうどんに惚れこんだ上で、この場所で愛されるうどんを研究する所長らしく、地元である兵庫県の地粉「ふくほの香」と、香川県産の「さぬきの夢2009」をブレンドしたものをメインで使っている。

ただし最近はふくほの香が品薄なこともあり、「全国地粉の旅」と自分の中で銘打って、様々な小麦粉を配合中。研究所を名乗るだけあって、安定よりも進化を求めるタイプの店のようだ。
この日は愛知県産の「きぬあかり」を配合。同じ品種でも、産地や育て方、あるいは製粉業者によって微妙に味が違うのだとか。
この日は愛知県産の「きぬあかり」を配合。同じ品種でも、産地や育て方、あるいは製粉業者によって微妙に味が違うのだとか。
まず粉だけで2~3分撹拌することで、水の回りがよくなるそうです。
まず粉だけで2~3分撹拌することで、水の回りがよくなるそうです。
小さな穴の開いたフタを使い、撹拌しながら塩水をチョロチョロと入れていく。機械のように正確な回転で(機械だから)12分ほど回すと、モニュモニュとした小麦粉の塊ができあがった。

確かにこれを全部手作業でやっていたら、うどん作りが楽しくなくなるかもしれない。
小さな穴からチョロチョロと塩水が落ちていく合理的なフタ。
小さな穴からチョロチョロと塩水が落ちていく合理的なフタ。
まだまだうどんからは程遠い状態の生地。これが多種多様なガジェットによって麺となるのだ。
まだまだうどんからは程遠い状態の生地。これが多種多様なガジェットによって麺となるのだ。

足で踏まずにプレス機を使う

続いての工程は、手作業だとひとまとめにしてから足で踏むところだが、そこがうどん作りにおける一番ともいえる重労働。

そこで研究所では、迷うことなく大和製作所のプレス機を使用する。
この生地をまとめて捏ねる重労働をプレス機が代行します。
この生地をまとめて捏ねる重労働をプレス機が代行します。

うどん用のプレス機は、重力に逆らって下から強烈な圧力を掛けて、生地を押し潰すという機械。

押しつぶす、ただそれだけの機能。その潔さにうっかり惚れそう(買いそう)になる。
プレス機にモコモコした生地を投入してスイッチオン。
プレス機にモコモコした生地を投入してスイッチオン。
下から上へ圧力が掛かるという予想外の動きに驚いた。
下から上へ圧力が掛かるという予想外の動きに驚いた。
こんな感じで上がっていきます。グィーン。本当にこれだけのための機械なのだ。
こんな感じで上がっていきます。グィーン。本当にこれだけのための機械なのだ。
プレス機の引き出しを開けると、そこにはまるで象に踏まれたように潰れた生地が!

わー、こりゃ力強い。うどんプレス、さぬき出身のレスラーがいたら必殺技にどうだろうという圧力だ。

この生地を切ったり丸めたりして、何度かプレスを繰り返すことで、だんだんと強い腰が生まれてくる訳か。
さすがプレスに特化した機械だけあって、ボタン操作一つで人間の力を優に超えた圧力を掛けることができる。
さすがプレスに特化した機械だけあって、ボタン操作一つで人間の力を優に超えた圧力を掛けることができる。
メリケンサック風の専用包丁がまたかっこいい訳ですよ。
メリケンサック風の専用包丁がまたかっこいい訳ですよ。
生地を丸めなおしてプレスを数回繰り返す。
生地を丸めなおしてプレスを数回繰り返す。
だんだんとキメが細かくなり、高級紙粘土のような生地になった。
だんだんとキメが細かくなり、高級紙粘土のような生地になった。
この状態になった生地を、所長は「畳んだだけ団子」と呼んでいる。

かつては生地を手作業で丸くまとめて、菊揉みと呼ばれる練り方をしていたそうだが、せっかく生成されたグルテンを切らないためにも、シンプルに畳んでプレスするだけでいいのではと考えるようになったそうだ。

もちろんいろいろな流儀や考え方があって当然だし、余所を否定する気はまったくない。所長が己の体力やこだわるポイントのバランスから、現時点ではこの方法にしているいう話である。研究の結果、また違う方法になるかもしれないのだ。
これは川向かいにある五月山動物園の羊。
これは川向かいにある五月山動物園の羊。

最終的には己の手加減、足加減

このプレス機の圧力だけで生地を仕上げることもできるのだが、所長はこれを自分の足で踏んで仕上げる。

ガジェットをマニュアル通りに使うのではなく、合理的に使いこなした上で、その上を行くために自分の肌感覚を信じるのだ。

「ようは自分でコントロールできる範囲を持ってないと、他と同じもの、もしくは自分の思っていないものになってしまう。踏んだり延ばしたりするのがね、一番楽しいんです。おもろいんです。それを全部機械にやらしてしまうのはダメじゃないかと。なんのためにうどん屋になったんだと。こんなに快感なことをすべて機械にさせちゃもったいない!」

うどん作りの楽しい部分をしっかりと残しつつ、納得のいく味をうまく楽して作るために、これらのガジェットは存在するのだ。
プレス機の均一な圧力だけではなく、生地と会話をするように足踏みで仕上げていくからこそ、この店の味になるのだろう。
プレス機の均一な圧力だけではなく、生地と会話をするように足踏みで仕上げていくからこそ、この店の味になるのだろう。
「にやけてきますね。これが楽しくなくなったら、うどん屋をやめようと思ってますわ。」
「にやけてきますね。これが楽しくなくなったら、うどん屋をやめようと思ってますわ。」
こうして仕上がった生地の表面はどこまでも滑らかで、全体が柔らかいゴムのようにムニョーンと戻る弾力性を持っている。

イースト菌を使うパンの発酵とはまた違った、水と塩だけで小麦粉の持つ潜在能力を引き出した膨らみっぷり。この生地を抱き枕にして寝たい。
フワーンって戻るんですよ。この弾力の出方が粉によって全然違い、それがうどんの味に大きく影響するのだとか。
フワーンって戻るんですよ。この弾力の出方が粉によって全然違い、それがうどんの味に大きく影響するのだとか。
ツルッツルのモッチモチ。小麦粉って不思議!
ツルッツルのモッチモチ。小麦粉って不思議!

生地を寝かす熟成庫というガジェット

練りあがった生地は、熟成庫という温度管理ができるガジェットに入れて、21度という暑くもも寒くもない温度で一晩ぬくぬくと寝かせる。
適温の環境でのんびりと休憩中の生地。
適温の環境でのんびりと休憩中の生地。
夏と冬では気温が大きく違うため、常温で寝かせる場合は水加減や塩加減がかなり変わってくるが、この熟成庫のおかげで一年を通じて安定した生地を作ることができるそうだ。

ただし水温や粉の乾燥状態によって多少の差は出てくるため、どうしても肌感覚による水加減、塩加減の調整が必要となってくる。熟成庫の存在があるからこそ、作り手は微妙な加減の差を楽しめるのだろう。
「加水率は47~50%で調整します。これが上手くきまるとね、生地がこうフワッと……」と楽しそうに語る所長。
「加水率は47~50%で調整します。これが上手くきまるとね、生地がこうフワッと……」と楽しそうに語る所長。

話が長くなったので一回食べます

うどんガジェットの解説が楽しすぎて、話がちょっと長くなってきたため、ここで完成したうどんの紹介と、店を始めた経緯を挟みましょうか。
うどんは一杯500円。倍の大盛りでも500円。「大盛りがバンバンでると、あ~ってなるけど、麺が食べたいということやからな」と照れる所長。
うどんは一杯500円。倍の大盛りでも500円。「大盛りがバンバンでると、あ~ってなるけど、麺が食べたいということやからな」と照れる所長。
関西生まれの所長がさぬきうどんを好きになったのは15年程前。子供のアレルギーがひどくて食べられるものが限られている中、うどんなら外食できるぞと家族で香川へ行き、本場で食べたさぬきうどんに人生観が変わるほどの衝撃を受ける。

それ以来、毎月のように香川へとうどんの食べ歩きに行くようになると、自然の流れで趣味としてうどんを打つようになり、そして気が付けば中古の業務用製麺機を買っていて、近くのガレージで本格的な製麺を開始。

いろいろと順番はおかしい気もするが、この道を仕事にしようと退職を決め、2年間の研究期間を経てこの店をオープン。人に習ったのは一泊二日の修行程度で、ほとんどが我流なのだとか。
地元の野菜を使った天麩羅や焼き野菜はそれぞれ200円で盛り放題。天麩羅はアレルギー対策として卵を使わずに小麦粉と米粉の衣で揚げられている。
地元の野菜を使った天麩羅や焼き野菜はそれぞれ200円で盛り放題。天麩羅はアレルギー対策として卵を使わずに小麦粉と米粉の衣で揚げられている。
いりこだしでうどんのスープを作るのは、研究所の副所長である奥さんの担当。同じ職場に勤めていたのだが、旦那の脱サラを止めることなく、付き合う形で自分も退職したそうだ。

所長としては今後店がどうなるかわからないのでやめてほしくなかった気持ちもあったそうだが、これほど心強い援護もないだろう。

二階のライブもできるカフェスペースを含めて、この店の居心地の良さは、所長と副所長が同じ方向を目指したからこそ実現したのだろう。
うどんのだしや漬け物などは、副所長である奥さんが担当している。
うどんのだしや漬け物などは、副所長である奥さんが担当している。
「ぶっかけのひや」の中盛りに、天麩羅と焼き野菜をトッピングしてみました。つゆには伊吹島産のいりこをたっぷり使っているそうです。
「ぶっかけのひや」の中盛りに、天麩羅と焼き野菜をトッピングしてみました。つゆには伊吹島産のいりこをたっぷり使っているそうです。
  表面がフワッとしていながら、中心部にしっかりと腰のある麺。水分傾斜による歯ごたえのグラデーションが見事。理想的な格闘家の筋肉みたいなうどんだ。
表面がフワッとしていながら、中心部にしっかりと腰のある麺。水分傾斜による歯ごたえのグラデーションが見事。理想的な格闘家の筋肉みたいなうどんだ。
擬音で言えばチュルチュルのプチプチ。一口すすれば所長の思想が伝わってくるようなうどんだ。
擬音で言えばチュルチュルのプチプチ。一口すすれば所長の思想が伝わってくるようなうどんだ。

手打ちうどんに隠された秘密のガジェット

さて麺づくりに戻りまして、続いては生地を薄く伸ばす作業。まずは熟成された生地を例のプレス機で平らにしたら、これを麺棒に巻きつけるようにして伸ばしていく。

この手打ちうどん作りにおける一番の花形ともいえるシーンに、まさかガジェットの出番はないだろうと思ったら、意外な場所に秘密道具は隠されていたのだ!
熟成庫から取り出した生地をプレス機で平らにしたもの。
熟成庫から取り出した生地をプレス機で平らにしたもの。
これを麺棒に巻きつけて伸ばしていくのだが、ここでまさかの機械が登場。
これを麺棒に巻きつけて伸ばしていくのだが、ここでまさかの機械が登場。
テーブルの下に隠された、ウネウネと回転する高級バームクーヘンみたいな3本の棒!
テーブルの下に隠された、ウネウネと回転する高級バームクーヘンみたいな3本の棒!
そこに麺棒ごと生地を放り込んだ!
そこに麺棒ごと生地を放り込んだ!
そしてレバーで上の回転する棒を下げて、三方向から挟み込む!
そしてレバーで上の回転する棒を下げて、三方向から挟み込む!
3方向からの回転力によって生地が伸びる!
3方向からの回転力によって生地が伸びる!
そして何事もなかったかのようにテーブルに戻して生地の調整。前方から見ていたら、何が起こったかわからないだろう。
そして何事もなかったかのようにテーブルに戻して生地の調整。前方から見ていたら、何が起こったかわからないだろう。
これはさぬきうどんの本場である香川県の福井工作所が発明した、手打式仕上機というガジェットなのだ。こんな道具、初めて見たよ。

所長が「スーパーふくいくん」と呼ぶこの機械と麺棒による手打ちと併用することで、短時間で思い通りに伸ばすことができるのである。
せっかくなので動画でどうぞ。超クール!
このガジェットを完璧に使いこなすためには熟練が必要で、最初はなかなかきれいな四角形には伸びず、オーストラリアや四国みたいな生地だったとか。

うどんの機械を使いこなすという工程も、所長の中では大きな喜びの一つなのだろう。
  最終的な調整は、やっぱり自分の手加減で行う。なぜならここが楽しいところだから。
最終的な調整は、やっぱり自分の手加減で行う。なぜならここが楽しいところだから。
うどん研究所の付属で、カレー研究所とコーヒー研究所というのも所長の頭の中にはあるそうだ。
うどん研究所の付属で、カレー研究所とコーヒー研究所というのも所長の頭の中にはあるそうだ。

手切りだけど自動の麺切りガジェット

続いてはお待ちかねの麺を切る作業。ここにも独特のガジェットが存在している。

普通の麺切り包丁で切る場合は「こま板」というガイドを使って切っていくのだが、所長が使うのは包丁の先が固定された裁断機のような独特の包丁だ。

その名を手切包丁というらしい。
完全手作業の店では、こんな風に麺切り包丁とこま板で切ります。
完全手作業の店では、こんな風に麺切り包丁とこま板で切ります。
「手切りの楽しさを残しつつ圧倒的に効率があがるんよ」と、打ち粉(デンプン)をした生地を謎のガジェットにセットする所長。
「手切りの楽しさを残しつつ圧倒的に効率があがるんよ」と、打ち粉(デンプン)をした生地を謎のガジェットにセットする所長。
こちらもメイドイン福井工作所。生地を置く部分はゴム張りになっている。
こちらもメイドイン福井工作所。生地を置く部分はゴム張りになっている。
これが紙を切る裁断機と違うところは、包丁を持ち上げると、自動的に包丁の支点が左にずれるという点である。

ガシャンと麺を切るたびに、包丁の落下点がちょこっと移動してくれるので、安全かつスピーディーな麺切りが可能なのだ。

持ち上げる高さによって、包丁が移動する距離が変わってくるため、麺の幅は自由自在。逆に言えば、使い手が一定の高さから切らないと幅がバラバラの麺となってしまう難しさもある。だがそこが所長としては楽しいのだろう。

これはループ画像なので延々と同じところを切っているみたいですが、実際はどんどん左に移動していきます。
これはループ画像なので延々と同じところを切っているみたいですが、実際はどんどん左に移動していきます。
「これを保育園でやったら子供達はめっちゃ盛り上がりますよ!」
「これを保育園でやったら子供達はめっちゃ盛り上がりますよ!」
断面に打ち粉をまぶしたら、ようやく麺のできあがり。
断面に打ち粉をまぶしたら、ようやく麺のできあがり。
2杯目は醤油うどんのひやでいただいた。ぶっかけとはまた違った歯ごたえと喉越しが味わえるんですよ。
2杯目は醤油うどんのひやでいただいた。ぶっかけとはまた違った歯ごたえと喉越しが味わえるんですよ。
掛ける醤油は悪魔的にうまいという謎の醤油。これが確かにうまいのよ。
掛ける醤油は悪魔的にうまいという謎の醤油。これが確かにうまいのよ。

運命のうどん製麺機、さぬきM305型P

ここまで手打ちうどんにおける各工程の効率をアップさせるガジェットについて勉強してきたが、ここはうどんの研究所なので他の方法でもうどん作りを試している。

そのガジェットこそが、さぬき麺機が製造した永遠の名機、さぬきM305型Pである。そんなんしらんがなと思うだろう。大丈夫、私もしらんがなだ。

これを中古で入手したことが、この研究所の設立を決定付けたともいえる、所長にとって運命的なガジェットなのである。
いきおいで店を始めるよりも先に買ってしまったという、さぬきうどん用製麺機。
いきおいで店を始めるよりも先に買ってしまったという、さぬきうどん用製麺機。
このコンパクトなボディの中には(といっても相当でかいが)、生地を伸ばす機能が2種、さらに包丁で切る機能までもが備わっているのだ。

以下、その使い方をスライドショー感覚でお楽しみください。きっと欲しくなると思います。
プレス機で伸ばした生地に打ち粉を振る。
プレス機で伸ばした生地に打ち粉を振る。
そして意外なところに生地を入れる。そこなの?
そして意外なところに生地を入れる。そこなの?
溝のある圧延ロールを通すことによって、麺棒でグイグイと延ばされたのと似た感じで生地が伸びて出てきた。
溝のある圧延ロールを通すことによって、麺棒でグイグイと延ばされたのと似た感じで生地が伸びて出てきた。
生地をぐるっと90度回して、幅を狭めながら何度も通していくと、どんどんと四角く伸びていく。そして自然と所長の顔もほころんでくる。
生地をぐるっと90度回して、幅を狭めながら何度も通していくと、どんどんと四角く伸びていく。そして自然と所長の顔もほころんでくる。
圧延ロールの幅を変えるギアがかっこいい。
圧延ロールの幅を変えるギアがかっこいい。
最後は薄くなった生地を違う場所に差し込む。
最後は薄くなった生地を違う場所に差し込む。
すると溝のないローラーによって、生地が平らになって出てきた!
すると溝のないローラーによって、生地が平らになって出てきた!
続いては折りたたんだ生地をベルトコンベアーになった台で送っていく。
続いては折りたたんだ生地をベルトコンベアーになった台で送っていく。
  送られた生地がガシュンガシュンと大きな包丁によって切られていく。手作業と同じように包丁をスライドさせて切ることで一世を風靡したそうです。
送られた生地がガシュンガシュンと大きな包丁によって切られていく。手作業と同じように包丁をスライドさせて切ることで一世を風靡したそうです。
これはずっと見ていられる。
これはずっと見ていられる。
切られた麺がベルトコンベアーで送られてきた。
切られた麺がベルトコンベアーで送られてきた。
均一の幅で切られた美しいうどん。お店で出しているのは、この機械を使った麺がメインだそうです。
均一の幅で切られた美しいうどん。お店で出しているのは、この機械を使った麺がメインだそうです。
一見するとオートメーションのようだが、この機械を使いこなして思い通りの麺を打つには、やはり技術力と想像力が必要なのだろう。たとえ同じ機械と材料を使っても、使う人が違えばどこかに微妙な差がでてくるはずだ。

こいつがあれば、さっきの手伸ばしを助けたり、麺を切るだけの単一機能ガジェットはいらないじゃんという話なのだが、使う道具によって麺の出来具合はやはり違うので、研究所としてはどちらか一方という訳にはいかない。経済性や効率よりも大事なものがあるのだ。

どの機械を使ってうどんを作るかは所長次第だし、時には使う小麦粉も変わるため、この店は毎日が日替わりうどんなのである。

麺を茹でる道具にも秘密がたくさん

うどんを茹でる厨房にも、一般人が知らないノウハウとガジェットが詰まっていた。

知らなくてもいいことにこそ、知る喜びはあるのかもしれない。さあ、分かち合いましょう。
  うどんを茹でる大きな釜。たっぷりの熱湯で泳がせないと、麺のポテンシャルは発揮されない。
うどんを茹でる大きな釜。たっぷりの熱湯で泳がせないと、麺のポテンシャルは発揮されない。
太陽光温水器で温められたお湯が掛け流し方式で足されていく。これによって常にきれいな熱湯で茹でることが可能となる。
太陽光温水器で温められたお湯が掛け流し方式で足されていく。これによって常にきれいな熱湯で茹でることが可能となる。
金属のザルではうどんの肌を傷つけてしまうので、麺をすくうのは木綿のネット。国産小麦は茹で時間のストライクゾーンが狭いけど、ぴったり決まると外国産にはないうまさを発揮するのだとか。
金属のザルではうどんの肌を傷つけてしまうので、麺をすくうのは木綿のネット。国産小麦は茹で時間のストライクゾーンが狭いけど、ぴったり決まると外国産にはないうまさを発揮するのだとか。
一つ目で麺のぬめりをとり、二つ目でキリっとしめる二槽式のシンク。
一つ目で麺のぬめりをとり、二つ目でキリっとしめる二槽式のシンク。

茹であがったうどんを冷水でしめることで、エッジの立ったピシッとしたうどんとなる。これをそのまま食べるのが「ひや」で、温めるのが「あつ」。

あえて茹でたうどんをそのままを食べるのが「釜揚げ」で、水でしめた麺とはちょっと違う、表面上ではないうどんの腰と、洗わないことで薄まらない小麦感が楽しめるのだとか。ただし釜揚げを食べるには、注文してから麺が茹であがるまで待つ必要がある。その茹で時間は16分。

「はじめてのお客さんに釜揚げっていわれるとニヤっとしますね。うどんのために16分も待ってくれるのねと」

やっぱり釜揚げも食べればよかった。
お客さんとの会話を楽しみたいからと、カウンターと対面型にした厨房。
お客さんとの会話を楽しみたいからと、カウンターと対面型にした厨房。
3杯目は釜揚げも気になったが、所長がうどんと同じくらいカレーが好きだという話を聞いて、重ね煮した野菜と厚揚げのカレーうどんをセレクト。
3杯目は釜揚げも気になったが、所長がうどんと同じくらいカレーが好きだという話を聞いて、重ね煮した野菜と厚揚げのカレーうどんをセレクト。
さすがカレー好きの所長だけあって、優しい味だがしっかりとスパイシー。そしてトマトのピクルスが目の覚めるような味だった。
さすがカレー好きの所長だけあって、優しい味だがしっかりとスパイシー。そしてトマトのピクルスが目の覚めるような味だった。

経験年数だけで言えば、所長がうどん作りをはじめてからの年月はまだまだ浅いかもしれない。

それでもこれだけ美味しいうどんが作れるのは、香川県までお客として4年間通い詰めたことで、自分の食べたいうどんの味が見えているから。今までの食べて感動した記憶が、己のハードルを高くする。

そんな所長が掲げる今年の目標は、畑を借りて小麦を育て、自家製粉するところからのうどん作りだそうです。
  五月山を見上げるゆったりとした2階のカフェスペースもおすすめです。ここで「ワンドリンク」ならぬ「ワンうどん」付きのライブをやることもあるのだとか。
五月山を見上げるゆったりとした2階のカフェスペースもおすすめです。ここで「ワンドリンク」ならぬ「ワンうどん」付きのライブをやることもあるのだとか。
■絹延橋うどん研究所
住所:兵庫県川西市小戸3丁目23-6
電話:072-767-7639
HP:http://r.goope.jp/kinuuken

絹延橋うどん研究所のスタイルを把握していなかったので、行くまではプロによる手打ちうどんの作り方を見学させてもらえればくらいに思っていたのだが、そこで目にしたものは魅力的なうどんガジェットの数々。ぜんぶ欲しい。

私も製麺機というガジェットが好きで麺づくりをするようになったクチなので、製麺の話はいくらでも弾むし、生き方としても勉強になることばかり。この店が近所にあったら、きっと研究員としてバイトをしていたと思う。
所長が今一番気になっているうどんガジェットは、日本に一台だけ残っているという「ふみちゃん」という足踏みロボットだそうです。
所長が今一番気になっているうどんガジェットは、日本に一台だけ残っているという「ふみちゃん」という足踏みロボットだそうです。
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