チーズとスパイスをシェイク
作り方はいたって簡単だ。
まず、スーパーでプレーンのチーズと好みの香辛料を買ってこよう。
チーズは安いので構わないが、できれば表面がしっとりしているものの方が望ましい。スパイスのなじみがいいからだ。オススメは、セブンイレブンの「キャンディチーズ」。口あたりなめらかで、味も濃くしっかりしているため、香りの強いスパイスとも互角に渡り合える。
チーズとスパイス8種を用意
袋にチーズを入れてスパイスをまぶし
袋を結び
それを腰にくくりつけたら
情熱的にダンシングしよう
ミラーボールはお好みで
レシピの途中で料理と無関係な行程が入ったが、もちろん普通に手で袋をふれば美味しいスパイスチーズは完成するので安心してほしい。
70年代のディスコシーンでは、腰を激しく揺さぶる情熱的なダンスが流行した。あの腰の動きは、チーズに粉末をシェイクするのに適していると僕はにらんだ。
というわけで、往年のディスコシーンを振り返りながらチーズ作りに最も適したステップを探っていく。ダンスとチーズ、両者を組み合わせる必然性は特にないが、理屈じゃなく体がダンスを欲しているのだ
チーズ+シナモンシュガー
おすすめ度:★★
※は5つが満点
いきなりの変化球で恐縮だが、チーズとシナモンシュガー、これが意外と合う。鼻に抜けるシナモンの香りがチーズの乳臭さを消してくれる。ほんのりとした甘みをかき分けてチーズが主張してくるのでデザートっぽくはなく、つまみ寄り
チーズ+ターメリック
おすすめ度:★★★
カレーの色付けに使われるだけあって、チーズも真っ黄色に染まった。味や香りは見た目ほど変化しないが、ほのかなカレー風味でビールがすすむ。時間を置くと外側がコーティングされて燻製チーズっぽくなる
ディスコと僕の物語
ディスコといっても今の若者にはピンとこないかもしれない。かくいう私もそうした盛り場に行ける年齢になったころにはディスコは衰退していた。
ディスコというと、僕が子どもの頃に大人たちが熱狂していた「ジュリアナ東京」の鮮烈なイメージが脳裏に焼き付いている。日本中がイケイケだったあの時代、その浮かれの象徴がディスコだった。
大人になったら自分もそんなパーティーピープルになれると信じていたが、ほどなくバブルが崩壊して夢はついえた。
チーズ作りに適したディスコステップ、第5位「ハッスル」。全米にディスコブームを巻き起こしたヴァン・マッコイの「The Hustle」のご陽気なナンバーにのせ、腰をひねって脚を交互に踏み出すだけの、ビギナー向けステップ
チーズ+パクチー
おすすめ度:★★
好き嫌いが分かれるパクチー。チーズと合わさることで、より一層パンチの効いた香りとなって鼻孔をくすぐる。僕は好きだが、苦手な人にとっては地獄の食い物だと思う
その後、小さな会社に就職して真面目な社会人生活を送っていた僕がディスコデビューを果たすのは20歳の頃。学生時代の友人だった杉内くん(仮名)に誘われたのだ。ちなみに、この頃にはディスコではなく、語尾を上げる方の「クラブ」に呼び名が変わっていた。
チーズ作りに適したディスコステップ、第4位「スパンク」。黒人ソウルシンガー、ジミー・ボー・ホーンによる79年のヒットナンバー。ファンキーなリズムに合わせ左右にステップを踏みながら腕を回すゴキゲンなダンス
チーズ+チリパウダー
おすすめ度:★★★
エスニック風味のチーズ。これは期待通りに美味い。チーズがチリパウダーをマイルドにしてくれるのでさほど辛くもなく、ほどよく食欲を刺激してくれる
初めてのクラブ。内心ドキドキしながらも、杉内くんに舐められたくないプライドから、
「ああ、クラブね。オッケー」
くらいのノリで初めてのクラブに参戦することになった僕は、当時の一張羅だった冠婚葬祭用のYシャツをタイトなジーンズにねじ込み、当時流行っていた(と思う)細見のネクタイをしめて渋谷に降り立った。
最新のオシャレ雑誌を摸倣した、自分的には最大限イケてるファッションだったのだが、いざ入店してみるとそんなノリの効いた襟を立てている人は一人もおらず、いきなり70%くらい心が折れてしまった。
あとから思えば、素直に杉内くんに教えを請うべきだった。
チーズ作りに適したディスコステップ、第3位「サタデーナイトフィーバー」。1978年公開の同名映画の中で主演のジョン・トラボルタが見せたダンスシーンは鮮烈で、日本に一躍ディスコブームを巻き起こした。セクシーに腰をクネクネさせる動きが印象的。スパイスもよくからむ
チーズ+黒コショウ
おすすめ度:★★★
粗挽きの粒立った食感と、ピリッとした辛みが合わさった、これも鉄板の味。これが10個もあれば、ビール何杯でもいける
いきなり出鼻をくじかれた形になったが、この直後、くじいた鼻を完全にぽっきりへし折られることになる。杉内くんのクラブ仲間らしきソウルメイトが、わさわさと集結しハイタッチを交わし始めたのだ。ふだんは大人しい杉内くんも「ファッサメーン」とか言ってるし、なんだそのノリ。きみはそんなやつだったのか。学生の時は茂みで一緒にエロ本さがしたじゃないか。
おそらく杉内くんは地味でいけてない元同級生に、よかれと思ってオシャレな世界を見せてあげようとしてくれたのだと思う。しかし、パーティーピーポーたちの楽園は、僕にとっては伏魔殿のような場所だった。
チーズ作りに適したディスコステップ、第2位「ゴーゴー・ダンス」。ディスコシーンではなく、60年代のゴーゴー喫茶で大流行。両手を交互に上下動するシンプルなダンスで、あの星飛雄馬(巨人の星)も野球そっちのけで夢中になるほど、当時の若者を魅了した
チーズ+パルメザンチーズ おすすめ度:★★★★
チーズにチーズという掟破りの組み合わせ。しかしこれが美味いのだ。チーズのコクが倍増し、ツブツブの食感も加わって楽しい
うまい!
今にして思う。
あれがクラブではなくてディスコだったら、と。
クラブはオシャレな人しか立ち入ることを許されないイメージがあるが、ディスコはもう少し敷居が低く、なんとなく牧歌的な雰囲気だったのではないかと思うのだ。小学生の時にテレビで見たジュリアナ東京には、芋っぽい兄ちゃんもたくさんいたような気がする。
チーズ作りに適したディスコステップ、第1位「バスストップ」。腕の動きに合わせて腰を前後にふる、なまめかしいステップがくせになる。アメリカで流行したダンスだが、1976年に日本でもバス・ストップを踊るための楽曲として「セクシー・バス・ストップ」というインストゥルメンタルのレコードが発売されている
チーズ+こんぶ茶
おすすめ度:★★★★
こんぶ茶とチーズ、意外な組み合わせだが、なんとこれが非常に美味かった。粉末のこんぶ茶がチーズの湿気でとけてソースのようになり、絶妙な塩加減となる。ほんのり香る梅風味も合わさって、絶妙なバランスに。酒だけでなく、日本茶にも合う
クラブデビューにつまづかなければ、僕も今頃立派なパーティーピーポーになれていたのかもしれない。一方で、そんなもんにならなくてよかったなという気もする。不器用に踊る自分の写真を見返すと、余計にそう思う。
思う存分踊ったら、積年のディスコに対する恐怖心はなくなり、代わりに美味しいチーズができあがった。ホームパーティーに喜ばれそうな一品である。
僕はどうやら踊る方のパーティーピープルには向いていないようなので、これからはホームパーティーピープルを目指そうと思う。