特集 2015年8月22日

川沿いに突如現れる駄菓子屋で定食屋で飲み屋の「何屋なのか分からない店」

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「鴨居から鶴見川を川沿いに下って行くと、怪しい駄菓子屋があります。飲みでもあるようなので、どんなメニューがあるか気になります。調査して下さい。」という投稿が380さんからはまれぽ.com編集部へとどいた。

調べてみると、鶴見川沿いの阿部商店は駄菓子屋にもかかわらずキャンプにBBQ、カラオケ完備の定食屋でもあり、宴会もできる何でもアリのすごい店だった。

はまれぽ.com 細野 誠治

(編集部より:記事を提供してくれているはまれぽ.comから、今週は過去に掲載されたヒット記事をご紹介します。)
はまれぽ.comは横浜のキニナル情報が見つかるwebマガジンです。毎日更新の新着記事ではユーザーさんから投稿されたキニナル疑問を解決。はまれぽが体を張って徹底調査します。

前の記事:白くてもしっかり辛い白麻婆豆腐と白担々麺


鶴見川、夏の庭、川向の地蔵堂

母方の曽祖母は駄菓子屋を営んでいた。
筆者の細野(駄菓子屋のひ孫だ)は、駄菓子屋の取材をする度に、幼いころに死に別れた曽祖母の気配がしないかと普段よりも目や、耳をそば立ててしまう。
そんな駄菓子屋を探るキニナル。今回の場所は何でも「怪しい」とか…
そんな駄菓子屋を探るキニナル。今回の場所は何でも「怪しい」とか…
駄菓子屋といえば多少の猥雑さや、郷愁を含んだある種の暗さがあって、お世辞にも健全ではないと思う。そういった語彙を含んだ「怪しさ」とは違うのだろうか?
この目で確かめるべく、JR横浜線「鴨居」駅へ
この目で確かめるべく、JR横浜線「鴨居」駅へ
改札を出て北口。すぐに鶴見川にぶつかる
改札を出て北口。すぐに鶴見川にぶつかる
駅そばの鴨池橋を渡ったら右へ川を下る方角、新横浜(小机)方面へ。
「夏・ver.2015、ダウンロード完了!」な取材日
「夏・ver.2015、ダウンロード完了!」な取材日
世の中が夏休みに入って、関東・甲信越地方の梅雨明け宣言が出て最初の休日。
うだるような暑さが心地よい…のだが、なかなかキニナル舞台である駄菓子屋が出現しない。
新川向橋と川向橋を越える
新川向橋と川向橋を越える
2本目の橋を越えると、ようやく店を知らせるノボリを発見する。
あった!
あった!
鴨居駅から、大人の脚でのんびり30分ほど。ようやく到着。(隣駅の小机からだと約半分の時間で着きますよ)
ここ
確かに「怪しい」という表現が合うような…
確かに「怪しい」という表現が合うような…
看板を見ると「お食事処」「居酒屋(通信カラオケも)」「駄菓子」「新鮮野菜販売」とさまざまな表記が。
そしてツギハギだらけの建物、駄菓子は表記の3番目。一体、どこに注力されているのか? これはキニナル。(去年の年末、鶴見川を踏破したときに通ったはずだが、記憶にない…)
河川敷から階段を使って降りると店舗
河川敷から階段を使って降りると店舗
敷地に入ると右手に飲食スペース。正面入口左手では野菜がディスプレーされている。
野菜の無人販売スペースのような…
野菜の無人販売スペースのような…
そして間違いなく駄菓子屋。屋号は「阿部商店」
そして間違いなく駄菓子屋。屋号は「阿部商店」
店内へ。間違いなく駄菓子屋!
店内へ。間違いなく駄菓子屋!
6畳分ほどの店内に駄菓子にオモチャ、さらには自家製の一味唐辛子が売られている。
オモチャのほか、唐辛子もあります
オモチャのほか、唐辛子もあります
ビールもあるよ!
ビールもあるよ!
ナンダカンダで、いろいろ深い。店の方に話を聞こう。
店主の阿部力(つとむ)さん、70歳
店主の阿部力(つとむ)さん、70歳
来意を告げると「ウチは何でもやってる店なの」と力さん。
「見てもらうのが早いわ」ということで店(駄菓子屋)の裏へ案内される。
裏へ回ると車が10台停められるという駐車場が(えっ!? 駄菓子屋で?)
裏へ回ると車が10台停められるという駐車場が(えっ!? 駄菓子屋で?)
さらに奥には母屋が
さらに奥には母屋が
「ここでバーベキューしたり、テントを張ってキャンプができるの」と力さん。
「大人2500円、高校生が1500円で中学生までが1000円。小学生以下は無料でバーベキューメニューが食べ放題」

頭が混乱する。駄菓子屋ですよね?

力さんの「畑もあるの」の声に従い進むと、たくさんの野菜が育てられていた。
キュウリにゴーヤ
キュウリにゴーヤ
ナスに枝豆も
ナスに枝豆も
桃まである。落ちた桃にはカブトムシが群がっていた
桃まである。落ちた桃にはカブトムシが群がっていた
まだある。唐辛子にネギ、ジャガイモやタマネギ、ズッキーニ、カボチャ、各種ハーブのほかにブドウのデラウエア、キンカン…などなど30種類以上の野菜・果物を500坪の敷地で育てている。

庭で育てたこれらを、営んでいる食事処で振舞っているそう。
そして敷地の端に地蔵堂が
そして敷地の端に地蔵堂が
写真の最も大きいものが一番古く、328年前のもの
写真の最も大きいものが一番古く、328年前のもの
力さんいわく、そのままの名前の「お地蔵さま」の愛称で地域の信仰を集めているそうで、建立されたのは今から328年前の1687(貞享4)年。徳川5代将軍・綱吉のころ。

「おん かかか びさんまえい そわか」と3回唱え体の治してほしい場所を、右手でお地蔵さまの体を摩(さす)り、その手を自分の体の同じ箇所を摩ると悪いところが治るという。

筆者は昨年、大腸のポリープ手術を受けた。快癒しますようにと願いを込めて祈る。
治りますように…
治りますように…
そして思う。ここは一体、何なんだ…。
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隠れ家、地産地消、人との繋がり

庭を見せていただいて戻ると、駄菓子屋の真裏に当たるところへ。ここで採れたて野菜を使った料理が食べられるという。
駄菓子屋の裏手が「食事処 阿部商店」
駄菓子屋の裏手が「食事処 阿部商店」
「中に店長がいる」と聞き、扉を開けると…いました!
店長のミルキーちゃん、メス
店長のミルキーちゃん、メス
ここ、阿部商店内では庭の木々や建物の影など、其処此処(そこここ)に猫の姿がたくさん。猫好きな力さんが世話を焼いている。
10匹以上、20匹未満だそうです
10匹以上、20匹未満だそうです
こちら店内の様子。喫煙可の座敷席が30。禁煙のテーブル席が10席
こちら店内の様子。喫煙可の座敷席が30。禁煙のテーブル席が10席
かもめ文庫『かながわ定食紀行』にも載っている名店でした
かもめ文庫『かながわ定食紀行』にも載っている名店でした
食事処のメニューは日々変わる
食事処のメニューは日々変わる
ボトルキープは3ヶ月、カラオケ(1曲200円)もできる
ボトルキープは3ヶ月、カラオケ(1曲200円)もできる
筆者もお腹が空いた。店自慢のものを食べさせてもらおう。
定食は肉か魚の2種類で価格は840円。ご飯はお代わり自由。内容も毎日変わるそうだ。

筆者は「魚の定食」をオーダー。すると力さんから「食べられないものはありますか?」と質問が。
「無い」と答える筆者に力さんは「お金をもらうのに、嫌いなものは出せないからね」と。

細やかな気配りだな。そして臨機応変に対応できるのも凄い…。
休んでいると「アタシを撫でなさいよっ!」と店長がくる
休んでいると「アタシを撫でなさいよっ!」と店長がくる
待つことしばし。店長(ミルキーちゃん)を撫でていると定食が到着。
この日の魚定食はアジの開き
この日の魚定食はアジの開き
たっぷりご飯にアジとアサリの味噌汁。キュウリの浅漬けにナスの黒煮、茹でたトウモロコシが付いて840円。
ボリュームがある。そして膳にのった野菜は、すべて裏の畑で採れた朝摘みのもの。

一通り箸を進めると、野菜がすごく美味い! 野菜そのものの味が強くて、それがさまざまな調味料と組み合わさって(負けてない!)主張している。

どこか遠くの田舎にでも行かないと食べられないんじゃない? っていう野菜の美味さ。
ナスの黒煮が本当に美味い。細野はこれでご飯を食べました
ナスの黒煮が本当に美味い。細野はこれでご飯を食べました
この日のもうひとつの定食「肉」はポークソテー
この日のもうひとつの定食「肉」はポークソテー
店長(ミルキーちゃん)放ったらかしで、あっという間に完食。久しぶりに体にいいものを、たらふく食べた気がする。大満足だ。
訪れていた方に話を聞く…
訪れていた方に話を聞く…
絶対匿名さん(男性)は週に2度ほど来店。
「ここは美味いから来てる」と。そして「のんびり、ゆっくりできるから」とも。
食後にアイス(200円)食べよう。一番人気の「練乳いちご」を
食後にアイス(200円)食べよう。一番人気の「練乳いちご」を
アイスを作ってくれた従業員のひとり、渡辺愛子さん
アイスを作ってくれた従業員のひとり、渡辺愛子さん
そして大木トモ子さん
そして大木トモ子さん
お腹いっぱいで甘いものも食べたし、少しゴロッとしたいところだが、力さんに話を聞いてみよう。

まずは店の成り立ちからだ。

元々は家で採れた野菜を家の軒先で売る野菜販売の店だったという。
野菜の直売店から
野菜の直売店から
「ウチのお婆ちゃんが農協まで野菜を持って行くのがシンドくなったんで、家の前で野菜を売ってたのよ」と力さん。

この直売店が1989(平成元)年のこと。その2年後の1991(平成3)年に駄菓子屋を始める。理由はお客さんからのリクエストがきっかけ。
ジュースなどとともに軽いもの(駄菓子屋)を売るためにオープン。
駄菓子屋の開業は今から24年前
駄菓子屋の開業は今から24年前
そして先ほどまで筆者がいた食事処のオープンが1995(平成7)年。

家の前で野菜を売っていたらお客さんに言われてジュースや駄菓子屋を始めるように。今度は食事や酒も出してくれと言われて、その通りに開業。
わらしべ長者のように…
わらしべ長者のように…
要望があるということは需要があるということ。でも、失敗は怖くなかったのだろうか?
「家賃がかからないからね。それに野菜は裏で採れるものだし」

今ではカラオケを完備した食事処になって、宴会も承っている。
(裏の畑の空きスペースでキャンプやBBQまでやってるし…)
インタビュー中も夜の宴会の仕込みが始まる
インタビュー中も夜の宴会の仕込みが始まる
朝採れ夏野菜たっぷりのかき揚げを…
朝採れ夏野菜たっぷりのかき揚げを…
力さんは毎朝3時に起床し畑仕事をこなし、家事に猫の世話、店の仕込みや接客と大忙しだとか。
どうしてそんなに頑張って…。原動力って何でしょう?

「“専業主婦”でもいいんだけれども、私はね、いろいろな人に会いたいの。この仕事をしてると、普通のご近所さんとの繋がりのほかに、たくさんの人に会えるから。サラリーマンに役所の人。学生さんとかお相撲さんとかも…」
いろいろな人に会えるから(訪れる芸能人はナイショ)
いろいろな人に会えるから(訪れる芸能人はナイショ)
インパクトのある外観も呼び水になっている
インパクトのある外観も呼び水になっている
横浜線の車窓から見えるノボリを毎日眺め続けていた人がやってきたり、鶴見川沿いを走るランナーやロードバイクのグループの休憩所や情報交換の場になったり。「面白い店があるぞ」とネットやブログで話題になり遠方から訪れたり。

(この近辺はテレビ番組のロケ地で使用されることが多く、芸能人の休憩所や着替えスペースにされたりも)
人が好きだから人が集まってくる
人が好きだから人が集まってくる
だからこそ、手間暇がかかっても細やかな気配りの届いた、おもてなしをしているのかな。
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夕暮れ、懐かしいアテ、ビールの味

なんて話を聞いてると、力さんの娘さんの旦那さんが…。
たまたまお休みだった斎藤自然(じねん)さん
たまたまお休みだった斎藤自然(じねん)さん
自然さんも加えてさらにいろいろな話を聞く。

近くの小学校の修学旅行前夜、店前の河川敷が駄菓子を買う客で行列ができるとか、芸能人が普通に食事しててビビるとか(誰かはナイショ)、お客さんがいないと店を閉めちゃうとか。

「あなた、昨日の日曜日に来ればよかったのに! 今日はヒマなんだから」と力さん。
閉店は午後9時だがこの日、駄菓子屋は午後6時には終了
閉店は午後9時だがこの日、駄菓子屋は午後6時には終了
自然さん「細野さんて、はまれぽの中で1人だけヘンな文章書いてる、…あの細野さんですよね?」

…そうです。宝塚歌劇団のなかで、1人だけHIP-HOPダンサーが混じっているような違和感を醸す、その細野です。
(はまれぽ読者さまからのナマの声を聞いて、何とも言えない気持ちになる)
それはさておき、はまれぽ認定!
それはさておき、はまれぽ認定!
そして、いい感じに暮れてきた
そして、いい感じに暮れてきた
食事処では川崎から訪れた常連親子が定食を。「美味しいから!」と支持
食事処では川崎から訪れた常連親子が定食を。「美味しいから!」と支持
河川敷の駄菓子屋にビールの提灯が灯る(!?)
河川敷の駄菓子屋にビールの提灯が灯る(!?)
今日も1日、暑かった。ビール飲んで帰ろう。ビールのアテは昔懐かしい味の駄菓子にしよう。
駄菓子一番人気は“ブタメン”、次点に“うまい棒”
駄菓子一番人気は“ブタメン”、次点に“うまい棒”
これだけ買って700円!(オモチャ含む)
これだけ買って700円!(オモチャ含む)
ビールはキリンで。中ジョッキで550円
ビールはキリンで。中ジョッキで550円
駄菓子をちびちび、ビールをグビリ…
駄菓子をちびちび、ビールをグビリ…
風に当たりたくなったら階段を上がって河川敷へ。吹きさらしの鶴見川が目の前。
いいでしょ? このロケーション
いいでしょ? このロケーション
塩辛い味の駄菓子をツマミに、喉を鳴らしてビール。
鶴見川の水面を越えて冷やされた風を浴びて、夕焼け眺めてさらにビール。
ぐびり。止まらない。
ご馳走さまでした~!
ご馳走さまでした~!

取材を終えて

駄菓子屋の「阿部商店」で探していた気配は、想像と違っていた。
単なる駄菓子屋ではありませんでした
単なる駄菓子屋ではありませんでした
この日訪れて肌で感じたものは、日本人の持つ「理想の田舎」の原風景だ。
駄菓子、家猫、広い庭に野菜畑。青畳の匂いのする座敷で、野菜がこれでもかと主張してくる手作りの家庭の味。
優しくて、気の置けない話に花が咲いて、ふっと切ないほどの郷愁に包まれる。
外は夏で、寛ぎと焦りが、ない交ぜになる。
田舎の“おばあちゃん家”のよう
田舎の“おばあちゃん家”のよう
「怪しさ」の奥には、そんな風景がありました。
大事な、自分だけの記憶に似た店が、鶴見川そばの河川敷にあります。
ちょっとゆっくりして、美味しい手料理が食べたいなって思ったら、ぜひ。

―終わり―

取材協力
阿部商店
住所/〒224-0044 都筑区川向町356
電話/045-471-8519
営業時間/10:00~21:00 ※水曜定休
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