特集 2015年7月20日

握ったにおいはどこまで運べるか

腸のはたらきをシミュレート
腸のはたらきをシミュレート
自らが放った気体を掌にパッケージングして、人に届けるという行為がある。にぎりっ屁だ。さまざまな感情が複雑に行き来する戯れだ。

もう何年してないだろう、にぎりっ屁。小学生の頃、向こうから駆けてきた奴からすれ違いざまに放たれたこともあった。

考えてみれば、あれってどれくらいの距離を移動させることができるのだろう。大人になった今、改めて確認してみたい。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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においのモバイルポータビリティ

にぎりっ屁は経験上、尻から鼻までの移動ができることはわかっている。じゃあ、僕らはそのディスタンスをどこまで伸ばすことができるのだろうか。

と言っても、必要に応じて自在に屁をこけるわけでもない。今回は芳香剤でシミュレートしよう。

ドラッグストアの芳香剤コーナーで、妻に「どれが一番おならに近いと思う?」と聞いてみた。無理難題とわかっていたが、「んー、これかな」と即答。
これが屁に近い?
これが屁に近い?
違うんじゃないかな
違うんじゃないかな
考えても仕方がないことを考えずにいる、それもまた1つの賢さだ。中学の社会の先生がそんなことを言っていた覚えがある。

それにしてもPINK PINKとか愛されローズとか、さすがに無理があるチョイスではないか。

話を聞くと、理由があった。「まず、女の人が気絶してるでしょ」。
昏睡状態なのか
昏睡状態なのか
パッケージには女性が横たわっているが、これは気絶なのか。確かにそう解釈すると、臭気の強烈さが想起されてくる。

合わせて「イノセントホワイトローズ」という香りの名前も、おならの別名として必殺技みたいでかっこいい。食らったら気絶しそうな勢いがある。

「あと、ここもいい感じ」
いや、UPしないだろ
いや、UPしないだろ
妻が指差した先には「ローズフレグランスで女子力をUP!」と書いてある。それはないだろう。にぎりっ屁は女子力大幅DOWNだろう。

そういうことではないらしい。言いたいことは形にあるらしい。
ん?
ん?
なるほど……!
なるほど……!
パッケージをはがすとわかりやすくなるらしい。縦よりも横にするとイメージしやすくなるらしい。

「ほら、腸と……その先の…肛門?みたいだよね」
ん?確かにそうだ
ん?確かにそうだ
言われてみるとそう見えてくる。他の芳香剤ではなくこの商品を選んだ意味が、何重にも見えてきた。今回の検証にぴったりではないか。
ビジュアル的にもわかりやすい
ビジュアル的にもわかりやすい
では実際にテストしてみよう。においの噴出孔に手をセッティングすると、にぎりっ屁という行為の構造がよくわかる。

漂っているであろうにおいをグッと握りしめる。果たしてはそれは、ちゃんと掌に確保されているのだろうか。
確かな手ごたえ
確かな手ごたえ
ほわ~ん
ほわ~ん
鼻に近づけ、手を開いてみる。…鼻腔に感じるイノセントホワイトローズが、しっかりとそこにある。

人体による気体の運搬は、ここに実現しているのだ。にぎりっ屁のシミュレートは成功と言えるだろう。

空間と時間を超越せよ

にぎりっ屁はどこまで移動できるのか、いよいよ実践編に入ろう。

特別なこととしてではなく、あくまで自然な日常生活に溶け込ませたい。そういう意味を込め、いつもの通勤経路で試してみよう。

家で握った特製ガスを職場まで持ち込むことができたら、このゲームは僕の勝ちだ。
目に見えずともそこにある
目に見えずともそこにある
もちろん途上で暴発する可能性も考え、握るにおいは本物ではなくイノセントホワイトローズ。しっかりと握りしめ、まずは駅までいつものように歩きたい。
OK、まだ生きてるはず
OK、まだ生きてるはず
15分ほど歩いて駅に到着。握りしめたまま鼻を近づけると、ごくごくかすかに漂うものが感じ取れる。

よし、いい感じだぞ。まだ中にちゃんと入っているようだ。
ホームにて
ホームにて
さあ、いよいよ乗車。中に入っているのが迷惑ガスではないにしろ、この状態で人ごみの中に飛び込むのには、謎のドキドキ感が湧いてくる。

車内に入り、ドアが閉まる。走り始めて間もなく、電車がちょっと揺れたので、思わず吊り革につかまる。



ほわ~ん



車内に漂う、かすかなイノセントホワイトローズ。なんてことだ、ミッション失敗だ。
東京にて、そこにはもう何もない
東京にて、そこにはもう何もない
迂闊だった。埼玉から東京に向かう列車の中で、県境を越えることなく解放されてしまった。

意外と実現が難しい、においのポータビリティ。ならば日を改めて、別の手段で試してみよう。車である。
愚かさに気づくのが遅い
愚かさに気づくのが遅い
においを閉じ込め、ハンドルを握って気が付いた。運転できない。

いくら尊いミッションがあるとは言え、グーのまま運転するわけにはいかない。法や危険を冒すことは許されない。
屈辱のパー
屈辱のパー
ほわ~ん



車内に漂うフレグランス。微妙に上がる女子力。

にぎりっ屁、空間を超えることは意外と難しい。ならば方針を変更し、時間の方を超越してみたい。
今度こそ成功させたい
今度こそ成功させたい
目指すは日付変更線。そう言うとかっこいいが、寝る前に握ったにおいが、目覚めたときにまだ残ってたらいいよね、という話だ。

寝たままずっとグー。そんなこと、できるのか。
自分の力を過信しない
自分の力を過信しない
これならいけるはず
これならいけるはず
かなりの困難が予想されるミッションであるため、今回は握った手を包帯でぐるぐる巻きにするという方法で試してみた。これならうっかり手を開くことがないはずだ。

包帯をきつく巻いたためか、心臓の脈動に合わせて手がズキズキする。にぎりっ屁には自分の命の躍動を感じる意外性もあるのだ。
爆発の予感を秘めた存在
爆発の予感を秘めた存在
握った手をじっと見つめる。梶井基次郎の檸檬のようにも見えてくる。

ではこのまま眠ってみよう。手は小さくズキズキしたままだが、ほどなく寝入ったようだ。



………



……はっ!



なんとなくうなされるような感じで目が覚めた。時計を見ると、寝入ってから3時間ほどの時刻だ。

左手に感じる強い違和感。なんとも表現しがたいが、こうした状態が続くのには思った以上に不快さがある。今すぐ開いてしまいたい。

時刻は零時を回っている。じゃ、日付は変わったよね、目的はある意味達したよね。そう自分に言い聞かせて包帯をほどいてみる。
手を開きたいという衝動にまかせて
手を開きたいという衝動にまかせて
ほわ~ん



しっかり漂うイノセントホワイトローズ。午前2時の寝床で、一応のミッション達成としたい。

キュート&アクティブとのこと
キュート&アクティブとのこと
今回の試みでわかったのは「意外と手って開いちゃうね」ということだ。

今回試した芳香剤のシリーズ商品には「ミスティックブルーローズ」「ノーブルスカーレットローズ」というものもある。こいた屁にいちいちこういう名前をつけたら、楽しい気持ちになると思う。
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