生コショウとはいったい……?
料理をする方にとっては、「生コショウ」の存在はよくご存知なのかもしれない。しかしわたしはその存在さえも知らなかった。
うーん……生コショウねぇ……。あの粉末のアレがねえ……と、狐につままれたような面持ちで現地へ向かう。いったいどんな生々しさなんだろう。
こんな生々しさであった。オリーブ? 海ぶどう? いや、コショウ。食卓のコショウとちがいすぎる!
デイリーポータル的にはこの粒を丸ごと齧らなければなにもはじまらない。
ん? 平気だぞ? と思ったら……。噛めば噛むほど舌にくる辛さ! うわーっ! いらねー!
ムリヤリ齧らせてみる。アハ、アハハ! 笑わずにはいられない辛さのようだ。
苦虫を噛み潰したような顔とはまさにこのこと。今後は「生コショウを噛み潰したような」と言おう。
こんなんでダイジョーブなのか。
ダイジョーブです、たぶん。
料理上手な友人は、自信満々である。
彼女の料理がまずかったためしがないので、なぜかわたしも自信満々である。
【1】白カビチーズと生コショウのブルスケッタ
こちらは助っ人料理人
ツジムラさん作である。シャレたビストロで出てきそうな一品。チーズと生コショウが異様に合う。
ダイジョーブだった!
名前からしていきなりオシャレなブツが出てきた!
でも名前が覚えられない。ブルスケッタ、ブルスケッタ……。ブルドッグとスケーターを組み合わせれば覚えられるのであろーか。
【2】真鯛と生コショウのカルパッチョ/ライム添え
あれだけ辛かった生コショウをふんだんに。コショウと野菜といっしょに食べるとまったく辛みを感じずスパイシー。さらにライムをこれでもかとかけるとよりいっそう旨味が増す。
【3】ポテトサラダの生コショウのせ
淡白になりやすいポテサラに、生コショウを混ぜただけでアジアンテイストになる!(ツジムラさんのアイデア)
己の知るコショウとはちがいすぎた。
それにしても、ピンクペッパーなどコジャレたものもあるとはいえ、わたしにとってはラーメンにぶっかける印象しかないコショウ。
これがこんなに七変化するとは、料理って無限の可能性を秘めてるなー。(わたしはしないけど)
【4】生コショウの塩漬け
辛みが和らいだ塩漬け。お酒のつまみにピッタリだ。 (わたしは呑めないけど)
わたしの大好きな砂肝がどう料理されるか楽しみだ。すでに酢醤油とネギをかけて食べたい……。
ふつーのお豆腐。調理されるのを虎視眈々と待っているご様子。
【5】・豆腐に粗塩と生コショウとオリーブオイル添え
・刺身のナンプラー漬けと生コショウ
こちらもツジムラさん作。豆腐って、薬味をぶっかけりゃいいってもんじゃないんだな、と悟りを開いた一品。刺身とよく合う。
次なるAは、本日はじめての加熱料理。みんながいきなり「辛っ! 辛い!」と騒ぎはじめた。
【6】砂肝のレモンマーマーレード生コショウ和え
シェリービネガーや塩麹なども隠し味に。人のことも考えずモリモリと3分の1くらい食べた気がする。(参加者9人)
わたしは、「砂肝はよく噛むから、コショウも砕けて辛みが増すのでは?」と意見したのだが、そのほか全員一致で、「生コショウは、加熱するとより辛みと匂いが強くなる」ということに落着した。
ちなみに私事だが、全員一致で「土屋さんは黒髪(当時は金髪だった)の方がよかった」ということにもなりビミョーに落ち込んだ。最近は大声がでないので敗北することが多く、多勢に無勢を思い知る日々だ。
【7】イカとセロリの生コショウ炒め 大好きなイカとセロリ!
生コショウが主張しすぎない隠し味程度の一品。
【8】イカのワタ焼き生コショウ和え
この日の客である、通称「お魚マスター」Sさんが【7】のイカのワタにて即興で作ったもの。生コショウを刻むと、独特なワタの匂いも消えて一石二鳥。
【9】エビと生コショウのオリーブオイル炒め
「きちんと生コショウも食べましょう!」の一声で、みんなでせっせともぎとり食べた。
【10】生コショウの佃煮ごはん
その場でさっと煮た佃煮。これがまた食べたことのない美味で、怒濤の10品目だというのにおかわりをした。
【11】鶏のパリパリ焼き、生コショウバターソース
もうお腹いっぱーい! だと思ったのに、ガツガツいただきました。鶏と生コショウ、絶妙!
生コショウそのものを活かした料理に軍配が。
「何が一番おいしかったか」とみなに聞いたところ、わたしを含めほとんどの人が10番の『生コショウの佃煮ごはん』を挙げた。
これだけ手の込んだおもてなし料理をいくつも出してくれたにもかかわらず、佃煮ごはん……。
とはいえ、生コショウそのものを純粋に味わい、堪能できたのはたしかにこの佃煮ごはんである。
添えても和えても隠し味でもない、生コショウが主役。そーだよ! 生コショウってやっぱりとってもおいしーんだよ!
だれだよ最初に齧ったとき、「からーい! いらねー」と言ったのは! (わたしです)
ややショック! イチゴにも合う生コショウ!
デザートのイチゴが出てきたとき、誰かが言った。「もしかしてイチゴにも合うんじゃない?」わたしはハナっから相手にしなかったが、口の肥えた食通のみなさまがたが次々に「合う合うー! おいしい~!」と嬉々としている。
おかしい。コレはどう見てもおかしい。生コショウの食べすぎで頭がイカれたにちがいない。
……と思いつつ食べたらおいしかった。え。
【12】イチゴと生コショウ
イチゴを食べるときは、練乳を一本使い切るこのわたしが……。生コショウマジック?
料理は無限だと教えてくれた生コショウ
「合う~合う~おいしい~」の連発だったこの会。あたりまえのように食べてはいたが、『生コショウ』ひとつで、ここまでマッチした多種多様な料理ができるのはとてもフシギだ。「ん? コレはいまいち合わないな……」と思ったものはひとつもないのだ。
料理を極める人たちは、瞬時に「合う」か「合わないか」を脳内で試行錯誤しながらジャッジ、調理していくのだろう。
あたりまえのようで気付かなかったが、この世にいくつもある食材・調味料を組み合わせると、無限大の料理ができる。作る、食べる、そして胃袋におさめられてあっという間に消えてしまう。それらが体を作るなんて、なんだかとてつもないことだ。
イチゴが意外にも合ってしまったことから、主催のYさんからメールがきた。
「イチゴと胡椒の組み合わせ。想像だけど、カットしたイチゴをバルサミコシロップで和えて刻んだ生コショウをまぶすと美味しいと思う、たぶん」
いや~料理を愛する人々の脳内ってホントにスゴい!
生コショウは小粒でも……。
「山椒は小粒でもぴりりと辛い」という諺を思い出し、これからは「胡椒は小粒でもぴりりと辛い」と言おう……と思いながら画像検索していたところ、山椒とコショウはとてもよく似ていた。今度は生山椒料理に挑戦してみようかな! というか、してもらおうかな!
Yさんによると、コショウを房からもいだ時間がなんと2時間!(800g) 料理は、体力と精神力も必要なのであった……。