インターネットの牡蠣まつり 2016年2月3日

カキは宇宙につながっている

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カキと天気の関係はあるのか。そりゃあるだろう。あるとしてもどれぐらいあるのか。
デイリーポータルZで「あと出し天気予報」を連載中の気象予報士増田さんにカキと天気の関係について話を聞いてきた。
結論から言うと、カキは宇宙につながっていたのだ。

(この記事はとくべつ企画「インターネットの牡蠣まつり」シリーズのうちの1本です。)
増田雅昭 / ウェザーマップ所属気象予報士。 林雄司 / デイリーポータルZウェブマスター。



夏は暑すぎても寒すぎてもいけない

互いにカキの生態について調べてカキ料理の店に集まった。目の前にしてカキへの思いを高ぶらせるためである。まあ、あと食べる。
林:2012年は海水温が暑くて松島でカキが大量に死んだというニュースを見つけました。
増田:2012年ね。この年は梅雨が7月25日にあけて9月の半ばまで2ヶ月間ずーっと暑かった。それで平均気温があがっちゃった年です(注:増田さんが梅雨明けの日を記憶していることに注目)。
資料を持ち寄っての会である
資料を持ち寄っての会である
林:2008年にも高温で有明海のカキが死んだそうです。カキってよく死んでますね。
増田:もともと夏は1~3割ぐらい死ぬらしいですよ。猛暑だともっと死ぬらしい。 増田:海といっても浅いところですよね。だから気温の影響をもろに受けてしまう。
林:海水温って何が影響してるんですか?
増田:日本が暑くなって海水温も高くなるのは太平洋高気圧が強いと、ですね。
店員「生ガキでーす」
店員「生ガキでーす」
林:おおお
増田:うまーい

林:えと、なんでしたっけ。あ、そうだ。太平洋高気圧が強いとその年の冬に食べるカキが死んじゃうってことですね。
増田:そうですね。じゃあ冷夏だといいのかというと、冷夏だとほかのカキが死なないから栄養分の取り合いで小さくなるそうです。暑すぎても寒すぎてもいけない。
林:めんどくさい生き物ですね。ちょうど良くないといけないのか。

秋に太平洋高気圧が居座るとカキが大きくならない

林:カキは夏に産卵して痩せて、そこから太っていくそうです。
増田:寒くなると栄養をなかに蓄えるスイッチが入るらしいですね。
林:秋に温度が下がらないというのはなんでですか?
増田:太平洋高気圧がしつこく居座っているからですね。それが退くとあとはシベリア高気圧、冬将軍が登場します。つきつめると天気はそのふたつです。
林:そのふたつの拮抗が天気を左右している
増田:カキが成長するかどうかも握っている。
増田「もうカキのらないな…」
増田「もうカキのらないな…」

暖冬だとほかの貝に栄養をとられる

林:冬はどうなんだろう。暖冬は関係ないのかな。あ、暖冬だと栄養をためないから太らないのか。
増田:暖冬だとほかの貝が元気になっちゃうので栄養分を取られて大きくなれないらしいです
林:弱い!
増田:生存競争に負けてしまう。

春のカキはシベリア高気圧が鍵をにぎる

林:では春は?
増田:春から夏の気温が順調に上がらないと産卵に向けてのスイッチが入らないそうです。
林:またか! 春から夏に気温があがるというのは、なにが鍵を握ってますか
増田:シベリアの空気がいる状態、寒の戻りなんて言ったりしますが、あれだと夏に向けて海水温があがらないですね。
増田:それから風も重要だという話があって、適度に吹いてないと産卵のスイッチが入らない。
林:いよいよもってわがままだ。春の風の大元ってなんですか?
増田:春から夏に向けての風は南風なので、太平洋高気圧ですね。太平洋高気圧が顔を出し始めると南風がファーっとはいってくる。そしてカキの産卵のスイッチがはいるんですね。
林:シベリアの空気が退いて、太平洋高気圧が顔を出すと産卵のスイッチがはいる。
増田:ぜんぶ適度じゃないといけない
林:ぜいたくですね
増田:僕も今幸せの絶頂です
林:いまたべてるのも様々な困難を乗り越えてきたわけですね
増田:これはある意味観測の原簿みたいなものだ。これで振り返られる。そういえば去年の天気はこんなだったなあ。小さいから負けたんだろうなーとか。
カキに天気を見る増田さん
カキに天気を見る増田さん

インドシナの雨季がカキにつながってる

林:雨は多すぎても少なすぎてもダメだとカキの通販サイトに書いてありました。
夏に雨が少ないとエサになるプランクトンが流れてこない→生まれたばかりの稚貝が育たないと書いてある論文を見たんですが、カキの産地の広島の雨ってどこが影響してますか?
増田:初夏だと梅雨前線ですね。いわゆるカラ梅雨だとだめなんですね。
林:梅雨前線ってタイまでつながっているんですよね。
増田:そう、インドシナ半島やベンガル湾までつながってます。あのへんがカキの命に関わっているとは。風が吹けば桶屋が儲かる的な話だ。
梅雨前線!
梅雨前線!
林:カラ梅雨というのは梅雨前線が来ないってことですか?
増田:行き過ぎちゃうこともあります。北へあがりすぎると夏になってしまう
林:雨が多くてもダメというのは?
増田:雨が多いと山から海にいっぱい水が入る。すると水温が下がって産卵のスイッチが入らない。
増田:(とまらなくなりますね)

林:(生ガキをもう一皿もらいましょう)
林:太平洋高気圧が強すぎるとカキが死ぬ。そのまえに梅雨前線が来なかったり通り過ぎると稚貝が育たない。太平洋高気圧とか梅雨前線とか有名どころが名前を出しますね
増田:そんな大物たちがこの小さなカキの命運を握っているというのがドラマチックです。

ちょうどよくないといけないカキの1年
ちょうどよくないといけないカキの1年

そもそも太平洋高気圧ってなんですか

林:太平洋高気圧ってでかいんですよね
増田:北太平洋全体にあって、その尻尾が日本にかかっている
林:ハワイって気象予報士いるんですか?予報することもないでしょう
増田:どうでしょうね。ハワイに行ったとき、テレビ見たらアメリカ全体の温度が流れてましたね。(ハワイでも天気予報を見ている増田さんに注目)
林:太平洋高気圧ってなんで大きくなったり小さくなったりするんですか?
増田:つきつめると…太陽、と地球が傾いてるから
林:そこまで大きい話ですか。エルニーニョは?
増田:エルニーニョだけで全てが決まるわけではなく、あろうとなかろうと太平洋高気圧は大きくなります。天気のスタートは全部太陽なんです。太陽がすべて。太陽があるから天気がうまれる。それによって四季がうまれる。
林:そしてカキが死んだり元気になったりする。

シベリアの高気圧ってなんだ

林:逆に、シベリアの寒い空気ってなんですか?
増田:北極周辺で空気がどんどん冷えて溜まっていくんです。あのあたりは太陽があたりにくいから。その冷気がシベリアの大地でさらに冷やされるんですね。
林:また太陽だ
増田:そう!冷たい空気がどんどん成長していって、そこにぽんと背中を押す南向きの風があると寒気団がスタートする。
林:日本でストレスためてる人がふとしたきっかけでインドを放浪しちゃうみたいなものですかね。寒気団が動き始めるきっかけってなんですか?
増田:偏西風です。あれがまっすぐだと、南に下りてこない
自分のジャケットを地球、腕を偏西風として説明する増田さん。居酒屋が急にお天気コーナーに!
自分のジャケットを地球、腕を偏西風として説明する増田さん。居酒屋が急にお天気コーナーに!
増田:偏西風がぐにょーんとまがると寒気団は下りて行っていいんだ!と思う。
林:せき止めていたガードがゆるくなるみたいな話ですか
増田:偏西風が蛇行しても、冷たい空気がないといけない。今年とかはそうですね。暖冬。
今回(1月24日ごろの寒波)は少ない寒気をためてためてためて、どん、と上手いタイミングで出たから沖縄でみぞれを観測した。

林:沖縄、奄美は盛り上がりましたね。
増田:奄美のみぞれの観測の瞬間、115年ぶりというのはロマンですね。 北海道とか関東にはよく来るレベルの冷たい空気だったのですが、それがたまたま南に行った。
増田:奄美の気象台の人は構えてましたね。来るかもと思って興奮して待ってたはず。 僕、名瀬の測候所に電話して聞いたんですよ。普段はそんなに頻繁に確認しないのに、今回は分単位で言ってました。 「2分間みぞれになり、そのあと氷あられになり、そのあとまた2分間みぞれになり、そのあと雨になりました」って。 初雪のときって気象庁が発表するんですけど、初雪でしただけではなく、1901年以来115年ぶりですと備考欄に書いてあった。調べて備考欄に書いて待ってたはずですよ。

ぜんぶ太陽のせいだ

林:偏西風が蛇行して、北極で冷えた冷たい空気がやってきて、カキが太る。でかいはなしですね。蛇行するのってなんでなんですか?
増田:流れが早いとふらふらしないんですが、ゆっくりだとふらふらしやすくなる。
林:なんで弱くなるんでしょう?
増田:なんで弱くなるんだろう。そこは気象のロマンですね。
林:ロマン!
増田:偏西風って熱い空気と寒い空気の間に吹くんです。そのコントラストが大きいと速くなるんです。そこが小さくなると遅くなる。寒気の側だけでは決まらなくて、南の方も関係してくるんですよね。
雨がふるのも原因は太陽ですから。赤道の空気があったまる→空気が動き始める→動くことが風になって→風が雲を呼び→雲が雨をおこす。
林:まずは暖まるところから始まるんですね。
増田:暖めてるの誰だ?というと太陽なんです! 太陽なんだよ!太陽なんだよ!って言ってると酔っぱらいみたいですけど
林:大丈夫です。その前の話も聞いてたので。
いま来たウェイトレスは危ない人だと思ってるかもしれないですけどね。
カキが大きくなったり痩せたりするのも、元をたどると、太陽なんですよ!
カキが大きくなったり痩せたりするのも、元をたどると、太陽なんですよ!
増田:赤道で暖められた空気があがって、離れたところに降りてくる。そこが太平洋高気圧です。赤道って砂漠がないじゃないですか。赤道のあたりは雲があるから雨が降るから熱帯雨林なんですよ。
林:そうか。
増田:だから砂漠もカキも太陽ってことですよ。生ガキいいですか?
今日の結論
今日の結論

人間も温度が下がるとカキが食べたくなるスイッチが入る

林:秋になって前日より急に気温が下がると鍋の材料が売れるのが小売業の定説らしいですね。
そこでカキも売れ始める。
増田:人間もスイッチはいるんですね。
林:カキは太り始めて、人間は食べたくなる。
増田:そのおおもとは太陽。
林:宇宙に操られてました。
「カキ!」「宇宙!」
「カキ!」「宇宙!」
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