特集 2015年12月4日

最後に少し歩いて行くダム

山道を歩き、船に乗ると見える絶景のダム
山道を歩き、船に乗ると見える絶景のダム
ダムめぐりはどちらかと言えばアウトドアな趣味だけど、ほとんど車でたどり着けるので限りなくインドアに近いと思う。

稀に、車が通れず山道を何時間も歩かなければならないダムもあるけれど、そういう場所は熊や蜂や蛇がウロついているのであまり行きたくない。

でも、車で真横までは行けないけど、そこからちょっと歩けばダムが見える、それもとびきりの絶景が、というところがあって、インドアな僕でも行けたので自信を持ってご紹介したい。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:自然に地形を造らせるという神の遊び

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ダム好き界きってのインドア派

趣味がダムめぐりと言うと、廃道や廃墟探索と同じように、山に入って藪をかき分け道なき道を進んで行く、というような印象を持つ人もいて、見かけによらずアウトドア好きなんですね、みたいなことを言われることがけっこうあるけど見かけ通りのインドア派だ。

むしろアウトドアは苦手である。虫とか触れないし、自然の中に一人でいると不安になってくる。そんな僕でも行けた、車を停めてからちょっと歩かないとたどり着かない、でも絶景のダムをいくつか紹介したい。

栃木県/三河沢ダム

最初は栃木県の三河沢ダム。湯西川ダムという新しくて大きなダムから上流に遡っていって、途中から一般車通行止めの林道をおよそ2km、30分ほど歩く。

「ちょっと歩く」と言っておきながら30分は少しハードルが高いけど、林道とは言え舗装された道だ。周りの景色を見ながら歩いているうちにすぐに着く。
車から離れたくない人は駐車場完備の湯西川ダムだけでも十分
車から離れたくない人は駐車場完備の湯西川ダムだけでも十分
いきなりゲートがお出迎え
いきなりゲートがお出迎え
徒歩なら行っていいのか微妙な書き方
徒歩なら行っていいのか微妙な書き方
険しさはまったくない
険しさはまったくない
ダムに向かう林道の入り口がいきなりゲートで塞がれているけど、車両の通行禁止と書かれていたので徒歩ならいいだろうと考えた。あとでダムの職員さんに聞いたらその通りだった。

山深くひと気のない(と思ったけど釣り人を2、3人見た)道を歩いて行くと、目の前に真新しいダムが現れる。
木々の向こうにダムが現れた
木々の向こうにダムが現れた
さらに進むと展望台のような建物があって、その上から全景をバッチリ見ることができる。
あれは展望台!?
あれは展望台!?
これが三河沢ダムだ!
これが三河沢ダムだ!
うん、絶景のダムと言いながらそれほど大きくないし、写真で見る限りどちらかと言えば地味だ。でも実際に30分歩いてダムが見えてくると、たとえば野球を見に行ったとき、試合前に相手チームの名前の知らない控えとは言えプロ野球選手が目の前でキャッチボールしている、というような胸の高鳴りがある。

そんな小さな感動を胸に、また30分歩いて車に戻ろう。

しかし、ダムの職員さんに「この道、夕方になると熊が出るから帰り気をつけて」と言われたのが堪えて必死で歩いて15踏んで車に戻った。もし行くときは熊鈴を忘れずに、そして一人ではなく複数人で行こう。
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鹿児島県/十曽ダム

鶴田ダムという、鹿児島にあるダム界の西郷隆盛と言えるくらい大きな存在のダムを見に行ったときに立ち寄った、鶴田ダムのはるか上流にある十曽ダムは不思議な雰囲気だった。
鶴田ダムは数年前に集中豪雨とガチで戦って敗れ、再起をかけてパワーアップ工事中
鶴田ダムは数年前に集中豪雨とガチで戦って敗れ、再起をかけてパワーアップ工事中
工事は24時間体制なので夜中の景色がすごい
工事は24時間体制なので夜中の景色がすごい
24時間槌音が響きトラックが行き交う鶴田ダムとは対照的に、十曽ダムは車で細い道を行き止まりまで進み、誰もいない公園を歩いて抜けるとその先に静かに佇んでいた。

天気は快晴だしまだお昼過ぎ。目の前は整備された公園で、条件は最高だけどなんだか不安になる場所だった。動物とかそういうのよりも、割と立派な公園なのに人っ子一人見当たらない、という違和感に身体がむずむずした。
公園の先にダムが見える
公園の先にダムが見える
夏の休日は多くの人の声で賑わうんだろうか
夏の休日は多くの人の声で賑わうんだろうか
広くて立派な公園だけど今は誰ひとりいない
広くて立派な公園だけど今は誰ひとりいない
照りつける太陽に吹き抜ける風、目の前は公園とその奥にダム、しかし人の気配はまったくない。映画で見た人類が滅亡したあとの世界に迷い込んだような、熱でうなされているときに見る夢のような、そんな心細さを感じられる場所だった。
ダムは小綺麗な感じでそれも違和感があった
ダムは小綺麗な感じでそれも違和感があった
公園に人さえいれば普通の小さいダム
公園に人さえいれば普通の小さいダム
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広島県/二級ダム

広島県呉市にやってきた。戦艦大和を造り上げた造船所などがある中心エリアを通り過ぎ、黒瀬川という川沿いの道を遡って、今はもう使われていない国道の旧道に入り行き止まりまで進むと二級ダムの脇に出る。
旧道のトンネルを豪快に塞いだ跡が残る
旧道のトンネルを豪快に塞いだ跡が残る
その脇から延びる遊歩道を進む
その脇から延びる遊歩道を進む
すると二級ダムの脇に出る
すると二級ダムの脇に出る
車を停められる場所から二級ダムまでは50mくらい。これはほぼダムまで車で行ける、と言っていいのでは?

実はこのダム、ここからさらに遊歩道を進むと下流の河原に降りて、真下からダムを眺めることができるのだ。とりあえずダムの上に立って河原を見下ろしてみよう。
下流はものすごい岩場になっている
下流はものすごい岩場になっている
ダムの下流は二級峡という、甌穴が有名な峡谷になっていて、そこに向かう遊歩道が造られているのだ。さっそく階段を降りて下流に向かおう。
ここから階段を降りていく
ここから階段を降りていく
遊歩道を進むと下流に架かる吊り橋に出る
遊歩道を進むと下流に架かる吊り橋に出る
吊り橋からダムがチラリと見える
吊り橋からダムがチラリと見える
吊り橋を渡ると道は消えて、急に巨大な岩がゴロゴロしている河原に投げ出される。そこからは岩の上を慎重に渡りながらダムの真下を目指すのだ。

しかし、これが意外と大変だった。雨上がりだったこともあって、苔の生えた岩の上で足を滑らせて2回も尻もちをついた。ジーンズが少し破れただけで済んだけど、体勢が悪くて頭を打っていたりしたら無事に戻れなかった可能性もある。10年以上前、ダムに向かう山道でスズメバチに追われたとき以来の命の危機を感じた。
吊り橋を渡りきった先でいきなり尻もちをついた
吊り橋を渡りきった先でいきなり尻もちをついた
上から見るよりぜんぜん険しい
上から見るよりぜんぜん険しい
産まれたての小鹿のような足取りで何とかここまで来た
産まれたての小鹿のような足取りで何とかここまで来た
そこから見えるのがこんな光景
そこから見えるのがこんな光景
それほど大きなダムではないけれど、もしダムが放流を始めたら水が流れる場所に立っている、というのは、放流しないと分かっていても緊張感が高まる(放流する場合は事前にサイレンなどで警告がある)。

そして、このダムは完成したのが第二次大戦中の1942年、その役割は戦艦大和などを建造した呉海軍工廠への電気と水の供給だった。

そういった歴史や役割込みで眺めると、只者ではない風格が漂っている気がしてくる。
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丸沼ダム/群馬県

最後にご紹介するダムは群馬県。片品村から中禅寺湖の方へ向かう国道沿いに大尻沼と丸沼という湖があるのだけど、このうち丸沼が実は丸沼ダムというダムで堰き止められた湖なのだ。丸沼ダムの入り口に車を停めると、ダムの真横まで道が伸びている。
バットレス式ダムという国内で6基しか存在しない超レアな形式
バットレス式ダムという国内で6基しか存在しない超レアな形式
丸沼ダムはバットレス式ダムという、日本では昭和初期に8基だけ造られ、解体されたり決壊したりして現在では6基しか残っていない形式。そんな珍しいダム、真下から眺めたいなあ。と思った先人がいたのかどうかは分からないけれど、駐車場付近の道をよく見ると、舗装路から外れて脇の森の方に獣道のような筋がついていることに気づく。
と思って写真を見直したけどこれ道がどこかぜんぜん分からないな
と思って写真を見直したけどこれ道がどこかぜんぜん分からないな
どこを通るのか分からないけど細い道で斜面を下って大尻沼の湖畔へ向かう
どこを通るのか分からないけど細い道で斜面を下って大尻沼の湖畔へ向かう
森の中の斜面を下りきって湖畔に出ると、その先にはこんなものがあった。
ドラム缶の筏が浮いている
ドラム缶の筏が浮いている
これは丸沼周辺の環境整備や自然保護を行っている地元の人々が管理している筏で、丸沼ダムのすぐ真下を横切るように設置されている。何とありがたい船!

というわけでさっそく乗り込み、ロープを引いて出航。ちょうど真ん中辺まで来たときに上流の丸沼ダムの方を向くと、こんな現実離れした光景が見られる。
誰も来なかったので筏の上で1時間くらいぼーっとしてしまった
誰も来なかったので筏の上で1時間くらいぼーっとしてしまった
反対側の大尻沼の光景もかなりの絶景
反対側の大尻沼の光景もかなりの絶景
この筏、冬の間は使用停止されているので、この絶景を見たい人は暖かくなるまで待とう。

歩いただけ興奮は増すのか

真横に立派な駐車場が作られているアクセスの良いダムもいいけれど、少し歩かなければ見られないダムはやや敷居が高い分、その全貌が見えた時の興奮も高い気がする。

...と言うことは、数時間歩かなきゃいけないダムはもっと興奮するのか...ということに気づいて戦慄している。

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