特集 2015年12月26日

戦後の風景を残す農連市場で一日店長

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再開発が迫る農連市場で真夜中に1日だけお店を開いた。

沖縄県那覇市の市場といえば「公設市場」が有名だが、戦後のたたずまいそのままのディープな市場が近くにある。その名も農連市場。
農連市場は主に飲食業などの業者が買いに来る市場なので、もっとも賑わうのが朝の2時~5時。
構造上の危うさから今では絶対に建てられない木造トタンの建物は、ノスタルジックで味わいがあり、これまで何度も映画やドラマのロケ地として登場している。

これぞ沖縄という風景だが、老朽化のこともあり再開発されることが決まった。
悲しい!もったいない!という気持ちがいっぱいなので、一画を借りて1日だけお店を出してみた。
農連市場とはどんな市場なのか、ぜひ知ってほしい。
大阪出身。沖縄に流れ着いて10年ぐらい。「ぱちめかす」という沖縄方言が、やることと響きのギャップがあって好き。

前の記事:ゴーヤーの中のニコちゃんに会いたい


再開発が迫る農連市場

農連市場は終戦後に闇市として誕生、その後1953年に「農連市場」として正式に開設された。
それから60年以上、以前のような活気は失われてしまったらしいが、今なお元気におばちゃんたちが働く市場である。
一番忙しいのは真夜中から明け方にかけて
一番忙しいのは真夜中から明け方にかけて
基本の販売方法はは売り手と買い手が話し合いで取引する相対売り
基本の販売方法はは売り手と買い手が話し合いで取引する相対売り
そんな農連市場で長年議論されてきた再開発。とうとう2015年11月に農連市場地区の再開発の工事着手の許可が出て、12月から市場の北側の解体作業がはじまり、2018年度に完成するそうだ。

那覇農連市場、来月解体へ 完成は2018年度(沖縄タイムス)
北側のお店はすでにほとんどが移転して閉まっている
北側のお店はすでにほとんどが移転して閉まっている
完成予定イメージは現在の農連市場とはまったく違いピカピカで、周辺の道路も広くなるもよう。
イメージはリンク先からご確認いただきたい

部外者が簡単に口にしてはいけない気持ちと、部外者だからこそ言いたい気持ちがごっちゃになるが、...言っちゃいましょう!
言っちゃうぞー!

これ、再開発したらダメになるパターンじゃないですか?
本当に大丈夫?


いまの雰囲気と、あの元気なおばちゃんたちは沖縄の宝、重要文化財指定をしていいぐらいだと思うのだ。
本当に建て直すしか方法はないのか。ああ、壊すのやめてほしい!やーーめーーてーーー!

農連市場でお店を開店

農連市場は1日300円で場所を借りることができる。
しかしその話は聞いたことがあったものの、どうやったら借りれるかはわからなかったので、まずは農連中央市場事業協同組合へ。
取材したいことと場所を借りたい旨を相談すると、どちらも快く受け入れていただけた。

協同組合で伺ったお話をまとめると
・農連市場でお店をしているのは、畑から野菜を持ち込んで直接売る農家さんと、卸しや農家さんからものを買って売る仲買さん
・仕切りや台を置く場合は月貸しになり広さによって値段は変わる
・場所だけ使う場合は1日310円
・消費税のために10円あがったけど、300円はずっと前から変わっていない
・30年前から300円だった。なんでかねー
・1日単位で貸すのは天候によって畑に行けない日もある農家さんのため
・部外者で借りたいと言ってきた人は初めて
・これから借りたい人が増えてきたら面白いかもしれない
・農連市場は人とのふれあいが良いところ
・やるなら朝の2時ぐらいからがいいはず
・1歳の子供がいる?うーん、昔はバナナ箱で子供を寝かせていたと聞いているよ
・お金は当日に支払い。誰に払うかはその辺の人に聞いてください
なんと取材やロケは数え切れないぐらいあったけれど、「場所を貸してと言ってきた人は今回が初めて」だそう。
悪い前例になったらどうしましょう。
事務所で見せていただいた昔の農連市場の写真。人がすごい
事務所で見せていただいた昔の農連市場の写真。人がすごい

1日だけの農連市場内DEE商店

ということで当日である。言われた通り午前2時に農連市場へ。
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まさかの息子1歳児とともに
まさかの息子1歳児とともに
息子はまだ夜中に何度か起きてしまうので連れてきた。
本当はもっと息子が大きくなってから真夜中店長をしたかったが、再開発が間近!と思うといてもたってもいれなかったのだ。
いまは移動したため目を覚ましているが、再び眠ったらバナナ箱布団に寝かせるつもりである。

今回は息子連れだったため、露店ではなく屋良商店さんのお店の前をお借りすることに。
息子の布団はお店の中に敷かせてもらっている。市場事業協同組合のみなさん、屋良商店さんありがとうございます!
右側手前にある仮設店舗が屋良商店さんのお店
右側手前にある仮設店舗が屋良商店さんのお店
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屋良商店さんはもともと川を挟んだ市場の北側でお店をされていたが、北側から解体されることになっているので、市場内の仮設店舗に移転されてきたそう。
北側が完成後にいまある南側のお店ごと北側へ移転し、その後現在の農連市場全体が解体されるのだという。
お姉さんがお店で惣菜を売り、弟さんはバイクで野菜や豆腐などの加工品を給食用に学校に届けてと、おふたりで忙しく働いておられた。

午前2時はお店を開けている人もいるが、まだ人はそんなにいない。
まだ市場の人も少ない
まだ市場の人も少ない
屋良商店さんによると、お客さんが来るピークは4時~5時頃。いまはその時間に向けて仲買店へ野菜を運ぶ方や農家の方が多いそう。
前日に収穫したウンチェー(空芯菜)の仕分けをする農家の方
前日に収穫したウンチェー(空芯菜)の仕分けをする農家の方
一方わたしはというと、一人では心細かったのでDEEokinawaのスポンサーでもあり面白い雑貨を多数取り扱っているTELEFORGE(てれふぉーじ)さんと一緒にお店をすることに。
TELEFORGEさんの編みぐるみ沖縄島野菜
TELEFORGEさんの編みぐるみ沖縄島野菜
TELEFORGEさんの編みぐるみのーまんじゅう
TELEFORGEさんの編みぐるみのーまんじゅう
TELEFORGEさんの編みぐるみ沖縄そばとタコライス
TELEFORGEさんの編みぐるみ沖縄そばとタコライス
TELEFORGEさんの編みぐるみイラブチャー
TELEFORGEさんの編みぐるみイラブチャー
DEExTELEFORGEさん商品
DEExTELEFORGEさん商品
DEEokinawaからはTシャツと缶ジュースを。とりあえずその辺にあったものを持ってきただけなので、TELEFORGEさんを誘ってよかったと思った。
さぁ買って行って!
さぁ買って行って!

市場をうろうろ

なんやかんやで時刻は午前3時。
真夜中なのに目が冴えてしまったようで息子がぜんぜん眠らなかったので、お散歩をかねて市場をうろうろしてみることに。
午前3時に起きている1歳児
午前3時に起きている1歳児
食堂はまだ閉まっている
食堂はまだ閉まっている
農連市場では野菜だけでなく鮮魚やお肉も売られていた
農連市場では野菜だけでなく鮮魚やお肉も売られていた
薄利多売
薄利多売
川の北側。数軒開いているお店があった
川の北側。数軒開いているお店があった
解体工事のお知らせ
解体工事のお知らせ
洋服も売っている。真夜中のブティックってなんだかカッコイイ
洋服も売っている。真夜中のブティックってなんだかカッコイイ
ゆくいどぅくる(休むところ)
ゆくいどぅくる(休むところ)
ゆっくり1周したが息子は眠るどころかテンションがあがる一方だったので、お店はTELEFORGEさんに委ねて、いったん帰宅して息子をちゃんと寝かせることに。
連れ出してごめんね息子よ。

4時。市場が賑わってくる

一時離脱から帰って来たら午前4時。
市場には買い物客の姿や、働く人の姿が増えて、俄然活気付いていた。
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お仕事中の市場の方に少しだけお話を伺った。
市場理事長である下地さん
市場理事長である下地さん
「わたしはこの仕事は午前3時~9時ぐらいまでだけど、それから理事の仕事もします。なので終わるのは遅いですね。
19時から出勤して9時までいる人や、農家さんも早朝の人もいるし、お昼からの人もいる。お昼は注文があった品を持ってくるとか。
なので市場では誰かが24時間働いています。
早朝はお弁当や商店などの仕入れの人が来るので、そういった集中している時間はありますけどね。
ここは駐車場がないから、昔は複数の店舗から注文を受けて品物を買ってお店へ配送するということを専門にやっている人が結構いたんです。
でもいまは自営業の人が直接仕入れにくることが多いと思います。朝まで仕事をして翌日の分を仕入れして帰るって人がいますよ。」
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続いては1953年の開設当初から市場内でお店を営む市場のお母さん。
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「ここは仲買屋だね。セリ市場や農家さんから買ってきた商品を売るよ。袋には自分で詰めるわけさ。
トマトは熊本産。さっき2時頃に仕入れてきたよ。」


もう80歳を過ぎているそうですが、めちゃくちゃ元気だ。
最年長では?と教えていただいた92歳のお母さん
最年長では?と教えていただいた92歳のお母さん
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「ごぼうはキンピラにすればいいよ!ごぼうおいしいよ!」

話しながら買い物できるので、食材にあう料理も教えてもらえるのが農連市場の良いところ。

農連市場の連載をしている担当している沖縄タイムスの記者さんも、DEEokinawaが来るという噂を聞きつけ取材に来てくれた。
DEExTELEFORGE商店取材中
DEExTELEFORGE商店取材中
大橋記者の丁寧に書かれた農連市場コラムは面白いのでぜひ読んでほしい。

沖縄の食を支え63年 農連市場、再開発へ ~プロローグ~
沖縄の食を支え63年 農連市場、再開発へ(1)~20歳から働く金城初子さん~

飲み会の帰りで昔農連市場で働いていたこともあるという男性も。
三線を演奏して市場を沸かせておられた
三線を演奏して市場を沸かせておられた
そうこうするうちに2時からいた農家さんが撤収作業へ。
持ってきた分はほとんど売れたそうだ。
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そして市場内打ち上げ。
朝ごはん代わりに市場で売っているてんぷらやコーヒーを買ってワイワイされていた。
「あんたたちなんかは、食べられないまんじゅう売っているのね」
「あんたたちなんかは、食べられないまんじゅう売っているのね」
写真を撮らせてもらっていたら、てんぷらを食べなさいともらった。
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こちらは商店の店番をしていたTELEFORGEのメガネ店長。
いただいた天ぷらを食べていたら、屋良商店さんからこれも食べたら?とモヤシをもらったそうだ。
ありがたいけど、わけがわからない
ありがたいけど、わけがわからない

そろそろおしまい

あっという間に時刻は6時半。
そろそろあの時間だ。

そう、ラジオ体操
農連市場では毎朝ラジオ体操の放送が流れ、みんなで体操をする習慣になっているのだ。
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朝早くというか、徹夜明けのラジオ体操は気持ちよかった。

ちなみに、わたしたちの商店はというと、オープンしてから4時間半。
まったく。なにひとつ売れていない。
市場の人たちが、物珍しさか覗いてはくれるのだが
市場の人たちが、物珍しさか覗いてはくれるのだが
みなさん揃って「面白いけど高い」「ジュースはどこにでもあるからいらない」という反応。
...。
でも売れなくてもいいのだ。
わたしたちは農連市場でお店をしてみたかっただけだから。そしてお店をすることで、市場のみなさんとも仲良くなれた気がするのだから。

しかし最後の最後で、何も売れないわたしたちを哀れに思ったのか、買ってくださる方が。
島マースストラップが2つ
島マースストラップが2つ
sanaePオリジナルマグカップが2つ
sanaePオリジナルマグカップが2つ
マグカップは場所をお借りしていた屋良商店のお姉さんがお孫さん用に、と買ってくれた。
ありがたすぎる!

楽しかった真夜中のお店

ということで、これにて閉店。
最後に場所代を払って終わり。

誰にお金を払えばいいですか?と聞いたら、教えてもらったのは市場で最も古株のお母さんのところだった。
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310円を払ったら領収書代わりのチケットをくれた
310円を払ったら領収書代わりのチケットをくれた
今回お店をやらせていただいてわかったのは、農連市場でもっとも魅力的なのは「人」だということ。農連市場を訪れたことがある人は口をそろえて言う言葉だが、やっぱり本当にそれに尽きるのだ。

この仕切りがない空間だからこその、助け合い、笑い合い。
市場全体が家族のようで温かくて懐かしくて楽しかった。
市場のおばちゃんに子育てのことを相談しているわたし。もはや取材ではない。
市場のおばちゃんに子育てのことを相談しているわたし。もはや取材ではない。
専門的なことはわからないが、老朽化が問題だったら建て直しではなく、補強ではダメなのか。
再開発が絶対なら、市場のおばちゃんたちが今と同じように笑って元気でいてくれるために、わたしたちにできることはないのか。
帰り道はそんなことをずっと考えていた。

北側市場の取り壊しは年明けからはじまるという。
でも農連市場は今日も元気に営業中だ。
これからもずっと元気に営業してほしい。

訪れるもよし、お店をしてみるもよし(その場合は農連中央市場事業協同組合さんに相談を)。
おばちゃんたちは笑顔でみなさんを待っている。

取材協力
農連中央市場事業協同組合さん
屋良商店さん
農連市場のみなさん
TELEFORGEさん
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