特集 2015年12月21日

格安腕時計「チープカシオ」を見つめて

全部合わせても1万円しない
全部合わせても1万円しない
「チープカシオ」「チプカシ」という愛称で呼ばれる腕時計がある。カシオ計算機製の900~2000円ほどで買える製品だ。
安さにもかかわらず機能面の信頼性は高く、そのデザインも印象的。上の写真の通り、現行型の製品なのに昭和の面構えをしているのだ。

21世紀の現在、時空のねじれに存在し続けるかのようなチープカシオ。改めてじっくり見つめたい。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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目が慣れてくるとかっこいい

携帯電話やスマートフォンが普及して、腕時計をする人が減ったという話を聞く。確かにスマフォでも時刻は確認できるが、すぐにパッと見られるのは腕時計の便利さだ。
購入以来、電池そのままで元気に動作
購入以来、電池そのままで元気に動作
私が数年来愛用しているのはこの2つ。どちらも900円くらいで買ったと思う。
かっこいい!…と思うんだけど、どうかな
かっこいい!…と思うんだけど、どうかな
メインで使っているのがこちらのF-84Wというモデル。どうだ、かっこいいだろう。

ただ、購入当初は懐かしさや、むしろダサさを感じた覚えがある。今では本当にかっこいいと思っているのだが、そう思えるまで半年くらいかかったかもしれない。一周回ったかっこよさ、という感じだろうか。

執筆現在、アマゾンで税込み906円で販売中。それでいて結構な機能がある。
ライト!
ライト!
ストップウォッチ機能!
ストップウォッチ機能!
片側から小さく照らすだけなので正直見づらいが、暗闇でもなんとか確認できるライト。ストップウォッチ機能もあり、日常生活用防水も備える。

それらについて「LIGHT」「WATER RESIST」「CHRONOGRAPH」などと、いちいち書いてあるのもいじらしい。わかったよ、お前意外とできるやつなんだよな。

他にもまだ特長はある。
50円玉5枚分の重さ
50円玉5枚分の重さ
軽いのだ。たったの20g。

それゆえ腕にしていても、つけている感じがあまりしない。調べてみたところ、Apple Watchは一番軽いのでも62gだから3分の1ほどだ。
かっこいいと言うよりかわいい系
かっこいいと言うよりかわいい系
続いては予備としてカバンに忍ばせているF-28W。こちらはかわいい系だと思うが、そう感じるようになるにはやっぱり半年くらいかかるかもしれない。

F-84Wより機能が少ないモデルで、ライトもストップウォッチ機能もない。書くことが少ないからなのか、「WATER RESIST」の文字がでかいのがこれまたいじらしい。

それでもF-84Wより勝っているところもある。
表示部右上、月日表示が充実!
表示部右上、月日表示が充実!
カレンダー機能で右のF-84Wが日付表示のみであるのに対して、F-28Wは月日が並んで表示されているのだ。わかりやすい!
裏側もプラ製でチープが加速
裏側もプラ製でチープが加速
50円玉が1枚分少ない
50円玉が1枚分少ない
そしてF-28Wは裏蓋がプラスチック。機能の低さと相まってか、軽量化はさらに進んで16g。F-84Wに比べて20%も軽いのだ。

さて、ここまで紹介した2モデルでチープカシオの味わいはほぼ伝わったと思うが、チプカシの特徴の1つはバリエーションの多さ。他のモデルも入手して観察してみよう。

それぞれの個性が鈍く光るチプカシ

訪れたのは家電量販店。時計売場にはうやうやしくガラスケースの向こうに商品が陳列されているが、チープカシオはこういう感じで並んでいる。
カジュアルに手に取れる親しみやすさ
カジュアルに手に取れる親しみやすさ
ずらっと並んだ2000円以下の時計たち。ちなみに私が男であるため、この記事での紹介は男性用モデルばかりになるが、ちゃんと女性用もラインナップされている。
LADY'S ANALOGの表示がかっこいい
LADY'S ANALOGの表示がかっこいい
デザインも普通っぽいのが揃っていて、普段使いにも抵抗ないだろう。傷ついたり失くしたりを気にしないでいられるのがいい。

ただ、個人的には無難なものよりも、いかにもな感じのデザインの方が気になる。
これぞチプカシ、F-91W
これぞチプカシ、F-91W
改めて購入した1本目は、F-91W-1JF。型番からしてガンダムみたいでかっこいい。チープカシオと呼ばれる時計は、カシオ公式ページの製品検索でもなぜだか出てこないものが多い。これはオフィシャルに載っている数少ないモデルだ。

デザインは青い縁取りを含めて、すでに所持していたものと似ていて、ザ・チープカシオの雰囲気が強い。下部で「WATER [WR] RESIST」 と防水性が強調されているのが趣き深い。
驚異的な電池寿命
驚異的な電池寿命
各モデルの箱にはその特徴が表記されていて、F-91Wの一押しアピールは「電池寿命約7年」。こんなにもつならソーラーじゃなくてもいいやと思わされる長さだ。

しかし、それを超えるモデルも存在する。
無理して言うと、ダサかっこいい系
無理して言うと、ダサかっこいい系
それは、こちらのF-201WA-9AJF。数あるチープカシオの中でも、手に取った妻が「ダサ…」と思わず口にしていたモデルだ。

デザイン性はともかく、ビジュアル面では月日表示を含めて数字が大きく見やすいのが特徴。視認性を重視する場合におすすめしたい。
さらに上行く電池寿命
さらに上行く電池寿命
アラームの単位は「本」らしい
アラームの単位は「本」らしい
7年でも十分だと感じた電池寿命が、こちらは10年。いつ買ったか覚えていられず、電池を換えるタイミングを忘れる確信がある長さだ。

購入価格は税込1340円だが、他のモデルと比べて多機能であるのも特徴。時報やストップウォッチ機能はもちろく、別都市の時刻がわかるデュアルタイム機能もある。アラームは5本設定できて1つはスヌーズ付き。もうおなかいっぱいだ。

さらには「全面発光LEDライト」の表記も。
うおー!見やすい!
うおー!見やすい!
ボタンを押すと、表示部全体が明るく光る。メイン使用のF-84Wの小さな光と比べて、ずっと見やすいぞ。

こういう小さな違いに感動するのがチープカシオ鑑賞のポイントだ。デザインの好みはともかく、機能てんこ盛りだ。

しかしここまでのモデル、バンドが樹脂製で安っぽいという評価もあるだろう。大丈夫、メタルバンドモデルも揃っているのだ。
ま、まぶしい…
ま、まぶしい…
例えばこちら、A168WA-1。バンドが金属製になって安っぽさが解消されたかはともかく、ピカピカ度は確実にアップ。
言いたいことがたくさんあるらしい
言いたいことがたくさんあるらしい
デザインとしてはザ・チープカシオテイスト満点。液晶周囲に並ぶ文字のコントラストが高く、特に饒舌に見えるモデルだ。
ライトが一押しなのか
ライトが一押しなのか
確かにでかく書いてある
確かにでかく書いてある
箱での一押し表記は「ELバックライト」。ELとは本体にも書いてある「ELECTRO LUMINESCENCE」のことだろう。

エレクトロ・ルミネッセンス。必殺技みたいな響きにワクワクさせられるし、コスメティック・ルネッサンスのようでもある。ボタンを押して発動だ。
エレクトロ・ルミネッセンス!
エレクトロ・ルミネッセンス!
おおー! 幻想的!

いや、それは言い過ぎか。とにかく見やすいのはよくわかる。チープカシオと向き合うときには、微妙な違いに感嘆する気持ちを持っていたい。

ただここまでのモデル、デザインがいかにも過ぎて普段使いには抵抗が…という意見もあるだろう。大丈夫、そういうニーズに応えるものもある。
無難系もちゃんとある
無難系もちゃんとある
この辺あたり、どうだろう。ここまでのモデルと比べると随分まとも、いや、普通だろう。大人の腕に巻かれていても大きな違和感はないはずだ。

個人的にはデジタル派なのでチョイスに入らないが、こうした色合いのモデルも欲しい。そして、デジタルにもそうした期待に沿う製品はある。
チープカシオの大人スタイル…?
チープカシオの大人スタイル…?
こちらはA-158WEA-9JFというモデル。これまでのものと比べて、シルバーとゴールドの組み合わせが異彩を放ち、結局のところ無難におさまらないでいるように思える。
言いたいことも少なげ
言いたいことも少なげ
でもなんかニヤニヤさせられる
でもなんかニヤニヤさせられる
箱での一押しはストップウォッチ。機能的には特段のものがないように思えるモデルだが、独特のたたずまいは見ていて飽きない。色合いがゴージャスなのに、トータルではチープという対照性がそうさせるのか。

浮かび上がる謎を見つめて

いろいろなチープカシオを紹介してきたが、向き合う中で見えてきた謎がいくつかある。ここではそれらを考察してみたい。まずは価格だ。
箱表記と値札で額の差がすごい
箱表記と値札で額の差がすごい
このモデル、箱にあるメーカー希望小売価格では税込4536円となるが、購入価格は2030円。半額以下で売られているのだ。家電量販店でこんな割引率が常態化している製品は他にないだろう。

価格についてはまだ謎がある。
割引率の違いに注目
割引率の違いに注目
こちらの写真、左のモデルは希望小売価格2268円に対して、売価は1380円と約39%引き。これでもかなりの割引率だろう。

右のモデルは3780円に対して997円。約74%引きなのだ。どちらも高い割引率ながら、相当違う。なんだろう、この現象は。

まあこれについては、メーカーと販売店がそれぞれ設定しているものとして受け止めるしかないだろう。価格とは別に、製品そのものにも謎が漂う部分がある。
この穴、必要なのかな
この穴、必要なのかな
記事冒頭で紹介した2モデル。他のモデルにはない特徴なのだが、時計部から上に伸びる方のバンドにも穴があるのだ。

ここに穴があっても役に立たないだろう。いや、知らないだけで意味があるのかもしれない。メーカーの窓口に電話をして聞いてみた。

私が質問をすると、虚を突かれたような反応を見せた担当の方。少し時間を取って調べてくださり、判明したのが以下の回答だ。
担当者「特に意味はないです。デザインです。」
デ、デザイン…。未知の機能性を期待していたところだが、答えはデザイン。軽量化とか通気性とか、予想の範囲内での意味もなかったのだ。欲しかったな、意味…。
やたらとたくさん穴のあるモデルもある
やたらとたくさん穴のあるモデルもある
そして、機能の高さという点でも、価格からすると謎めいたものを感じることがある。

時計で最も重要であろう、時刻の精度。日常的に使っている実際の使用感として、ほとんど狂ってる気がしないのだ。
時刻の正しさに個性は出さなくていい
時刻の正しさに個性は出さなくていい
いずれもメーカー仕様によると、精度の平均月差は±30秒とのこと。まずは手持ち全てのチープカシオを電波時計で時刻合わせしてみた。半月経ったところで示す時刻を確かめてみよう。
半月後の結果
半月後の結果
半月なので平均月差の半分である±15秒以内なら仕様通りと言えるだろう。結果は最大で6秒のずれ。

十分にスペック以上の精度と言っていいだろう。これもすごい。

また、機能面での謎と言えば防水性もそうだ。所持モデルは全て仕様に「日常生活用防水」とある。ただ、これまで何度も海やプールに入ったことがあるが、へっちゃらなのだ。
どのモデルにも「WATER RESIST」または「WR」の表記が
どのモデルにも「WATER RESIST」または「WR」の表記が
カシオ計算機も正会員に名を連ねる日本時計協会Q&Aによると、日常生活用防水について「日常生活での汗や洗顔のときの水滴、雨などに耐えられるものですが、水仕事、水上スポーツ、素潜り(スキンダイビング)、潜水には使用しないで下さい」との説明がある。

これまで自分の使い方では、仕様を超えた場面もあったようだ。ではメーカー保証を超えてどこまでいけるか試してみよう。
元気で帰ってこいよ
元気で帰ってこいよ
今回試してみる方法は洗濯機。うっかりポケットに入れたまま洗ったり、気付かず洗濯槽に落としたりということは日常生活の中でもあり得る話だ。

果たして耐えられるのだろうか。ひとつはズボンのポケットに入れて、もうひとつはむき出しで洗濯機で回してみよう。
なんか…ちょっとやり過ぎたかも
なんか…ちょっとやり過ぎたかも
洗濯槽に水が注がれるとさすがに心配になる。洗剤を入れて泡立ちはじめると、罪悪感まで覚えはじめる。

フタを閉めてガコンガコン音がしてくると、さすがにやり過ぎだと思えてくる。メーカーの仕様ではここまで想定していないはず。

しばらく待つと、洗濯完了を知らせる音が響く。救出すべく開ける手も、今さらながらなんとなくあせる。
生還しました
生還しました
そんな心配をよそに、長年使ってきたチープカシオ2機は何事もなかったように正常動作。お前ら、どこまでタフなんだ。

当然ながらメーカー保証外の行為なので、あくまで今回の実験では大丈夫だったというだけ。でも、これからうっかり同じことをしたときもこの調子で頼む。

かっこつけてる感がかわいい
かっこつけてる感がかわいい
機能・価格・デザインという要素が他に類を見ない形で組み合わされた腕時計、チープカシオ。手軽な値段なのに道具として信頼でき、デザインにもなんだか愛嬌がある。そういう人間でありたい、とさえ思わされる。

壊れても気にならない価格だと思うけど、何年も壊れないのも憎い。今回手持ちが増えたので、たまには両腕に巻いて出かけようと思う。
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