イカ4杯からイカ墨を抽出する
魚拓は、キャラコという布(白い平織り)と相性がいいそうで、まずはそれを取り寄せた。イカ4杯も事前に仕入れておいた。
最近料理をおろそかにしているので、「久しぶりだね」と思わず言いたくなる。
以前イカ墨でボールペンを作ったことがあるので量の見当はつく。足りないかもしれないが「失敗します!」と宣言しているせいだろう、これで充分な気もしてくる。イカもふしぎな生物だが、人もまた然り。
お歯黒にして遊びたい気持ちを抑えつつ『墨汁のう』から取り出した墨。個体によって量がちがう。
絞り出しているうちに、黒々とした墨が指先につく。それを見たら「ぜったい失敗したくない!」という気になってきた。
いよいよ実践。初の魚拓(イカ拓)
イカ本体の水気をキッチンペーパーでよく取り、墨をつけていく。筆や刷毛を用意していたが、結局は指でなすりつけるカタチとなった。
ゆっくりと布に置いて、手のひらや指で慎重に押さえつける。
終始ニヤけていましたが、これがイカを目の前にしたわたしのデフォ。脳内は真剣そのもの。
見事では? 額に入れて飾りたい気分だ。
セピア(イカ墨)色のイカ拓。ちょっとこれ、見事すぎやしませんか。
これほど上手くいくとは思っていなかったので笑いが止まらない。やっぱり人は、なにかに成功したとき笑顔になってしまうものなんだな。
そういえば「うまいイカ」の企画だった
思い出した。編集部から打診されたのは「うまいイカ」の企画だ。
(イカ拓の)上手いイカではないだろうし、おそらく「旨いイカ」ということになる。任務を遂行するためにここはひとつ、この墨にまみれたイカも洗って調理しないとならない。
十八番だったイカと大根の煮物を作ることにしよう。
ひさしぶりの料理、あっさりとまあまあの出来ばえで、皆はおいしいと言ってくれたが……。
わたしとしては味よりもまず、指に染み付いたイカ墨(?)の臭いが気になって仕方ない。
上手いイカ拓で作った料理はそれほど旨くはない(制作者は)。……ということになるだろう。
イカ拓の行方
イカ拓だが、自室に飾るには少々臭いがきつすぎるしサイズも大きい。そこで、同じくイカ好きの父の部屋にそっと置いておいた。
数日たった今も、返事は一切ない。