お願い!DJ
そうは言っても私は曲をつくったことなどありません。
音楽の成績はずっと5段階で2と3を行ったり来たりだったし、小4の演奏会では「楽そう」という理由でハンドベルを選んだら、女子の仲良しグループに単身乗り込む結果になってしまい絶望を味わった。女子にとっても「何で来たの!?」である。どうか勘弁してほしい、当時は人生で一番友達がいなかった時期だったから。結果、プレッシャーで手が震えてベルは2,3回余計に鳴った。
とはいえ、曲のクオリティは高ければ高いほどいい。パキポキと関節音をつなげた音を披露したところで、どれだけ仲の良い親友や家族でも答えは沈黙、最悪の場合は距離を置かれる。それくらいは分かってる。そこで餅は餅屋、DJをしている友人にお願いした。
私 「お願いします!」
友人「いいよー」
二つ返事でOKをもらった。
持つべきものはDPZを愛読しているDJの友人だ。
関節音をレコーディングする
レコーディングは機材のある友人の家で行う。
彼は"slowbirds"というDJネームで活動しています。
手製(ガムテープ)でマイクをセッティングしてくれた。
よくわかんないけどハイテクノロジー!
私「なんか…すごいな!スイッチがいっぱいあるな!」
思い返せばバカみたいなコメントをしたなぁと思う。「スイッチがいっぱいある」とは、工場見学に来た小学生か(しかも低学年の方)。
ここでいきなり全く関係ないけど、大学時代の友人のハンドルネームが「スイッチ大好き人間」だった。どういう意味なのかと聞いたときに「スイッチ押すのめっちゃ好きやねん」と返されて、「ふーん」と言って終わった気がするが、今になって思えばなんて素直なネーミングだろう。だったら私も「猫に手の甲を甘噛みさせるの大好き人間」だ。
話を戻そう。
友人「ちょっと音のチェックをしたいから、手拍子しながらマイクに近づいて来てもらっていい?」
私 「オッケー」
私「ハイハイハーイ!」
私「slowbirdsのいいとこ見てみたい!」
私「最初に3つ!」(パンパンパン)
私「小さく3つ!」(パンパンパン)
私「大きく3つ!」(パンパンパン)
友人「うるせぇ!」(キーボードギャーン!)
なんてやりとりは現場で一切なかったんだけど、写真を見ていると当てたくなってしまった。飲みのコールを実際に見たことが一度もなかったので、わざわざネットで調べたよ。小さくって何だよ、何が3つだよ。
雷の音の隙間を縫うように関節を鳴らす
準備を終えて、いよいよ本格的にレコーディング!が、ちょうどスコールが降って来たようで(ここベトナム、東南アジアですからね)、窓を閉め切ってもザーという音が聴こえて来る。それくらいであればいいのだけど、流石に雷の音とかぶせてしまうとNGだ。
慎重に鳴らす。
静寂の中で鳴る音は、
ゴロゴロという雷とパキッという関節の音のみ。
雷の音に合わせて動きながら、監獄から脱走を図る囚人もこんな気分なのかなと思った。ただ、その場合は行為を隠すために、雷音と同時にスプーンなどの食器で壁に穴を開けるもの。わざわざ雷を避けてやっている私は、仲間に袋叩きにされる上に脱走がバレて刑期延長だ。
ところで、一度に関節が鳴る回数は人によってまちまちだと思うが、私は合計43回。両手の親指を除いた、第一関節、第三関節(手の甲側に)、第三関節(手の平側に)、親指の付け根、手首。両足の親指を除いた、第三関節、アキレス腱。首の左右、腰の左右、股関節。それにしても、本当にどうでもいい情報だ。立ち読みしたはじめて読む漫画に、漫画家のペットの訃報があったときの100倍はどうでもいい情報だ。読んでくれてありがとう。
それにしても、全身の関節を余すことなく鳴らしていると、普段は無意識でやっているだけにどこが鳴る場所だったのか分からなくなってくる。ゲシュタルト崩壊!関節音のゲシュタルト崩壊という言葉を組み合わせるときが、この人生で来ようとは!
ムダに長いのでgif動画でご覧ください!
タッタンタタタン!パキポキタンタン!
私 「あれ…これ、もしかしてなってるんじゃないの!かなりサマになってるんじゃないの!?」
レコーディング風景はこちらで。もちろん音付き。
それから数週間が経ち、私の関節音を素材に使った曲は完成した。本当はここで披露してもよかったのだけど、折角なら、折角生まれてくれたのならば、実際にクラブで使いたい。私の関節音でダンスホールを賑わせたい。これで私も少しはHIKAKINに近づけるかもしれない(人間ビートボクサーという意味で)。
その日はハロウィンだった
正確には前日の10月30日だったのだけど、週末のためクラブイベントが行われ、ハロウィンがテーマなのだという。そこに友人もDJとして呼ばれていて、ちょっとだけなら関節音の曲も流せられるよという話だった。
ハロウィンの仮装大会ぶりはベトナムも同じ。
ところで、人はハロウィンで盛り上がれる派と盛り上がれない派に分けられると思ってる。ハッキリ言って、私は後者だ。「飲みのコールを見たことがない」と書いた通り、そんなはっちゃけた空気とは距離を置いて生きて来たし、もっと言えばカラオケすら行きたくない人間だ。もっともっと言えば、クラブはさらに行きたくない。関節音をクラブで流したい、なんて書いておきながら。
取材のためとはいえ、そんな自分が来てしまった。
なんでみんな踊れるの?踊るって日常生活に組み込まれてたら分かるよ?食うとか寝るとか日頃からやってるからね!歌うだってギリギリ分かる!自転車こぎながら歌うときくらいあるもんね!でも踊るって何だよ!朝起きて踊らないだろ!夜寝る前に踊らないだろ!なんで普通に踊れるんだよ!その振り付けどこで覚えてきたんだよ!?
いや…すまない、これは強がりだ。
みんなが当たり前に出来ていることが自分にだけ出来ない、そんな事実を突き付けられるから行きたくないのだろう。難しく考えるなとか、行ったら慣れるとか、そういう類のものじゃない。女子の中でハンドベルを鳴らしたあの頃とベクトルは同じだ。そう簡単に私は、男子から女子にセク(シャル)チェン(ジ)できないもの。
そんな自分がこんなところに来てしまったのだ。
その割にはメイクがノリノリじゃねーか!と言わないでほしい。折角行くなら、ちょうど以前にネタでピエロの衣装をつくっていたので、マッドピエロになれると思ったから着た。ただそれだけだ。
なお血糊はチリソースを使っているのですごく痛い。本当に痛い。
友人は22時すぎにプレイをはじめた。
X状の光は友人のエネルギー波ではなく反射テープが光っているだけ。
事前に「曲を流すときには目配せで合図を」と話していたが、想像以上に光とスモーク、そして人も多いため分からなそうだった。常に曲に注意して聴きながら待つ。
個人の判断で衣装にはモザイクを施しております。
待っていると、ベトナム人の子どもが話し掛けて来た。
子ども「お前日本人か!」
私 「そうだけど(今は話し掛けないでくれる?)」
少年、ドラキュラにそのTシャツは訳分からんぞ。
まだかなー。
そして待つこと一時間。
あ…コレだ!多分コレだろう!
動画ではいまいち認識できず。でも確かに流れた!
実を言うと、「確かに流れた」と書いておきながら、本人に確認してもらうまで確証がなかった。どうにも騒がしくてよく分からん、というところが実態だ。
いずれにせよ、関節音で曲をつくるという当初の目的から飛躍して、まさかこうしてイベントで流すまでに至れるとは思ってもいなかった。もう思い残すことはない、帰ろう。というかチリソースを早く落とそう!痛すぎるしお肌に間違いなく悪い!とにかくチリソースを早く!痛い痛い痛い!!
最後の最後になりましたが、こちらがその音源です。
書き忘れてたけど吐息とオナラも入ってます
関節音は友人によると「ドラムの音とほぼ同じ」だそうだ。しかし当然ながら、ドラムだけでは、それこそイベントで流せるような曲は成立しない。という訳で、レコーディング中にたまたま録れた吐息やオナラも入っています(オナラはたまたま録れた訳ではありません)。
吐きそうになりながらつくってくれました。頭下がる。