アイシングクッキーで物語を表現する
『不思議の国のアリス』やお姫様の登場する童話など、みんなが知っている物語をテーマにしたアイシングクッキーをよく見かける。
やり方をわかりやすく紹介する本も出版されていて、初心者でも気軽に始められそうだ。
森ゆきこ著『世界でいちばんやさしい、かわいい アイシングクッキー&カップケーキの本』(日本文芸社)。初心者に向けたアイシングクッキーの基本から始まり、後半では『シンデレラ』や『長靴をはいた猫』などの物語を表現するページも。
作品だけ見ると完成度が高くて難しそうだが、工程としては、型抜きクッキーやマフィンを焼いて、その上にテーマに沿ったアイシングを施すだけである。
テーマを決めて、絵柄的に難しくない表現を選べば、そんなに敷居は高くないようだ。
よし、やってみよう。
アイシングクッキー越しに『清兵衛と瓢箪』を読みたい
なんの物語を表現するか、短めのお話で世界観が表現しやすいもの何かないかなと考えているとき、ふとこれに出会った。
瓢箪柄の手ぬぐい。¥324@アマゾン(あわせ買い対象商品)。
アマゾンで買い物をしていて、こんなのを見かけたのだ。瓢箪柄の手ぬぐい。
瓢箪か。ひょうたん。ひょうたん。
…『清兵衛と瓢箪』!志賀直哉!!
そうだ、『清兵衛と瓢箪』ってすごく短いお話だった。瓢箪に夢中な少年が出てくる。これ、作りやすいんじゃないだろうか。
学生時代に読んだとき、短いこともあり、このお話からどういう感慨を抱けばいいのだ…とあっけにとられているうちに読み終わってしまった記憶がある。
小説の神様と呼ばれる志賀直哉の作品である。これを機に、もう一回噛みしめてみたい。
アイシングクッキーを作って、この手ぬぐいの上にのせてみよう。そして、アイシングクッキーを介して読み直してみよう。
まずは完成形をご覧いただきたい。
真ん中の、お腹に「清」と書いてあるのが清兵衛である。清兵衛が瓢箪に夢中なのを激怒する教師と父はおばけ型。清兵衛を取り囲む瓢箪たち。
このクッキーを使って、『清兵衛と瓢箪』のお話を振り返ってみようと思う。しかしまずは、クッキーが完成するまでを紹介させてほしい。
マフィンとクッキーを焼く
クッキーだけでなくマフィンも作ってデコレーションしようと思ったので、まずは普通にマフィンを焼いた。
プレーンマフィンの生地を作って…。
マフィンカップに詰めて…。
オーブンで焼いた。普通にお菓子を作っている。
普通にマフィンが焼けた。
次はクッキーである。型で抜いて瓢箪や清兵衛を作っていきたいけれど、残念ながら製菓材料店にも瓢箪の型は売っていなかった。
瓢箪の絵を描いた。
こちらは清兵衛。
型も自作することに。まずは瓢箪をフリーハンドで描いてみた。
清兵衛はジンジャーマンクッキーの型を使おうと思っていたが、想定より小さいものしかなかったので、型を見ながら描いた。若干スタイルが変化したことは無視してほしい。
清兵衛はおそらく可愛らしい少年だと思うので、ジンジャーマンクッキーの型を使うが、そんな清兵衛の瓢箪への執着を邪魔してくる大人たちは何で表現するか。
具体的には父と教師だけれど、そんなおじさんたちの抜き型なんて売ってない。おじさんをクッキーでどう表現したらいいんだ…。
結局おじさんたちは「おばけ」モチーフで表現することに。左下2つです。
100円ショップのクリアファイル。
見えにくいですがクリアファイルが乗っています。
描いた絵を油性ペンで写していく。
クリアファイルを切り抜いたもの。
クッキーで抜きたい絵を描いて、それを切り開いたクリアファイル(新品)に油性ペンで描き写していく。それを切り抜いて、クッキー型の代わりにする。
クッキー生地を伸ばして…。
クッキー生地を伸ばして…。
伸ばしたクッキーの生地にクリアファイルで作った型を乗せてナイフで切りとっていく。
抜いた生地をオーブン皿に並べる。
焼きあがり。
クッキーが焼けたので、いよいよアイシングの準備に進む。
アイシング作業
アイシングは乾燥卵白と粉砂糖、食用色素を混ぜるということだった。
乾燥卵白。普段の料理では使わないし、見かけたこともない。製菓材料店で探そうと思っていたら、スーパーでこんな便利そうなものを見つけてしまった。
製菓材料店に行くまでもなく、近所のスーパーにあった。
中はこんな感じで、スプーンとアイシングの粉が入っている。
粉に、付属のスプーン1杯分の水を入れ混ぜる。これは「白」のアイシングのため無色だけれど、「黄」とか「ピンク」とかも、水を入れて混ぜるだけで色が付く。
できたアイシングはセロファンで作った小さい絞り袋みたいなのに入れる。
色の調合も不要で、本当に混ぜるだけだった。
乾燥卵白と粉砂糖を混ぜてアイシングを作る際の注意事項として、ゆるくなり過ぎないよう水の量に気をつけるとあったのだが、このキットなら付属のスプーンに1杯水を入れるだけという親切設計。準備は一気に整った。
さぁ、いよいよデコレーションしていくぞ!!!
最初に細く縁取りをする。
右手で撮影しているため左手で作業しているような画になっていますが、右利きです。
細かい作業が続くので練習が必要かなと思いながらも、ぶっつけ本番で臨んでしまった。たまにはみ出して指先で拭うこともありつつ、割とかたちになっている気がする。
普段からアイシングクッキーを作っている方から見たら、非常に拙い出来だとは思いますが、どうか広い心で遠目にご高覧ください。
大きく色を塗って乾かして、そこに黒とピンクでさらに書きこんでいく。
ピンクはラズベリー、黒はグレープ、黄色はパイナップル、緑はメロン、白はミルクの香りがついている。黒=グレープの図式が頭になかったので違和感があり戸惑う。
写真では伝えられないけれど、この作業現場は香りの洪水となっている。
色を塗って1回乾かしてから絵柄を描き込むので、一気に作業できないが、この量で作業時間自体は1時間ちょっとだと思う。思っていたよりサクサク(クッキーだけに)進む。
続いてマフィンにもデコレーションを施す。
といっても、若干力尽き始めていたため、アイシングクッキーを乗せるための土台として利用して、デコカップケーキにした!と主張してお茶を濁すことにする。
粉砂糖に牛乳を入れてゆるいアイシングを作って、糊代わりにする。
クッキーを乗せました。
それではいよいよ、このクッキーを使って『清兵衛と瓢箪』のお話を振り返ってみたいと思います。
もうしばらくお付き合いください。
アイシングクッキーで読む、『清兵衛と瓢箪』
清兵衛という、12歳の小学校に通う男の子がいました。 清兵衛は瓢箪が大好きで、集めてしきりに磨いては眺めていました。
瓢箪好きの小学生っていう設定からしてかなりシュールだと思うのだが、発表当時(大正2年)ではここは突っ込むところではなかったのだろうか。現代だと、まず瓢箪にお目にかかれない。
あるとき、フェイバリット瓢箪に出会います。 手放せなくなって、学校にも持って行くようになりました。
いま我が家には1歳児がいるのだが、我が息子に想いを馳せてしまった。彼が将来瓢箪を集め出したらどうしよう。
というか、買ってくれと言われたらどこで入手してやればいいのだ。でも瓢箪を愛でる小学生って面白いから、ぜひ集めてほしい。
授業中にも机の下で磨いていて、それを教師に見つかってしまいます。 教師は激怒。清兵衛のフェイバリット瓢箪を取り上げてしまいました。
いいじゃん、瓢箪を持ち歩いて授業中にまで磨いている子なんてむしろ面白いよ、怒らないであげてよと思ったのだが、いまならゲームにはまって授業中まで携帯やゲーム機をいじっているような感覚なのだろうか。
確かに子どもが授業中にゲームをしていると聞いたら私も叱るな。とはいえ母も授業中『バナナフィッシュ』を読んでいるのが見つかったことがあるよ。
教師はそれに飽き足らず、清兵衛の家にまで押し掛けて、 家庭でも取り締まるよう小言を言いに来ます。 もともと清兵衛の瓢箪好きを苦々しく思っていた父も大激怒。
おじさんたちのアイコンとして、教師はメガネに口ひげ、父はおでこのしわとほうれい線を入れてみた。彼らの怒りが伝わっていることを願う。
そんなに怒らず清兵衛の好きにさせてあげればいいのにと思ってしまうが、たとえばわが子が蛇にはまって家で蛇を飼いたいと言ったら、私も何とか回避するよう仕向けるなと気づいた。
万が一こっそり飼って、それがケースから逃げ出したなんてことになったら大激怒だ。というか、私が家から逃げる。
怒った父は清兵衛を散々なぐりつけ、罵倒し、さらに「玄能」で瓢箪を…。
「玄能」という単語が出てきて、調べたところハンマーのことのようなので持たせてみた。
叩き割ったーーーー!
ここではマフィンに乗せたフェイバリット瓢箪を叩き割った画になっているが、小説をよく読むと、フェイバリット瓢箪は教師が取り上げて返していない。
撮影していたとき、父の怒りのエネルギーに乗せられて、つい勢いでマフィンに乗せた瓢箪を父に叩き割らせてしまった。
勢い止まらず、父は清兵衛が手入れしたたくさんの瓢箪を持ってきては 次々割っていきます。
ちなみに小説ではフェイバリット瓢箪は、教師から学校の小使いに渡り、彼が骨董屋に持ち込み、最終的に地方の豪家に当時のお金で600円で売れたという。
父が清兵衛の「愛瓢」を割り続ける中、清兵衛はただ青くなっていました。
解説によると、この小説は父と子の対立を描いているということらしい。
瓢箪というモチーフに気をとられてどうにも面白さに引きずられてしまうが、現代を生きる私から見ると、息子が大切にして心血を注いで磨いた瓢箪を次々叩き割るって、常軌を逸している。現代にはいない頑固おやじだ。
当時から見れば、父親に逆らうということはものすごく大変なことだったかもしれない。でも現代の世界から私は思う、清兵衛にはぜひ熱中するものを貫いてほしい。
そうだ、息子にも何でもいいから夢中になるものを見つけてほしい!
この出来事以来、清兵衛と瓢箪の縁は切れてしまいました。
あぁ…、清兵衛には瓢箪好きを貫いてほしかったのに…。でも確かにこんなショックなことがあったらそれも仕方ないよね…。
でも、清兵衛は今、絵を描くことに熱中しているのです!
と思ったら、新しい趣味見つけてたーーー!
もう教師を恨む気持ちも、父を恨む心もなくなったとのこと。意外にあっさり瓢箪を忘れたことに驚くが、子どもはそういうものかもしれない。何はともあれよかった。
ちなみに赤富士を描いている設定だ。
ただし、父はそろそろ絵の趣味へも小言を言いだしてきています。
今度も大人に邪魔されるかもしれないけれど、そのときはまた何か見つけるんだろうな。そして最後は1つ何か熱中するものを掘り下げてほしい。
学生時代以来10年以上ぶりで読んだが、アイシングクッキーを挟んで読むと、今回はすんなり物語として受け入れられた気がする。そしてわが子に想いを馳せる結果となった。
なお、クッキーは思った以上においしかった。パイナップルとか、メロンとか、クッキーで味わえるとは思っていなかった味で食べられて、飽きずに楽しめそうだ。
湿気てしまう前に食べきれるかな…と心配していたが、家族で食べていたらあっという間にあとこれだけになっていた。