特集 2015年12月17日

こだわりぬいた恐竜お好み焼き屋

店内に仕掛けられたギミックがすごかった
店内に仕掛けられたギミックがすごかった
東京の東尾久に「恐竜お好み焼き屋」があるという。店内の壁一面に恐竜の絵が描かれていて、動く恐竜の模型もあるとか。それがすべて店主の手作りらしい。

お好み焼きと恐竜……絶対になんの関係もないだろう。これは良い予感しかしない。
本業は指圧師です。自分で企画した「ふしぎ指圧」で施術しています。webで記事を書くことをどうしてもやめられない。(動画インタビュー)


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店の外観から恐竜だらけ

お店の名前は「110」(いとう)。商店街の中を歩いていくと、すぐにわかった。これは誰がどう見ても恐竜お好み焼き屋だ。
室外機まで色を塗っているのがすごい
室外機まで色を塗っているのがすごい
めちゃめちゃに描きこまれている
めちゃめちゃに描きこまれている
絵のうまさにたじろぐ。店主の手作りと聞いてぐちゃぐちゃのアウトサイダーアート的なものをイメージしていたのだが、すごい技術。

店内も恐竜だらけ

店内は一層すごいことになっていた。外壁はまだ遠慮していた、ということがわかる。
入口の戸
入口の戸
すごい立体感と眼力だ
すごい立体感と眼力だ
これなんか壁の角をうまく構図に取り入れている
これなんか壁の角をうまく構図に取り入れている
右の方に貼ってあるのはメニュー。確認しておきますがお好み焼き屋です
右の方に貼ってあるのはメニュー。確認しておきますがお好み焼き屋です
古代の山と湖……過激な素朴さに鼻血でそう
古代の山と湖……過激な素朴さに鼻血でそう
プテラノドンがかわいい
プテラノドンがかわいい
こんなに大きいのに形も線も狂っているところがない
こんなに大きいのに形も線も狂っているところがない
古代の鳥が珍味をすすめて迫ってくる
古代の鳥が珍味をすすめて迫ってくる
鉄板や座卓は普通なのがまた一層素敵
鉄板や座卓は普通なのがまた一層素敵
不安だったのでライター北村ジンさんに着いてきてもらった
不安だったのでライター北村ジンさんに着いてきてもらった
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好きでやっているわけじゃない

店主の伊藤さん(62歳)とぼく
店主の伊藤さん(62歳)とぼく
経営しているのは伊藤さん。別に今まで絵の学校に通ったこともなく、絵の仕事をしたこともないという。これが全部素人の手仕事だ。

――これ、伊藤さんがひとりで描いているんですよね?

伊藤「おれ一人だよ。だいたい一つの絵を描くのに1週間くらいかかる。今まで絵を描いていたってこともなくて、いきなりやってみたんだ。人に頼むとものすごい金かかるからな」

北村「むしろこの絵でお金が取れるような気がするんですが……。何を使って描いているんですか? 」

伊藤「水性のペンキ。壁もふつうの壁紙」

北村「ペンキでこの羽の透明感を出してるの……すごくむずかしいですよね」

伊藤「そこは苦労したなあ」
北村さんが驚いたトンボの羽の透明感
北村さんが驚いたトンボの羽の透明感
――恐竜大好だから描いているんですよね? 描きこみに愛を感じますよ

伊藤「べつに好きじゃないよ。子どもに喜ばれるかなと思って描いてるだけ。子どもが喜ぶと親も来るようになるだろ。描いた恐竜の名前とかはぜんぜん覚えてないな。もう描く場所ないし、描かないよ。油で汚れるから時々直すのに描きたしてりしてはいるけど」

――子ども、喜びます?

伊藤「喜ぶ子もいるけど、2~3歳の子どもは泣くわな」
恐竜と全然関係ない絵もある。これは常連さんの子どもだそう
恐竜と全然関係ない絵もある。これは常連さんの子どもだそう
北村「子ども向けだったら今は妖怪描いたほうがウケますよ!」

伊藤「妖怪描いたらパクリになっちゃうだろ。田舎ならいいんだろうが、東京でそんなことやったらすぐにバレるだろ。通報だわ」

――実際これやってお客さん増えました?

伊藤「まあ、お客さんは……景気しだいだな……。ファミレスが道沿いに増えたろ。安くて広くて駐車場つけててな。ああいうのはよくないな……」

つまり伊藤さんは客寄せのためにビジネスで恐竜の絵を描いている。コンプライアンスにも敏感だ。そこに釣られてぼくたちは来てしまったのだから完全に伊藤さんの勝ちだ。

光って動く恐竜の模型

絵だけではない。というか、むしろこっちのほうが気になるところなのだが……恐竜の模型が壁と天井にに4つ設置していある。
前足が前後する
前足が前後する
伊藤「足は前後を繰り返すのが大変なんだ。ヒモで引っ張るだけじゃ戻らないから。コイルを仕込んだりして工夫した」

――は、はあ……
お尻のところから卵が落ちてきて……
お尻のところから卵が落ちてきて……
卵の中には恐竜の赤ちゃん!
卵の中には恐竜の赤ちゃん!
口をパクパクさせる
口をパクパクさせる
伊藤「これ動かすとだいたい子どもは泣くよ」
天井から一気に落ちてくるプテラノドン
天井から一気に落ちてくるプテラノドン
北村「これ、トサカを入れるために天井をぶち抜いてませんか?」

伊藤「そうそう。全部おれ一人で工事したから」
こんな風にドーンと
こんな風にドーンと
北村「この高さまで落ちてくると食べてる人にぶつかりますよね?」

伊藤「たまにわざとぶつけてる」
全部光らせたところ
全部光らせたところ
実際にこの模型を動かすときには、店の明かりを消して、店主が作った音声入りBGMを流しながらやる。一連の動作を動画に収めたので、ぜひ音声のボリュームを大きくして観てほしい。
冒頭の声は伊藤さんの裏声。最後の「バイバイ」はお客さんの子どもに録音させてもらったそう。

やらせてもらったら人力だった

恐竜の動きは、厨房の奥で伊藤さんが「紐」を引くことで制御されているらしい。頼んでみたらすんなりとやらせてもらえた。
ここが恐竜の動きを制御する中枢機構
ここが恐竜の動きを制御する中枢機構
触った瞬間にすべて人力だと悟った
触った瞬間にすべて人力だと悟った
触ってすぐわかったのだが、紐は天井裏を通り直接模型についている。スイッチのように使うのじゃなくて、完全に人力で動いているのだ。プテラノドンの模型が意外と重たい、なんてこともダイレクトにわかる。

音楽と効果音はMDの一つのトラックに入っている。電気を消して再生ボタンを入れたら、音楽に合わせて次々と紐を繰ってゆく。これは新しい形のDJなのでは。
すごい楽しい
すごい楽しい
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ピザ風お好み焼き

「ピザ風」「エドンモトサウスル」「プテラノドン」など
「ピザ風」「エドンモトサウスル」「プテラノドン」など
さて、ここはお好み焼き屋だった(みんな忘れていると思うけど)。メニューにちょいちょいヘンなのがあって、まずは「ピザ風」のお好み焼きを頼んでみた。
お好み焼きの生地とシーフードを焼いて
お好み焼きの生地とシーフードを焼いて
生地の上にピザソースを塗り、トマトとピーマンをトッピング。チーズを山盛りにする
生地の上にピザソースを塗り、トマトとピーマンをトッピング。チーズを山盛りにする
――チーズすごく多くないですか!

伊藤「チーズだけで200円はするからな。宅配ピザなんかチーズちょっとしか乗ってないだろ。ピザ風お好み焼きを作るんなら、ピザには勝たなくちゃだめだよね」
蓋をしてしばし蒸し焼きにする。これでもチーズの量が多すぎて熱が通らないために
蓋をしてしばし蒸し焼きにする。これでもチーズの量が多すぎて熱が通らないために
最後にバーナーであぶる
最後にバーナーであぶる
すっごいうまそう……
すっごいうまそう……
食べてみると味はまるっきりピザ。かなりおいしい。土台はお好み焼きになっているからふつうのピザよりも栄養あると思う。

それにしても手間がかかりすぎていて心配になる。お客さんはこんなの作れないし。これで1,300円は安すぎる。

――ちなみに人気のないメニューってありますか?

伊藤「ピザ風はあんまり出てないね」

なんでだ。これおいしいのですごくおすすめです。

イカスミもんじゃ

つづいては店主おすすめの「イカスミもんじゃ」。
土手は作らなくてもいいそうです
土手は作らなくてもいいそうです
イカスミ……
イカスミ……
味見しながら味付けする
味見しながら味付けする
このイカスミもんじゃ、味付けは塩コショウでソースは入れない(ダシは入っているけど)。

味はちゃんとおいしい。ただ、ふつうのもんじゃより何を食べているかわかんなくなってくるのが困る。ふつうのもんじゃでさえ何食べてるかわからないのだが、これはそのさらに上だ。

エドモントサウルス

最後に「エドモントサウルス」。恐竜の名前を付けるのも子どもウケを狙ってやっているそうだ。
恐竜の要素は別にない
恐竜の要素は別にない
パッと見ふつうに見えるかもしれないが、これが今まで一番奇妙な食べ物だった。すり下ろしたヤマトイモにダシと魚介が入っている。小麦粉やキャベツは入っていない。
すっごい時間かかる
すっごい時間かかる
ヤマトイモには火が通りにくく、何度もひっくり返しながら時間をかけて焼く。通常のお好み焼きの3倍以上は時間かかっていると思う。
焼く時間長くてなんとなく話し込んでしまう
焼く時間長くてなんとなく話し込んでしまう
伊藤「前にジャニーズの相葉がTVの取材でこれ食べてたことがあってな。放映後にファンが何組かこれ食べに来てたな」

――すごい繁盛したんじゃないですか

伊藤「全然だよ。週に一組くらいだったんじゃないかな。TVと雑誌は本当によく来る。でもそれでお客さんが増えるってことないね。元から来てる人はTV出ると喜んでくれるけどな」

しんみりしてしまった。テレビに出れば宣伝になるって時代でもないらしい。

伊藤「あんたら取材にしてはよく食べるほうだよ。テレビでも雑誌でもそんなに食べないで終わっちゃうからな」

おお、なぜか褒められている。ピザお好み焼きがすごいボリュームでお腹キツいんだけど、次のも食べないわけにはいかなくなってしまった。
味付けはカラシとケチャップとソースとマヨネーズ
味付けはカラシとケチャップとソースとマヨネーズ
外はサクサク、中はフワフワ、すごい!
外はサクサク、中はフワフワ、すごい!
お好み焼きに見えるが、完全に別。新しい食べ物だ。外のサクサク感と中のフワフワのコントラストがすごい。ふつうは入れないケチャップやカラシも新鮮だ。

注文を受けてからヤマトイモをすらなくてはいけないために、とても手間のかかるメニューだという。

――ちなみに今まで失敗してメニューにしなかったやつってありますか?

伊藤「あるある。カボチャは甘すぎた。あとニンジンもダメ。子どもが好き嫌いあるからな。メレンゲでお好み焼き作ったこともある。フワーっとできておもしろいんだけど」

北村「メレンゲなんてしたら黄身が余りまくっちゃうんじゃないですか……」

伊藤「そうそう。それで別に人気も出ないからやめた」

こだわりすぎのお好み焼きさんでした

恐竜も料理も、ちゃんと考えた末に仕事として行われていたことだった。ただそれが完全に最適な努力じゃなかったというだけの話だと思う。伊藤さんはまじめにやっている。

ふつうのメニューもあるみたいなのでぜひぜひ行ってみてほしい。舎人ライナーの赤土小学校小学校前駅から徒歩5分。舎人ライナーはジェットコースターみたいで楽しいので、こことからめれば遊園地気分になれる。
帰るころには入口の恐竜がイルミネーション的に光っていた。メリークリスマス!
帰るころには入口の恐竜がイルミネーション的に光っていた。メリークリスマス!

取材協力「110」(いとう)
東京都 荒川区 東尾久 3-24-1
03-3810-8790
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