特集 2015年6月26日

酔うとなんでも積みあげる人がいる

目に入るものすべてが積み上げられる世界
目に入るものすべてが積み上げられる世界
酔うと泣いてしまう「泣き上戸」、笑ってしまう「笑い上戸」。では、なんでも積み上げてしまう人の場合は「積み上げ上戸」なのだろうか。

そんな人がいるのだ。お酒を呑むと、器などを片っ端から積み上げて、いまでは即興彫刻作品として芸術の域まで達してしまったという人が。

通称『ドランクタワー』。年に1度くらいのペースで展示やパフォーマンスを行っていて、わたしも展示会で拝見したことがある。

ぜひ話をきいてみたい。「なんだかよくわからないもの」の正体を少しだけ覗き見してみたい。
ちょうど宴会の予定があったのでお誘いしてみた。
イカとタコが大好きで、食べたり被ったり本まで出版しました。
でもサイコーに好きなのはアワビだったりします。世間に対する謙虚です。

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フリーダムな空間、綱島ラジウム温泉東京園へ

会場は綱島温泉。「5月末で休館」「いや、延長もあり」など、情報が錯綜していたものの、5月19日で休館となった。みなに愛され「この世の天国」と称されることもある巨大施設は取り壊されて温泉のみ残るという話だ。(執筆時情報)
休館を惜しむ老若男女で館内はカオス状態だった。わたしたちのほかにも、イベントがいくつかあったようだ。
休館を惜しむ老若男女で館内はカオス状態だった。わたしたちのほかにも、イベントがいくつかあったようだ。
「綱島温泉、前から行きたかったんですよ」とふたつ返事をしてくれたのは『積み上げ上戸』こと『ドランクタワー』制作者のマジック・コバヤシさん。

ご本人と作品とが、綱島温泉の雰囲気に絶妙にマッチしていたので、今回は平行して紹介していきたい。
この庭も見納めかもしれない。
この庭も見納めかもしれない。
我々の宴会は11:30から始まった。2階の部屋を貸し切り、日本酒や落語などを楽しむ。いつ来てもよし、温泉を堪能してもよし、持ちこみ自由の完全アバウト会。ゆるりとした時間を楽しむ。

ちょうど落語が終わったころ、マジック・コバヤシさんご来園。美術家・写真家・グラフィックデザイナー・ライター、そして美学校の講師などの顔も持つ多才な方だ。
過去のドランクタワーのカードを手渡してくれた。うわっ! マジでアートだ。
過去のドランクタワーのカードを手渡してくれた。うわっ! マジでアートだ。

居酒屋の店員さんから学んだ片付けの極意

―― 小さい頃から積むことが好きだったんですか?

「そんなことはないですねえ……。でも積み木はやったのかな?」

10年以上『ドランクタワー』を積み上げてきた彼。ではなぜ積むことに目覚め、ここまで執着してきたのだろう。

―― 何かきっかけがあったんですね。覚えてます?

「居酒屋の店員さんが片付ける時に、効率よく食器を積み重ねているでしょう。で、自分もそれを手伝っているうちに……それが始まりかなあ。あとは、酔うと記憶をなくすことが多いので、記録として写真に残しておく。そして積み上げてるものを見て、あれ? コレおもしろいなーと」

なんと、片付け行為の延長線だったとは! 『ドランクタワー』は律儀な性格の産物だったのだ。
話しながらも少しずつ高いものが……。遠くでダボちゃんこと、当サイトのライター大北&高瀬ご息女が「なーんかまたへんなことやってるなー」という顔で笑っているのが見える。
話しながらも少しずつ高いものが……。遠くでダボちゃんこと、当サイトのライター大北&高瀬ご息女が「なーんかまたへんなことやってるなー」という顔で笑っているのが見える。

酔ったときの方が出来が良い

――おもしろいモノから、アートに推移した経緯ってあるんですか? ただ単に「アートって言っちゃえば何でもアート!」ってわけではないですよね。

「んーそうですね。自分でっていうより、周囲がそう言い始めたイメージが強い。そんなときグループ展をやる話がきて、そこで展示した。それがきっかけですね」

しかしなぜ『ドランクタワー』なのか。シラフの方がより慎重に積み上げられそうな気もするのだが……。

「いや、ほろ酔い加減が集中力高まって上手くできるんです。あと、自分が酔っているか確認する作業でもあるので」

―― 下戸のわたしにはわからないですね。呑んだら全身の筋肉が弛緩しそうで。

「ぼーっと散歩してるときとか、寝る前とか、そんなときインスピレーションが湧くような脳の状態って言えばいいのかな。そんな時ってないですか?」

あっそれはちょっとわかる。じゃあ、その状態がほろ酔いってことなのか。だとしたらわたしもたまにほろ酔ってるな。酒代がかからず安上がりだ。
無謀にもこけしを逆さまに積もうとしている人。 「重心を感じて」と専門家からのアドバイス。
無謀にもこけしを逆さまに積もうとしている人。 「重心を感じて」と専門家からのアドバイス。
好奇心旺盛の友人たちが集まってきた。楽しいことへの嗅覚が異常に強い。
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予想を上回る高さ
予想を上回る高さ

日本の缶ビールは積むのに適している

―― ところで、今までで一番高く積んだものって?

「んー覚えてないなあ。ビールの缶はやりやすくて高く詰めるんです。それも国産の。日本のビールは優秀ですよ」

でた。『ドランクタワー』界でも、メイドインジャパンは優れてるようだ。これは国民として誇ってもいいことじゃないか?

「でも自分は高さより造形美を重視しますねえ」

泥酔してもアーティスト魂は覚醒しているらしい。
負けず嫌いの女性陣、あきらめない姿が美しい。(そうでもない)
負けず嫌いの女性陣、あきらめない姿が美しい。(そうでもない)
「こんなのだれでもできますよ。でも長期間やることが重要なんです。なんでも続けているともっともっと面白くなって、夢中になる。それが作品にまでなっちゃう」
というマジックさんのコトバを思い出していた。

次々とみなが参入し、夢中になっていく。
そしてしばらくすると飽きてどこかに行ってしまう。アーティスト魂のカケラもないのか。おい。
どうしてもお扇子を広げたいらしい。
どうしてもお扇子を広げたいらしい。
笑ってみていたダボちゃんも真剣! そうか! 君はやりたかったんだな!
笑ってみていたダボちゃんも真剣! そうか! 君はやりたかったんだな!
割り箸をムチャなカタチに並べようとして、あっという間に去っていった人。
割り箸をムチャなカタチに並べようとして、あっという間に去っていった人。
「継続はチカラなり」コレだ。本当にそうだ。幼児でさえできることでも、続けていればきっとなにかが開けてくる。すげーな、継続!

素人のドランカーにマジックさんはいっさい手出しをせず、ひととおり質問に答えたあとは、園内を縦横無尽に動きまわり写真を撮ることに夢中になっていた。

最後の綱島温泉をめいっぱい楽しむ

私たちの部屋も自由だったが、園内はもーっとフリーダム。こんな夢のような温泉施設があっていいのか。しかもそれが、今月で終わりなのか。
縁側のような場所が喫煙所。自由すぎる。
縁側のような場所が喫煙所。自由すぎる。
鴨居につくか競争してみたり……サングラスでズルをしようとするわたし。
鴨居につくか競争してみたり……サングラスでズルをしようとするわたし。
園内の雰囲気を物語っている書の数々。「綱島と書いて愛と読む」は至言。
園内の雰囲気を物語っている書の数々。「綱島と書いて愛と読む」は至言。
気持ち良さそうな寝姿。どこで寝ても文句を言われないのが綱島温泉の魅力だ。
気持ち良さそうな寝姿。どこで寝ても文句を言われないのが綱島温泉の魅力だ。
カメラマンの彼が撮っていたものは……。
カメラマンの彼が撮っていたものは……。
イベント参加者のこの1枚!
イベント参加者のこの1枚!
別イベントで何人かの知人にも遭遇。みんな綱島温泉が大好きなんだな~っと。
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次々と変化をとげるドランクタワー

今回の宴では参加者が続々と集まり、あっという間に『ドランクタワー』が変化していく。ひとつとして同じものがない。

その一瞬一瞬で作り上げたものが変わったり消えてしまうのだ。
マヨネーズにお扇子、できそうもないものでも集中すると意外とイケる。
マヨネーズにお扇子、できそうもないものでも集中すると意外とイケる。
これは、わたしの好きな打ち上げ花火にも似ている。

心に残ってもそうでなくてもいい、その瞬間だけは必ず存在していて、あっというまに消えてしまう。

この作品にキョーミを持ったのはそういうイミもあったのかもしれない。
見ているときは笑っていても、やるときは真顔。
見ているときは笑っていても、やるときは真顔。
あーでもないこーでもないと、素人の意見が飛び交う。
あーでもないこーでもないと、素人の意見が飛び交う。
―― これって呑みに行くたびにやってるんですか?

「ええ、やってますねえ~。もちろん常連のお店で許可は得てますよ。でも1人のときはやりませんねえ」

―― 崩れることは?

「毎回ですかね。(笑)反道徳的な行為だけど、一応節度はわきまえてるつもり。すれすれのボーダーラインが要なんです。それがおもしろい」

ちなみに、近年流行のロックバランシング(石積み)はやっていないという。
記憶が正しければ、高さ的には左の作品が一番だったかもしれない。
記憶が正しければ、高さ的には左の作品が一番だったかもしれない。

だれでもできるけどだれにもできない

「だれでもできる。続けることが大事」と言っていたマジックさんだが、それってだれにでもできることじゃない。

努力ともちがう。根性もいらない。やらずにはいられない。「(楽しみながら)続けていくこと」そのものが才能だと思う。だってフツーの人ならどこかで飽きちゃうもの。やんなったり、めんどくさくなったりしちゃうんだもの。

だからこそ、一瞬くだらなく見える行為がアートにまで発展したのだ。
もう1回言おう。継続ってスゲー!

で、発展してスゲー! となった作品たちを少しだけ紹介しましょう。
カラフルでかわいらしいドランクタワー。(DRUNK TOWER 2014 at TETOKA)
カラフルでかわいらしいドランクタワー。(DRUNK TOWER 2014 at TETOKA)
地震がきたら……と考えてしまうオールガラス (DRUNK TOWER 2013 at GALLERY TRAX)
地震がきたら……と考えてしまうオールガラス (DRUNK TOWER 2013 at GALLERY TRAX)
スポットライトと音楽が、ドランクタワーにやたらマッチしていた。宴会芸から発展したものだとはだれも気付くまい。(DRUNK TOWER 2012 at TRANS ARTS TOKYO)
スポットライトと音楽が、ドランクタワーにやたらマッチしていた。宴会芸から発展したものだとはだれも気付くまい。(DRUNK TOWER 2012 at TRANS ARTS TOKYO)
くだらないことが好きなわたしが、どんなにくだらないか聞こうとした『ドランクタワー』。だがそれは「サービス精神の賜物」だった。

始めたのもサービス精神、見せるのもサービス精神、やらせるのもサービス精神。これ以上のサービス精神があるだろうか。
「みんなもぜひやってみて、楽しんでください」とマジックさん。※もちろんお店ではなく、お家や友人宅でお楽しみください</span>
「みんなもぜひやってみて、楽しんでください」とマジックさん。※もちろんお店ではなく、お家や友人宅でお楽しみください

「ドリンクビール」の背中が色々物語っているマジック・コバヤシさん。やはりコレもサービスの一環なのだろうか。
「ドリンクビール」の背中が色々物語っているマジック・コバヤシさん。やはりコレもサービスの一環なのだろうか。
綱島ラジウム温泉 東京園
http://www.tsunashima.com/shops/tokyoen/

マジック・コバヤシさんが講師をつとめる美学校
http://bigakko.jp/course_guide/media_a/e_bi_ga_jyutsu/info
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