特集 2015年10月16日

ホームセンターを駆使して印税生活を送る方法

今をトキめいているあの人
今をトキめいているあの人
前髪が短いことでおなじみの、あの三戸なつめさんに好きなことをしてもらえることになった。

これだけだと意味がわからないと思うので、経緯を説明させてほしい。
父は数学教師。母は国語教師。姉2人小学校教師という職員室みたいな環境で育つ。普段はTVCMを作ったり、金縛りにあったりしている。(動画インタビュー)

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三戸さんとは、青文字系モデルとして人気のかわいらしい人である。シンガーとしても活躍中で、トレードマークでもある前髪をテーマにした楽曲「前髪を切りすぎた」は、テレビやラジオでもよく流れていたので知っている人も多いのではないだろうか。

その全体的なプロモーションを上司の日下さんがやっている。
日下さんは、ちょっと前にネットで話題になったポスター展の仕掛け人であり、 何かとお祭りを開催している変な人だ。
声に出して言いたい変人
声に出して言いたい変人
神輿や賽銭箱を作ってほしい、というパワハラなのかもよくわからないお願いをされたりしている。
このお祭りで日下さんは、長髪だったのに丸刈りになった(前髪を切りすぎだ)

日下さんによると、三戸さんが二曲目のシングルを出すらしい。
その特典としてブックレットを作るんだとか。

どうやら33組にそれぞれ1ページずつ、三戸さんをテーマにしたグラフィックを作ってもらうという企画らしい。
その企画に、僕も会社員ではなく、一個人として呼んでもらったわけである

どんな人達が作るのだろう。
リストを見ていると、写真家やデザイナーの他に、日下さんの娘の名前も入っていた。
備考欄には「子供」と書かれていた。

「庭師」と書かれている人もいた。庭で三戸さんを表現するのだろうか。謎である。
一人では大変そうなので、今回も同僚の茗荷くんに相談することにしよう。
茗荷くんはやさしいので、だいたいの工作は一緒に作っている。
茗荷くんはやさしいので、だいたいの工作は一緒に作っている。
しがらみがたっぷりな広告業界にいる僕たちにとって、自由に、それも今をときめくモデルさんに好きなことしてもらえる機会なんて、奇跡みたいなものだ。

それと、ここが本当に大切なことなのだが、先ほどの33組のリスト、僕と茗荷くんの備考欄には、「アーティスト」と書かれていたのだ。

そう、今から僕たちは会社員ではなく、アーティスト。
うちなる心の声に耳を澄まし、感性のおもむくまま、アイデアを出すのだ。

そう思って、三戸さんの写真を見つめる。
「三戸なつめ…みと…水戸納豆?」
「三戸なつめ…みと…水戸納豆?」
脚色ではなく、本当にこんな企画しか出なかった。
(あとは、三戸なつめ漱石とか)

あぁ、そうか。
アートっぽいものが、からっきし作れないから、広告を作る仕事に就いたのだった。
苦い思い出が蘇る。

しかし、社会人としてなんだかんだで5年目を迎えた今だからこそ、湧き上がる何かしらの想いがあるかもしれない。

三戸さんをじっくり見つめる。
自分の内なる声に、耳をすます。
それは、小さな声だった。
しかし、次第に大きくなり、いつしかその言葉しか考えられないようになった。
心に浮かんだ言葉、それは
!
ファーストシングルでヒットを飛ばし、破竹の勢いでシングルを出す三戸さん。
そんな三戸さんを見つめて、本当に心の底から思い浮かぶ言葉である。

もしかしたら、売れているミュージシャンならだいたいこの心の叫びになるかもしれない。
ただ、本当に嘘偽りなく、心の底から三戸さんを見つめて気になることが、印税であるならば、これはもう、魂の叫びである。
これを形にしないでどうするのか。
アーティストなのに。

印税を作ります!

「印税」を立体作品にする毎日がはじまる。(いわゆる印税生活)
印税は、ダンボールで作る。
印税は、ダンボールで作る。
ホームセンターでちょうどいいサイズのダンボールを選ぶ。
イラストレーターで簡単に設計図を作る(ミョウガくんが)。
どうやら、ダンボールが80個必要なようだ。
どうやら、ダンボールが80個必要なようだ。
このホームセンターには、同じ規格のダンボールは30個しかない。
他の店舗の数を確認してもらう。
大阪府内にあるこちらのホームセンターの在庫リストをエクセルでもらった。

大学の最寄りのあのホームセンターには、20個ほどあるようだ。
大学時代、足繁く通った農家向けの品揃えのあのお店に、ダンボールが積まれている姿を想像する。
ホームセンターの在庫リストは、少し人をノスタルジーな気持ちにする。

近くにあるホームセンターを3店舗回り、何とか80個揃えることができたが、ダンボールだけで15000円以上かかった。
ガムテープと両面テープでダンボールを固定していく。
ガムテープと両面テープでダンボールを固定していく。
組み上げるにしたがって部屋がテトリス的な雰囲気で満たされる。
組み上げるにしたがって部屋がテトリス的な雰囲気で満たされる。
自立しない部分には、テグスを入れたり、朝顔なんかに使う鉢植えに刺す緑色の棒(正式名称はリング支柱と言うらしい)を使う。

大きなものを黙々と作っていると、卒業制作の頃を思い出す。
卒業制作展のキャプションに、これまでの学費の合計額を記載しておいたら、作品を観にきたお客さんの話題は学費の話で持ちきりになった。

半年間かけて魂を練り込んだ作品なんて、お金の前では無力なのだ。
やっぱりお金はスゴい。

これ以上組み上げると部屋が埋め尽くされてしまうので、後は撮影前に組み上げよう。

撮影当日

撮影場所は、近所にある橋。
ダンボール80個は茗荷くんとふたりで運ぶ予定だが、きっちりと彼は遅刻している。
運び出しやすいようにダンボールを家の外に出す。
段ボールに囲まれながら、ひとり缶コーヒーをすする。
通勤時間帯なので、サラリーマンが次々と通り過ぎてゆく。
30分くらいして茗荷くんが小走りで現れた。
2人で段ボールを運ぶ。
2人で段ボールを運ぶ。
日差しが強い。水分をとっても一瞬で汗となって消える。
近所の公園では夏祭りの準備をしている。
僕らの印税もその一部として見られているのかもしれない。

段ボールを現場に運び、テキパキと組み上げていく(茗荷くんが)
さすが、デザイナーである。
2つの文字を並べると、4mを超える。
2つの文字を並べると、4mを超える。
風が吹くと、バラバラ崩れる。
このまま川に流れていったら面白いだろうな、という思いがよぎる。
何とか組み上げていると、橋の向こうにパラソルがチラリと見えた。
少しずつこちらに近づいてくるパラソル。  パラソルの下には、小柄で…かわいい…
少しずつこちらに近づいてくるパラソル。 パラソルの下には、小柄で…かわいい…
印税、じゃなくて三戸さん!
印税、じゃなくて三戸さん!
これ、怒られるんじゃないかな…心臓がぎゅぎゅっと縮む。
心配をよそに三戸さんは笑顔でペコリとこちらに挨拶してくれた。

やはり、本物はとんでもなくかわいい。
三戸さんの体のまわりだけ、うっすらinstagramのフィルターがかかっているみたいだ。

撮影がはじまる。
印税が大きすぎて、向かいの橋からでないと写すことができない。
撮影を担当するのは、もちろん茗荷くん。
撮影を担当するのは、もちろん茗荷くん。
スナイパーか何かなのかな、という距離からパシパシ写真を撮っている。
彼にしかどんな絵が撮れているのかわからない。

撮影を終え、自転車でこちらに戻ってくる茗荷くん。
撮れた写真がこちらである。
三戸さんと印税
三戸さんと印税
夢の中のような一枚である。
通りすがりの人が、向かいの橋からスマホで撮影していた。たぶん三戸さんであることには気づいてないんだろうな。

続いて公園で撮影を開始する。
プロダクションの方々と一緒に印税を運ぶ。
ちょっとビートルズのジャケットっぽい一枚
ちょっとビートルズのジャケットっぽい一枚
手伝ってもらったら、一瞬で終わった。ありがたさがスゴい。
公園での撮影を開始する。
かわいい。
かわいい。
近くで見るとかわいらしさが大変なことになっている。
これが戦闘能力だったら、僕のメガネは今、バリバリに割れている。
かわいい人と印税
かわいい人と印税
茗荷くんの撮影にも熱が入り、ちょっとした変態みたいになっている。

そして、最終的にできあがったグラフィックはこちらになります。
三戸さんと印税
三戸さんと印税
この素晴らしさをあなたにも分かちあえたら、と思い高画質版の画像をご用意しました。
公園と
公園と
公園と
公園と
橋です。
橋です。

印税生活を終えて

印税生活を終えて
印税生活を終えて
こうして、印税をめぐる生活は幕を閉じた。
炎天下の暑さか、三戸さんのかわいらしさが原因はわからないが、頭がクラクラしたので、その日は早めに会社を出て、速攻家で寝た。

次の日朝起きて、あれ夢だったのかなと一瞬疑った。
他の32組は、何を作ったのだろう。やっぱり庭師の人が気になる。
(曲のタイトルは、印税、じゃなくて8ビットボーイというそうです)
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