仲良しこよし、めがねの名産地
眼鏡の産地といえば、福井県鯖江市。なんと全世界の眼鏡フレームの20%が鯖江産である。国内シェアに至っては96%という驚異の数字だ。
もちろん、僕が普段から使っている眼鏡も鯖江産のフレームである。
眼鏡、ここが君のふるさとだよ…
ある日突然に鯖江市が独立国宣言をしたら、我々眼鏡人間は一も二もなく従うしかないだろう。
ちなみに市内就業者の6人に1人が眼鏡産業に従事しているという。市の名前が眼鏡市じゃないのがおかしいぐらいだ。
訪れる者を監視するかのように見据える、巨大眼鏡。
ちなみに、駅を出たら真正面に巨大眼鏡のオブジェがある。
ご神体か、もしくは全ての眼鏡の母、マザー・メガネなのかもしれない。
ちなみに、眼鏡よりも大きい隣の紫色の看板は「近松門左衛門のまち、さばえ」とある。『曽根崎心中』で有名な近松門左衛門が幼少期を鯖江で過ごしたらしい。その程度の薄い縁よりも、もっと眼鏡にプライドを持つべきじゃないか。
さて、話に聞いた眼鏡の祭りは、この駅から徒歩10分ほどの会場で行われているらしい。めがめがと(てくてく的な擬音)歩いていると、向こうにあからさまに眼鏡っぽいビルが見えた。
渋谷109の看板っぽいが、眼鏡だ。
間違いない。あれが眼鏡の聖地にして今日の目的地『めがねフェス』会場である、めがね会館だ。
看板(写真左下)にも眼鏡がついてる。かわいい。
眼鏡のビルに近づくにつれ、次第に眼鏡気(眼鏡人間にのみ感じられるオーラ的なやつ)が高まっているのが見える。
よし、ここが『めがねフェス』会場に違いない。のぼりも出てるし。
めがねフェスで。まずは眼鏡を食べる
フェス会場は、眼鏡のビルことめがね会館の駐車場で土・日の二日間、開催されていた。
思ってたよりほのぼのとしたご当地イベント。
会場入りしてまずおどろいたのが、お客さんの眼鏡率の低さだ。
なんかみんな、眼鏡かけてないぞ。
『めがねフェス』というからには、ドレスコードが眼鏡じゃないのか。
あきらかに低い眼鏡着用率。
裸眼やコンタクトレンズの人間は受付で追い返されたり、だて眼鏡をつけて入場しようものなら、バレた瞬間に黒服黒眼鏡のエージェントが「お客様は、こちらへ」と暗いところへ連れて行かれそうな感じだと思っていたのに。
想像してたよりかなりユルい。それこそ、眼鏡国独立決起大会のような荒々しい感じすら覚悟していたのに。
きちんとフィッティングする前の眼鏡のようなユルさだ…というような眼鏡たとえをわざわざ文中に入れ込む必要もなさそうな、ほのぼのした雰囲気である。
フェス会場内には飲食の屋台もいろいろと出ているのだが、そのメニューもかなりユルい。
キュウリのピクルスで眼鏡を表現している塩かつ丼。あっさりしてて美味かった。
芋あんと栗あんのパンを串で刺しためがねあんパン。パン生地がしっかりしてて美味い。
いちおう眼鏡しばりはあるのだが、表現方法がユルい。あ、そんなんでいいのか、と気が楽になった。あと、しばりがユルい代わりにかなり美味い。
話を聞くと、地元でも美味いと評判のお店が本気で屋台を出しているらしい。
めがねマフィン。眼鏡はアイシングで描いてある。
パプリカで眼鏡を表現したエビアボガド丼。眼鏡要素無くてもいい。
チョコで黒縁眼鏡を表現した眼鏡プレッツェル。
どれも、ご当地イベントの飲食としてはかなりクオリティ高い。
ユルくて美味いものを食べて気が楽になったので、今度は他の屋台や出し物を見て回ろう。
出し物・屋台もめがね尽くし
食べ物以外にも、いろいろと眼鏡に関する出し物がある。
まず、会場内で開催されていたスタンプラリーが眼鏡だ。
受付でもらえるスタンプカード。
印刷されている8人の顔のうち4人が眼鏡をかけていない。
ノー眼鏡な彼らの顔の上に、会場のあちこちに設置してある眼鏡スタンプを捺して回るのだ。
意外と目の位置にうまく捺すのが難しい。
なかなかかわいいし、これはユルくないなーと思ったのだが、スタンプラリーでもらえる景品がとてつもなくユルかった。
眼鏡金太郎飴。だと思う。たぶん眼鏡。確信は持てない。
景品は眼鏡拭き(こっちは普通)と眼鏡金太郎飴との二択だったのだが、あまりの脱力加減につい、こちらを選んでしまった。
めがねてぬぐい、かわいいので買っちゃった。
福井県立科学技術高校が出していた屋台では、テキスタイルデザイン科の学生さんが作っためがねてぬぐいを売ってた。
金太郎飴と同じような眼鏡モチーフのデザインだが、こっちは普通にかわいい。
この学校では繊維染色技術の授業もあるようで、もちろん手ぬぐいはプリントじゃない、ちゃんと本格的な注染で作ってあるやつだ。
手作りアクセサリーも、素材は眼鏡。
眼鏡フレームを作る時に出るアセテート(プラスチック系の素材)の端材を組み合わせて作るアクセサリーのワークショップもあり、こちらは常に参加者ががいっぱい。
僕も挑戦してみたかったのだが、空きのタイミングが無くて作れなかった。
眼鏡アイドルと眼鏡好きたちのコール&レスポンスがアツい。
会場端に設けられていたのはライブ会場。ここでは常に眼鏡パフォーマーによるライブが行われているらしい。
巨大眼鏡を片手に暴れるCutie Paiさん。
僕が観ていた時は、眼鏡アイドルにして福井県眼鏡協会公認めがね大使のCutie Paiさんがステージを繰り広げ中。
オリジナルの眼鏡ソングがなんか結構かわいい曲ばかりで、しばらく聞き込んでしまった。
あと、その日の夜まで延々と眼鏡ソングが脳内を回って困った。
眼鏡に燃えろ、メガネリンピック
さて、眼鏡ライブと並んでフェスの目玉とされているのが、眼鏡を使った競技会『メガネリンピック』である。
眼鏡っぽい五輪マークまでデザインされてる!
眼鏡を使った競技会、である。
これらの競技で争われるのは体力や知力ではない。その人の眼鏡かけ力なのだ。
もうこの時点で競技の内容は予想がつく。
まず僕が挑戦したのは『めがねリフティング』。
バスケットをくくりつけた眼鏡をかけ、このバスケットにゴルフボールを何個入れられるかを競うものだ。
つまり、こういうこと。
で、こうだ。
これが意外と難しい。ゴルフボールも一気に入れると衝撃で眼鏡が落ちるので、少しずつそっとバスケットに入れるなどの工夫も必要だ。
この時、台風一過の晴天で気温29度。汗で眼鏡のツルが滑るので難易度は非常に高い。
成績上位者は貼り出されるぞ。めざせ世界記録。
他には、『めが盛り』という競技もあった。
一分間の間に眼鏡をどれだけ顔にかけられるかというものだ。
この体勢からスタートして。
こうなる。まさに眼鏡かけ力の戦いだ。
とにかく顔でも頭でも、首から上ならどこでもいいから眼鏡を装着するのだ。
ちなみにこれはギネスにもちゃんと認定されている競技とのことで、世界記録は1分間に23個。
僕の記録は12個。かなり難しいぞ。
よく見たら、めがねの「が」の濁点が眼鏡。細かい。
ちなみにこちらはメガネリンピックではないが、立てられた眼鏡のテンプル(ツル)にレンズを抜いた眼鏡フレームを投げ込む『めがねわなげ』なる屋台もあった。
これは眼鏡かけ力ではなくて、眼鏡投げ力競技と言える。
めがね会館も眼鏡に充ち満ちていた
さて、ここまでがいわゆるイベントとしての、ハレの眼鏡に溢れた『めがねフェス』だ。
しかしフェス会場である『めがね会館』自体も、相当に眼鏡まみれなのだ。
いや、そりゃめがね会館なんだから眼鏡まみれでまったく当たり前なんだけど、「ああ、ここはイベント関係なく恒常的に眼鏡なんだな」と感じさせる、ケの眼鏡世界なのだ。
めがね会館の玄関ホール。天井の巨大オブジェは眼球か?
とにかく、会館内の様々なものが眼鏡である。
例えば、会館を入ってすぐの玄関ホールに吊られた巨大球体オブジェは、眼鏡の金属製フレームを打ち抜いた端材で作られたもの。
やたらとカラフルな、眼鏡による日本地図。
壁面に飾られていた日本地図は、これまた眼鏡フレーム用の様々な柄のアセテートを組み合わせて作ったものだ。
なんでアセテートで地図を作ろうとしたのかはよく分からないが、たぶん鯖江においては一番身近な素材なんだろう。
もしかしたら地元のホームセンターとかで売ってるんじゃないか。
原寸大の眼鏡堅パン。僕もお土産に購入した。
土産コーナーでのイチ推し商品は、この眼鏡堅パン。
お客のおばさんが、ショップのお姉さんに「これ、美味しい?」と聞いたら、「堅いです」と答えていた。
味を聞いた返事が、まさかの硬度である。
実はこの袋が欲しくて堅パンを買った。いい紙袋だ。
あと、土産物を買うと入れてくれるこのランドルト環買い物袋がかわいかった。
眼鏡の聖地、ミュージアム
会館の三階は、ミュージアムになっている。
メインは、100年前の眼鏡生産現場を再現した展示だ。
古い眼鏡生産機械を展示。こんなので作ってたのか。
あと、ミスターオロナミンCこと大村崑さん(福井県めがね大使)が趣味で集めた芸能人の眼鏡コレクションも展示されていた。
壁面にずらりと並ぶ、崑コレクション。
フレームを見ただけでわかる、笑福亭鶴瓶師匠の眼鏡。
故・横山やすし師匠の眼鏡。1970年代の日本で一番有名だった眼鏡。
これは、きよしが舞台の足元に置いたのをやすしが「めがねめがね…」と探していた、あの眼鏡じゃないのか。
これは間違いなく眼鏡界における伝説級の眼鏡だろう。
NHK鈴木健二アナのあの眼鏡や、ミスター長嶋茂雄のサングラスまで。
江戸時代の眼鏡もいろいろ。これは当時の芸能人がかけてたやつ、ではない。
レジェンド眼鏡から歴史的な眼鏡まで色々と見られて、わりとお得だと思う。
お得の概念がだいぶ眼鏡好き方向に傾いている気もするが、かなり面白かった。
似合う眼鏡をプロに選んでもらう
一階に下りてくると、大きな工房スペースがあった。
ここはイベントの日じゃなくても、予約制で眼鏡フレームを自作できるのだ。
オリジナルのアセテート眼鏡フレームを作る工房。
ここでは、自分の好きなデザインでフレームの形に糸のこぎりで切り抜き、ヤスリで形を整え、鼻あて、テンプルをつけるまでを行う。
あとは本職の職人さんが仕上げ(1ヶ月程度)をして送ってくれるのだ。
時間がかかる(作業時間5~7時間)とのことで今回は諦めたが、いずれは林さんや西村さんたち浮かれ眼鏡チームと一緒に、職人さんが仕上げた本格的な浮かれ眼鏡を作りに来たい。
で、眼鏡を自作する前には、眼鏡職人さんに「自分に合う眼鏡のフレームデザインを選んでもらう」という行程がある。
今回はその部分だけを体験させてもらう事にした。
その場で眼鏡無しの顔写真を撮って、専用の眼鏡選びソフトで確認。
70種類ぐらいのフレームを次々に顔に合成。
「うーん、あなたはアレだね。だいたいどんな眼鏡でも似合う顔だね」
僕の前にフレームを選んでもらってた男性はじっくり30分ほどかけて5種類のフレームを選んでもらっていたのに、僕は開始3分でこれだ。
眼鏡人間としては嬉しいお墨付きであるが、ちょっと丸投げな過ぎないか。
そこをなんとか、プロの意見として「お前はこの眼鏡かけとけ」という1本を教えてくださいとお願いしたところ、これじゃないかというのをプリントアウトしてくれた。
浮かれ眼鏡とか作ってる場合じゃなかった。これ今度作るわ。
これが、プロが選んでくれた僕の眼鏡だ。
顔原寸大で出力してくれるので、実際に眼鏡を作る際はこれで形を見ながら作ることができるのだ。
とりあえずこのプリントは次に鯖江に来る時まで大事に保存しておくことにしよう。
ところで、駅からめがねフェス会場までの道路の至るところに、レッサーパンダの絵が描かれていた。
なんでレッサーパンダ推しなのか分からなかったので後で調べたら、鯖江の動物園は国内でも有数のレッサーパンダ繁殖数を誇っているのだ。
中国から「パンダあげるから眼鏡の作り方を教えてくれ」と言われて技術供与したら、届いたのがレッサーパンダだった、ということらしい。
なんか壮絶な詐欺だと思うのだが、それでもレッサーパンダをかわいがって増やしてる辺り、鯖江の人はいい人ばかりなんだろう。眼鏡人間、性善説だ。