当たり前の旅 2015年11月6日

中華街でうまい肉を食べ、横浜の夜景と一体化する

埼玉出身の旅下手男が横浜で何かに目覚めていきます
埼玉出身の旅下手男が横浜で何かに目覚めていきます
「横浜の夜景を見る」。大人っぽい行為のひとつである。

しかし埼玉県民のわたくし、その経験がない。よーし、今日は横浜の夜景でも見に行くか!という行為でもない気がする。

そもそも、夜景を見てどんな気分になるのか、興味はある。体験してみよう。

……と言いつつ、夜景を見るだけだと呆然としてしまいそうなので、中華街にもいくことにします。

この記事はとくべつ企画「当たり前の旅」シリーズのうちの1本です。
1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。(動画インタビュー)

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人混みに戸惑う

埼玉から電車賃片道1000円をかけて横浜中華街にやってきた。僕の基準では電車賃が1000円を超えると旅行になる。なので今回も旅行気分だ。

到着してみるとあたりまえだが中華街には主に中華料理や中華食材の店がひしめき合っている。
日曜日の中華街……
日曜日の中華街……
人多い……
人多い……
ひしめき合ってるのは店だけじゃなくて人もだった。

このあと夜景も見るつもりだったので午後の中途半端な時間にやってきたのだが、それでも休日のせいか人がやたらと多い。途方に暮れてしまう。
あとこういうのを持ってる人はいなかったので、すぐにしまいこんだ
あとこういうのを持ってる人はいなかったので、すぐにしまいこんだ
不安のないよう旅行ガイドを買ってきたのだが、そういう「丸出し」の人は一人もいなかった。

表紙がやけにキラキラした旅行ガイドをすぐさまリュックの奥深いところにしまう。

情報はこれだけを頼りに来たのだが、無事失われたわけである。さてどうしようか。

ぼくがみた中華街

考えていてもはじまらない。とりあえずうろついて中華街を堪能してみよう。
北京ダックを出す店の、ダック
北京ダックを出す店の、ダック
猫よけのペットボトルが過剰な一角
猫よけのペットボトルが過剰な一角
がんばっているパンダ
がんばっているパンダ
食べログやぐるなびの「何らかのランキング」に入っている店がいくつもあった
食べログやぐるなびの「何らかのランキング」に入っている店がいくつもあった
中華料理屋からコックが飛び出してきて、店の前に停めてあった自転車に乗って去っていった。
中華料理屋からコックが飛び出してきて、店の前に停めてあった自転車に乗って去っていった。
室内でしか見ない服装の人が外で、しかも自転車に乗っている姿にはつい目を奪われてしまう。

銀座を歩いているときにクラブのママであろうドレスの女性が自転車に乗っているのを見たときも感動した。

中華街で最も感動した場面である。
そしてそれを見るおれ
そしてそれを見るおれ
以上が僕が見た中華街である。

これはこれで楽しんでいるものの、はたから見れば心の闇を写したモンタージュである。旅行のセンスがなさにもほどがある。それもこれも気持ちがついつい内向きになってしまうせいだ。

エポケー、そして行列のできる小籠包をたべる

だめだ。このままだと中華街を楽しめないまま終わってしまいそうだ。もっと横浜に飛び込んでいかないといけない。

もっと考えずに行こう。そこがいい店か悪い店か、楽しそうか楽しくなさそうか、損か得か……そんなことを考えていたら何もできない。

ならば判断を中止し飛び込んでいくのだ。哲学用語で言うところの、「エポケー」である(たぶん)。

で、行列ができている店の小籠包を食べることにした。
人通りの多い道に面したお店
人通りの多い道に面したお店
行列がずーんと伸びている。たぶんこれが通過儀礼なんだろうな
行列がずーんと伸びている。たぶんこれが通過儀礼なんだろうな
ふだんなら行列に並んでまで…と敬遠してしまうところだが、今回は思い切って並んでみることにした。エポケーエポケーと心に念じながら。
ふつうのとフカヒレが入ったの2種盛り
ふつうのとフカヒレが入ったの2種盛り
といっても10分くらいで買えてしまった。買うだけなら意外とそんなものである。
あっ、あつっ……そこまでじゃないな
あっ、あつっ……そこまでじゃないな
汁が 熱くて舌を火傷しちゃうかな~、なんて思いつつかなり慎重に食べたが、そこまでではなかった。慎重やがて恥ずかし、である。

うむ、うまい。皮はカリッとしていて汁たっぷりの小籠包である。

この小籠包のおかげでようやく中華街に足を踏み入れたな、という気持ちがした。

エポケーしまくって即座に店に入る

少し食べたらかえってお腹がすいてしまった。歩いていると、看板の色合いがかっこいい店があった。すぐ入れそうだったので、あまり考えずに入ってみることにした。ここでまたもう一度エポケーである。
かっこいい色合いの「愛群」。あんまり考えると入れないからな。
かっこいい色合いの「愛群」。あんまり考えると入れないからな。
牛バラ煮込みと青菜炒め、五目チャーハンを注文した。(あと紹興酒。)
美しい牛バラ煮込み。
美しい牛バラ煮込み。
牛バラ煮込み。テカテカして美しい。ホロッと繊維がほどける肉に甘みのある餡が絡んでうまい。脂のところもトロトロで、ありがとうという感じだ。

青菜の炒めもにんにくが効いておいしいなあ。適当に入った店なのに正解だった。
エポケーして正解
エポケーして正解
山椒の効いた豆板醤みたいな味噌を付けるとなおうまい。
山椒の効いた豆板醤みたいな味噌を付けるとなおうまい。
そして五目チャーハン。味は素朴だけどパラパラ感としっとり感が調度よい。
店には「広東家庭料理」と書いてあったが、家庭料理と言っても具にちくわが入っていたりはしないので安心。
店には「広東家庭料理」と書いてあったが、家庭料理と言っても具にちくわが入っていたりはしないので安心。
肉、野菜、米。黄金のトライアングルだ。ああ、お腹いっぱい。

中華街に来ておいしい中華料理を食べて満足。普段無感動な僕にしては、とても素直な感想が出てきてしまう。

無防備に占われる

店を出て細い道を歩いていると占いの館があった。占いしていきませんか、と客引きに声をかけられる。

占いを信じるか信じないかもまた判断留保でエポケー。ちょっと人の話を聞くつもりで占っていこう。エポケーもなんだか楽しいものである。

席に通されると、まず何について占うかを尋ねられたので、なんとなく仕事について教えてもらうことにした。
メッセージが多すぎるこの外観。
メッセージが多すぎるこの外観。
――仕事はどうですかね

「感情線に迷いが出てますね。気疲れしやすいんじゃないですか。仕事線は今のところははっきり出てないです。けど年を取ったらはっきりしてきますね」

――いつはっきりしますか?

「30代後半から40代です」

あと10年の我慢である。
端的に言ってつらい
端的に言ってつらい
手相は統計的な方法だから長期的な運勢を見るものだそうだ。

そこで比較的短期間の運勢を見るタロットもやってみないかと勧められた。もちろんやる。

で、簡単に言うとやる気を出せと言われた
で、簡単に言うとやる気を出せと言われた
――あらためて仕事運はどうでしょう。

「今の仕事をした初めがピークだと思っているんじゃないですか。おみくじの大吉が後の凶につながっていくようなイメージです。
このカップは『感情』を表しているんです。やる気が無いというか、会社に対して奉仕する気持ちが足りてない。
今はギリギリバランスをとっているようですが、でも気持ちを切り替えて続けていれば、最終的にはいい結果に繋がると出ています」
ギリギリ感情のバランスを保っているとのこと
ギリギリ感情のバランスを保っているとのこと
――要するに頑張れってことですか

「はい」

具体的になにをがんばったらいいかわからないけどがんばろうと思います。

手相とタロットで1000円だった。タイムサービス的なものだったようだが、それにしても安い。
頑張るぞ!
頑張るぞ!

いよいよ夜景、夜の海が怖い

「頑張るぞ!(完)」で終わってもいいくらい満足しつつはあるのだが、本題は横浜の夜景であった。

ということで山下公園にやってきた。リュックの中にしまいこんだ観光ガイドにも山下公園からの夜景がいいよと書いてあった気がする。
夜の山下公園は若者が騒いでいて楽しそうだった
夜の山下公園は若者が騒いでいて楽しそうだった
この季節、海風もあいまってかなり寒い。もしかしたら夜景ってビルのレストランから見るものだったのかな、と思い始める。夜景にも旬がありそうだ。

ひとまず寒さは我慢しつつ、見晴らしの良さそうな海に面したところへ行ってみよう。

するとうわさに聞く横浜の夜景が見えてきた。
これか~夜景~
これか~夜景~
大さん橋からはピカピカの船が出ていた
大さん橋からはピカピカの船が出ていた
夜景だな、と思う。海を挟んだ遠くの方にキラキラと光るビルや観覧車が見える。

船もイカが寄ってきそうなくらい光っていて確かにきれい。が、何を思えばいいのかわからない。やっぱり横浜の夜景に対して素直になれない自分がいることに気づく。まだまだだ。

さらに、夜景の綺麗さ以上に気になるのは夜の海の怖さである。望遠レンズを通して見ると夜景は確かにきれいなのだが、実際目の前に広がる景色の7割は海だ。
おもに見えている景色はこの夜の海の深さです
おもに見えている景色はこの夜の海の深さです
落ちたらその闇に飲み込まれて絶対に戻ってこれないだろう。想像すればするほど、引きこまれていきそうな重たさがある。

音も怖い。一つ一つの波からジャッ!ジャッ!と音が出ていて、それが数万と群になることで「海の音」になっているのだ。

夜景を見た僕の感想は主にそんなところであった。

カメラの中に横浜を発見する

夜の山下公園は怖すぎたので、場所を移動する。

そうだ、夜景をバックに記念撮影もしよう。いまさらだが、すこしテンションが上がってきた。
いえーい、だんだんとそんな気分になってくる
いえーい、だんだんとそんな気分になってくる
とかやっていたら、カメラの設定をいじっていた際にあることに気づいた。
このパナソニックのカメラなんですが
このパナソニックのカメラなんですが
これって横浜の夜景では?
これって横浜の夜景では?
ランドマークタワーと観覧車が見える。カメラのモード設定画面のサンプル写真が、まさにこの辺りから撮ったものらしいのだ。

はじめから横浜はカメラの中にいたのだ。青い鳥のようだ。そして思った。

「同じ場所で撮りたい!」
きっとあのへんだ!
きっとあのへんだ!
よく考えるとカメラの設定画面と同じ場所で撮る意味もよくわからないのだが、寒さでどうかしていたのか。それともエポケー慣れしすぎたのか。

しかし、このときはじめて横浜に対してアグレッシブになれた気がする。たのしい!

そしてランドマークタワーと観覧車の位置関係を見比べながら歩いていて、おそらくここだろうというところにたどり着いた。
このあたりかな
このあたりかな
「夜景をバックに人物を綺麗に撮る」
「夜景をバックに人物を綺麗に撮る」
結論から言うとぜんぜん違う場所だった(地図で確認すると、どうやら象の鼻波止場というところから撮ったものらしい)。

しかし、この満足気な表情はどうだろう。同じポーズにするためにコートをはだけさせてるし。何も言えないじゃないか。

この瞬間、僕と横浜の夜景は一体化したのである。

満足した。帰りの電車では思い切り寝た。

素直な気持ちを忘れないようにしたい

判断保留して流されるままにふらふらしてみたら思いがけなく楽しかった。エポケー、と言っていたがつまり「素直に楽しむ」ということだ。

今回「当たり前の旅」ということだったが、当たり前のことができなくなっているのは素直さが足りなくなっているからなのかもしれない。

帰り、駅のトイレからスキップしながら出てきた女性を見た。あのくらいの素直でいたい。
おみやげを買うと素直に楽しんだ感が出ることもわかった
おみやげを買うと素直に楽しんだ感が出ることもわかった
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