特集 2015年12月8日

「ちきゅう」が格好いいので自分でも作った

『ちきゅう』がかっこよすぎるので自作した。
『ちきゅう』がかっこよすぎるので自作した。
地球深部探査船『ちきゅう』は、かっこいい。
『ちきゅう』をご存じない方のために大ざっぱに説明すると、海上からドリルを深さ2.5kmの海底に延ばし、そこからさらに地下へ7kmほど掘り抜いてマントル層まで到達させ、調査することを目的とした船だ。
合計でドリルが9.5kmだ。9.5mじゃない。9,500mだ。
そしてマントル層。基本的に本でしか見ないやつだ。一般的に会話には出てこない。
「昨日さー、自販機の前で小銭落としたらマントル層まで転がっちゃってさー」とか言わない。
そのマントル層まで掘れるとか、スケールが大きすぎるだろう。

そんな『ちきゅう』が関東で5年ぶりに公開されると言う。
それはもう行かねばならない。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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人生初ちきゅうの喜び

2005年に就航した地球深部探査船『ちきゅう』がいま、5年に1度の定期検査で横浜の本牧ふ頭に着岸している。
で、その機会に内部を一般公開するという話である。

10年前の就航時公開も、5年前の一般公開も共にタイミングが合わず見学できなかった。
今回こそ、ちきゅうを見てやるぞ。
受付の赤レンガ倉庫前からシャトルバスで移動。
受付の赤レンガ倉庫前からシャトルバスで移動。
今回の公開は2日間合計8,000人を定員として受け付けていたが、結果、全ての回が満員に。

僕はそのニュースを見た瞬間に申し込んだので、公開初日の午前中という良い時間に潜り込むことができた。
バス待機列用のカラーコーンがちきゅう仕様!アガる!
バス待機列用のカラーコーンがちきゅう仕様!アガる!
さて、赤レンガ倉庫からバスで20分ほど移動すると、いきなりドンと巨大なやつが見えてきた。
なんかスケール感おかしくなるぞ、このデカさ!
下の方に粒のように見えるのが、乗船のため並んでる人です。
下の方に粒のように見えるのが、乗船のため並んでる人です。
船体中央からドドドーンと上に延びているのが、デリック(櫓)と呼ばれるもので、ここから船底に空いた穴を通して海底にドリルのついたパイプを何kmも降ろしていくための設備である。

ちなみにこのデリックの頂上は海面からおよそ120m。牛久大仏が海面に立ってるのとほぼ同じである。ビルで言うと30階建てぐらい。
ガントリークレーンが、まるで仔キリンのようだぜ?
ガントリークレーンが、まるで仔キリンのようだぜ?
船というより、工場かなにかに見える。
船というより、工場かなにかに見える。
船体も全長210m、幅38mというかなりの巨船(自動車が750台載る世界最大のフェリーとほぼ同じサイズ)なのだが、とにかくデリックが大きすぎるせいで、船体が相対的に小ぶりに見えてしまうのも面白い。

乗り込んでもかっこいい、ちきゅう

船の前で乗船待ちの列に並んで30分。
いよいよ乗り込むことになったのだが、タラップに足をかけて驚いた。
揺れない。まったく揺れないのだ。
なんだこれ。地面か、というぐらいに揺れない。
なんだこれ。地面か、というぐらいに揺れない。
大きなフェリーでもなんでも、普通、浮かんでいる船に乗る時は上下にゆさゆさと揺れを感じるものだ。

しかし『ちきゅう』は、同時に大人が10人ぐらい乗ってもまったく揺れない。一瞬「このタラップ、地面に固定されてるのか」と疑ってしまうぐらいだ。
さすが、120mの櫓を乗せて移動できる船。安定感半端ないな。
船内も揺れゼロ。たぶんこの廊下でドミノ並べられる。
船内も揺れゼロ。たぶんこの廊下でドミノ並べられる。
海底の一点に向けてドリルを降ろす必要がある船なので、海上で動かないよう、波の影響をキャンセルする装置があれこれついているらしい。

もしかしたらその中のどれかが効いているのかもしれないが、基本的には重さで安定してるんだと思う。
船外の蛍光灯、濡れない仕様だ。かっこいい。
船外の蛍光灯、濡れない仕様だ。かっこいい。
最初は揺れないことに驚いていたが、落ち着いてよく見ると、あちこちにかっこいいものがいっぱいある。
デカい、揺れない、かっこいい、のコンボである。男子の満足セットである。
僕たちははデカくて揺れなくてかっこいいものが大好きなのだ。
ハイエースよりデカい救命ボート。なんと50人乗りだ。かっこいい。
ハイエースよりデカい救命ボート。なんと50人乗りだ。かっこいい。
かっこいいものしか置いてない操舵室。
かっこいいものしか置いてない操舵室。
操舵室にある、海図を見るための台。吊られたZライトがかわいくて、かっこいい。
操舵室にある、海図を見るための台。吊られたZライトがかわいくて、かっこいい。
そして、真下から見上げるデリック。もちろんかっこいい。
そして、真下から見上げるデリック。もちろんかっこいい。
ダンパーとかごちゃごちゃしてるだけで、ものすごくかっこいい。
ダンパーとかごちゃごちゃしてるだけで、ものすごくかっこいい。
こちらがデリックの下。写真で落ちくぼんでいる所が「ムーンプール」と呼ばれる25mプールほどの穴で、ここからドリルを海底に降ろすのである。
残念ながらのぞき込めないので見えなかったが、この穴はダイレクトに海面につながっているとのこと。

そして、ムーンプール脇の黄色い縦の棒は、波の上下動を吸収するためのダンパーだ。でかい。あのダンパー1本で31トンあるらしい。かっこいい。
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うちにもちきゅうが欲しい

さて、『ちきゅう』の近くではJAMSTEC(海洋研究開発機構)が見学者のために物販ブースも設けていた。
ちきゅう見学直後の高テンションでみんな買い物してた。
ちきゅう見学直後の高テンションでみんな買い物してた。
そこで注目を集めていたのが、これ。

バンダイから発売されている、1/700サイズの『ちきゅう』プラモデルだ。
『ちきゅう』と『しんかい6500』のプラモ!
『ちきゅう』と『しんかい6500』のプラモ!
うわ、欲しい。あのかっこいいのが自宅に置けるのか。

物販ブースに来た小さい子供から結構な年配の方まで、軒並み眼をキラキラさせて箱の中を確認している。
そうだよな、さっき見てきてかっこよかったもんな。

ただ、問題がひとつ。
うーん。4320円。うーん。うーん。
うーん。4320円。うーん。うーん。
値段がちょっとお高いのだ。
うーん。欲しいけど。

どうしよう。しょうがないから自分で作るか、ちきゅう。

ちきゅうは、作れる

プラモを買うかどうかで10分ぐらい悩んだのだが、結局、船のおもちゃに大きいデリックを自作してくっつけたら『ちきゅう』になるんじゃないか、という結論に行き着いた。

ベースに選んだのは、ロウソクの熱で走る水蒸気推進のおもちゃ、ポンポン船だ。
久々に「Amazonほんとになんでも売ってるな」と思った買い物。
久々に「Amazonほんとになんでも売ってるな」と思った買い物。
なんでポンポン船かと言うと、とりあえず水の上に浮かべて走らせたかったのと、ラジコンとかモーターで動く船だと速度がありすぎて走らせるのに広い場所が要りそうだったから。

これならお風呂ぐらいのスペースでもほどよくゆっくり走ってくれるだろう。
本物の『ちきゅう』も、航行速度は時速20km(自転車ぐらい)ほどとかなりゆっくりなのだ。だから、ゆっくりの方が正しい。
あとは竹ひごとか細い角材だけで『ちきゅう』作れるか。
あとは竹ひごとか細い角材だけで『ちきゅう』作れるか。
今回はもう、ただ作りたいだけ、という勢い系の工作だ。

設計図なんかも書かないぞ。ガーッと作ってやるぜ。
デリック組み立て中。目分量工作、楽しいな。
デリック組み立て中。目分量工作、楽しいな。
目分量で角材などを切り出して木工用ボンドでべたべた貼り付ける。

途中、案の定というか目分量すぎて切り出した竹ひごを10本ぐらい無駄にしてしまい多少ロスしたが、なんとか2時間ほどで完成した。
できたぞ、これがワイの『ちきゅう(民芸調)』や!
できたぞ、これがワイの『ちきゅう(民芸調)』や!
実物の写真と見比べてみても、まぁほぼ『ちきゅう』じゃないか。
いささかの民芸品っぽさは否めないが、それでもおよそ七割ぐらい『ちきゅう』だと思う。
ほら。どうだろう。この写真と比較しても、そこそこ『ちきゅう』ではないか。
ほら。どうだろう。この写真と比較しても、そこそこ『ちきゅう』ではないか。
ちきゅう見学にも同行していた妻に「どう、『ちきゅう』だろ?」と言ったところ、「そうね。五割ぐらい『ちきゅう』ね」とのこと。

これは製作者と第三者との評価差か。それでも半分ぐらいちきゅうなら、悪くないだろう。
やはり船は浮いてこそ。
やはり船は浮いてこそ。
風呂に浮かべてみる。
いちおう重心はとりつつ作ってみたが、それでも「これ水に浮かべた瞬間にひっくり返ったら、もうそれオチでいいな」と、悪い思いがあったことは否定しない。

でも、ちゃんと浮いた。やはり嬉しい。
こんなバカみたいにパンチの効いた形の船でも、ちゃんと浮かぶのだ。
ちきゅう、すごいな。
民芸品っぽくてもかっこいいぜ、『ちきゅう』。
民芸品っぽくてもかっこいいぜ、『ちきゅう』。
浮かべたからには、やはり走らせよう。
残念ながら実物の『ちきゅう』は着岸しているところしか見られないが、うちの『ちきゅう』はちゃんと走りますから。
民芸ちきゅうの航行動画。
民芸ちきゅうの航行動画。
ロウソクを置くのに失敗し重心が狂ったせいで旋回してるが、『ちきゅう』が動いてる。
実際の『ちきゅう』はここまで傾いて航行したらさすがに転覆するだろうが、手作り『ちきゅう』なら大丈夫だ。
なんか、そこそこ格好いいものが作れて満足した。

ところで、民芸品じゃない本物の『ちきゅう』だが、船内のドアにに英語で「ドアを開ける時は向こうに人がいるかもだから注意しろ」という内容の貼り紙があった。で、この注意書きがお馴染みのパワポの人だった。

最新のハイテクで作られマントル層まで掘れる能力のある船でも、貼り紙はパワポとかワードで作ってるのかと思うと、少し嬉しい。
ハイテク船のドアで怪我をするパワポマン。
ハイテク船のドアで怪我をするパワポマン。
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