大人は「特にない」と言わない
例えば日常的な会話にしろSNSのタイムラインにしろ、世間の事情についてよく知りそれについて意見を持っているのが大人っぽさである。
なにかの事件やホットなトピックについて「どう思う?」と聞かれても、そもそも自分はそんなに興味がないこともあるだろう。
「このあいだとんちんかんな発言でブログが炎上騒ぎになった人いたでしょ……あの件、どう思う? あれ、NASAの陰謀だと思うんだけど」
(知らん人のブログが炎上……家が炎上してるならまだしも……)
この場合「問題ですね」とでも言っておけばいいのだろうか。だが専門家でもないのに思いつきの意見は披露するのは大衆社会ならではの野蛮である。
こんなとき素直な気持ちを出してもよいのであれば、言いたいセリフはひとつ。「特に何もありません!」だ。
僕の頭の中では裁判で無罪を勝ち取った人が思い浮かぶ。
脳内
しかし、意見がなかったせいで会話が続かないのもまた悲しいことだ。
「あ、こいつはおれに興味が無いのかな」というネガティブな印象も相手に与えてしまうからだ。その悲しみは渦となって天へ昇っていく。悲しみ昇竜拳だ。
ちなみにここは裁判所じゃなくて市役所なので、この行為については本当に意味が特に何もない。
応援うちわで意見がないことを明るく陽気に伝える
意見が特になくても、やる気や相手への興味があることをアピールする必要がある。
どうすればいいのだろう。考えた結果こうなった。
100ショップにはこんなのもあるんですね
蛍光の色紙を切って貼り付ける
そしてこう
アイドルを応援するときに使ううちわである。アイドルうちわの印象が強いので、きっと名前が書いてなくても相手に興味があるようにみえるはずだ。
しかし問題点もあった。
「ありません」が持てない(手は3本ないから)
「特に」と「何も」で両手が塞がってしまって「ありません」のプラカードが持てないのである!
「特に」「何も」ときたら「ありません」しかないような気もするのだが、そこは最後まで言い切りたい。
棒を付けてみた。よりアピール力が増したと思う。
こうやったら3本持てる!
力強い。これで相手に興味もあるし、「こいつはやる気があるな」という印象も持たれるはずだ。
さらに「特に何もありません」を装備したい
これはこれでいいかもしれないが、ずっと意見がないままということもないだろう。あとやっぱり両手が塞がってしまうのは気になる。
ということでこんなものを用意してある。
棒をさすスタンドを腰に装着した
先ほどのメッセージがついた棒をこの穴に刺すことができる。
土台は上下に稼働するので、意見がないときはメッセージをしまっておくことができるのだ。
このガムテープでできた三角の突起は棒の角度を抑えるストッパー。棒が真下に垂れ下がると歩きにくく棒も立てにくい。知っておいて欲しい工夫だ。
ちなみにこの板は、かつていい肉を食べたときに肉が入っていた箱のふたである。「木箱だからいつか何かに使うときが来るかもしれないな……」と思って保管しておいた。
ホームセンターで買ってきた材料(と肉の箱)を設計図もなく適当に組み合わせただけなのだが、装置としては思ったよりよくできた。
使うとどうなるかご覧頂こう。
進化しきった意見がない人
この人は意見がない……?
やっぱり意見がある……??
ない!
遠くからでもわかりやすい意見のなさ
意見がない人なりの奥ゆかしさがまったくない。工作の出来不出来というより、アピールっぷりを見て欲しい。
ぱっと見て意見があるのかないのか混乱し、一瞬考えて「ない」となる。その不思議さを味わうのだ。
そしてその不思議さはやがて「ブラボー!よく言った!」という歓声に変わる。
あと両手もあいている。最高だ。
折りたたむとこのようにコンパクトになる
このまま出社します
人に見てもらった
最後にデイリーポータルZの編集部の人にこの装置を見てもらった。
シチュエーションとしてはこうだ。会社でこれからどういう新しい目標を立ててやっていきたいかと尋ねられる場面。
絶対に「特にありません」と言ってはだめな状況だ。やる気がないと思われる。求められているのは素直な気持ちじゃないのだ。
ふたたび「特にない」とは言えない状況
そんなときはこの装置の出番だ。
順々にメッセージを繰り出していこう。
特に
何も
ありません
渾身の無表情が出た
どうでしょうかと聞いたところ、みんな無言になってしまった。
「なんかこうなっちゃうと『意見が特にない』と言いながらも、すごく主張がある人に見えちゃいますね」とぼくが言ったところ、撮影を手伝ってくれた編集部の総意として「それはちがう」とのことだった。
お互い困惑した。
意見を求める雰囲気には威圧されてしまうなあと思って「意見がない!」と堂々と言う方法を考えた。結果、ダブルノックアウト状態になってしまった。
なんでも意見をもつのが野蛮なら、意見を持たずに堂々としてるのもまた野蛮だったようである。
同じ野蛮ならアホみたいな野蛮になりたいと思う。そう、誇り高きアホみたいな野蛮に。