1万円で何を買うのか?
というわけで、結論から言うと「チーズ」を買ったわけだけど、そこに至るまでをまずは聞いて欲しい。
デイリーポータルZ編集部から「1万円でなにか好きな物を買ってください!」という依頼が来た。
普段、何を買うにしても安物で済ませることが多いので、「1万円のもの」にどんなものがあるのかがわからない。
とりあえず、デパートに行けば1万円ぐらいのものはあるんじゃないか? との目論見で、1万円を握りしめ、銀座に向かった。
この記事は2015年のシルバーウィークとくべつ企画「一万円の○○」シリーズのうちの1本です。
買い物といえばデパートかなー
当初「どうせみんな食い物買うだろうから、ぼくは香水あたりを買うかな」なんて気持ちで銀座のデパートに入った。
しかし、この「1万円で、自分のすきなものを買ってよい」という状態でデパートに入るというのは、人の感覚を狂わせるなにかがある。
「スーパーマリオ」でスターを取ると一定時間無敵になるわけだけど、1万円をもってデパートに入るとまさにその状態になった。
5千円のバームクーヘン、
1万円の栗のテリーヌ、
一粒500円18個入り9千円のショコラ、スィーツだけではない。1万数千円の霜降り牛肉、一尾数千円の秋鮭といった食材まで、普段なら絶対に買うことのない商品が、視界にどんどん飛び込んで「見えて」くるのである。
第六チャクラ(サードアイ)が開いたのだ。1万円で。
百貨店の品揃えの底力はすごい。日頃ショッピングモールだなんだと浮かれて安物を買っているぼくは、横面をひっぱたかれたような衝撃があった。
資本主義の、なんと豊潤なことか。
百貨店は、1万円をもって行くだけでひとつ上のステージを見ることができるのだ。
ぶどうとチーズで悩む
たましいを揺さぶられるような百貨店の品揃えのなかでも、とくにぼくの心を掴んで離さなかったのが、シャインマスカットとチーズのふたつだ。
シャインマスカット、という響きが宇宙刑事みたいに聞こえてきた
シャインマスカットは、うやうやしく桐箱に入れられて売られている。うーん、入るか桐箱。たしかに入るだろうな。桐箱。うちで桐箱に入っているものといえば、へその緒ぐらいのものである。
しかし、1万円があれば、これを買ってたべていいのだ。この興奮はすごい。
許されざる者が許されるのだ、1万円があれば。
デパ地下に売っていたものは、値段が1万円に足りないかオーバーするものしかなかったが、近くにある千疋屋の銀座の店舗では、ちょうど税込み価格1万800円のシャインマスカットも売っていた。ほんとうに買う場合はそこで買おう。
まんなかへんにあのチーズ! たべてみたい!
ナチュラルチーズ売り場に山積みにされた品揃えのなかから、穴のあいたチーズを見つけた。
「あ、トムとジェリーのチーズだ!」と思わず叫んでしまう。1万円をもってデパートにくると、童心に返るのだ。
一番大きな塊のトムとジェリーのチーズの値段を見ると1万730円。買えるのである。子供の頃から憧れていたあのうまそうなトムとジェリーのチーズが買えるのだ。
「エメンタールチーズ」という種類のチーズだそうです
若い人は「トムとジェリーのあのチーズ」といわれてもピンと来ないかもしれない。
むかし、テレビの再放送で繰り返しやっていた「トムとジェリー」というアニメで、ネズミのジェリーが大好物だというチーズのことである。
この穴のあいたチーズ、あこがれたなー
勢い余って住んでたりするんですね、どうでもいいけど目がやばいな
この、穴のあいたチーズを、ジェリーはうまそうにのみ込むわけである。
しかし、子供のころたべていたプロセスチーズにはこんな穴なんかあいてなかった。あのチーズはいったいなんなんだ。
大人になったいま、ネットで「トムとジェリー チーズ」と検索すると、たちどころに「エメンタールチーズ」と、その答えを教えてくれる。
よし、1万円でこのエメンタールチーズを買おう。買うんだ。おれは。
1万円握りしめて悩む
とはいうものの、シャインマスカットの魅力にも抗い難い。一房何粒ついてるのか知らないけれど、一房1万800円だと、たぶん一粒300円ぐらいするんじゃないか?
一粒300円のぶどう。たべたい。たべてみたい。どんな味がするのか?
千疋屋の前で悩む
店頭にあった説明を読むと、シャインマスカットは種が無いので、皮ごとそのままたべて良いらしい。
皮ごと……よくわからないけれど、生唾をのみこまざるをえない。むかなくていいぶどうがこの世には存在するのだ。
千疋屋の店の前まで行って買うかどうかを悩む。
あー、もうちょっとその辺を歩いて考えよう。
シャインマスカットを味見
悩みながら歩いていると、長野県のアンテナショップが新しく開店しているのを見つけてしまった。
いつの間にできてた?
しかも、おりよく500円払えば、シャインマスカットを含めた長野県産のフルーツをいくつか味見できるという。
これが、シャインマスカットか!
ここで味見できるシャインマスカットは、数千円の購入しやすいものだが、ひと粒100円ぐらいはするものだろう。
シャクリ……目がやばい
シャクっとした歯ごたえとともに口の中に広がる甘みとマスカットの芳香。そして皮のかすかな酸味。うまいというほかない。
これがひと粒ウン百円のぶどう……。これを1万円出して買って帰れば家でこの甘味を存分に堪能できる……。
これは決まったな。
買った
エメンタールチーズを買った。
ぼくの顔とほぼ同じ大きさのエメンタールチーズ。1万730円。シャインマスカットも捨てがたかったのだが、味見して満足してしまったところもある。
それよりなにより、子供の頃からあこがれていたあのチーズがどんな味なのか知りたい、穴だらけのチーズを見てみたいという好奇心が勝った。
チーズにしてはそんなににおわない
チーズ屋さんのお姉さんに「一つの種類だと味に飽きるかもしれないので、何種類か買うのはどうですか?」と勧められたが、そういうことじゃないのだ。あのチーズのでかい塊を1万円で1個買うのがいいのだ。
チーズ屋さんのお姉さんに聞いた、エメンタールチーズのうまい食べ方、パンに乗せてそのまま食べる。をやってみる。
ほんとに穴あいてるなー
パンに乗せて焼くだけ
トロットロだー
エメンタールチーズ自体は塩味が薄い、プロセスチーズなどのあの味を期待するとちょっと驚くかもしれない。その代わりこってりしたコクと風味が口に広がる。
そのままを食べるのもいいけれど、パンと一緒に食べるとか、生ハムに合わせて食べるとおいしいかもしれない。
チーズフォンデュのチーズもこのチーズを使うらしいので、今度やってみたい。
夢は広がる……。
ちびちび食べます
1万円でぶどうかチーズか、さんざん悩んだ挙句、チーズを買った。
後悔はしていない。