特集 2015年6月13日

横浜のアキバ? 石川町の「エジソンプラザ」ってどんなところ?

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「石川町駅のエジソンプラザという秋葉原のような電気部品を扱っている店が気になります」、「千石電商や共立電子などの有名店は撤退したようですが営業を続けている店はあるの?」はまれぽ.com読者の イルカさん、えるさんからこんな投稿が届いた。

調べてみると…最大で約10店舗が軒を連ねる一大電気街だったが、千石電商や共立電子などは90年代に撤退。現在営業しているのは3店舗、ということが分かった。

編集部より:隔週土曜日にお送りしているはまれぽ.comからの提供記事、今日は過去の名作記事をご紹介。記事公開後、取材した3店舗のうち相模電気が休業し、現在は2店舗が営業しているそうです。

はまれぽ.com 永田 ミナミ
はまれぽ.comは横浜のキニナル情報が見つかるwebマガジンです。毎日更新の新着記事ではユーザーさんから投稿されたキニナル疑問を解決。はまれぽが体を張って徹底調査します。

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現場へ

「エジソンプラザ」とは何と魅力的な名前だろう。

しかしキニナルには石川町に「エジソンプラザ」という名前の電気部品を扱っている電気街が「ある」というものと「あった」というものに分かれている。

現在もあるのか、もしくは消えてしまったのか? それを知るため、さっそく現場へ行ってみることにした。
JR石川町駅北口を出て歩いていく
JR石川町駅北口を出て歩いていく
JR石川町駅北口を渡って左折し、首都高のガードをくぐって進んでいくと
JR石川町駅北口を渡って左折し、首都高のガードをくぐって進んでいくと
すぐに「電機のデパート」という看板が出ているビルを発見
すぐに「電機のデパート」という看板が出ているビルを発見
2階に「相模電子」とある
2階に「相模電子」とある
「エジソンプラザ」の看板は見当たらないが、「電機のデパート」というのは、エジソンプラザのイメージとつながるものがある。

そこで、内部を確認すべく改装中のエントランスを入っていくと、静かな空気が漂うなか、今度は「電機のデパート入口」という案内。しかし、ここにも電気街といわれた「エジソンプラザ」の名称はない。

階段を上っていっていく間も漂う空気は静かだったが、上りきると今度は「電機街営業中」という案内板が見えた。
上りきっても漂う空気は静かだ
上りきっても漂う空気は静かだ
依然としてエジソンプラザの名前は見当たらないものの、「電機のデパート」「電機のデパート入口」「電機街営業中」と少しずつ名前が変化していく。
近づく者にのみヒントが与えられていくようだ
近づく者にのみヒントが与えられていくようだ
ところが角を曲がった途端に、それまでの静かな様子が一変した。
突如ひろがる、現在も無線機器を扱う小売店が集まる秋葉原ラジオセンター的風景
突如ひろがる、現在も無線機器を扱う小売店が集まる秋葉原ラジオセンター的風景
近づいてみると、これぞ、といった感じの電子部品がならんでいる
近づいてみると、これぞ、といった感じの電子部品がならんでいる
2階には通路に沿って、看板にあるタック電子販売、相模電子、シンコー電機の3店舗が軒を連ねているようだ。さっそく階段から一番近いタック電子販売に入って話をうかがってみることにした。
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店内にならぶ部品数は約2万点! 「タック電子販売」

入ってみるなり圧巻の電子部品のテーマパークが目の前に
入ってみるなり圧巻の電子部品のテーマパークが目の前に
取材内容を伝えると、代表取締役の柴田さんが詳しく話してくださった。
1979(昭和54)年、当時ビルのオーナーだった京浜鳥獣貿易株式会社が地域活性のため、横浜になかった電気街を作ろうと立案。
「横浜に秋葉原をつくろう」 という呼びかけをもとに、秋葉原や名古屋、大阪などから電機店が集まった。そして石川町に、発明王エジソンにちなんで「エジソンプラザ」と名づけられた電機街が誕生したのである。

ちなみに京浜鳥獣貿易株式会社は、日本で初めてのパンダ「ランラン」「カンカン」を呼び、当時の社長が全日本動物輸入業者協議会の会長も務めていた会社だが、不動産業での収益も大きかったようだ。(平澤正夫『消えゆく野生と自然』三一書房1985)。

柴田さんによると、1980年代は1階と2階で最大10店舗ほどが営業していたが、移転や後継者がいないための閉店などによって次第に店舗数は減少。
1990年代に入ると、投稿にあった千石電商や共立電子なども、このような理由などから撤退し、13~14年前から現在の3店舗になっている。
その後、数回にわたってビルのオーナーが変わったなどの理由から、今は「エジソンプラザ」という名称も使っていないそうだ
1つのケースに144種類! この棚だけで3000種類を超える
1つのケースに144種類! この棚だけで3000種類を超える
エジソンプラザ開業時から営業している「タック電子」の店内に並ぶ部品の数はおよそ20000点、取引先は400社以上だという。現在はインターネットでの注文も多いそうだが、取材中も常連客が来店したり電話が鳴ったりと、静かだったのは階段まで、店内は活気に溢れていた。

オーディオも充実している横浜のジャンク店「相模電子」

続いて相模電子に向かうと、今度は電子部品とオーディオのジャングルが現れた。
圧倒されるくらいの商品数
圧倒されるくらいの商品数
相模電子の店主・林さんにもいろいろお話を聞くことができた。
「開業当時はいちばん狭い店だったんだけどね」という相模電子。今はいちばん広い
「開業当時はいちばん狭い店だったんだけどね」という相模電子。今はいちばん広い
エジソンプラザに開店する以前は、北海道から九州まで車でまわる電子部品の卸業を営んでいた林さんだが、エジソンプラザができるということを聞きつけ、開業と同時に、ここに店を構える ことにしたそうだ。

さらに林さんは、電機街の計画が出る以前のこともご存知だった。
ビルが完成した後、4階以上のマンション部分はすべて埋まったが、1~3階の貸事務所が埋まらなかった。
そこで何かアイデアはないかと考えていたところに、普通の貸事務所としてではなく、東京の秋葉原のような電機街を横浜にもつくるのはどうだろう、という案が出て「エジソンプラザ」の計画が生まれたというのである。

開業にあたっては、1階に2店舗、2階にマルゼンという電機店が最大規模の店舗として入るほか、約8店舗が3階に出店することになっていた。
ところが、マルゼンが2階ワンフロアでも狭いと出店を撤回したため、3階に出店予定だった店舗が2階に出店し、3階はそれまで通り貸事務所ということになったそうだ。
オーディオ関係の会社にも勤めていた林さんの店はオーディオ製品も充実している
オーディオ関係の会社にも勤めていた林さんの店はオーディオ製品も充実している
相模電子でも取材中、電話や常連客が絶えない。林さんは「横浜で依然として、3軒だけれども頑張っているということを、応援してもらえてるんだろうね。ありがたいね」と言って笑う。

「社長、どうも」「お、めずらしいね。最近来ないから死んだかと思ったよ」「またまた、嫌なこというんだから。もう少し生かしておいてくださいよ」「香典出さなきゃいかんかなって心配してたんだ」「死んだら夢に出るからね」「枕元に立って、この野郎全然まけなかったなって文句言うか。ははは」
といった、常連客との落語さながらの軽妙なやりとりは、聞いていて気持ちいいくらいだった。
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年末年始以外は毎日開いている、電機街のお母さん的存在「シンコー電機」

相模電子で思わず、筆者が前から欲しかったサブウーファーを購入した後、最後となるシンコー電機に向かった。
年末年始をのぞいて年中無休。年に360日営業しているというシンコー電機の店主・渡辺さん
年末年始をのぞいて年中無休。年に360日営業しているというシンコー電機の店主・渡辺さん
シンコー電機は、南区に電機店を開業していたが、エジソンプラザができるということで移転してきた。検察庁で働いていたご主人の機械好きが高じ、仕事を辞めて電機店を始めたというから、相当の機械好きだったことは想像に難くない。
6年前にご主人が他界されてからは1人でお店を続けている渡辺さん。「毎日お店に出るのが楽しくて、用事があっても午後には戻ってきて店を開けちゃう」というからいつ来ても安心だ。
常連客とは型番だけで「ああ、それならこっち」とやりとりする。
すべてを把握しているプロフェッショナルでありながら「部品はわかるけど、何に使うのかはあんまり知らないの」と微笑むチャーミングな一面も。電機街のお母さんといった安心感もある。

ちなみに、来店していた常連の方で、第二次世界大戦前の真空管などのパーツを集め、自ら設計してアンプやスピーカーを作っているという最上級のマニアの方は「インターネットでここを知ったのは数ヶ月前だが、ここに来れば何でもそろし、掘り出し物も多い」という話だった。
「このへんはマニアにはたまらない真空管だよ」とのこと
「このへんはマニアにはたまらない真空管だよ」とのこと
そして、最新作の真空管アンプの写真を見せてもらっていると、「こんなのがあるわよ」と渡辺さんが探し出してきてくださったのは、何と「エジソンプラザ・ジャーナル」というエジソンプラザ発行の新聞だった。
1980年3月20日発行の第2号。「100年前のオーディオ」というエジソンの紹介記事も <クリックして拡大>
1980年3月20日発行の第2号。「100年前のオーディオ」というエジソンの紹介記事も
「エジ・プラを『エジ・ぶら』しよう」など小気味好い見出しが並ぶ <クリックして拡大>
「エジ・プラを『エジ・ぶら』しよう」など小気味好い見出しが並ぶ
「ビデオコーナーを新設」などの記事から、電子部品だけではなく、オーディオを中心とした家電、マイコン(マイクロ・コンピュータ)などの家電量販店、無線機の専門店もあったことがわかる。ビデオは15万円からというのもしびれる価格だが、ステレオラジカセが2万5000円より。
「エジソンプラザ見てある記」にはアップル社の伝説のマイコン「Apple II」 も映っていた <クリックして拡大>
「エジソンプラザ見てある記」にはアップル社の伝説のマイコン「Apple II」 も映っていた
大盛況のエジソンプラザ館内 <クリックして拡大>
大盛況のエジソンプラザ館内
最終面には3階の出店募集とJR石川町駅前再開発の記事もあった
最終面には3階の出店募集とJR石川町駅前再開発の記事もあった
渡辺さん、貴重な資料をありがとうございました
渡辺さん、貴重な資料をありがとうございました
「お客さんは、やっぱり時間が自由に使えるようになった、年輩の方が多いわね。古いトランジスタを探して、千葉や埼玉からみえるお客さんもいるわよ」と話しているところに若い方が現れたので、声をかけてみた。
音楽関係の仕事をしているという福島さん
音楽関係の仕事をしているという福島さん
「日本のパーツであれば秋葉原に行かなくてもここに来れば古いものでもだいたいそろうし、あとはお母さんが元気でやってるか、それを見にね」という福島さんは月に1~2度、楽器や機材を修理するための部品を買いにくるそう。訪れたら、たいてい3店とも覗いていくのだという。

渡辺さんによると、タック電子販売は比較的新しい部品、シンコー電機は古い部品、相模電子はその両方とオーディオ関係、という特色がそれぞれあり、「この電機街に来れば、だいたいのものは手に入るんじゃないかしら」とのことだった。
渡辺さんはコードの束を次々に差し替え、巧みに電飾を操っていた
渡辺さんはコードの束を次々に差し替え、巧みに電飾を操っていた

取材を終えて

エジソンプラザ・ジャーナルを拡大してみた方はお気づきかもしれないが、このジャーナルが発行された当時、時代は完全にアマチュア無線ブーム、さらに1976(昭和51)年に発売されたNECのTK-80に代表されるマイコンブームだった。

記事のそこかしこに踊る、「ハム(アマチュア無線家のこと)」の文字に無線機やアマチュア無線技師養成課程講習会の広告などなど。1階に店舗を構えていた「トヨムラ」がハム専門店で、エジソンプラザ以外に名古屋から宇都宮まで約10店舗を経営していたほど、アマチュア無線は人気だったのである。
「オー(オーディオ)マイ(マイコン)ハム(アマチュア無線)」は時代そのものだったのだ
「オー(オーディオ)マイ(マイコン)ハム(アマチュア無線)」は時代そのものだったのだ
だからこそ、ジャーナルにあるように電機街に は「キミたち”エレキっ子”は「エジ・プラ」をぶらぶらしようじゃないか。ナニカを、きっとつかんでくるぜ! 浜のアキバ「エジ・プラ」を”エジぶら”しよう」と呼びかけるほどの勢いと魅力があった。

しかし、時代は移り変わった。
戦後間もなく電機街が形成された秋葉原は、ラジオ会館に電気部品とカードやフィギュアの店が混在し、秋葉原ラジオストアーが2013(平成25)年11月末で閉館することが発表されたことに象徴されるように、今はすっかり姿を変え、そして「世界のアキバ」となった。
しかし、「浜のアキバ」に残ったこの3店舗は、現代の石川町に残ったからこそ需要と価値が高まったともいえるだろう。その証拠に、専門業者やマニア垂涎のスポットとして、足繁く通う人は絶えることがない。
懐かしい昔のオーディオで懐かしいあの曲を聴くことが、ここに来ればできるかもしれない。
「物より情報の時代」というトヨムラ社長の時代を先取りした言葉も興味深い
「物より情報の時代」というトヨムラ社長の時代を先取りした言葉も興味深い

―終わり―

エジソンプラザ
住所/横浜市中区松影町1-3-7

タック電子販売
電話/045-651-0201

相模電子
電話/045-662-4767
※現在は休業中

シンコー電機
電話/045-662-4791

参考文献
平澤正夫『消えゆく野生と自然:動物たちに何が起きているか』(三一書房)1985
神奈川新聞1979年7月15日朝刊
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