都庁の展望室は窓ガラスがあんまりきれいじゃない
1日目。集合場所に指定されたのは目黒区の西郷山公園。
夕焼けハンター・熊山准さん(41歳)
本業はフリーランスのライターで、ITからアウトドアまで守備範囲は広い。夕焼けハンティングは趣味だというが、話を聞くと完全に趣味の域を超えている。
まずは、彼が撮った夕焼け写真を見てみよう。
高尾山頂から望むダイヤモンド富士
「年に一度、12月のクリスマス前ぐらいに富士山の真上に太陽が沈むんです。これを『ダイヤモンド富士』と呼びます」
徳島~東京間のフェリー上で見た妖艶な夕焼け
「実家が徳島なので、帰省の際は夕焼け目当てで乗ることもあります」
浅草アサヒビール本社ビルの展望ラウンジから
「ビルの最上階にあるんですが、周りに高い建物があまりないので、穴場の夕焼けスポットです」
新宿マルイ本館屋上より
「新宿で空が焼けそうな時は、迷わずここか伊勢丹の屋上に行きますね」
都内のオススメスポットは、ほかに渋谷ヒカリエ11階のスカイロビー、豊洲ららぽーと付近、横浜大桟橋など。都庁の展望室も有名だが、「あそこは窓ガラスがあんまりきれいじゃなくて…」と残念がる。
エベレストを照らす夕焼け
最後にエベレストが出てきた時点で、彼の本気度がわかってもらえただろうか。もちろん、自身で出かけている。
ちなみに、これらの写真は「過去に撮った中で印象的だった夕焼けを」というリクエストで送ってもらったものだ。
夕焼けスポットは季節によっても変わる
それにしても、夕焼けのどこに惹かれるのだろうか。
「カッコつけて言えば、夕焼けには自然界のすべての色があるんです。ピンク、青、黄色、緑と、いろんな色が同時に空に現れる。あとは、たとえパッとしない1日でも夕焼けがきれいだと、なんか達成感がある(笑)」
山が好きでよく出かけるそうだが、山小屋の夕食がちょうど夕焼けタイムに出るため、いつも素泊まりにして夕焼け優先で動いているという。
さて、西郷山公園だ。
ぐるりと遊歩道が巡る
「ここは夕日が沈む西側が断崖になっているので、夕焼け鑑賞にはもってこいなんです。ただし、夏は日没方向が北寄りになって展望方向と合わないためよろしくない」
夕焼けスポットは季節によっても変わる。
夕焼け鑑賞のお供たち
デジカメはSONYのNEX-6で、本体とレンズを合わせて15万円ぐらい。スマホは撮影用と後述のアプリ参照用。偏光タイプのサングラスは「ずっと太陽を見ているとまぶしいので」。防寒用の手袋はスマホ操作ができるタイプのものだ。
「スマホに夕焼けソングを集めたプレイリストを入れて、よくイヤフォンで聴きます。一人でドラマに浸れるのでオススメですよ(笑)」
犬の社交場でもあった
待つ
ふと、「『夕やけニャンニャン』というテレビ番組がありましたね」と水を向けると、「当時は小学生だったので、ちょっとお兄さんの番組というイメージです」とのこと。
待つ
この日の日没時間は17時だったが、夕焼けはその前から始まるそうだ。
じつは太陽が沈んだ後のほうがきれい
なお、公園にはほかにも夕焼け仲間がいた。
じっと西の空を見つめる紳士
話を聞くと、夕焼けや星空を撮るために時々ここに来るという。
「東京は空が広い場所があまりないからね。夕景は時間の経過とともに変化に富むのが面白い」
また、犬を散歩させているマダムとも話した。
「前は高いビルもなくて富士山がきれいに見えたのよ」
マダムとヨハン君
マダムは毎年恵方巻きを大量に購入するそうだ。「またここにいらっしゃるなら持ってくるわよ」とおっしゃってくれたが、予定が合わなそうなのでお気持ちだけをいただいた。
様々な人の人生模様に想いを馳せているうちに、日が暮れてきたようだ。
オレンジのダウンは夕焼けへのオマージュか
言葉はいらない
これほど真剣に夕焼けを見つめたことはなかった。しかし、その色味といい、常に姿が変転するところといい、焚き火にも通じる趣がある。
以下2枚が熊山さんが撮影した夕焼けだ。
空が赤く染まり…
沈み切ると富士山が姿を見せる
「夕焼けって、じつは太陽が沈んだ後のほうがきれいなんですよ。1時間ぐらいは見頃が続きます。だから、一回見に来るとトータルで3、4時間かかる」
次のページでは、いよいよ都内最強の夕焼けスポットが登場します。
僕、高所恐怖症なんですが大丈夫でしょうか?
2日目。「都内最強の夕焼けスポットをご案内します」といって指定されたのは六本木ヒルズ。
展望台があるのは知っているが
「いえ、さらにその上の屋上スカイデッキです。ここは晴れていれば2、3日に1回は来ています。夕焼けのために年間パスポートも購入しました」
光のフェルメール、闇のレンブラント、夕焼けの熊山
ハンターにお伝えした。「僕、高所恐怖症なんですが大丈夫でしょうか?」。答えは「そんな下が丸見えなわけじゃないので問題ないはず」。
2300円を払ってエレベーターに乗り込む。最上階の52階で降りて、そこからは階段だ。
着いた。
機材をチェックするハンター
地上238メートルのオープンエアは人生初の体験だ。
「この高さの屋上で遮るものがないというのが、最強の夕焼けスポットたるゆえんなんです」
皆さん、さっそくフェンス際へ
記念写真を撮る方も
ここから動けない
たしかに真下が見えるわけではないが、この高さでこの開放感はまずい。「でも取材だし」「いや無理だ」。3分間の葛藤ののち、熊山さんに小声で事情を説明して、中腰のまま下階の屋内展望台フロアに戻らせていただいた。
スマホで撮る場合は画面の太陽マークを下にずらす
1時間後。「いやあ、よかったですよ。やっぱりここは鉄板」。満足そうに熊山さんが戻ってきた。下の2枚が彼が撮った写真。
日没前
おお、これはすごい風景だ。そして、写真で見るぶんには怖くない。
徐々に染まる
日没後
これが「夕焼けには自然界のすべての色がある」というやつか。夕焼けは日没後、という彼の持論もうなずける。
なお、52階の屋内展望台フロアでは夕焼けの撮影テクなども教えてもらった。
「レンズをガラスにくっつけると、室内の明かりを拾わないのできれいに撮れます」
こんなかんじ
「あとは夕焼け全体を広く撮るか、グッと寄ってアップで撮るかのメリハリも大事ですね」
実際に撮ってみると…。
あらあら、きれいだわ
スマホで撮る場合は太陽に露出を合わせて、さらに画面の太陽マークを下にずらす(露出を下げる)と、いいかんじのグラデーションが出るそうだ。
「インスタなどで加工する時、白トビは直せないけど暗いのは明るくできるので」
右の太陽マークを押し下げる
また、熊山さんはスマホの有料アプリも活用している。
「『Sun Seeker』というアプリなんですが、これは現在地から太陽の位置と軌跡がわかるので、夕焼けチェックに便利。次の引っ越し先もこのアプリを参考にしながら決めようと思っています」
まさに夕焼けハンターである
夕焼けはおいしい
かくして2日間にわたる夕焼け鑑賞ツーが終わった。風景として美しいのはもちろんだが、ハンターが言うように夕焼けを堪能すると達成感、満腹感が得られる。
結論。夕焼けはおいしい。
そして、夕暮れ時はみんなやさしい気分になるのか、知らない人との会話もおだやかに弾んだ。恵方巻きのマダムは元気だろうか。今年の恵方を調べてみると南南東。夕焼けを見ながら「がぶり」とはいかなかったようだ。