特集 2015年10月12日

知ろう! 小麦粉

小麦粉を学んで食べる勉強会に参加してきました。
小麦粉を学んで食べる勉強会に参加してきました。
パン、麺、お好み焼きにタコ焼きなど、ほぼ毎日のように食べている小麦粉だが、我々はあまりにも小麦粉について知らな過ぎじゃなかろうか。

お米なら産地や品種にこだわる人も多いけど、小麦粉となると薄力粉や強力粉というレベルでの使い分けにとどまりがち。それってお米でいえば、うるち米ともち米くらいにざっくりとした分け方だ。

小麦粉を深く知ることで、毎日の食事がもっと楽しくなるのではないだろうか。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

前の記事:足立区に40円のラーメンを食べにいく

> 個人サイト 私的標本 趣味の製麺

小麦粉問屋の小宮商店さんへやってきた

餅は餅屋という言葉がある。なら小麦粉のことは小麦粉屋に聞くのが一番だろうということで、相談したのは上板橋にある小麦粉問屋、小宮商店さん。

ここは小売りをしていない業務用専門の問屋さんで、取引先は製麺会社やパン工場、あるいは自家製麺のラーメン屋や町のパン屋さんなのだが、一般消費者向けに『こむぎこ塾』という勉強会や流しそうめん体験などの企画をしているオープンマインドあふれる問屋さんだ。
65年の歴史を誇る小宮商店さん。創業当時の上板橋は小麦粉畑だらけだったそうです。
65年の歴史を誇る小宮商店さん。創業当時の上板橋は小麦粉畑だらけだったそうです。
試食会イベントにお邪魔して、講義のお願いを直談判してみたよ。
試食会イベントにお邪魔して、講義のお願いを直談判してみたよ。
ということで講師を引き受けてくれたのは、新潟の中華料理店に生まれて、物心つく前から朝ラーを毎日1.5玉食べて育ったという生粋の小麦粉好きである丸山健太さん。通称『粉の丸ちゃん』。

飲食店で使用する小麦粉の提案や、企業の商品開発サポートなど、粉もの全般のコンサルティングを担当している小麦粉ソムリエであり、趣味はラーメン・ラグビー・ラガービール。日本酒や出汁に関しても深い知識を有している食の専門家である。
小麦粉に対する情熱は油の浮いたラーメンスープよりも熱い丸山さん。
小麦粉に対する情熱は油の浮いたラーメンスープよりも熱い丸山さん。
そして私と一緒に小麦粉セミナーを受講するのは、小麦粉に関心のあるラーメン好きと製麺好きの方々。

ラーメン好きの方は初対面だったのだが、ラーメンを美味しく健康的に食べるため、毎日ランニングを欠かさないらしいというストイックさを持つ男らしい。食べるために走る。
「特じゃないナンバーワンってあるんだ!」「1袋(25キロ)単位なら売ってもらえるんですか!」と、小麦粉倉庫で大興奮。
「特じゃないナンバーワンってあるんだ!」「1袋(25キロ)単位なら売ってもらえるんですか!」と、小麦粉倉庫で大興奮。
業務用小麦粉袋のデザインは、ジャケ買いしたくなる独特のグラフィック。
業務用小麦粉袋のデザインは、ジャケ買いしたくなる独特のグラフィック。
今回はちょっと麺寄りのマニアックなメンバーが集まったようだが、一般向けの基礎知識から講義してもらったので安心してください。
焼きそばを自家製麺するようなメンバー揃いですが、あまり気にしないでください。
焼きそばを自家製麺するようなメンバー揃いですが、あまり気にしないでください。

なぜ小麦を小麦粉にするのか

場所を倉庫から会議室に移し、小麦粉に関する基礎知識をお勉強。しっかり学んでからお腹が空いたところで、調理体験および試食会という完璧な流れなのだ。

まずは米は粒のまま食べることが多いのに対して、小麦はほとんどの場合、わざわざ粉にしてから調理するのはなぜでしょうというところから。

なるほど、そういえばそうですね。
丸山さんの服装がさっきと違うのは、なんと2週に渡って講義してもらった話をまとめたからだよ。
丸山さんの服装がさっきと違うのは、なんと2週に渡って講義してもらった話をまとめたからだよ。
人類は約五千年前から石臼で小麦を粉にして食べていたそうだが、その理由は『粉にした方がうまいから』らしい。

米は玄米の外皮を削って白米にして食べることが多いけど、小麦の粒(玄麦)は外皮がとても固い上に溝があって内側までめり込んでいるため、皮が剥がしにくい構造となっている。

そこで小麦は丸ごと砕いて篩(ふるい)にかけて、胚乳部分を小麦粉として食べるという方法が発達したそうだ。
小麦の玄麦。玄米みたいにこのまま炊いても硬くておいしくない。
小麦の玄麦。玄米みたいにこのまま炊いても硬くておいしくない。
砕かれた小麦。これをふるうと白い小麦粉が落ちていく。
砕かれた小麦。これをふるうと白い小麦粉が落ちていく。
小麦を小麦粉にする工程は、砕いて篩に掛ける作業を何段階もおこなうのだが、最初に落ちてくるのは胚乳の中心部分で、ここは白くて雑味がなく、タンパク質も上質とされている。一番粉と呼ばれる高級品であり、スイカでいったら中央部の甘いところ、日本酒なら大吟醸だ。

ふるった残り(ふすま)を再度砕いて、また篩にかけて粉を落とすという作業を繰り返すと、だんだん皮に近い部分となり、色が濃くて風味が強い小麦粉となる。砕いたものをそのまま丸ごと使うのが全粒粉。

このような製粉作業によって、同じ小麦から何種類もの微妙に味や成分の違う小麦粉ができるそうだ。
がんばって撮影した小麦。砕いてふるった胚乳が小麦粉、残りの外皮や胚芽がふすま(ブラン)。
がんばって撮影した小麦。砕いてふるった胚乳が小麦粉、残りの外皮や胚芽がふすま(ブラン)。
小麦の断面。砕いて篩に掛けると、まず胚乳の中心にある白くて柔らかい部分が落ちていく。
小麦の断面。砕いて篩に掛けると、まず胚乳の中心にある白くて柔らかい部分が落ちていく。
餃子だって小麦粉がなかったらできないんだからね!
餃子だって小麦粉がなかったらできないんだからね!
小麦を学んだあとは、小麦粉について学びます。

みなさんもお楽しみの試食会は最後のページです!
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小麦粉の成分と種類を学ぼう

小麦粉の主な成分は、デンプンとタンパク質。また小麦を燃やしたときに残るミネラルなどを『灰分(はいぶん・かいぶん)』と呼び、小麦粉のスペックといえばタンパク質と灰分のパーセンテージとなる。

一般に売られている小麦粉の種類は、薄力粉、強力粉、その中間の中力粉(うどん粉)。これら違いは小麦粉に含まれるタンパク質の量であり、この豊富なタンパク質こそが米やトウモロコシなど他の穀物にはない特徴だ。

そして小麦粉の原材料である小麦は、品種や産地によって色や成分が異なり、硬質小麦からは強力粉、軟質小麦からは薄力粉が作られる。
米のように小麦にも多数の品種があり、その国の気候や食文化によって栽培される品種が変わってくる。
米のように小麦にも多数の品種があり、その国の気候や食文化によって栽培される品種が変わってくる。
しっかりしたパンを焼くなら強力粉、ふわっとしたケーキを焼くなら薄力粉と、目的に応じて小麦粉を選ぶのはご存知の通り。

関東で多く栽培される小麦は旨味があって色の濃い中力粉であり、その粉に合わせたお切り込みや武蔵野うどんといった食文化が発達した訳だ。
サクッと軽く揚げたい天麩羅には、タンパク質の少ない薄力粉を使う。アナゴが好きです。
サクッと軽く揚げたい天麩羅には、タンパク質の少ない薄力粉を使う。アナゴが好きです。
小麦の種類と粉の関係。最近は強力粉用の国産小麦も増えているのだとか。
小麦の種類と粉の関係。最近は強力粉用の国産小麦も増えているのだとか。
小麦を小麦粉へと製粉する過程で大事なのが、製粉会社の技術力。戦後の日本は特に製粉に対するこだわりが強く、小麦粉の種類がこれだけ多い国はないのだとか。

大手製粉会社になると、いくつかの小麦粉をブレンドして、パン用、菓子用、うどん用、中華麺用など、用途別の小麦粉を何十種類、何百種類と製造しているそうだ。

このおかげでデザイナーが洋服の生地を選ぶように、製麺所やパン屋さんはイメージに合わせた小麦粉を選ぶことができる。そしてその粉選びのサポートをするのが小麦粉問屋の大切な役割なのである。
粉の特性と用途。強力粉の中でもパン用、中華麺用など細かく分かれるのだが、あえてパン用で中華麺を作ったりする場合もあり、奥がとっても深いのである。
粉の特性と用途。強力粉の中でもパン用、中華麺用など細かく分かれるのだが、あえてパン用で中華麺を作ったりする場合もあり、奥がとっても深いのである。
あえてパン用の灰分が多い強力粉を使い、濃いタレに負けない麺にしたまぜそば。小麦粉選びにセオリーはあるがルールはない。
あえてパン用の灰分が多い強力粉を使い、濃いタレに負けない麺にしたまぜそば。小麦粉選びにセオリーはあるがルールはない。
大手製粉会社の日清製粉の小麦粉カタログ。これでも代表的なものだけで、まだまだ氷山の一角らしい。
大手製粉会社の日清製粉の小麦粉カタログ。これでも代表的なものだけで、まだまだ氷山の一角らしい。
ちなみに日本人は基本的に白い小麦粉を好むため(白米の影響?)、日本の製粉会社はどれだけ粉を白くできるかが腕の見せ所というところがあり、あるネパール人にいわせると、その辺のスーパーで売っている小麦粉でも「王族が食べる白さ」らしい。

あと細かい話になるが、たとえば『ゆめちから』という国産小麦の麺用粉は、日本製粉は『ゆめ星』であり、日清製粉だと『ゆめ飛龍』だったりとオリジナルの商品名となることが多いので注意しよう。
小麦粉のネーミングセンスはどこか変形学生服っぽいかも。スペック上の差は微妙なので味が全く想像できないよ。
小麦粉のネーミングセンスはどこか変形学生服っぽいかも。スペック上の差は微妙なので味が全く想像できないよ。
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小麦粉を麺にして食べてみよう

さてこのように小麦粉の基礎知識を学んだところで、一番気になるのはどれだけ味が違うのかというところである。

コシヒカリとササニシキの違いはなんとなく分かっても、スーパーカメリヤと特飛龍の違いについては、その名前とスペックの差からでは、なかなかピンとこないもの。

そこで数種類の小麦粉を用意していただき、気になるものを麺にして食べ比べてみようというのが、本日のメインイベントなのである。よ、待ってました!ナイス丸ちゃん!
スーパーには売られていない憧れの小麦粉を、好きなだけ製麺させてもらえるという夢のような時間がやってきました!
スーパーには売られていない憧れの小麦粉を、好きなだけ製麺させてもらえるという夢のような時間がやってきました!
たくさんの小麦粉に、キャッキャしている麺好きの大人達。これぞ駄麺ズ(ダメンズ)。
たくさんの小麦粉に、キャッキャしている麺好きの大人達。これぞ駄麺ズ(ダメンズ)。
丸山さんが用意してくれた、粉と水を混ぜるニーダーという機械。水と小麦粉が練られることで、グルテニンとグリアジンという性質の違うタンパク質が結びついてグルテンとなって、弾力があって粘り強い生地となる。
丸山さんが用意してくれた、粉と水を混ぜるニーダーという機械。水と小麦粉が練られることで、グルテニンとグリアジンという性質の違うタンパク質が結びついてグルテンとなって、弾力があって粘り強い生地となる。
グルテンがうまく生成されて、とてもうれしそうな製麺好きの人。
グルテンがうまく生成されて、とてもうれしそうな製麺好きの人。
普段の講習会では丸山さんが麺作りの道具を貸してくれるのだが、無理をいって使い慣れている『家庭用製麺機』というものを持参させてもらった。
普段の講習会では丸山さんが麺作りの道具を貸してくれるのだが、無理をいって使い慣れている『家庭用製麺機』というものを持参させてもらった。
小麦粉問屋がセレクトした粉で麺を打たせてもらえるという贅沢。
小麦粉問屋がセレクトした粉で麺を打たせてもらえるという贅沢。
今回は参加者に麺好き、製麺好きが多かったので(私がそういう人に声を掛けたからだが)、中華麺にして食べるという学習方法だが、もちろん小麦粉の勉強は他の料理でも構わない。

丸山さんのおすすめは水と粉を同量混ぜて作る『すいとん』で、小麦粉の種類による吸水性や味の差がダイレクトにわかるそうだ。粉に加える水の量(加水率)を変えて食べ比べるという楽しみ方もできるそうだ。

ぜんぜん味が違いました

麺のレシピは水や塩などの量を同じにして、粉の種類だけを変えたのだが、麺の仕上がり具合も肝心の味も、想像以上に違うものとなった。

小麦粉の差による麺の違いは、全国の味噌や醤油を舐め比べるのと同じくらいはっきりしている。そしてどの麺もうまいのだ。

いつもはスーパーで売っている安い強力粉を使って麺を作っていたのだが、こだわりと特徴のある小麦粉を使うと、これだけ個性的でうまい麺になるのかと目から鱗が落ちた。
いきなり変化球でデュラム小麦の粉を中華麺にしてみた。パスタ用らしくべたつきのないキレのよい麺で、甘味と腰があってうまい!
いきなり変化球でデュラム小麦の粉を中華麺にしてみた。パスタ用らしくべたつきのないキレのよい麺で、甘味と腰があってうまい!
いやー、これは楽しいね。
いやー、これは楽しいね。
日本製粉のゆめ星(小麦はゆめちから)90%に、石臼挽きのゆめかおり全粒粉を10%配合という夢の競演。一口食べて全員がうまいと絶賛。国産小麦らしい旨味の広がりが素晴らしい!
日本製粉のゆめ星(小麦はゆめちから)90%に、石臼挽きのゆめかおり全粒粉を10%配合という夢の競演。一口食べて全員がうまいと絶賛。国産小麦らしい旨味の広がりが素晴らしい!
長野産石臼挽きのゆめちからを水でしめてみた。蕎麦と中華麺のいいとこどりみたいな麺で、もう塩だけでうまい。これが本当の塩ラーメン!
長野産石臼挽きのゆめちからを水でしめてみた。蕎麦と中華麺のいいとこどりみたいな麺で、もう塩だけでうまい。これが本当の塩ラーメン!
ここからは2回目に食べた麺をお届けします。お借りしたエプロンでコスプレしてご満悦の参加メンバー。
ここからは2回目に食べた麺をお届けします。お借りしたエプロンでコスプレしてご満悦の参加メンバー。
ホームベーカリーもニーダーの代わりになるそうです。
ホームベーカリーもニーダーの代わりになるそうです。
三重県産あやひかりを使った内外製粉の『伊勢の響』。伊勢うどんにも使われる粉だけあって抜群のモチモチ感。箸で持った時点で違う。プニュンプニュン!
三重県産あやひかりを使った内外製粉の『伊勢の響』。伊勢うどんにも使われる粉だけあって抜群のモチモチ感。箸で持った時点で違う。プニュンプニュン!
こちらは日本製粉のマルコ・ポーロ。デュラム小麦100%のパスタ用だが、中華麺にしてもうまい!ぬめりがなく麺が歯をはじくような弾力が独特で、それが味噌ラーメンに合うという大発見!
こちらは日本製粉のマルコ・ポーロ。デュラム小麦100%のパスタ用だが、中華麺にしてもうまい!ぬめりがなく麺が歯をはじくような弾力が独特で、それが味噌ラーメンに合うという大発見!
このお勉強、やっぱり楽しいわ―!
このお勉強、やっぱり楽しいわ―!
日本製粉の雷神。これぞ中華麺という説得力のある食感。きめが細かく、海外小麦らしい力強さを感じる。色がとても白く、餃子の皮などにも向いているのだとか。
日本製粉の雷神。これぞ中華麺という説得力のある食感。きめが細かく、海外小麦らしい力強さを感じる。色がとても白く、餃子の皮などにも向いているのだとか。
国産蕎麦粉とゆめ星で作った蕎麦。やはり蕎麦は作るのが難しいが、香りと風味は堪能できた。よく噛むとだんだん甘くなってくるのよ。
国産蕎麦粉とゆめ星で作った蕎麦。やはり蕎麦は作るのが難しいが、香りと風味は堪能できた。よく噛むとだんだん甘くなってくるのよ。
五感を総動員して楽しんだ、食べる製麺ワークショップ。小麦粉という食材の幅広さ、奥深さに感動しきり。ワインとか日本酒の試飲のように、ウンチクを語りながらの麺の試食が流行るんじゃないかっていうくらい手ごたえを感じる経験となった。

もしかしたらバーみたいなところで、多種多様な小麦粉の自家製麺を提供してもおもしろいかもしれない。これが本当のラーメンバー。
■取材協力:小宮商店

ちょっと告知させてください

ここで麺関係の告知をさせてください。この記事にも出てくる家庭用製麺機の同人誌『趣味の製麺 3号』が出たので、ご興味ある方はぜひどうぞ。
特集は小野式と田中式の徹底比較です。
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