まず最初のコラムはこちら。編集部・古賀の「人生が動いた瞬間」です。
エピソード8「箸でつつくんでいいよね」(古賀及子)
不器用な上に性格もがさつなため行動のなにもかもが雑である。
勢い身のこなしも美しいとはいえず、お作法ごと、特に食事のとり方にはコンプレックスを抱きっぱなしであった。が、その自信のなさに少しだけ光を刺してくれたのが今日の一言だ。
数年前、人女子数名が私の誕生日を祝うために自宅に遊びに来てくれた。ごちそうを食べてからホールのケーキにろうそくを立てて吹き消して。
直後に友人の一人が言ったのだ。いつも気がつき身のこなしも美しく、それこそいつも箸の取り方ひとつからしてきちんとしている友人が。
「ケーキ、面倒だからみんなで箸でつつくんでいいよね」
ケーキを、箸で。いや、そこはちゃんと切り分けてフォークで食べたい!
と思ったあとでハッとした。なんだこのお上品な感情は。私に「ケーキをいただくのに箸でつつくのなんて嫌よ、フォークでいただきたいわ」と思える力があるとは。
自信がついたので、友人達と楽しく箸でケーキをつついた。
自分とは別世界だと思っていたお上品の世界。友人のちょっとした一言から、一瞬だけ「あっち側」に身を置くことになった古賀さんのエピソード。人生の因果をゆがめる一言である。
ところで、コラムのタイトルがなんで急にエピソード8から始まったのか気になる方もおられるかもしれない。何を隠そうこの連載は、会員制コンテンツ「デイリーポータルZ友の会」の試し読みコーナーなのである。ほかにも「ご飯が温かいから(カレーは)温めなくていいわね」「焼き魚を食べたら手を洗おうね」など、胸の奥に響く一言が15編(2016年2月現在)読める。
友の会の紹介は記事の最後にしますが、早くも気になってしまった方はこちらのページへどうぞ。
続いては、ライター江の島さんが当たり屋にあった話。
「拝啓、母へ。当たり屋にあいました。」
その日は仕事が長引き、心身ともに疲れた私はいつもは行かない銭湯に行くことにした。中目黒にある「光明泉」という銭湯である。ここは炭酸泉というものがある。二酸化炭素が含まれており、シュワシュワとするのが特徴だ。入浴すると、小さな気泡が肌に付着し、普通のお湯とは違うのがわかる。疲労回復だけではなく、神経痛から糖尿病まで色々と聞くらしい。効能の幅が広すぎはしないか。
そんな疑問を考えながらも気持ちよく入り、リフレッシュして銭湯を出た。生まれ変わった気分である。
足取りも軽く、帰ったら何を食おうか考えていた。「からあげ食べたいな。チキン南蛮もいいな」と。そして、
こちらも悪いと言えば悪いのだが、歩きスマホをしていた。スマホの画面を見ながら、左の方から何かが向かってくるのがなんとなく見えたのだ。
そして、人にぶつかり「すいません」と謝罪しながら、その場を立ち去ったのだが、後ろから人が迫ってくる気配を感じた。しばらく歩いてから、肩をつかまれ、「今、当たりましたよね?」と声をかけられた。
「うわ、なんか嫌だな」と思いながらも、こっちはからあげを食べることで頭がいっぱいである。「本当にすいませんでした。」と謝罪したのだが、相手は「iPhoneこんなになっちゃったんですよ」と画面がバキバキに割れたiPhoneを出して見せてきた。明らかにだいぶ前に壊れて、使えなくなったのだろうと推測されるほどに画面が割れている。その男性が言うには、先ほどまで電話ができていたのだという。嘘だ。絶対に嘘だ。ピノキオだったら、30cmは伸びているだろう。
「壊れたからお金を払え」「警察には家庭の事情で入れない」「俺は父親が弁護士だ」と色々と刺激的なことを言ってくる。その勢いたるやいなや、ブラジルまで鼻が伸びる勢いである。
言い争いをして、30分くらい経った。こっちはもう決着をつけて帰りたいのだ。面倒になって「じゃあ、どうすればいいんですか!いくら払えばいいんですか!?」と聞くと、「修理代は3万円ぐらいが相場だよ」。
高い。こんなわけのわからないことに3万円も出したくない。「終電でもう帰らないといけないのですが、財布には3000円しかありません。1000円は交通費で残したいので、2000円でもいいですか?」決死の思いで聞いた。お願いだ。もう帰らせてくれ。良いって言ってくれ。
「しょうがない。いいよ」
いや、いいんかい!と心の中で突っ込んだが、これで帰れる。2000円渡して、そそくさと家に帰った。
その日、枕は涙でびしょびしょになった。2000円…。
追伸、牛乳は飲むと風味が口の中に広がりながらも、なんだかさっぱりとするそんな牛乳でした。
なぜさいご急に牛乳の話を始めるかというと、これはもともと銭湯の牛乳レビューの連載だからである。急に違う話を始めたのではなく、これが本題なのだ。時に9割余談。これが、友の会コラムである。
デイリーポータルZ本体の記事は、まずライターが編集部と相談してネタを決定、執筆したあとにも編集部でチェック、時には手直しをお願いしたりしたのち、公開する。
この友の会コラムの特徴は、編集部が口を出さない点にある。なのでライターが連載テーマにかかわらず、書きたいことを勝手に書いていたりする。そんな私服高校みたいな自由な校風も、デイリーポータルZ友の会の魅力だ。入学はこちらのページからどうぞ。
最後にもう1本。ライターさくらいさん、黒歴史の隠滅に失敗する話。
描いたマンガをどうするか
これまでの話は小学生のころの話だが、ここからは中学生以降。夜な夜な適当な学園モノを描いていた。家が隣同士の幼馴染が、親たちに共同部屋を作ってもらってそこをたまり場にする……って「タッチ」か。
登場人物たちの人間関係がそんなにどうなるわけでもなく、ただ学祭のミスコンで盛り上がるだけ……というしょうもない話で、主に絵や衣装を描きたかったんだと思う。ストーリーは二の次……ってマンガである必要はあったんだろうか。けど一応設定考えるのは楽しかった。
で、高校生になったころふと気付いた。家族に見つからないように、これをいつか捨てなければ。当時「家のゴミ箱に入れる=必ず見つかる、読まれる」と思い込んでおり、なにを思ったかまず実家の倉庫の軒下に隠した。
これじゃないけど、こういう付録のノートを使って描いてた
そして1年後、高2。「軒下ではいつか見つかる……!!」と不安になり、苦労して入れた軒下の奥の方から変色してるがまだまだ読めるノートを取り出す。そして迷いに迷ったあげく、家の前の川に捨てることに。「これを……できるだけ遠くへ……!!」と円盤を投げるように川へ向かって放り投げたが、草に引っ掛かった上に水流もなくビクとも移動してくれない! 幸い通りすがりの人に見つかって拾われるような位置ではなかったので、大雨が降ってボロボロになって消えろ……と念じてその場を離れた。
「軒下の奥の方から変色してるがまだまだ読めるノートを取り出す」のあたりで息を呑みました。「これを……できるだけ遠くへ……!!」にいたっては完全にクライマックスシーンのセリフですが、そのあと割とバッドエンドです。
こちらはさくらいさんが少女漫画の思い出を語る連載。いまのところ全5本ですが、最後は「小学生女子の知人が欲しい」とこれも願いで締められております。
最後に、そんなコラムがよめるデイリーポータルZ友の会のご紹介です。
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というわけで、コラム紹介は来週も続きます。友の会に入るつもりがない人も、コラムだけでも読んでって!